恋愛小説の世界に転生したら王子が俺を溺愛してた件について

夏葉ひなた

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第一章

第8話 濃厚なカルピスですよ?

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「はーなーせーよー!」

   最高にハイ状態になってからグラスが離れてくれない。嫌われるよりは数段もマシだが、ベタベタくっつかれるのも困る。
   だが、この変態は俺の気持ちなど汲み取ってくれるはずもなくーー

「嫌だ。離れたくない。例え風呂の中トイレの中マットの上」
「変なの混ざってんぞオイ!」

   このセリフを真顔で言われるのだから恐怖である。冗談でも人によっては恐怖だがな。
   あとマットってそれ……
   俺が危うくマットの上でアーン♡‬な状態になっているグラスを想像しかけた時、弟がグラスに対抗するように声を張り上げた。グッジョブ。

「お兄ちゃんと一緒にいるのは僕だから。ぽっと出のあなたなんかに渡さないから。お兄ちゃんたぶんブラコンだから」

   俺ブラコンっていう程じゃないと思うんだが……
   やっぱり常軌を逸するほどお兄ちゃんラブなのもちょっと困るかもな。兄としては嬉しいのだが。

「弟は所詮弟。家族愛以上の愛情は向けられないのがオチよ!」

   弟の言葉は槍になることもなく、グラスは目を爛々と輝かせながら勝利宣言みたいな言葉を放った。
   まあグラスよ、多分お前にも友情以上の何かは抱かないとは思うが……ここは日本人の8割が身につけていると言われる(当社調べ)『空気読み』スキルを発動させるか。

「むむむ……」

   俺がグラスにぞっこんになるビジョンでも見えたのだろうか、少し頬を膨らませ渋い顔をする弟。我が身内ながらその様子はなかなかに可愛い。

「ねえねえ、何か僕にして欲しいことある?」

   これまた弟に対抗しようとしたのか、上目遣いで聞いてくるグラス。そんなグラスにも俺は容赦をしない。容赦したらその隙に付け込まれるからな!

「マトモに勉強会したいので協力してください」

   冷たい声で言い放ったのにも関わらず、グラスは全くめげずに、むしろ嬉々として俺の欲求を受け入れた。裏がありそうで怖いレベルである。

「分かった!   じゃあ飲み物取ってくるね!」

   ハイテンションのまま部屋を飛び出そうとするグラスだったが、隣の部屋に常駐しているメイドさんにパイプを通じてお願いすれば飲み物くらいなら運んできてくれるだろう。すなわち、わざわざ部屋を出る必要もないのだ。
   だが、王家と俺の家ではメイドさんを呼ぶ制度が違ってても不思議ではないので俺はその事を伝えた。

「いや、そこのパイプからメイドさん呼べば……」
「いいってことよ!」

   飲み物を淹れる練習でもさせているのだろうか?   いや、別に茶道としてやらせればいいよな……。それに妙にテンションが高いのも気になる。
   部屋を出て行ったグラスの意図を考えていたら、

「お待たせ!」

   ものの一分ほどで帰ってきた。早すぎね?

「早いなオイ」

   俺の言葉を無視し、爽快感溢れるいい笑顔を浮かべたグラスがウキウキしながら机にお盆を置く。
   早い事が悪いとは言わないが……にしても早すぎだろ。まるで最初から用意していたみたいに早かったぞ……

「カルピス(濃厚)と僕の汗の味ジュースとローション(カルピス味)を持ってきたんだけど……どれがいい?」

   爽快感溢れるいい笑顔をしていた理由がたった今判明した。

「何を選べと?」

   むしろ全部庭の花にあげたいわ。いや、花にあげたら特殊変異しそうだから花にもあげたくないわ。出来ることならば当家の力を全力で行使してでも厳重に処分したい所である。
   いやいやいや、でもこの考察はさすがに王家の人間に向かって、いや平民であろうと失礼にも程があるよな。うん、ないない。
   ほら、現に弟はーー

「ぼくカルピス(濃厚)でお願い」

   いや、やっぱり不安にも程がある。

「おっけー」

   グラスは何の躊躇いもなくコップを弟に手渡す。
   行動力の塊みたいな弟のおかげで一番まともそうだけどその正体がナニなのかが一番怪しいヤツが取られてしまった。まあこれでとやかく言うのは難癖レベルの話じゃないがどっちかもいうと弟の身が心配である。
   ……ホントにこれってアレじゃないよな。乳酸菌飲料で間違えてなよな。ティッシュにくるんだりするヤツじゃないよな?

「ナイルくん、ナニにする?」

   ニコニコしながら二つのコップを手に持って俺に問いかけるグラス。
   気のせいだろうか。『何』が『ナニ』に聞こえる。まったく、俺もコイツらに影響されてるんだな!

「飲んでよ僕の濃厚カルピス」

   グラスが血走った目と有無を言わさぬ声色でやたらと飲み物を勧めてくる。ヤベエよこれ。飲みたくねえよ。
   だが俺はどんな状況でも希望を見出す性格をしていた。

「表現ちょっと間違えちゃっただけだよな!?   塩水とカルピスローション割なんだよな!?」

   もう無いに等しいレベルである一縷の希望に期待をしてグラスに問いかけるも虚しく、

「…………」
「え、なんで固まるん」

   目に怪しい光を湛え、含み笑いをして固まるグラス。
   俺はそんなグラスの様子を見て、思わず関西弁でツッコンでしまった。これも冗談の一種だよな?
   更にグラスはダメ押しのように言葉を紡ぐ。

「僕の愛、受け取ってくれるよね?」
「ある程度は受け取るぞ?」

   ざわざわと窓か映る木々が揺れる。俺たちの周りに流れる雰囲気が不穏極まりない。
   そんな時に不安を煽る弟からの一撃が。

「ねえ、お兄ちゃん。家のカルピス賞味期限切れてるのかな?   何かイカ臭いんだけど」

    アカーーン!
   俺はいよいよこの飲み物の危険性を確信する。

「弟、そりゃ飲んだらアカンやつや」

   精神的ダメージを受けないように配慮する。限度はあるが、もう基本的に自分で察する他ないだろう。スマン弟、お兄ちゃんがもう少し早く気づいてやればこんな事にはならなかったかもしれないのにーー

「え?」

   何が何だか分からないとでも言うような表情をしてぽーっとしている弟。そりゃそうだ、こんなトンデモ状況早々起きてたまるか。
   そして事件の張本人は。

「ヤダナー、ナニカンチガイシテルノカナー。コレノウコウカルピスネ」

   コイツ……救えねえ……

「なぜ棒読みになる」

   逃がすか、とグラスを追い詰める一手を打つ。
   事件を確定付けることになる事を恐れずに、俺は意を決して弟のコップを嗅いでみる。
   これは……完全に……

「グラスさん、自首しましょう」
「ううううう!」

   後にグラスは『調子に乗ってやりました。反省はしてますが後悔はしていません』と語った。いや反省しろよ。
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