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第173話・真の目的、それは
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「で……どうして殺しませんの?」
「ん、まぁ……いろいろあるんだよ」
「ふぅん?」
ちゃぷ、と水音がした。
マリアが手で湯を掬い、そのまま背後のライトに軽くかける。
ライトに抱きかかえるられていたマリアは、ライトの胸に背中からもたれかかる。
二人は、宿の風呂に入っていた。
時間は深夜。たっぷりと愛し合い、汗と体液で汚れた身体を清めて湯船に浸かっていた。
ライトの手は、マリアの柔らかい肌をしっかりと堪能しているが、マリアは一切咎めず好きにさせていた。どうせベッドに戻れば再び愛し合うのだ。
「アンジェラ……あいつは、ウィネを殺した」
「あなたの親友、でしたわね」
「ああ。それは絶対に許せないけど……ただ殺すだけじゃ、きっとウィネは喜ばない。アルシェやセエレの時に気付くべきだった……復讐だけじゃ、終わらない」
「……? んっ」
ライトの手が、マリアの胸を少し強く握った。
ライトは、マリアを強く抱きしめる。
「マリア、最後まで付き合ってくれるか?」
「もちろん、あなたはわたしを抱ける唯一の男ですもの……リンと一緒に愛してもらえる日が来るまで、どこまでも付いていきますわ」
「じゃ、死ぬまでだな。リンが俺の事を好きになるとは思えない」
「ふふ、どれはどうかしら?」
マリアは体勢を変え、ライトと正面から向き合い身体を重ねる。
再び熱くなってきたライトとマリアは、朝方まで愛し合った。
◇◇◇◇◇◇
アンジェラは、丸一日眠っていた。
ライトたちが交代で様子を見ていると、ゆっくり目を開ける。
「ぅ……」
「あ、起きた」
「…………ぁ、なたは?」
「シンク。食べる?」
シンクは、持っていたクッキーの袋からクッキーを一枚取り出し、アンジェラの口元へ持って行く。
ぼうっとしていたアンジェラは無意識に口を開け、シンクの差し出したクッキーをかりっと齧る。
「ぁ……おい、しぃ」
「ん。美味しいよね、ボクも好きなん……泣きたいほど美味しいの?」
「っう、ぅぅ……っひっぐ」
アンジェラは、ポロポロと涙を流す。
身体が、とても温かかった。
血が流れ、自分の意志で動かせる。
長い髪は真っ白のままだったが、ようやく人間らしさを取り戻せたような気がした。自分は、死んでいない……そう思えた。
「まってて。みんな呼んでくる」
「っごめ、ごめんなさい……ごめ、んなさい。ごめんなさい」
「ん? よくわかんないけど待ってて」
シンクが部屋を出て数分で、リンたちが戻って来た。
リンは、アンジェラの身体を起こしてペタペタ触る。
「身体、大丈夫? どこか痛くない?」
「……リン」
「話はあと。身体が無事ならいろいろ話したいことがあるの。私もだけど……」
「あ……」
「よう」
リンの視線の先には、ライトがいた。
近くには、マリアとシンクがいる。今初めて気が付いたが、ソファーには自分よりも純白の髪を持つ少女がスヤスヤ眠っていた。
「まずは、言うべき事があるんじゃないか?」
「…………」
「お前は、俺の親友を殺した。そんなお前を救ったのが俺で、リンはお前の治療をした……言うべき事があるだろ」
「……ありがとう、ございます」
「ライト、アンジェラは病み上がりなんだから」
「だからどうした……そいつが犯した罪は消えない。いいか、俺がコイツを殺さないのは、聞くべき事があるからだ」
「わかってる。もう……とにかく黙って。聞くことがあるなら私が聞くから」
「……リン」
「アンジェラ。ライトはああ言ってるけど、あなたを殺すつもりはないから。私の質問に答えてくれたら、自由にしてあげるって」
「え……自由?」
「うん。ライトもわかってくれたの。殺すだけが復讐じゃないってね」
「…………」
「お願い。私の質問に答えて」
「…………はい」
リンは、アンジェラに質問をした。
レイジとリリカの様子。女神ラスラヌフのこと。アンジェラがどうしてこんな姿になっているのか。ファーレン王国の様子……聞くべき事を聞き出した。
「女神、キルシュ?」
「はい。リリカは、女神キルシュという存在に鍛えられているようです。レイジは……アルシェの死をきっかけに引きこもるようになってしまって……私も、ファーレン王国で引きこもっていたので、詳しい事はなにも……」
「…………チッ、リリカの奴、面倒くさいことにならなきゃいいけどな」
ライトは舌打ちした。
聞くべき事は全て聞いた。
ライトは、リンを押しのけアンジェラの前に立つ。
「お前は、俺の親友を殺した」
「…………はい」
「だからお前を殺す。俺は、勇者レイジを、リリカを殺す」
「…………はい」
「お前、死にたいか? 今、何を考えている」
「…………あなたになら殺されてもいい。申し訳ない気持ちで……胸が押しつぶされそうです」
アンジェラは、胸を押さえてボロボロ泣き出した。
ライトは冷たい目でアンジェラを見つめ、懐に手を入れる。
リンがライトを止めようとしたが、マリアが静止する。シンクも黙っていた。
「…………チッ、お前はもういい。もう十分に罰を受けた」
「え……?」
ライトが懐から取り出したのは、アンジェラの両手に収まりそうな、少し大きな袋。ジャラッと音を立て、アンジェラのベッドに落ちる。
「お前は、全て失った。アンジェラって奴はもう死んだ。ウィネも、死人を更に殺す事は望まない……いいか、お前は死んだ。俺が殺したんだ」
「…………」
袋の中は、金貨と白金貨だった。
「好きに生きろ。一生を賭けて償うのもいいし、その金でひっそり生きるのもいい。お前はアンジェラじゃない。アンジェラじゃない別人として生きるのが、お前の罰だ。いいか、勝手に死ぬ事は許さない」
「ぁ、ぁ……」
「……許したわけじゃないからな」
そう言って、ライトはそっぽ向いた。
そのまま荷物を持って、出て行ってしまった。
「アンジェラ、この宿はあと数日分の料金を払っているわ。いい、アンジェラは死んだ……新しい名前を名乗って、しっかり生きてね」
「リン……」
「さよなら、アンジェラ。元気でね」
リンはアンジェラの手を握り、出て行った。
シンクはクッキーを齧りながら退室し、マリアは百足鱗を伸ばしてメリーを回収……一度だけ微笑み、出て行った。
「わ、たくし……生きて、いいの?」
金貨と白金貨。
これだけあれば、数年は遊んで暮らせる。ベッド脇にはカバンが置いてあり、中を開けると着替えが入っていた。
アンジェラは、ボロボロと泣き出した。
自分は、生きていいのだ。罪を抱えて生きなければならないのだ。
アンジェラは立ち上がり、窓を開ける。
「……ありがとうございます」
窓の外には、ライトたちを乗せた馬車が走り去るところだった。
ライトが手綱を握り、リンが隣に載っている。
その馬車を見送ったアンジェラは、生きるために立ち上がり。
「やっほぉ~♪」
真の絶望が、目の前に現れた。
◇◇◇◇◇◇
魔の女神ラスラヌフは、青ざめて窓際にへたり込むアンジェラを見てニンマリ笑う。強烈に歪んだ笑みは、あまりにも醜かった。
「あ~あ、行っちゃったねぇ……馬鹿だなぁ。あたしがアンジェラちゃんを諦めると思ったのかな? それにしても、キレーに治しちゃったねぇ~……リンちゃん、回復魔術だけなら女神に匹敵するよ」
「あ、あ……ぁぁ」
「ふふ、怖がらない怖がらない。大丈夫大丈夫。また新しい魔獣を入れてあげるね?」
「い、いや、いやぁ……」
アンジェラの股間が、生温かい液体で満たされた。
カチカチと歯が音を立て、迫るラスラヌフから逃げる事もできない。
「あ、いいこと考えた!! ねぇねぇ、ライトくんたちは君を助けちゃうみたいだからぁ~……魔獣を融合しては戦って治して、融合しては戦って治してを繰り返すのはどう? くひひ、いろんな魔獣を入れて強~くしてあげる」
「……っ!!」
アンジェラは、ラスラヌフに――――。
『勝手に死ぬ事は許さない』
「……いや」
「ん?」
「いや!! わたくし……死にたくない!!」
「いやいや、君ほど素質のある子を殺しはしないよ。君、魔獣との融合係数がとんでもなく高いのよ。実験動物には最適なの」
「いや!! わたくし……私は、死ねない」
アンジェラは立ち上がり、『斬滅』を取り出す。
念じると手元に現れた。だが、この女神と戦うことなどできないだろう。
死ねない。なら、戦うしかない。
「はぁ~……ねぇアンジェラちゃん。大人しく帰ろう?」
「い、いや……私は、生きるの」
「うんうん。生きるって素晴らしいよ? あ、そうだ!! じゃあさ、君の身体に不死の魔獣、アンデッドを埋め込んでっっっ……っぶ」
ラスラヌフの身体が、ビクッと跳ねた。
「…………っぶ?」
「……え?」
吐血。
ラスラヌフが吐血。
アンジェラは理解出来なかった。
「――――――馬鹿が」
なぜ、ここにライトがいるのだ?
巨大化した左手が伸び、ラスラヌフの背中に食い込んでいた。
女神と言えど、肉体は生身……それはリリティアで検証済み。
ラスラヌフは汗をダラダラ流しながら、ゆっくり首を向ける。
「お、ま、え……なん、で……」
「っく、くくく……馬鹿な奴。お前がこいつを回収に来るなんて誰でも読めることだろうが。まさか……本気でこいつを置いてさっさと行くと思ったのか?」
「っか、がかっ……」
『透明化』の祝福弾で透明になり、馬車に乗ったライトは『分身』で作った偽者だ。マリアにだけ告げた作戦。それは、アンジェラをエサにラスラヌフを誘き寄せることだ。
メギメギ。メギメギと、ラスラヌフの背中にライトの爪が食い込む。
「こいつは、お前を誘き寄せるエサ……わかったか? 俺の狙いは、最初からお前だったんだよ!!」
グジュグジュ、ベギッ、ブッジュオォォォッ!!
ライトの爪は、ラスラヌフの背中の肉を内臓ごと抉り取った。
左手にはラスラヌフの内臓がごっそり握られ、内臓を殆ど失ったラスラヌフは倒れる。確認するまでもなく死んでいた。
「カドゥケウス、喰っていいぞ」
『うっほぉぉぉぉっ!! と言いたいが……実はよ、愛の女神の肉の消化に時間が掛かってる。肉は保存しておくぜ』
「そうか。好きにしろ」
ライトの左手は、ラスラヌフの身体を飲み込んだ。
こうして、魔の女神ラスラヌフは死んだ。
「……やっぱりな」
『あん?』
「愛の女神もそうだった。恐らく、女神は大したことがない。戦闘なんてしたことないんだろうよ。こんなにあっさり背中を見せるなんて、素人以下だ」
『へへ。『透明化』はホントにラッキーだったな』
「ああ……」
ライトは、アンジェラを見た。
「……もう、大丈夫だろう。じゃあな」
リンたちと合流すべく、部屋を出ようとし―――。
「あ、あの!!」
「…………」
「ありがとうございました!! 私……私、あなたに酷いことを、ウィネさんに取り返しの付かないことを」
「…………」
「私、あなたに救われた命……今度こそ大事にします。私がした罪は消えません。だから……償います!!」
「…………」
ライトは、アンジェラを見た。
弱々しかった。でも……目は、強く輝いていた。
「勝手に死ぬな。いいな……」
「はい……っ」
ウィネは、きっと……笑って許しているような気がした。
「ん、まぁ……いろいろあるんだよ」
「ふぅん?」
ちゃぷ、と水音がした。
マリアが手で湯を掬い、そのまま背後のライトに軽くかける。
ライトに抱きかかえるられていたマリアは、ライトの胸に背中からもたれかかる。
二人は、宿の風呂に入っていた。
時間は深夜。たっぷりと愛し合い、汗と体液で汚れた身体を清めて湯船に浸かっていた。
ライトの手は、マリアの柔らかい肌をしっかりと堪能しているが、マリアは一切咎めず好きにさせていた。どうせベッドに戻れば再び愛し合うのだ。
「アンジェラ……あいつは、ウィネを殺した」
「あなたの親友、でしたわね」
「ああ。それは絶対に許せないけど……ただ殺すだけじゃ、きっとウィネは喜ばない。アルシェやセエレの時に気付くべきだった……復讐だけじゃ、終わらない」
「……? んっ」
ライトの手が、マリアの胸を少し強く握った。
ライトは、マリアを強く抱きしめる。
「マリア、最後まで付き合ってくれるか?」
「もちろん、あなたはわたしを抱ける唯一の男ですもの……リンと一緒に愛してもらえる日が来るまで、どこまでも付いていきますわ」
「じゃ、死ぬまでだな。リンが俺の事を好きになるとは思えない」
「ふふ、どれはどうかしら?」
マリアは体勢を変え、ライトと正面から向き合い身体を重ねる。
再び熱くなってきたライトとマリアは、朝方まで愛し合った。
◇◇◇◇◇◇
アンジェラは、丸一日眠っていた。
ライトたちが交代で様子を見ていると、ゆっくり目を開ける。
「ぅ……」
「あ、起きた」
「…………ぁ、なたは?」
「シンク。食べる?」
シンクは、持っていたクッキーの袋からクッキーを一枚取り出し、アンジェラの口元へ持って行く。
ぼうっとしていたアンジェラは無意識に口を開け、シンクの差し出したクッキーをかりっと齧る。
「ぁ……おい、しぃ」
「ん。美味しいよね、ボクも好きなん……泣きたいほど美味しいの?」
「っう、ぅぅ……っひっぐ」
アンジェラは、ポロポロと涙を流す。
身体が、とても温かかった。
血が流れ、自分の意志で動かせる。
長い髪は真っ白のままだったが、ようやく人間らしさを取り戻せたような気がした。自分は、死んでいない……そう思えた。
「まってて。みんな呼んでくる」
「っごめ、ごめんなさい……ごめ、んなさい。ごめんなさい」
「ん? よくわかんないけど待ってて」
シンクが部屋を出て数分で、リンたちが戻って来た。
リンは、アンジェラの身体を起こしてペタペタ触る。
「身体、大丈夫? どこか痛くない?」
「……リン」
「話はあと。身体が無事ならいろいろ話したいことがあるの。私もだけど……」
「あ……」
「よう」
リンの視線の先には、ライトがいた。
近くには、マリアとシンクがいる。今初めて気が付いたが、ソファーには自分よりも純白の髪を持つ少女がスヤスヤ眠っていた。
「まずは、言うべき事があるんじゃないか?」
「…………」
「お前は、俺の親友を殺した。そんなお前を救ったのが俺で、リンはお前の治療をした……言うべき事があるだろ」
「……ありがとう、ございます」
「ライト、アンジェラは病み上がりなんだから」
「だからどうした……そいつが犯した罪は消えない。いいか、俺がコイツを殺さないのは、聞くべき事があるからだ」
「わかってる。もう……とにかく黙って。聞くことがあるなら私が聞くから」
「……リン」
「アンジェラ。ライトはああ言ってるけど、あなたを殺すつもりはないから。私の質問に答えてくれたら、自由にしてあげるって」
「え……自由?」
「うん。ライトもわかってくれたの。殺すだけが復讐じゃないってね」
「…………」
「お願い。私の質問に答えて」
「…………はい」
リンは、アンジェラに質問をした。
レイジとリリカの様子。女神ラスラヌフのこと。アンジェラがどうしてこんな姿になっているのか。ファーレン王国の様子……聞くべき事を聞き出した。
「女神、キルシュ?」
「はい。リリカは、女神キルシュという存在に鍛えられているようです。レイジは……アルシェの死をきっかけに引きこもるようになってしまって……私も、ファーレン王国で引きこもっていたので、詳しい事はなにも……」
「…………チッ、リリカの奴、面倒くさいことにならなきゃいいけどな」
ライトは舌打ちした。
聞くべき事は全て聞いた。
ライトは、リンを押しのけアンジェラの前に立つ。
「お前は、俺の親友を殺した」
「…………はい」
「だからお前を殺す。俺は、勇者レイジを、リリカを殺す」
「…………はい」
「お前、死にたいか? 今、何を考えている」
「…………あなたになら殺されてもいい。申し訳ない気持ちで……胸が押しつぶされそうです」
アンジェラは、胸を押さえてボロボロ泣き出した。
ライトは冷たい目でアンジェラを見つめ、懐に手を入れる。
リンがライトを止めようとしたが、マリアが静止する。シンクも黙っていた。
「…………チッ、お前はもういい。もう十分に罰を受けた」
「え……?」
ライトが懐から取り出したのは、アンジェラの両手に収まりそうな、少し大きな袋。ジャラッと音を立て、アンジェラのベッドに落ちる。
「お前は、全て失った。アンジェラって奴はもう死んだ。ウィネも、死人を更に殺す事は望まない……いいか、お前は死んだ。俺が殺したんだ」
「…………」
袋の中は、金貨と白金貨だった。
「好きに生きろ。一生を賭けて償うのもいいし、その金でひっそり生きるのもいい。お前はアンジェラじゃない。アンジェラじゃない別人として生きるのが、お前の罰だ。いいか、勝手に死ぬ事は許さない」
「ぁ、ぁ……」
「……許したわけじゃないからな」
そう言って、ライトはそっぽ向いた。
そのまま荷物を持って、出て行ってしまった。
「アンジェラ、この宿はあと数日分の料金を払っているわ。いい、アンジェラは死んだ……新しい名前を名乗って、しっかり生きてね」
「リン……」
「さよなら、アンジェラ。元気でね」
リンはアンジェラの手を握り、出て行った。
シンクはクッキーを齧りながら退室し、マリアは百足鱗を伸ばしてメリーを回収……一度だけ微笑み、出て行った。
「わ、たくし……生きて、いいの?」
金貨と白金貨。
これだけあれば、数年は遊んで暮らせる。ベッド脇にはカバンが置いてあり、中を開けると着替えが入っていた。
アンジェラは、ボロボロと泣き出した。
自分は、生きていいのだ。罪を抱えて生きなければならないのだ。
アンジェラは立ち上がり、窓を開ける。
「……ありがとうございます」
窓の外には、ライトたちを乗せた馬車が走り去るところだった。
ライトが手綱を握り、リンが隣に載っている。
その馬車を見送ったアンジェラは、生きるために立ち上がり。
「やっほぉ~♪」
真の絶望が、目の前に現れた。
◇◇◇◇◇◇
魔の女神ラスラヌフは、青ざめて窓際にへたり込むアンジェラを見てニンマリ笑う。強烈に歪んだ笑みは、あまりにも醜かった。
「あ~あ、行っちゃったねぇ……馬鹿だなぁ。あたしがアンジェラちゃんを諦めると思ったのかな? それにしても、キレーに治しちゃったねぇ~……リンちゃん、回復魔術だけなら女神に匹敵するよ」
「あ、あ……ぁぁ」
「ふふ、怖がらない怖がらない。大丈夫大丈夫。また新しい魔獣を入れてあげるね?」
「い、いや、いやぁ……」
アンジェラの股間が、生温かい液体で満たされた。
カチカチと歯が音を立て、迫るラスラヌフから逃げる事もできない。
「あ、いいこと考えた!! ねぇねぇ、ライトくんたちは君を助けちゃうみたいだからぁ~……魔獣を融合しては戦って治して、融合しては戦って治してを繰り返すのはどう? くひひ、いろんな魔獣を入れて強~くしてあげる」
「……っ!!」
アンジェラは、ラスラヌフに――――。
『勝手に死ぬ事は許さない』
「……いや」
「ん?」
「いや!! わたくし……死にたくない!!」
「いやいや、君ほど素質のある子を殺しはしないよ。君、魔獣との融合係数がとんでもなく高いのよ。実験動物には最適なの」
「いや!! わたくし……私は、死ねない」
アンジェラは立ち上がり、『斬滅』を取り出す。
念じると手元に現れた。だが、この女神と戦うことなどできないだろう。
死ねない。なら、戦うしかない。
「はぁ~……ねぇアンジェラちゃん。大人しく帰ろう?」
「い、いや……私は、生きるの」
「うんうん。生きるって素晴らしいよ? あ、そうだ!! じゃあさ、君の身体に不死の魔獣、アンデッドを埋め込んでっっっ……っぶ」
ラスラヌフの身体が、ビクッと跳ねた。
「…………っぶ?」
「……え?」
吐血。
ラスラヌフが吐血。
アンジェラは理解出来なかった。
「――――――馬鹿が」
なぜ、ここにライトがいるのだ?
巨大化した左手が伸び、ラスラヌフの背中に食い込んでいた。
女神と言えど、肉体は生身……それはリリティアで検証済み。
ラスラヌフは汗をダラダラ流しながら、ゆっくり首を向ける。
「お、ま、え……なん、で……」
「っく、くくく……馬鹿な奴。お前がこいつを回収に来るなんて誰でも読めることだろうが。まさか……本気でこいつを置いてさっさと行くと思ったのか?」
「っか、がかっ……」
『透明化』の祝福弾で透明になり、馬車に乗ったライトは『分身』で作った偽者だ。マリアにだけ告げた作戦。それは、アンジェラをエサにラスラヌフを誘き寄せることだ。
メギメギ。メギメギと、ラスラヌフの背中にライトの爪が食い込む。
「こいつは、お前を誘き寄せるエサ……わかったか? 俺の狙いは、最初からお前だったんだよ!!」
グジュグジュ、ベギッ、ブッジュオォォォッ!!
ライトの爪は、ラスラヌフの背中の肉を内臓ごと抉り取った。
左手にはラスラヌフの内臓がごっそり握られ、内臓を殆ど失ったラスラヌフは倒れる。確認するまでもなく死んでいた。
「カドゥケウス、喰っていいぞ」
『うっほぉぉぉぉっ!! と言いたいが……実はよ、愛の女神の肉の消化に時間が掛かってる。肉は保存しておくぜ』
「そうか。好きにしろ」
ライトの左手は、ラスラヌフの身体を飲み込んだ。
こうして、魔の女神ラスラヌフは死んだ。
「……やっぱりな」
『あん?』
「愛の女神もそうだった。恐らく、女神は大したことがない。戦闘なんてしたことないんだろうよ。こんなにあっさり背中を見せるなんて、素人以下だ」
『へへ。『透明化』はホントにラッキーだったな』
「ああ……」
ライトは、アンジェラを見た。
「……もう、大丈夫だろう。じゃあな」
リンたちと合流すべく、部屋を出ようとし―――。
「あ、あの!!」
「…………」
「ありがとうございました!! 私……私、あなたに酷いことを、ウィネさんに取り返しの付かないことを」
「…………」
「私、あなたに救われた命……今度こそ大事にします。私がした罪は消えません。だから……償います!!」
「…………」
ライトは、アンジェラを見た。
弱々しかった。でも……目は、強く輝いていた。
「勝手に死ぬな。いいな……」
「はい……っ」
ウィネは、きっと……笑って許しているような気がした。
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彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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