スライム級の俺がドラゴン級になるまで

燈蒼

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魔王軍

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 見たことのない天井。
 それが俺の目に飛び込んできた。
「目が覚めましたか。大丈夫ですか?」
 俺の感覚が正しければ身体がボロボロで眠っている。
 すでに目は冴えた。だが現状がうまくつかめない。俺はついさっきため息をつこうとしたばっかのはずだが……。
「……ここは……」
「私の家です」
 若い穏やかな男の声。
 寝かせられているベッドの横の机にコップが置かれた。
「えっと……何故……?」
「あなたが森で倒れていたもので。ココアですのでよかったら」
 俺はズキズキ痛む体を起こす。
 首元に鈍い痛みが走り、思わず押さえてしまう。
「大丈夫ですか?」
「えぇ……ココアはありがたく頂きます」
 なんだ? 首筋の痛み。気絶させられた?
 思い出せない。なんかしたのか……されたのか……なにもわからない。記憶はある。魔力はないままだが魔法も使える。
 もしかして魔力の使い過ぎで倒れたのか?
 しかし……体中が筋肉痛とも違う痛みを訴えている。
「すみません、このお礼はどうしたらいいものか……」
「いえいえ、いいんですよ」
 温かいココアに口を付ける。
「あなたがそれを飲んでくれたから」
 男の顔が不敵なものに変わる。
 マズイ、毒か!?
「あなたの神経は今に麻痺し始め、動けなくなり、やがて昏睡状態に陥る。そうなればあなたは私に勝てない。魔法を持っていてもね」
 コイツが俺を気絶させたのか? しかし……ならなんでそのまま俺を殺さなかった?
「……不思議そうですね。確かに、ただ殺すだけなら先ほど倒れているのを見かけたときでよかった。ですが、私は特殊な趣味をしていましてね。あなたの恐怖に満ちたその顔を見たかった」
 別にこいつが俺を気絶させたわけではない……か。
「…………」
 確かに、恐ろしかった。だが……
「俺、動けるんですが」
「??????」
 不気味な笑顔がハテナに歪む。
「…………そうですか。では、さようなら。の、前に、私は魔王軍幹部の者です。いつか、またお会いしましょう」
 ずっと閉じていた瞳は、水色をしていた。
 ……………………結局どこなんだよここ!?


 アイツに仕返せなかったことに俺は気を落としながらスリング・ロフトで取っている宿に足を向ける。
 今俺は適当なバイトをしながら適当に暮らしているのだが、そろそろ刺激が欲しいな。
 魔法研究以外全部適当に過ごしていた。どんなバイトでもあのブラックよりはマシだ。
 そうだ、あの女神に愚痴でも言ってやろうかな。まぁどうやって言うんだという話だが教会とかならあり得ないだろうか。
 この街にはなかなかでかい教会がある。


 朝、優雅に日がかなり出ているような時間に起きた。ほんとブラック時代では考えられない時間だ。
 よし、教会に行こう。

 教会に着き、誰もいないことを確認してから片膝をついて手を組む。
「おい、ルフ、話せるのか?」
「……なんじゃ? 私はあまり暇じゃないんだ」
 頭に声が響く。あまり機嫌が良くなさそうだ。
 ……愚痴はやめておこう。
「正直俺はもっと強い魔法が使えると思っていたんだが。俺は転生者なんだよな? もっと優遇してくれてもいいんじゃないか?」
「何を言っている。前の毒殺だけでも数人死んでいるんだぞ、そんなにぽんぽん与えられるか」
 あまりにももっともすぎる。
「お前が死んでからすでに数千人は死んでいる。そんな人数に与える程のものはない。だがお前には多少の……いや、かなりの才能を与えたし能力値も多少伸ばしている。そもそも転生できるのすらお前だけなんだぞ? それにお前が使っている魔法、それはその世界では限られたものしか使えないし存在も知らない。お前は、運のいいことに隠していたが、人に見せていたらまずいことになっていたぞ」
 本当にただ呆れるような声色でそんな長いことを言った。
 それは確かに優遇されていると言ってもいいのではないか。じゃあもう愚痴なんか言えないな……。
「お前のステータスを調べるといい」
「一か月くらいかけてある程度調べた」
 この作業は実に疲れた。体力測定とかだけならともかく知能もある程度調べた。まぁ座学が苦手な俺ではまともな問題は思い浮かばなかったが。
「……お前は……阿呆じゃな」
 ため息をついてド直球の悪口を言ってくるルフに少しムカつく。殴りかかってやろうか。
「あぁやめておけ。いまの私は精神体だ。攻撃は届かん。そもそもお前が体勢を変えるとつながりも途切れてしまう」
「ナチュラルに俺の心読むなよ」
 普通に怖いから。
「私は今お前の精神に入り込んでいる。心を読むなど容易い」
 …………怖。
「そんな事はいい。ステータスは冒険者ギルドで数秒で測ることができる。そういう魔道具が置いてあるんじゃ。お前の努力は数秒でできることだったんじゃよ」
 ……それ転生前に言ってくれないかな。まぁ鍛えれたしいいんだけどさ。言ってくれたらうれしかったんだけどな。
「そんなこと一番最初に思いつくだろう。単純にお前が阿呆なだけじゃ。じゃが—————」
 手を組むのを辞める。ルフと話していても馬鹿にされるだけだ。何か言おうとしていたがどうせ悪口だ。
 精神体って言われると確かにルフが見えるような見えないような気がしたな。
 よし、冒険者ギルドに行こう。

 冒険者ギルドには場所を尋ねる時間を除いてだが、三分程で着いた。
 このデカいのは冒険者ギルドだったのか。遠目でも分かるがすごいデカい。
 俺の身長と比べるのは無理だ。東京駅と同じくらいのサイズだろう。知らんけど。
 この前に立つとなんだか自分がアリにでもなったような気分になるな。
 中に入ると人がたむろしている。付属した酒場からは酒の匂いや騒ぎ声がここまで届いてきた。
 時間帯かなんかなのか空いていて、並んでいない受付嬢の下へ向かう。
 今の俺は軽装すぎて舐められている。舐めた視線が付きまとっていた。
「いらっしゃいませ! 本日はどのようなご要件で?」
 受付嬢の制服で身を包んだ黒髪に青目の女性、胸元にある名札を見るとアルス・グリファーと書かれている。目では理解できないが、脳では理解ができるのだ。
 読むも書くも聞くも全対応。今のところもらったものの中で一番便利だ。
「ステータス確認がしたいんですけど……」
「ステータスの確認ですね! ではこちらにお手を」
 これがルフの言っていた魔道具か……。
 水晶のような物をカウンターに出した。それに手をかざすと光が放たれ、手に当たると止まる。
 数秒してホログラムのように空気中に表示された。しかし、その値は俺の目にはあまり高く見えないのだが……。
「……平均的ですね。……あまりお勧めはしませんが……冒険者試験が近いので受けるだけ受けるのもいいと思いますよ」
 アルスは遠慮がちに言った。
 平均……か。優遇してこれかよ。ほんとに愚痴ろうかな。
 アルスが笑顔で「死にはしません」と付け足した。
「せっかくなんで受けます」
 そんな心躍ること、やらないわけにはいかない。
「では、ここにお名前と受ける部門をご記入くださいませ」
 アルスは自然な動作で1枚の紙を取り出す。名前の記入欄に自動翻訳された自分の名を記入し、何種類かある部門の中からフリー部門を選択して用紙を渡す。
「えーと、マシロトウヤ様ですね。承りました」
 読む気が沸かない大量の文字を指さしながらこちらに用紙の表を向ける。
「こちらに書いてあります通り、試験は三日後となっております。試験日にこちらのギルドへお越しくださいませ」
 ずっと笑顔を崩さずに対応していたアルスにはどことなく親近感を抱く。
 しかし三日後か。しあさってかささってどっちだっけ。
 いや、そうじゃなくて。近いな。当然試験で魔法を使うことはないだろうから基礎体力と戦闘能力を伸ばせばいいだろう。


 俺は街を出て森に向かう。未だに木に正拳突きを放つと痛いがたまにやりたくなってしまうが、そのたびに傷一つつかずに落胆しているのである。
 日が沈むまで基礎訓練に勤しむ。
 それでも九時までに宿に戻れる。異世界ってのは最高の生活水準だな。
 あまり質がいいとは言えないが十分すぎるベッドに最低限生活が送れるだけの道具が付属している。
 ブラック時代では考えられないような時間に目を覚まして宿から出る。
 しかし、しかしだ。

 体術の特訓だけでは面白くない!

 魔法の特訓をしよう。しかし、最近は少し行き詰まっている。
 まあ別系統を始めてもいいんだがとりあえず火をかなり上達させたい。最低三本の木を貫けるくらいを目指している。
 師匠でも探したいんだが魔法を使える奴は少ないし教えるのもダメなんだよな。
 どっかにいねぇかな……。


 俺はルフの助けを求めて教会に向かいながら同じような思考を繰り返していた。
 教会に入って形だけ祈りを捧げる。
「おい、ルフ。まほ————」
「お前っ! よくも勝手に切りやがったな!」
 脳内にとんでもない音量で響き渡るその声は明らかに怒りが含まれている。
 ルフの心地の良い声でなかったらなかなかにダメージが出ていただろう。昨日勝手に切ったのをよほど怒っているらしい。
「こ、心地の良いって……」
 そういえば心読めるんだったな。
 少し機嫌が良くなったような声が脳内に小さく届く。
「なぁ、俺の周りに魔法を使えるやつとかいないのか?」
「……私がおるではないか」
 どことなく乙女のような甘い声に感じる。
「そうじゃなくてさぁ、いろいろ教えてもらいたいんだよね」
「なるほど……確かに私はひょいひょいと降りられないな。なら、あいつに聞いてみるといい。当然他の者に聞かれてはいかんぞ。お前も知っているだろう。青目に黒髪の女。あいつならいいことを教えてくれる」
 青目に黒髪の女。俺が見た中でその特徴を持っているのは、あの受付嬢か。なかなかの美人なんだが、魔法まで使えるのかよ。
 顔面偏差値ってのは残酷だな。
「あれ? ルフさんまた真白さんと話してるの?」
 ルフよりも大人びた雰囲気のある声だ。
「あ゙? なんだウストラ。こんなとこで野次飛ばしてないで働け」
「最近下界覗いてる時もずっと真白さんのこと見てるもんね。…………もしかして、恋?」
 ルフが黙り込んでしまった。
 というかこれって思念伝達的なやつじゃないのか。他の人……あぁ、女神か。他の女神の声も届くんだな。電話みたいなものか?
「……な、なななななななわけないだろ! わわ、私がこんな下民のことを好きになるわけが……」
 あれ、これ、照れてる?
「ふ、ふん……ウストラはどっか行ってろ! お前も早く切れよ! お前とは話したくない!」
 ……こんなことでへそを曲げる女神って……なんか可愛いじゃないか。
「か!?? かわいいっ!? うくくくく……」
 女神にしては反応が分かり易すぎる。初心なんだろう。
 悩殺ボイスが耳に届く。ずっと聞いていたくなる声だ。……嘘じゃない。
「……恋なんてしたことないんだ。…………と、とにかく、私の初恋はお前なんかにやれるものじゃない。期待するな」
 平常心を取り戻してしまったらしい。もう少し聞いていたかった。
 いつの間にやらウストラとやらはいなくなってしまったらしい。もっとやってほしかった。
「黙れ。とにかく、行ってこい。……私は1人になりたい」
 …………仕方ない。行くか。
 名残惜しいが手を崩して立ち上がる。
 教会を出るのにも少し時間がかかるんだよな……。
 教会の外までよりよっぽど遠いあの馬鹿でかい建物に向かうか。
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