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第190話・第八相『闇夜の女神』ツクヨミ
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ワイファ王国近隣の町、宿にて。
「で、【暴食】とツクヨミを手にいれるってのは?」
「まずはツクヨミに接触するわ」
「どーやって?」
「ツクヨミは夜の化身。私とあなたで呼びかければ現れるかもしれないわね」
「……え、うちはヤダ。殺されちゃう」
「あのね……これくらい協力しなさいよ」
「アホ。うちらがツクヨミに何したか忘れたん? 神界を闇に包んだあの子と戦って追放したんだよ? いけしゃあしゃあと「こんちわー」なんて呼んだりしたら、一瞬で挽肉だって」
「そんなアホな呼び方するわけないでしょ……」
パティオンはようやくフルーツに手を伸ばし、リンゴを丸ごと手で弄ぶ。
そして、ナイフも使わずに指でなぞると、リンゴか綺麗にカットされた。
「ねぇ、ツクヨミが好きだった物……覚えてる?」
「は? シラネ」
「……まぁいいわ。いい、あの子は大の甘い物好きなの」
「は?」
女神が、甘い物好き。
『食べる』という行為は、神界では必要ない。女神は信仰心によって存在を保てるのだ。もちろん、食べることはできるが、飲食する必要がない神界では、食べる物がほとんどない。
「神界に生ってた果物あるでしょ? ツクヨミってば、木に生ってた果物を一人で平らげちゃったのよ。私しか見てなかったけど、あれは間違いなく甘い物好きね!」
「…………え、それだけ?」
「ええ」
「…………」
ブリザラは「マジかよこいつ」みたいな目を向けた。
頭がいいのか悪いのかわからないパティオンに呆れたブリザラは、大きくため息を吐いてベッドに横になった。
「じゃ、おやすみ」
「はぁ!? ちょっとあんた、話はまだ終わってないでしょ!! つーか女神なんだから寝る必要なんてないし!!」
「いや、穴だらけの作戦じゃん……つーか【暴食】はどこいったのさ」
「ぼ、暴食は女好きの男だし、甘い物で釣ってツクヨミを篭絡して……」
「おやすみー」
「ちょ、ブリザラ!!」
パティオンの穴だらけの作戦に、ブリザラは一気にやる気をなくした。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
パティオンとブリザラは町を巡り、甘い物をひたすらかき集めていた。
「んぐんぐ……で、こんなんでツクヨミが来るの?」
ブリザラはフルーツタルトを食べながら言う。
というか、買った直後にブリザラがつまみ食いしてしまう。
「食うな!! でも、ツクヨミを呼び寄せるにはこれしかない。女神の気配を感じれば、あの子は出てくる……と思う」
「弱ぇえなぁ~」
「やかましい。それより、決行は今夜よ。場所は……町の外でいいわね」
「ツクヨミを呼んだらうちは逃げっから」
「…………」
二人は町を回り、お菓子や果物を大量に買いあさる。
全てツクヨミへのお供え物だ。お菓子を供え物にしてツクヨミへ呼びかける。そうすればきっと、ツクヨミは応えてくれるはず。
パティオンとブリザラは、買い物を終えて町の外へ。
町から離れた小高い丘に向かい、買ったお菓子と果物をズラリと並べた。
気が付けば、すっかり夜である。
「…………よし、始めるわよ」
「頑張れー」
「あんたもやるのよ!!」
「いいけど、マジで呼んだら逃げるからね」
「もう……好きにしなさい」
パティオンとブリザラは、女神としての力を解放する。
何かをするわけじゃない。ただ、力むだけだ。
それだけで空気が震え、木に停まって寝ていた鳥たちは起きてしまい、夜に狩りをする魔獣たちは逃げ出してしまう。
「あぁぁぁぁーーーーーッ!!」
「ほあちゃぁぁぁーーーーーッ!!」
二人は、全力で力む。
人間ではありえない力の波動。
同族の女神なら気付くはず。フリアエやリリカといったファーレン王国にいる女神ならともかく、この『夜』そのものであるツクヨミなら─────。
─────ふと、周囲が。
「─────っ」
「─────っ、あとはよろしくっ」
ブリザラは一瞬で青くなり、その場から跳躍した。
逃げた。だが、パティオンは咎めない。
すると、なぜかブリザラがいた。
「は?」
ブリザラは跳躍した。
でも、なぜかパティオンの隣にいた。
どういうことだ?
「─────ブリザラ、覚悟を決めなさい」
「じょ、じょーだん……うち、死にたくないんですけど」
黒い、キラキラした靄が二人の目の前にきた。
人間の力では決して起こせない、女神の力がないとおきない現象。それに反応するように、黒い靄が現れた。
「あまい、におい─────」
靄から、声が聞こえた。
若い女の子の声だった。
血の気の失せた純白の肌。同じくらい白い髪。喪服のような漆黒のドレスを着た、真紅の眼の少女だ。
少女はにっこり笑い、パティオンとブリザラを見た。
「「っっ!!」」
とんでもない怖気が二人を襲う。
戦うなどあり得ない。キルシュやフリアエ、ラスラヌフやリリティアが束になっても敵わない何かを感じた。
「あ─────パティオン、ブリザラ?」
「つ……ツクヨミ」
「ひ、久しぶりじゃん……?」
ずず、ずずず─────と、パティオンとブリザラの足下に『夜』が迫る。
逃げることもできず、二人は硬直した。
「ねぇ─────これ、なに?」
ツクヨミの興味は、パティオンとブリザラが買ったお菓子にあった。
「あ、あなたに、あげようと思って……」
「お、おいしいからさ、いっぱい食べてよ!」
「─────」
ツクヨミはぺたっとしゃがみ、クッキーをつまんで口の中へ。
さく、さく─────咀嚼の音だけが響いた。
「あ─────おいしい」
そして、パティオンとブリザラの『夜』が溶けた。
ガクッと二人は崩れ落ち、確信した。
ツクヨミは、無敵だ。
これが、始まりだった。
第八相『闇夜の女神』ツクヨミと【暴食】のライトとの出会いまで、もう少し。
「で、【暴食】とツクヨミを手にいれるってのは?」
「まずはツクヨミに接触するわ」
「どーやって?」
「ツクヨミは夜の化身。私とあなたで呼びかければ現れるかもしれないわね」
「……え、うちはヤダ。殺されちゃう」
「あのね……これくらい協力しなさいよ」
「アホ。うちらがツクヨミに何したか忘れたん? 神界を闇に包んだあの子と戦って追放したんだよ? いけしゃあしゃあと「こんちわー」なんて呼んだりしたら、一瞬で挽肉だって」
「そんなアホな呼び方するわけないでしょ……」
パティオンはようやくフルーツに手を伸ばし、リンゴを丸ごと手で弄ぶ。
そして、ナイフも使わずに指でなぞると、リンゴか綺麗にカットされた。
「ねぇ、ツクヨミが好きだった物……覚えてる?」
「は? シラネ」
「……まぁいいわ。いい、あの子は大の甘い物好きなの」
「は?」
女神が、甘い物好き。
『食べる』という行為は、神界では必要ない。女神は信仰心によって存在を保てるのだ。もちろん、食べることはできるが、飲食する必要がない神界では、食べる物がほとんどない。
「神界に生ってた果物あるでしょ? ツクヨミってば、木に生ってた果物を一人で平らげちゃったのよ。私しか見てなかったけど、あれは間違いなく甘い物好きね!」
「…………え、それだけ?」
「ええ」
「…………」
ブリザラは「マジかよこいつ」みたいな目を向けた。
頭がいいのか悪いのかわからないパティオンに呆れたブリザラは、大きくため息を吐いてベッドに横になった。
「じゃ、おやすみ」
「はぁ!? ちょっとあんた、話はまだ終わってないでしょ!! つーか女神なんだから寝る必要なんてないし!!」
「いや、穴だらけの作戦じゃん……つーか【暴食】はどこいったのさ」
「ぼ、暴食は女好きの男だし、甘い物で釣ってツクヨミを篭絡して……」
「おやすみー」
「ちょ、ブリザラ!!」
パティオンの穴だらけの作戦に、ブリザラは一気にやる気をなくした。
◇◇◇◇◇◇
翌日。
パティオンとブリザラは町を巡り、甘い物をひたすらかき集めていた。
「んぐんぐ……で、こんなんでツクヨミが来るの?」
ブリザラはフルーツタルトを食べながら言う。
というか、買った直後にブリザラがつまみ食いしてしまう。
「食うな!! でも、ツクヨミを呼び寄せるにはこれしかない。女神の気配を感じれば、あの子は出てくる……と思う」
「弱ぇえなぁ~」
「やかましい。それより、決行は今夜よ。場所は……町の外でいいわね」
「ツクヨミを呼んだらうちは逃げっから」
「…………」
二人は町を回り、お菓子や果物を大量に買いあさる。
全てツクヨミへのお供え物だ。お菓子を供え物にしてツクヨミへ呼びかける。そうすればきっと、ツクヨミは応えてくれるはず。
パティオンとブリザラは、買い物を終えて町の外へ。
町から離れた小高い丘に向かい、買ったお菓子と果物をズラリと並べた。
気が付けば、すっかり夜である。
「…………よし、始めるわよ」
「頑張れー」
「あんたもやるのよ!!」
「いいけど、マジで呼んだら逃げるからね」
「もう……好きにしなさい」
パティオンとブリザラは、女神としての力を解放する。
何かをするわけじゃない。ただ、力むだけだ。
それだけで空気が震え、木に停まって寝ていた鳥たちは起きてしまい、夜に狩りをする魔獣たちは逃げ出してしまう。
「あぁぁぁぁーーーーーッ!!」
「ほあちゃぁぁぁーーーーーッ!!」
二人は、全力で力む。
人間ではありえない力の波動。
同族の女神なら気付くはず。フリアエやリリカといったファーレン王国にいる女神ならともかく、この『夜』そのものであるツクヨミなら─────。
─────ふと、周囲が。
「─────っ」
「─────っ、あとはよろしくっ」
ブリザラは一瞬で青くなり、その場から跳躍した。
逃げた。だが、パティオンは咎めない。
すると、なぜかブリザラがいた。
「は?」
ブリザラは跳躍した。
でも、なぜかパティオンの隣にいた。
どういうことだ?
「─────ブリザラ、覚悟を決めなさい」
「じょ、じょーだん……うち、死にたくないんですけど」
黒い、キラキラした靄が二人の目の前にきた。
人間の力では決して起こせない、女神の力がないとおきない現象。それに反応するように、黒い靄が現れた。
「あまい、におい─────」
靄から、声が聞こえた。
若い女の子の声だった。
血の気の失せた純白の肌。同じくらい白い髪。喪服のような漆黒のドレスを着た、真紅の眼の少女だ。
少女はにっこり笑い、パティオンとブリザラを見た。
「「っっ!!」」
とんでもない怖気が二人を襲う。
戦うなどあり得ない。キルシュやフリアエ、ラスラヌフやリリティアが束になっても敵わない何かを感じた。
「あ─────パティオン、ブリザラ?」
「つ……ツクヨミ」
「ひ、久しぶりじゃん……?」
ずず、ずずず─────と、パティオンとブリザラの足下に『夜』が迫る。
逃げることもできず、二人は硬直した。
「ねぇ─────これ、なに?」
ツクヨミの興味は、パティオンとブリザラが買ったお菓子にあった。
「あ、あなたに、あげようと思って……」
「お、おいしいからさ、いっぱい食べてよ!」
「─────」
ツクヨミはぺたっとしゃがみ、クッキーをつまんで口の中へ。
さく、さく─────咀嚼の音だけが響いた。
「あ─────おいしい」
そして、パティオンとブリザラの『夜』が溶けた。
ガクッと二人は崩れ落ち、確信した。
ツクヨミは、無敵だ。
これが、始まりだった。
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