アウトロー ~追憶~

白川涼

文字の大きさ
54 / 58
三章 ミュラー最後の事件簿

遺言

しおりを挟む
 夜のベガスの港。

 闇のように暗い海の上に一際大きく、威圧感溢れるガレー船が浮かんでいた。
 そこの船室の奥でレオンが金髪のかき上げて、囚われの身となった老人に呟く。
「全くふざけたマネをしてくれる」
 レオンが偽の短刀を握り砕いた。
 その様子を見た老人はニヤニヤと笑みを浮かべていた。
 レオンは老人のその顔を見て苛立ちを覚え、自白剤を無理矢理飲ませた。
 むせかえる老人を眺めながら、レオンは告げた。
「文書はいい、また奪うまでだ。フランツ=ヨーゼフ、いやクラウスというべきか。貴様には聞きたいことがある」
 老人がニタニタと笑みを浮かべながら答える。
「なんじゃ、誕生日でも知りたいのか?」
 余裕そうな老人の態度に苛立ったレオンは老人の腹を蹴り上げ、顔を殴り飛ばす。
 そして低い声で倒れた老人に囁いた。
「……エルドラはどこにいる? 奴さえ捕えれば俺の計画は完遂できる」
 その言葉を聞いた老人は口から血を吐きながら、再び薄ら笑いをする。
「お前さんの計画か……。何もわかっておらんな……。自分が誰かの駒だということに……」
「フ、ロゼのことか。アイツとは利害の一致で手を組んだだけだ。アイツが俺を利用して、オレもアイツを利用してるだけに過ぎん」
 レオンの言葉を聞いて、老人は微笑む。
「軍部の革命か、せいぜい成功すればいいのう。奴の恐ろしさを知らんと見える……」
「なんだと?」
「この状況すらアヤツは薄汚い笑みで楽しんでおる……。どうせロゼの顔すら知らんのじゃろ……。王政を打破して、軍事強国を作りあげたいんじゃったか、お前さんは……。せいぜいアヤツの手のひらで踊っていればいい……」
 老人の挑発にレオンは激昂し、再び老人の腹を蹴り上げる。
 肩を上下させるまで、老人を痛めつけた。
 しかし老人は笑みをやめない。
「……役者は揃ったな……」
「役者だと?」
「ショーの始まりじゃ……」
 すると、突如、船内が激しく揺れ出すした。

 思わずよろめくレオンに、慌てて飛び出した船員が告げる。
「攻撃魔法を受けました! そ、空から堕天の魔女が……。ま、マルジェラが現れました……!」
 その言葉を聞いて、レオンの顔の血の気が一気に引く。

 バカな!? 
 マルジェラが出てきただと!? 
 そんな馬鹿なことがあるか! 
 まさかあの魔女もエルドラに手を貸してるのか!?

 レオンは船内を駆け出し、甲板にたどり着く。
 すると眼前には長い白髪を揺らしたエルフがいた。
 その姿を見て、レオンは驚愕した。

 ま、マルジェラ!! 
 何故ここに!??

 レオンの顔が青ざめる。そして思考を巡らし、打開策を練る。
 すると、突然背後から声が聞こえた。
「隙だらけだ」
 レオンの身体はすでにランスで深々と貫かれいた。
 口から血反吐を吐きながら、レオンが振り返るとそこには、ミュラーがいた。
「貴様ぁあぁ……」
 ミュラーが乱暴にランスを引き抜くと、糸が切れた人形のようにレオンが地面に倒れ伏す。
 それをゴミのようにミュラーは蹴飛ばした。
 レオンは口から血を流しながら、忌々しそうに、白髪のエルフに無念の言葉を投げかけた。
「……何故貴様が……こいつらの……」
 すると、白髪のエルフはその身体を変形させ、長躯の赤髪の青年へと変貌する。

 ジラールだ。
 ハーミットを向けていた。

 レオンはこの時になってやっと理解した。
 変化の魔法でしてやられたこと。
 そして恨みがましく、言葉をぶつけた。
「……殺すぞ……。クズどもめ……俺の……計画が……」
「死ぬのテメーだ」
 ジラールがそう呟くと、同時にハーミットの凶弾がレオンの額に風穴を開けた。
 顔から鮮血を吹き出し、レオンは物言わぬ骸と化す。
 ミュラーがジラールに話しかける。
「傷は大丈夫か?」
「死にかけてるところを、デルヴォーが助けてくれた。まだ痛みはあるけどな」
 二人はふっと互いに笑い。船内へと足を向けた。

 船室の奥では老人が死にかけていた。
 すぐにミュラーが複体修術で傷を癒すが、体力がもうすでにない。
 虫の息であった。
 老人が息も絶え絶えになりながら、ジラールに声をかける。
「……ジラール、短刀をよこせ……。今、魔法陣を解術してやる……」
 ジラールが狼狽えながら短刀を老人に見せる。
 老人はニヤリと笑い、魔法式を発動させた。
「……やれやれ……。ワシもヤキが回ったもんじや……。我が身かわいさで仲間を売った報いかの……」
 狼狽したジラールが叫ぶ。
「ジジイ! もうしゃべるな!! 今助けてやるからよぉ! ミュラー!!」
 ジラールがミュラーに顔を向けると、俯いたミュラーが首を横に振る。
 すると老人がジラールの手を弱々しく握った。
「……いい手になったじゃねぇか……。まだまだ気持ちは半人前だが……いい手になってくれた……。……思えば、お前さん一緒に鍛冶やってる時が一番心が安らいだ……」
 ジラールが泣き叫びながら声をかける。
「やめろ! 喋るな……!!」
 そして老人が優しく微笑み、最後の言葉を放った。
「……文書を……エルドラに……頼んだぞ……」

 そして老人は事切れる。
 ジラールはその骸を強く抱きしめて涙を流した。
 ミュラーは老人の遺言を聞き届け、ジラールの姿を見て固く決意する。

 仇は取る。
 必ずな。

 漢の無念の泣き声が、夜の海に響き渡っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

処理中です...