アウトロー ~追憶~

白川涼

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2章 ミュラー青春の謳歌

アヤカシ①

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 ミュラー一人を除いて皆が肩を上下させながら、呆然と目の前の光景を眺めながら立ち尽くす。
 多量の返り血を浴びながらも、飛び散った肉塊が周囲に散乱していた。
 やがて生を実感し、この局面を生き抜いたことを理解した。

 た、倒した……。

 その言葉が脳裏に宿る。
 そして安堵し、深く息を吐く。
 巨竜を倒した達成感よりも、今生きていることに深く感涙した。
 泣き崩れるミュラーに感謝の抱擁をしようと皆が近づこうとした。

 その時。

 再び恐怖の衝撃振動が地面に走る。

 全員が戦慄した。

 振動の先の森へと恐る恐る顔を向けると、先ほどの巨竜よりも一回りも大きい高原の王者が悠然と立ちふさがっていた。

 そして巨竜の瞳は間違いなく四人を捉えていた。

 仲間の死に激怒したのか、大地を揺るがすほどの大きな咆哮をあげる。
 けたたましい雄叫びを上げながら、四人へと迫りくる。
 絶望した皆の頭によぎった。

 死。

 刹那、巨竜の眼前に人影が映し出される。

 それが二本の大剣を両手で持つフェンディと理解した瞬間、巨竜の身体は左右に真っ二つに裂け、力無く倒れ伏した。

 フェンディが大剣についた返り血を払う。

 そして笑顔のフェンディが四人の方へ振り返った。
「待たせたわね。怪我は無い?」
 一瞬の出来事に理解できず、ただ驚愕した四人。

 これだけは言える、今度こそ助かった……。

 オルマが号泣してフェンディに抱きつく。
「だじゅがりまじゅだぁーーー!! ぐうんじゅうぅーーー!!!」
 フェンディが優しく微笑み返した。
「フェンディでいいわよ、よく無事でいてくれたわ。本当に良かった……」
 フェンディは四人の安否を確認すると、すっと胸を撫でおろす。
 束の間の安息の空気が五人を包んだ。

 フェンディが帰還の言葉を放とうとした時、ソレは訪れた。

 最初にソレを感じ取ったのはフェンディであった。

 滝の様に汗が流れる。
 五感が危険のシグナルを知らせる。
 これでもハンターとして経験豊富な彼女がこの未知の危険信号に逡巡してしまう。

 しかしこれだけは言える。

 すぐにこの場から立ち去らなければならない。

 四人にそれを知らせるために、言葉より先に手を伸ばす。

 その腕が空中に舞った。

 強烈な痛覚が脳に走る。
 しかし、それを堪え、自身の腕を奪ったソレと向き合う。
 片手で大剣を構え、臨戦態勢を取った。

 生き残るために。

 そして四人に向かって叫ぶ。
「今すぐここから離れなさいっ!!! 私が時間を稼ぐわっ!」

 しかしソレの圧倒的恐怖感が四人を支配する。

 動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!

 ミュラーが何度も自分の頭に伝えても、身体は動かなかった。

 それほどの恐怖感をソレは放っていた。

 ミュラーの瞳がソレを映す。
 ソレは人の形をしていた。
 しかし人ではない。
 目も口も無い頭、異形に生える両腕、水死体のようにぶよぶよとした胴体、そして長い尻尾が生えていた。

 その尻尾の先にはフェンディの腕が握られていた。

 その姿と恐怖の気配にミュラーだけでなく、ジラールも、オルマも、クロエも支配されていた。

 ただ立ちすくむ。

 それのみが許されていたのだ。

 果敢にフェンディが立ち向かう。
 大剣から繰り出される目にも止まらぬ斬撃の嵐。
 草原の大地が抉られていく。
 それほど凄まじい威力の一撃が無数に放たれた。

 しかし、ミュラーの目から見ても理解できた。
 フェンディの強烈な斬撃がソレには通じていないことを。
 そしてソレはたやすくフェンディの大剣を掴み、無情にも破壊する。

 ソレが手をかざす。

 すると小柄なフェンディが空中に舞い、八つ裂きにされた。
 彼女の身体から血しぶきが吹き出す。

 ミュラーには何が起こったかわからなかった。

 彼女が何をされたのか。

 ただミュラーは彼女の返り血を浴びながら、ソレを見つめることしかできなかった。

 刹那、ソレはミュラーの眼前に現れた。

 そしてミュラーは死の気配を感じ取った。

 何もできなかった。

 死の恐怖が迫ってきた。

 地面に倒れ伏し、致命傷を負いながらもフェンディは消え入りそうな声を絞り上げる。
「……ミュラー……逃げて……」

 しかしその言葉はミュラーには届かなかった。

 恐怖に支配されたミュラーは微動だに動けずにいた。

 ついにソレが動き出す。

 ミュラーは死を覚悟した。

 しかしソレは急に動きを止めた。

 ミュラーが考えるより先に、聞き覚えにのある声がこだまする。

「うちの新人をイジメてもらっては困るな」

 頼もしい言葉がミュラーの耳に響き渡った。
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