勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう

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第178話・メリーがいる

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「…………おい」
「…………zzz」
「おい!!」
「……ん? くぁぁ~……んん~……おはよ」
「……お前?」

 メリーは、大きな欠伸をして頬をぽりぽり掻き、胸元に手を突っ込んでポリポリ搔いた。そして再び大あくびをして、寝起きの猫みたいに目を擦る。
 ライトは警戒するが、胸元で揺れるペンダントが喋る。

『安心なさい。この子は支配されてないわ』
『アルケイディア……』
『カドゥケウス、あんたがあたしを気に食わないのはわかってる。でもね……今はそんなことを言ってる場合じゃないわ。一応聴くけど、あたしとギルルダージュ、どっちが嫌い?』
『おめーはぶん殴りたい。ギルルダージュは喰い殺したい』
『じゃ、決まりね。ギルルダージュはあたしも気に食わない……あのクソ野郎、ぶっ殺して魔界に送り返しましょう』

 メリーは立ち上がり、大きく伸びをした。
 白く長い髪、マリアが選んで買った白いワンピース、リンがおしゃれと言い、髪の一部が三つ編みに編まれている。
 メリーは、のんびりした口調で言った。

「おなか減った……ごはん」
「……ははっ」
「? どうしたの?」
「いや……お前は俺の知ってるメリーなんだな?」
「うん。ずっと寝てたけど、話はきいてた……リン、シンク、マリア、取り返す。あたし、本気出してもいい」
「……ああ」

 ライトは、メリーの頭に手をのせ不器用に撫でる。メリーは気持ちいいのか、目を細めてニッコリ笑った。

「よし、まずはメシでも食うか……って、お前、どうやってここに?」
「登って降りた」
「…………???」

 ライトのいる岩場は、ちょうど大きな岩と岩の間にある隠れ家的な場所だ。岩に挟まれているため隙間を探して入る事もできず、この場所に来るには岩を登って降りるしかない。まさか、このぐうたらなメリーがそんなことをしたのだろうか。

「……ま、いいや。とりあえずメシだ。金はあるか?」
「うん。お小遣い貯めてある」
「お前、ずっと寝てたから使ってないだけだろ……」

 ライトの路銀は尽きたので、メリーに頼るしかない。
 ライトはメリーを抱え、『浮遊』の祝福弾を使って岩場から脱出。ヤシャ王国の下町に向かって飛んで行く。
 下町に向かったのは、リンたちに遭遇しないため。
 
「……くそ」
「ライト?」
「いや……なんでもない」

 リンたちに会いたい。
 メリーを見ながら、ライトは想っていた。

 ◇◇◇◇◇◇

「もぐもぐ……おいしい」
「…………」

 メリーと一緒に下町の鍋屋で食事をする。
 下町には冒険者や住人がたくさんいる。人の多い鍋屋を選んだのは、これからする話がただの雑音にすぎないからだ。

「メリー、お前はどうやって俺のところに?」
「匂いを辿ってきた。みんな、あのストライガーとかいう奴に洗脳されてる。あたし、置き手紙してここにきた」
「いろいろ言いたいけど……置き手紙?」
「うん。ライトのところに行くからバイバイって。あと、ストライガーぶっころすって」
「…………」

 ライトは頭を抱えた。
 さりげなくメリーを帰し、情報収集する作戦は潰えた。
 
「まずかった?」
「……ま、まぁな。でもいい、あとお前、あいつの眼を見なかったのか?」
「うん。寝てた。起きたときに眼を見たけど、あたしの第三階梯のが上だった」
「第三階梯……いつの間に」
「えへへ。あたしだって成長してるしー」

 第三階梯『冬眠後の目覚めは最高』。
 状態異常完全無効。ただし、寝起き30分間だけ。
 
「…………なんだそれ」
「すごい? 寝起き30分だけ、どんな状態にもならないの。あいつ、あたしを起こしてあの眼で術をかけたみたい。でも効かなかった!」
「そ、そうか……」

 すごいのかすごくないのかわからない能力だった。
 何とも言えない表情をしていると、メリーは両拳をグッと握る。

「あたし、久しぶりにやる気満々。あいつぶっとばすなら一緒にやる!」
「あ、ああ……ありがとう」
「ライト、淋しくない? あたしだけでごめんね」
「……馬鹿言うな。嬉しいよ」
「うん。みんな取り戻して、また一緒に行こうね」
「……ああ」

 メリーはにっこり笑う。
 正直、戦闘で役に立つとは思えない。だが、その気持ちだけで嬉しかった。
 ライトは息を吐く。

「整理するぞ。まず、俺はもうあいつを前にしたら戦えない。直接戦う以外にストライガーを始末する方法を考えるんだ」
「あたしが戦う!」
「……やめとけ。恐らく、眼を見たら術にハマる。目が合うとダメなのかそうでないのか検証できない……正面から戦うのは危険だ」
「じゃあどうするの?」
「……はめ技だ。例えば、建物の中に誘き寄せて建物を崩すとか、土砂崩れを起こして巻き込ませるとか」
「すごい!」
「……とりあえず、さっきの岩場に行こう。下町の宿なら平気だと思うが……念には念を入れておく」
「うん」

 ライトとメリーは会計を済ませ、先程の岩場に戻る。
 途中、格安のテントと食料を買い、岩場でテントを組み立てる。
 ここが、ストライガー討伐の拠点だ。

「少し休むか」
「うん」

 考えることはまだまだある。
 メリーはテントに入ると、ライトを手招きした。

「ん?」
「あたし経験ないし、マリアみたいにできるかわからないけど……ライトならいいよ? いっしょに寝よう?」
「……アホ。いいから休め」

 ライトはため息を吐き、砂浜に寝転がった。
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