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三章 ミュラー最後の事件簿
ミュラー逃亡劇④
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俺は行き場を失っていた。
住んでいる寮には戻れない。
おそらく衛兵が待ち構えているだろう。
無論、奴らは俺のバイト先である代筆店も掴んでいるだろう。
チームの仲間にかくまってもらう、という選択肢もあったが、ブシュロンの態度から見てそれも無理だろう。
特にクロエなんかは最近、俺を嫌ってる節がある。
油断させて俺を衛兵かマフィアに売る可能性が高い。
それに今回の件は俺が金欲しさにやってしまったことだ。
そんな醜態を犯して、仲間にまで迷惑がかかるのは俺の矜持が許さなかった。
この件は俺が一人で片をつける。
まず俺を売ったヤツを探す。そして始末してやる。
俺は復讐の炎を心でたぎらせていた。
まず口入れ屋から情報が漏れたのが今のところ可能性が高いな。
ミュラーは思考を巡らせたが、夜からの疲労と、戦闘の負傷が今になって身体から悲鳴を上げてきていた。
疲れと苦痛、飢え、そして眠気がミュラーに襲い掛かってきた。
今は休める場所を探すべきだ……。
自然とルカがいる娼館に足を歩ませようとするが、理性がそれを止めさせる。
ルカを危険な目に合わせるわけにはいかない。
仕方なくあてもなくベガスの貧民街の裏路地をさまよう。
やむをえない、スラムの市場で薬と食料の調達をしよう。
不衛生なのは正直頂けないが、安宿ぐらいは見つかるだろう。
ミュラーは人気の少ない裏路地に気怠そうに歩いていた。
途中、汚い恰好した連中が襲ってきたが、この程度の奴らをねじ伏せる体力ならミュラーには残っている。
フェンディの訓練の賜物だな。
日中の日差しの熱さで体力が失われていく。流れていく汗が鬱陶しい。その汗を拭いながら、歩を進めた。
刹那、殺気を感じとれた。
本能的に身体を地面に伏した。
目の前の建物が輪切りされていた。
すぐに臨戦体勢をとりながら、後ろを振り返る。
女がいた。
美しい銀色の髪を腰まで伸ばした整った顔立ちの女だった。
耳が長い。エルフの一種なのか。
俺の好みではなかったが美人だった。
気怠そうな目、なにか退屈しているのか、関心がないのか、その顔は無表情であった。
感情を持ってないようにも思える。
しかし溢れてくる殺意は伝わる。
今の一撃、どうやったかはわからないが俺の胴体を両断するつもりの一撃だった。
対峙した瞬間に理解できたことは、彼女がリヴァと名乗った男よりも手練れなこと、そして今の俺の状態では勝ち目はない。武器もない。体力も限界だ。
ん? そういえば死体から小刀を取ったな。
それを使うか……。
俺は小刀を取り出し、ナイフのように持ち、構える。
それを見た女から無機質な声が聞こえた。
「……文書を渡せ……」
意味がわからん。
俺の代筆依頼にきたわけでないだろう。
「なんのことだ?」
「とぼけるならいい……殺してから奪い取る」
気怠そうな声からは殺意満々の発言が飛び出した。
俺は小刀を握りしめた。
女が右手をかざす。
すると土人形のようなものが形成されていく。
それは巨大な巨象のようにミュラーに立ちはだかる。
ミュラーはそれを見て危険を察知した。
女が囁く。
「カトブレパス」
すると大地が盛大に揺れ、辺り一帯は陥没を始める。
周囲の建物は崩壊していった。
ミュラーの足元には巨大な口のようなものが大きく開いていた。
大地がおおきな顎となって女の目の前の景色を跡形もなく食いちぎる。
瓦礫の山になった周囲を見て、女は退屈そうに呟く。
「もう終わり? ……文書がなくなっちゃった……」
しかし、よく見てみると、瓦礫から靴が落ちていた。
ミュラーの履いていた靴である。
女はほっとし、それに近づこうとする。
瞬間、
「爆ぜろ」
眩い閃光と共に、爆炎が舞いおこった。
瓦礫の下からミュラーがミュラーが姿を現わす。
しかし燃え盛る業火を見て、ミュラーは舌打ちをした。
炎の中に女はいなかった。
巨象が火あぶりされている光景だけが映った。
いつの間にか、女がミュラーの背後にいた。
ミュラーの背筋に緊張が走る。
へらへらと薄ら笑いをしていた。
「すごい、すごいリヴァが手を焼いたわけだ。んじゃ遠慮なく殺すよ」
そんな女の殺意の言葉も意を介すことなく、ミュラーは振り向きざまに、小刀を持って剣撃を繰り出した。
しかし、ミュラーの眼前には女の姿はない。
短刀は空を切り、その先には巨大な三つの頭を持つ蛇が待ち構えていた。
仕損じたことよりも、目の前の新たな化け物に脅威を覚えた。
瞬時に危険を察知し、ミュラーが飛び跳ねようとする。
しかしそれは叶わなかった。
大地から土でできた手がミュラーの足を絡めていたのだ。
ミュラーは目の前の蛇を見て、予感した。
さっきの斬撃がくる。
このままでは確実に胴体を輪切りにされる。
ミュラーは窮地を脱することに思考を巡らした。
すかさず女の声が耳に響き渡る。
「封魔」
ミュラーは無詠唱魔法を発動させようとしたが、魔力が練れななっていた。
この女なにかしやがったな!
逆に蛇の身体が光輝き、ミュラーを切断するための魔法が今にも放たれようとしている。
ついにミュラーは覚悟を決めた。
ルカ……ごめんな……。
刹那、三頭の蛇は糸で縛られる。すかさず眩い光弾が炸裂し、蛇は爆散した。
それを見たミュラーが苛立ちを交えながら文句を言う。
「どういうつもりだ」
獣族の少女がとぼけたように答える。
「え? お礼も言えないのー?」
赤髪の長身の青年がおどけてミュラーに言い放つ。
「これは、これはミュラーさん、ずいぶんお困りのようですねぇ、お助けしましょうか?」
ミュラーがチッと舌打ちし、バツが悪そうな顔をする。
すると二コリと笑顔を浮かべたオルマがミュラーの足元の土の手を糸で切り刻んだ。
ジラールはニヤリと笑い、ミュラーに向かって、剣とランスを投げ渡す。
「ほれ、俺のお手製の大業物だ。今度は魔法でぶっ壊すなよ」
それを受け取ったミュラーはふっと笑う。
「仕方のない奴らめ……」
すると空中から女が現れ、つまらなそうに呟く。
「はやく帰って、寝たいのに……邪魔しないでくれるかしら」
オルマがミュラーに呼びかけた。
「とにかく今は逃げるよ! あの女、強いよ……。マルジェラと同じ感じがする」
三匹の狼が集い、共に獲物に吠えかかる。
住んでいる寮には戻れない。
おそらく衛兵が待ち構えているだろう。
無論、奴らは俺のバイト先である代筆店も掴んでいるだろう。
チームの仲間にかくまってもらう、という選択肢もあったが、ブシュロンの態度から見てそれも無理だろう。
特にクロエなんかは最近、俺を嫌ってる節がある。
油断させて俺を衛兵かマフィアに売る可能性が高い。
それに今回の件は俺が金欲しさにやってしまったことだ。
そんな醜態を犯して、仲間にまで迷惑がかかるのは俺の矜持が許さなかった。
この件は俺が一人で片をつける。
まず俺を売ったヤツを探す。そして始末してやる。
俺は復讐の炎を心でたぎらせていた。
まず口入れ屋から情報が漏れたのが今のところ可能性が高いな。
ミュラーは思考を巡らせたが、夜からの疲労と、戦闘の負傷が今になって身体から悲鳴を上げてきていた。
疲れと苦痛、飢え、そして眠気がミュラーに襲い掛かってきた。
今は休める場所を探すべきだ……。
自然とルカがいる娼館に足を歩ませようとするが、理性がそれを止めさせる。
ルカを危険な目に合わせるわけにはいかない。
仕方なくあてもなくベガスの貧民街の裏路地をさまよう。
やむをえない、スラムの市場で薬と食料の調達をしよう。
不衛生なのは正直頂けないが、安宿ぐらいは見つかるだろう。
ミュラーは人気の少ない裏路地に気怠そうに歩いていた。
途中、汚い恰好した連中が襲ってきたが、この程度の奴らをねじ伏せる体力ならミュラーには残っている。
フェンディの訓練の賜物だな。
日中の日差しの熱さで体力が失われていく。流れていく汗が鬱陶しい。その汗を拭いながら、歩を進めた。
刹那、殺気を感じとれた。
本能的に身体を地面に伏した。
目の前の建物が輪切りされていた。
すぐに臨戦体勢をとりながら、後ろを振り返る。
女がいた。
美しい銀色の髪を腰まで伸ばした整った顔立ちの女だった。
耳が長い。エルフの一種なのか。
俺の好みではなかったが美人だった。
気怠そうな目、なにか退屈しているのか、関心がないのか、その顔は無表情であった。
感情を持ってないようにも思える。
しかし溢れてくる殺意は伝わる。
今の一撃、どうやったかはわからないが俺の胴体を両断するつもりの一撃だった。
対峙した瞬間に理解できたことは、彼女がリヴァと名乗った男よりも手練れなこと、そして今の俺の状態では勝ち目はない。武器もない。体力も限界だ。
ん? そういえば死体から小刀を取ったな。
それを使うか……。
俺は小刀を取り出し、ナイフのように持ち、構える。
それを見た女から無機質な声が聞こえた。
「……文書を渡せ……」
意味がわからん。
俺の代筆依頼にきたわけでないだろう。
「なんのことだ?」
「とぼけるならいい……殺してから奪い取る」
気怠そうな声からは殺意満々の発言が飛び出した。
俺は小刀を握りしめた。
女が右手をかざす。
すると土人形のようなものが形成されていく。
それは巨大な巨象のようにミュラーに立ちはだかる。
ミュラーはそれを見て危険を察知した。
女が囁く。
「カトブレパス」
すると大地が盛大に揺れ、辺り一帯は陥没を始める。
周囲の建物は崩壊していった。
ミュラーの足元には巨大な口のようなものが大きく開いていた。
大地がおおきな顎となって女の目の前の景色を跡形もなく食いちぎる。
瓦礫の山になった周囲を見て、女は退屈そうに呟く。
「もう終わり? ……文書がなくなっちゃった……」
しかし、よく見てみると、瓦礫から靴が落ちていた。
ミュラーの履いていた靴である。
女はほっとし、それに近づこうとする。
瞬間、
「爆ぜろ」
眩い閃光と共に、爆炎が舞いおこった。
瓦礫の下からミュラーがミュラーが姿を現わす。
しかし燃え盛る業火を見て、ミュラーは舌打ちをした。
炎の中に女はいなかった。
巨象が火あぶりされている光景だけが映った。
いつの間にか、女がミュラーの背後にいた。
ミュラーの背筋に緊張が走る。
へらへらと薄ら笑いをしていた。
「すごい、すごいリヴァが手を焼いたわけだ。んじゃ遠慮なく殺すよ」
そんな女の殺意の言葉も意を介すことなく、ミュラーは振り向きざまに、小刀を持って剣撃を繰り出した。
しかし、ミュラーの眼前には女の姿はない。
短刀は空を切り、その先には巨大な三つの頭を持つ蛇が待ち構えていた。
仕損じたことよりも、目の前の新たな化け物に脅威を覚えた。
瞬時に危険を察知し、ミュラーが飛び跳ねようとする。
しかしそれは叶わなかった。
大地から土でできた手がミュラーの足を絡めていたのだ。
ミュラーは目の前の蛇を見て、予感した。
さっきの斬撃がくる。
このままでは確実に胴体を輪切りにされる。
ミュラーは窮地を脱することに思考を巡らした。
すかさず女の声が耳に響き渡る。
「封魔」
ミュラーは無詠唱魔法を発動させようとしたが、魔力が練れななっていた。
この女なにかしやがったな!
逆に蛇の身体が光輝き、ミュラーを切断するための魔法が今にも放たれようとしている。
ついにミュラーは覚悟を決めた。
ルカ……ごめんな……。
刹那、三頭の蛇は糸で縛られる。すかさず眩い光弾が炸裂し、蛇は爆散した。
それを見たミュラーが苛立ちを交えながら文句を言う。
「どういうつもりだ」
獣族の少女がとぼけたように答える。
「え? お礼も言えないのー?」
赤髪の長身の青年がおどけてミュラーに言い放つ。
「これは、これはミュラーさん、ずいぶんお困りのようですねぇ、お助けしましょうか?」
ミュラーがチッと舌打ちし、バツが悪そうな顔をする。
すると二コリと笑顔を浮かべたオルマがミュラーの足元の土の手を糸で切り刻んだ。
ジラールはニヤリと笑い、ミュラーに向かって、剣とランスを投げ渡す。
「ほれ、俺のお手製の大業物だ。今度は魔法でぶっ壊すなよ」
それを受け取ったミュラーはふっと笑う。
「仕方のない奴らめ……」
すると空中から女が現れ、つまらなそうに呟く。
「はやく帰って、寝たいのに……邪魔しないでくれるかしら」
オルマがミュラーに呼びかけた。
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