アウトロー ~追憶~

白川涼

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三章 ミュラー最後の事件簿

ミュラー逃亡劇③

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 俺はがむしゃらに深夜の街を走り抜けた。

 気づけば止んだ雨も降り始める。
 それでも足を止めない。
 常夏の夜なのに、雨に濡れた身体は妙に底冷えした。
 全身に妙な寒気が襲う。
 だが足を動かし続けた。そうしなければ、この言い難い不穏な予感に心が押しつぶされそうだったからだ。
 だから全身を使って、気を紛らわすために走ることに集中する。
 通りは人気が全くない。不気味なくらいに。
 この仕事をやった後なら好都合なのだが、今の俺にはこれが恐ろしく不安を覚えさせた。
 
 そうしてやっとの思いで辿りついた目的の場所に来た。
 依頼を受けた口入れ屋の店の戸を開ける。
 すでに手遅れだった。いや先手を取られた。
 店内は血まみれになっていた。
 そこに無残に転がる口入れ屋の変わり果てた姿。
 おそらく無駄だろうが、息が有るか確認する。
 しかし身体を起こすと硬直し、恐怖に怯えたせいか開きっぱなしの瞼の目は大きく見開いていた。
 しかも死臭までする。
 これは駄目だ。

 チクショウ! 苦労したのに依頼金は無しか! 割りに合わん!

 すると突然、暗闇の先がざわつきだす。
 気配を感じた。
 耳を澄ますと雨音に紛れて人の足音が聞こえだす。
 数は一人じゃない、大勢だ。
 急いで店を後にするが、俺の背後に金属を擦らせた足音が後を追うのが聞こえる。
「下手人がいたぞ! 追え!!」
 おそらく衛兵だ。
 厄介な奴らだ。巻くには手間を取らせる存在だ。
 顔を見られてないことと口入れ屋を殺した誤解が解かれることを祈ろう。
 神なぞ信じてはいないが……。

 全力疾走で雨が降りしきるベガスの街を駆け抜けた。
 衛兵との追いかけっこは夜が明けるまで続いた。
 這う這うの体でチームのたまり場、『無法者の楽園』の中へ逃げ込み、身を隠した。

 頼む、誰か来て助けてくれ。
 ジラールにもこないだ喧嘩したことを謝罪しよう。
 俺が悪かった。

 追われる恐怖に身を震わせていると、突然、店の扉が開かれた。

 ジラールか!? オルマか!?
 
 しかし期待は裏切られた。

 衛兵ではないが、人相が悪く、不潔で、歯磨きとか嫌いな顔をしたゴロツキが一人、二人三人と数名で俺の目の前に現れた。
 まぁ生きてる人間なだけマシか。
 ゴロツキの一人が俺と目が合う。
「いたぞ! 賞金首のミュラーだ! こいつは傑作だ、こんなところでビクビク隠れてやがった!」
 耳障りな言葉とせせら笑うゴロツキの姿を見て、俺の中で何かが切れる。
「嫌な顔だ」
 そう俺が呟いた時にはゴロツキの顔面を殴り飛ばしていた。
 すぐさま、他の仲間が俺にかかってくる。
 問答無用で返り討ちにした。
 多分素手だから死んでいないだろう。
 衛兵と違ってこいつらはいくらボコボコにしても問題ない。
 また大勢の仲間を引き連れてくるか、ちょっと手ごわいヤツを連れてくるぐらいだ。
 俺は夜の鬱憤を晴らすかのように大暴れした。
 気付いたらゴロツキ共は全員床に倒れ伏していた。

 こいつら俺に何か用でもあるのか? 
 たしかにこいつらに恨まれることなら散々やった気はするんだが……。

 呆然としているところに、不意に声をかけられる。
「なにがなんだかわからねぇって顔だな。ミュラー」

 声の主はブシュロンだった。
 いつの間にかカウンターに座って優雅にコーヒーを飲んでいた。
 座れ、と促されたのでブシュロンの隣に腰をかける。
 そして厳しい顔をしたブシュロンは苦々しく説明を始めた。
 どうやら、昨夜俺が暗殺したのはこの国の政治家で偉い立場にいたヤツらしい。
 そして何故か俺が殺したことはバレていた。
 おかげで衛兵はこぞって街中で俺を探し回っているらしい。
 懸賞金もかけられたらしく、マフィアの連中や賞金稼ぎ達も俺を狙ってるらしい。
 勿論ハンター組合にも圧力をかけられ、俺はハンターを除名処分することが決定したそうだ。

 ブシュロンが殺したのは何かの間違いじゃないのか?

 と険しい眼差しで聞いてきたが、俺は自信満々に
「間違いなく俺が殺した。死体に魔法を仕掛けて爆発までさせたから、間違いなくソイツは死んだはずだ」

 と答えると頭を抱えて、
「そこは誓って殺しはやってませんの言葉が欲しかった」
 と声を震わせていた。そして俺の背中を軽く叩き、
「行け、見なかったことにしておく。お前はただの無法者アウトローだ」

 ブシュロンにクビを宣告されたミュラーは弱弱しい足取りで店を後にする。
 ブシュロンにはミュラーの背中がとても小さく感じた。
 我が子を谷に落とす獅子の気持ちになり、いつまでもミュラーの後ろ姿を見つめ続けた。
 その姿が消えて無くなるまで。
 そしてぼそりと呟いた。
「できるだけ、あの馬鹿の助けになってやってくれ」
 白と黒、二匹の狼がそれに答えるようにブシュロンの肩を叩き、ミュラーを追って、店を出る。

「ったく世話がやけるやつだぜ」
「男ってホントに素直じゃないよねー」

 二人の言葉を聞いたブシュロンは微笑む。
 そして街の方へ視線を送り、遠い目をして、責めるような声色で呟く。

「……これでいいんだな、エルドラ……、アイツがこの街を救ってくれるんだな……」
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