アウトロー ~追憶~

白川涼

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三章 ミュラー最後の事件簿

ミュラー逃亡劇⑤

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 しかし三人の威勢は女のかざした手で消え失せた。

 空の雲の一つ一つが大きな積乱雲として形成されていく。

 それだけならいい。
 問題はその形と大きさだ。

 その巨大な積乱雲の姿には見覚えがある。

 ティラノサウルスだ。
 しかも大きな翼まで生えている。

 巨大な異形の肉食竜がベガスの空を支配していた。

 その顎からは稲光が走っている。

 三人は一斉にその場から逃げるように駆け出した。
 大地を揺るがす地鳴りと共に眩い光と、鼓膜を破壊するような衝撃音が襲いかかる。
 三人は逃げまどいながら、
「ミュラー、ありゃなんだ?」
「おそらく精霊操術、使役した精霊を召喚して俺達に攻撃してるんだ」
「弱点とかあるー?」
「おそらく使役した精霊を召喚するのは一時的なものだろう。この攻撃が終われば、ヤツは次の精霊を使う。ただ……」
「何だよ?」
「ヤツはベガスを破壊するつもりで攻撃してきてる。このままだと街が崩壊するぞ」
「ざけんなよ!!」

 激高したジラールはフルパワーでハーミットの光弾を放った。

 竜の姿をした雲の塊が霧散する。
「やったか!?」

 ああ言いやがったな。
 こいつ。
 こういう時にこの言葉を口にする時は大抵やってない。

 嫌な予感が脳裏によぎる。

「見つけた」
 女が三人の前に姿を現わす。
 そして再び腕をかざそうとする。

 瞬間、オルマの糸が女を拘束した。
「させないよ! ミュラー!」
 オルマの呼びかけに答えるよりも前に、ミュラーは間髪入れずに斬撃を放つ。

 その瞬間、背筋が凍る。
 ミュラーの眼前に見覚えのある異形が姿を現わす。
 それは以前、恐怖で戦慄したソレがいたのだ。

 忘れられもしない、目も口もない頭、異形の体躯をもち、謎の動きでフェンディを瀕死に追いやった存在。

 あの時の恐怖がミュラーに襲い掛かる。
 しかしもう以前のミュラーではなかった。
 恐ろしさよりも怒りの感情が湧いてきた。
 その情動がミュラーの身体を動かす。

 あの時の恥辱をここで断つ!

「フェンディの仇!」
 ミュラーが叫ぶと、オルマが呆れた声で呟く。
「ミュラー……フェンディは生きてるよ……」

 ミュラーは躊躇うことなく剣を持った腕を振るう。

 しかし、その斬撃は通じなかった。
 
 やはり効かんか……。

 ミュラーだけでなく、他の二人もあの時の恐怖はよく覚えている。
 だが二人ともミュラー同様、以前のように恐怖には縛られなかった。
 警戒した動作で迎え討とうとしていた。
 女が怪しい笑みを浮かべる。
「私のお気に入りよ。前に出した時は筋肉野郎のせいで邪魔されたけど、今度はどうかしら」
 女はすでにオルマの拘束を解いている。
 ミュラーの瞳には不気味な異形が映し出されていた。
 そしてそれを憎悪の満ちた目で睨みつける。

 こいつの正体はアヤカシと呼ぶらしい、人の恐怖心から生み出された存在だ。
 悪霊のようなものだ。
 中でも目の前のヤツはトップクラスに危険な存在らしい。
 S級レベルの悪霊。
 だが大丈夫だ。対処法はブシュロンと研究を重ねた。以前に戦えたのが大きい。
 物理は効かない。
 なら魔法で、高火力の魔力で押し切る。ジラールのハーミットも有効なはずだ。

 ジラールはハーミットを構え、ミュラーも無詠唱魔法を発動さえようとしていた。

 瞬間、横槍が入る。

 無数の光の矢が目の前のアヤカシを貫く。
 すかさず、数えきれない火球が降り注ぎ、目の前の異形を焼き尽くす。
 異形のけたたましい悲鳴が周囲に響いた。
 予期せぬ不意打ちは女に効果的であった。
 距離を取ろうとその場を離れようとしたところに、再び光の矢が襲い掛かる。
 女は腕をかざしてそれを防ごうとする。

 防御結界をする気だ。

 そうはさせまいとオルマが糸で女を縛り、その糸にミュラーは魔力を送りこむ。
 眩い閃光がオルマの糸を伝い、女を包む。
 その瞬間、雷光の柱がそびえ立つ。
 間髪入れずにジラールはハーミットの最大火力の光弾をそこへ向かって放つ。

 光の塊が弾け跳び、轟音が鳴り響く。爆風が周囲に巻き起こった。
 ミュラーの視界は光で遮られた。
 その中に飛び込もうとミュラーは駆け出そうとするが、
「今のうちにに逃げて下さい!」

 少年のような声だった。

 そして気付けばローブを覆った小柄な少年兵がミュラーを囲っていた。
 ジラール、オルマもそうだった。
 ミュラーの腕を強く引っ張り、光に乗じて退却を促す。
 ミュラーは逡巡したが、魔力が尽き欠けていること、ジラールが全力でハーミットを放ったとなれば、連発は期待できない。

 目の前の少年兵は俺を助けようとしている。
 いや実際、先ほどの不意打ちもこいつらの仕業だろう。
 助けてくれたのだ。
 こちらの味方の可能性が高い。

 ミュラーは二人に視線を動かした。
 ジラールもオルマも頷いていた。

 やむをえない、ここは退くか……。

 少年兵に連れられ、ミュラーはその場をあとにした。
 閃光の先を忌々しく睨みつけながら。

 
 ミュラーたちが攻撃した後には石の柱ができていた。
 その柱がガラガラと音を立てて、崩れる。
 中から銀髪の魔女がせせら笑いながら姿を現した。

「フフフ、あれは大鷲の子供たち。楽しませてくれるわ、ロゼ。ヤツが動いたわよ。フフフ、私たちはどちらの手の平で踊っているのかしら……フフフフ……」
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