アウトロー ~追憶~

白川涼

文字の大きさ
46 / 58
三章 ミュラー最後の事件簿

断れぬ依頼

しおりを挟む
「くぅ…………ッ! うっ! うぅっ! うぅぅぅッ!」

 オルマは云い知れぬ痛みと快感に言葉を失い、何とか声はだすまいと呻いた。
 しかし一番敏感なところに指が這い、そこを責められる。
「はふぅうッ!? ひっ、んっ! あぁあっああああぁぁッ!!」
 オルマは喜悦を止められなくなり、はしたなく喘ぎ悶えた。

 それを横目にミュラーは溜息をつく。
「……足裏マッサージぐらいで下品な声を上げるな。はしたない」
 ジラールも喘ぎ声こそ上げないが、みっともなく身を震わせていた。
「な、なんでこんなことされてんだよっ!!」
 もっともな言葉である。
 何故俺達は足裏マッサージを受けているんだ。

 少年兵に連れられて、街の下水路を走り、案内された先には階段があった。
 その階段を太ももがパンパンになるまで登らされ、辿り着いた先のドアを開けると薄暗い密室があった。
 その中に入り、言われるがままに置かれたベッドの横になった。
 少年兵達はしばらくここで待て、と言うと入れ替わりに施術師たちが俺達の靴を脱がし、足をほぐし始めた。
 そのマッサージを受けてかれこれ一時間はたつ。
 ミュラーは深く溜息をつく。
「ルカは無事だろうか……」
 その不安をかき消す言葉が出てくる。
「ご安心を。無事ですよ。彼女もあなたの仲間もこちらが手配して護衛しています」
 艶やかな女の声。声の方へ目を向けると、この国では上流階級特有の金髪の美しい女性が俺達と同じように、ベッドで優雅にくつろいでいた。
「誰だ?」
「失礼、挨拶が遅れました。ホルン=アレスグーテです。この街の副市長を勤めています」

 この街の副市長?
 俺達を追う側の人間ではないか。

「……役人が何の用だ?」
 ミュラーは警戒し、身を起こす。
 その姿を見たホルンと名乗った女性は微笑みながら答える。
「私は貴方の味方ですよ。その証拠にベガスでの貴方の手配は取り下げて頂きました。貴方には自由に動いてもらいたいですから」
 ミュラーが険しい顔で聞く。
「質問に答えろ。俺に何の用だ?」
「私たちには貴方の協力が必要なのです」
「......俺に? この街のお偉いさんが?」
「ええ、貴方でなければいきません。貴方のことはすでに調べてあります。今日の件、昨夜あなたが暗殺をした件。それだけじゃない。この前までハンターをしていたこと、貴方が異国からの無法者(アウトロー)で、数年前にマルジェラやマフィアを相手に暴れ、この国の王女ですら誘拐した事件でさえも……」
「……誤解だ。誘拐はしていない。あの姫さんが酔って行方不明になっただけだ」
 ホルンがクスリと笑う。
「そうでしたね。そうそう、この国の状況を今から説明したいのですが。少し不安が……」
「なんだ?」
「この国の王様の名前って知ってます?」
「知らん」
「……そうですか。では貴方はハンターとしてゴバ草原で狩りをしていましたが、それは何のためか理解していますか?」
「知らん」
 ホルンが深く溜息を吐く。
「……少し話すのが不安になりました。聞いてた話だと貴方は多少教養があると伺ったのですが、手違いでしたね。おかしいです、代筆の仕事をして、魔法を使いこなし、策士と聞いていたのに……」
 ミュラーは鷹揚に頷いた。
「それは合ってる」
「……政治に興味がないだけですか。住んでいる国の王様の名前ぐらいは覚えましょうね」
 ホルンの忠告に、ミュラーは欠伸で返す。
 思わずホルンは顔をしかめる。
「……貴方が嫌いな政治の話になります。ちゃんと聞いてくださいね。なるべくわかりやすく説明します。あなたがハントしているゴバ草原。あの場所でのハントはこの国の開拓事業の一環です。この国はゴバ草原を開拓し、農業地帯として開発する予定です。そうすることで貿易頼りの食料を国内で自給でき、諸外国に頼る必要もありません。だからハンター協会まで頼り、獣の王国だったゴバ草原での狩りは必須だった。貴方方の活躍もあり、獣は減り、開拓も順調に軌道に乗っていた。しかしここである問題が起きてしまいました」
 ミュラーはホルンを一瞥した。
「問題?」
「ゴバ草原に住む先住民ですよ。開拓するためには、彼等の居場所を奪うことになります。国は当初、平和的に移住交渉を進めていました。しかし交渉は難航しました。無理もありません。遊牧民の彼等にベガスで暮らせと言われても抵抗があるのは目に見えてます。そんな折り、軍の一部の強硬派が先住民の一人を殺害してしまいました。それに怒った先住民達の一部が蜂起します。そして、交渉担当であった、この国の軍の将軍が殺されてしまいます。先住民の一人の男の手によってです。軍は報復に躍起です。今、ゴバ草原ではいつ戦争になってもおかしくない状態なんですよ。先住民はベガスの街に入り、テロもしているほどなんです」
 ホルンは少し間を置く。
「貴方にはある人物を探してもらいたいのです」
「誰だ?」
「ラクシャイン、先ほど話した将軍を殺した男です。先住民は英雄と彼を呼んでいます。そして、もう一人います。フランツ=ヨーゼフ。貴方が昨夜殺した男の名です」
「死体なら爆破したぞ」
「……フランツ=ヨーゼフは諜報員で、ある特定人物たちがその名を使用していたらしいのです。その人物を探し出してもらいたいのです」
「人相はわかるのか」
 ホルンは首を横に振る。
「いえ、しかしラクシャインは腕にサソリの入れ墨があるようです。ですがフランツ=ヨーゼフは問題ありません」
「何故だ?」
「貴方がこの街で動けば必ず接触してきます」
「どうしてだ?」
「あなたが文書の持ち主だからです」
「そんなものは無い」
 ホルンはジラールの方をちらりと見て、
「ずいぶん腕のいい鍛冶屋の友人がいますね。彼にフランツの遺品を見せればわかるとおもいます」
「ジラールに?」
「さて、ご協力頂ければこちらも全力でサポートします。勿論報酬ははずみます。金貨2万でどうですか? もちろん昨夜の暗殺の件も揉み消しますよ」
「断る」
「何故です?」
「話が旨すぎる。こういう話に乗ったら、この街じゃ食い物にされる。ベガスってのはそんな街なんだ」
「なるほど……。では別の手段で貴方を動かしましょう。今この街では低い階級の女、子供がモノとして売買されているそうです。全く嘆かわしい。少しは貴方の意中の女性の身を案じてみては? 彼女は私たちの手の中にあるんですよ」
 ミュラーの全身から殺気が立ち上った。
「……殺すぞ」
「誤解しないでもらいたいですね。私はそんな街の状況を憂いているのです。もしこの件が解決し、私が市長になった暁には奴隷売買を禁止するつもりなのです。お忘れなく、私は貴方の味方なのです」
 ミュラーは嘆息し、ベッドから身を起こす。
「どのみち俺を利用するつもりなんだな。美人な顔して汚い脅しをしやがる。いいだろう、ラクシャインとフランツ=ヨーゼフだな。見つけてきてやるよ」
 ホルンは優雅に一礼する。
「ありがとうございます。マッサージの施術後に、警護の責任者が現れます。彼と今後について打ち合わせて下さい。彼は聡い、解決策も講じてくれるでしょう」
 ホルンはベッドから起き、指を鳴らす。
 するとカーテンが左右に開き、窓の先から夜のベガスが映し出された。 
 ホルンはそれを眺めて呟く。
「どうか、この街、国の闇を暴いて下さい。彼等は必ずそこにいる……」
 ミュラーが何言ってんだこいつみたいな顔をして、首をかしげる。

 そしてホルンはまた一礼し、ミュラーのいる部屋から立ち去る。

 すると去り際に聞こえない声で呟く。

「賽は投げられたわ……エルドラ。ロゼを知るただ一人の人間に……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大好きなおねえさまが死んだ

Ruhuna
ファンタジー
大好きなエステルおねえさまが死んでしまった まだ18歳という若さで

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...