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三章 ミュラー最後の事件簿
ミュラー逃亡劇②
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後頭部の鈍痛が頭に響き渡る。
しかし確証が持てたのはさっきのヤツの背後からの不意打ち、打撃だ。
腕か脚かはわからない。しかし俺を仕留めるつもりなら鋭利な刃物の一突きが効果的だ。
しかしヤツはそうしなかった。
少なくとも剣やナイフのような刃物は持ち合わせていないだろう。
ミュラーは対峙する相手を見据えながら推測した。
同時に嘆息した。
しかし雨が降っていたとはいえ、俺に気配を気取られないほどの実力の持ち主。
間違いなく手練れ。
さらに相手の構えを観察する。
両の手には拳が握られていた。
今すぐにも飛び掛かりそうな猛獣のような構えを取っている。形象するなら虎のような構えだ。
近接格闘は苦手なんだがな……。
事実、ミュラーは体術においては専門的な訓練をしたことはない。
剣術と魔法の戦闘法の修行はしてきたが、殴る、蹴るという動作についてはほぼ素人だ。
しかしミュラーは仲間のブシュロンの徒手空拳の使い手だったため、洗練された体術の動きを知っている。
格闘術は剣士等の武器を持つ使い手に比べ、動きが速く、とにかく自由に攻撃手段を持っているから、ミュラーにとっては相性が悪い。
武器を持っていれば線の動きで対処できる。
しかし体術は四方八方からの予測のつかない攻撃を繰り出してくる。
面で対処しなければならない。
ミュラーができること、それは近接されないことだ。
自身の剣の間合いで相手を制することが重要だ。
そして、腰に帯びた剣の柄を右手で握り、大きく腰を落とし、左足を後ろにさげる。
すぐに抜刀する構えをみせた。
奇しくも相手と同じ虎の構えであった。
両者が睨み合う。
ミュラーの前で殺意をぶつける男は闘いの昂りか、それとも戦闘する愉悦からくるのか、笑っていた。無邪気な声を張り上げる。
「俺の名はリヴァ! テメーを殺す男の名前だ。死ぬ前に覚えておけ!!」
その言葉を聞き、ミュラーは二っと笑い返す。
そしてミュラーがぼそりと呟いた。
『凍弾』
すると氷で形成された、大きな氷柱の塊が幾重にもなって、対峙する男に襲い掛かる。
無詠唱魔法である。
そしてミュラーは魔法の発動を止めない。
リヴァと名乗った男に容赦なく氷柱が降り注ぎ続けた。
相手の姿が見えなくなっても、なおその攻撃を続ける。
ミュラーは徹底的に魔力を使いきるまで、スコールのように氷柱を放ちまくった。
あまりの慈悲の無い光景に、その戦いを観覧していた長髪の青年が思わず感嘆の声を上げる。
「これは、これは……」
どうやら望んだ戦いの光景ではないので拍子抜けして、先ほどの余裕の態度は消え、驚きを隠せないでいたようだ。
しかし、ミュラーを知っている者ならすでに気付いていた。
ミュラーが先ほど触れていた死体に何か仕掛けていたことを。
だが、青年は知らなかった。
ミュラーという男を。
「爆ぜろ」
刹那、死体から燃え盛る爆炎が生じる。
大きな業炎が火柱となり、青年はおろか、周囲の建物まで焼き尽くした。
ミュラーは間髪入れずに炎の中を駆け出す。
その青年の止めを刺すために。
すでにミュラーの目には青年との距離の間合いを掴んでいた。
確実に仕留めるための慈悲なき剣の一線が炎を斬る。
そして青年の首を捉えようとした瞬間、ミュラーの剣は止まる。
いや止められた、遮られたのだ。
炎の中でミュラーが目を凝らすと先ほど対峙していた相手が青年を庇っていた。
その右腕にはミュラーの剣が深く刺さっていた。
しかしそれだけだ。
ミュラーは人間なぞ両断できるほどの太刀捌きで剣撃を放っていた。
しかしミュラーの剣は届かなかった。
瞬時に、ミュラーは相手も気タオを使う、しかも刃を遮るほどの使い手だと悟った。
すぐに剣を戻し、体勢を立て直そうとするが、それは叶わなかった。
男の渾身に蹴撃がミュラーの剣の刀身を砕く、そしてミュラーの死角から拳撃が襲った。
しかしそれはミュラーには届かなかった。
ミュラーは不意打ちを予測し、足で拳撃を止める。
その足は靴底に厚い金属をしこんだものだった。
男の拳が砕ける嫌な音が聞こえた。
男はニヤリと笑った。
「汚ねぇマネしてくれるじゃねぇか……」
「光栄だ」
ミュラーがそう返すと男は再度襲いかかろうとするが、青年に止められる。
「リヴァ、ここは退きましょう。ちょうどこの男が目くらましを作ってくれました」
「だけどロゼ、この野郎……」
「あなたも手負いです。退きますよ。ではまたどこかで会いましょう」
ミュラーはすぐに追撃しようとしたが、気付けば太ももにナイフが深く刺されていた。
いつの間に!?
思わぬ攻撃と、剣が砕けたこと、それが判断を鈍らせ、炎の中に消える二人を見逃してしまった。
ミュラーが魔法の発動を止めると、すでに二人の姿は無かった。
ミュラーの脳裏には、あのロゼと呼ばれた長髪の青年の微笑みが不気味な印象を残していた。
闇夜に乗じ、ミュラーも嫌な後味を感じながらもその場から立ち去る。
不穏な予感を感じながら、今回の目的が達成はできていたこと、自身の状態から追撃することは得策ではないと理性が判断したのだ。
駆け抜けた夜の街は不気味に静かだった。
しかし確証が持てたのはさっきのヤツの背後からの不意打ち、打撃だ。
腕か脚かはわからない。しかし俺を仕留めるつもりなら鋭利な刃物の一突きが効果的だ。
しかしヤツはそうしなかった。
少なくとも剣やナイフのような刃物は持ち合わせていないだろう。
ミュラーは対峙する相手を見据えながら推測した。
同時に嘆息した。
しかし雨が降っていたとはいえ、俺に気配を気取られないほどの実力の持ち主。
間違いなく手練れ。
さらに相手の構えを観察する。
両の手には拳が握られていた。
今すぐにも飛び掛かりそうな猛獣のような構えを取っている。形象するなら虎のような構えだ。
近接格闘は苦手なんだがな……。
事実、ミュラーは体術においては専門的な訓練をしたことはない。
剣術と魔法の戦闘法の修行はしてきたが、殴る、蹴るという動作についてはほぼ素人だ。
しかしミュラーは仲間のブシュロンの徒手空拳の使い手だったため、洗練された体術の動きを知っている。
格闘術は剣士等の武器を持つ使い手に比べ、動きが速く、とにかく自由に攻撃手段を持っているから、ミュラーにとっては相性が悪い。
武器を持っていれば線の動きで対処できる。
しかし体術は四方八方からの予測のつかない攻撃を繰り出してくる。
面で対処しなければならない。
ミュラーができること、それは近接されないことだ。
自身の剣の間合いで相手を制することが重要だ。
そして、腰に帯びた剣の柄を右手で握り、大きく腰を落とし、左足を後ろにさげる。
すぐに抜刀する構えをみせた。
奇しくも相手と同じ虎の構えであった。
両者が睨み合う。
ミュラーの前で殺意をぶつける男は闘いの昂りか、それとも戦闘する愉悦からくるのか、笑っていた。無邪気な声を張り上げる。
「俺の名はリヴァ! テメーを殺す男の名前だ。死ぬ前に覚えておけ!!」
その言葉を聞き、ミュラーは二っと笑い返す。
そしてミュラーがぼそりと呟いた。
『凍弾』
すると氷で形成された、大きな氷柱の塊が幾重にもなって、対峙する男に襲い掛かる。
無詠唱魔法である。
そしてミュラーは魔法の発動を止めない。
リヴァと名乗った男に容赦なく氷柱が降り注ぎ続けた。
相手の姿が見えなくなっても、なおその攻撃を続ける。
ミュラーは徹底的に魔力を使いきるまで、スコールのように氷柱を放ちまくった。
あまりの慈悲の無い光景に、その戦いを観覧していた長髪の青年が思わず感嘆の声を上げる。
「これは、これは……」
どうやら望んだ戦いの光景ではないので拍子抜けして、先ほどの余裕の態度は消え、驚きを隠せないでいたようだ。
しかし、ミュラーを知っている者ならすでに気付いていた。
ミュラーが先ほど触れていた死体に何か仕掛けていたことを。
だが、青年は知らなかった。
ミュラーという男を。
「爆ぜろ」
刹那、死体から燃え盛る爆炎が生じる。
大きな業炎が火柱となり、青年はおろか、周囲の建物まで焼き尽くした。
ミュラーは間髪入れずに炎の中を駆け出す。
その青年の止めを刺すために。
すでにミュラーの目には青年との距離の間合いを掴んでいた。
確実に仕留めるための慈悲なき剣の一線が炎を斬る。
そして青年の首を捉えようとした瞬間、ミュラーの剣は止まる。
いや止められた、遮られたのだ。
炎の中でミュラーが目を凝らすと先ほど対峙していた相手が青年を庇っていた。
その右腕にはミュラーの剣が深く刺さっていた。
しかしそれだけだ。
ミュラーは人間なぞ両断できるほどの太刀捌きで剣撃を放っていた。
しかしミュラーの剣は届かなかった。
瞬時に、ミュラーは相手も気タオを使う、しかも刃を遮るほどの使い手だと悟った。
すぐに剣を戻し、体勢を立て直そうとするが、それは叶わなかった。
男の渾身に蹴撃がミュラーの剣の刀身を砕く、そしてミュラーの死角から拳撃が襲った。
しかしそれはミュラーには届かなかった。
ミュラーは不意打ちを予測し、足で拳撃を止める。
その足は靴底に厚い金属をしこんだものだった。
男の拳が砕ける嫌な音が聞こえた。
男はニヤリと笑った。
「汚ねぇマネしてくれるじゃねぇか……」
「光栄だ」
ミュラーがそう返すと男は再度襲いかかろうとするが、青年に止められる。
「リヴァ、ここは退きましょう。ちょうどこの男が目くらましを作ってくれました」
「だけどロゼ、この野郎……」
「あなたも手負いです。退きますよ。ではまたどこかで会いましょう」
ミュラーはすぐに追撃しようとしたが、気付けば太ももにナイフが深く刺されていた。
いつの間に!?
思わぬ攻撃と、剣が砕けたこと、それが判断を鈍らせ、炎の中に消える二人を見逃してしまった。
ミュラーが魔法の発動を止めると、すでに二人の姿は無かった。
ミュラーの脳裏には、あのロゼと呼ばれた長髪の青年の微笑みが不気味な印象を残していた。
闇夜に乗じ、ミュラーも嫌な後味を感じながらもその場から立ち去る。
不穏な予感を感じながら、今回の目的が達成はできていたこと、自身の状態から追撃することは得策ではないと理性が判断したのだ。
駆け抜けた夜の街は不気味に静かだった。
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