10 / 12
魔王軍
しおりを挟む
見たことのない天井。
それが俺の目に飛び込んできた。
「目が覚めましたか。大丈夫ですか?」
俺の感覚が正しければ身体がボロボロで眠っている。
すでに目は冴えた。だが現状がうまくつかめない。俺はついさっきため息をつこうとしたばっかのはずだが……。
「……ここは……」
「私の家です」
若い穏やかな男の声。
寝かせられているベッドの横の机にコップが置かれた。
「えっと……何故……?」
「あなたが森で倒れていたもので。ココアですのでよかったら」
俺はズキズキ痛む体を起こす。
首元に鈍い痛みが走り、思わず押さえてしまう。
「大丈夫ですか?」
「えぇ……ココアはありがたく頂きます」
なんだ? 首筋の痛み。気絶させられた?
思い出せない。なんかしたのか……されたのか……なにもわからない。記憶はある。魔力はないままだが魔法も使える。
もしかして魔力の使い過ぎで倒れたのか?
しかし……体中が筋肉痛とも違う痛みを訴えている。
「すみません、このお礼はどうしたらいいものか……」
「いえいえ、いいんですよ」
温かいココアに口を付ける。
「あなたがそれを飲んでくれたから」
男の顔が不敵なものに変わる。
マズイ、毒か!?
「あなたの神経は今に麻痺し始め、動けなくなり、やがて昏睡状態に陥る。そうなればあなたは私に勝てない。魔法を持っていてもね」
コイツが俺を気絶させたのか? しかし……ならなんでそのまま俺を殺さなかった?
「……不思議そうですね。確かに、ただ殺すだけなら先ほど倒れているのを見かけたときでよかった。ですが、私は特殊な趣味をしていましてね。あなたの恐怖に満ちたその顔を見たかった」
別にこいつが俺を気絶させたわけではない……か。
「…………」
確かに、恐ろしかった。だが……
「俺、動けるんですが」
「??????」
不気味な笑顔がハテナに歪む。
「…………そうですか。では、さようなら。の、前に、私は魔王軍幹部の者です。いつか、またお会いしましょう」
ずっと閉じていた瞳は、水色をしていた。
……………………結局どこなんだよここ!?
アイツに仕返せなかったことに俺は気を落としながらスリング・ロフトで取っている宿に足を向ける。
今俺は適当なバイトをしながら適当に暮らしているのだが、そろそろ刺激が欲しいな。
魔法研究以外全部適当に過ごしていた。どんなバイトでもあのブラックよりはマシだ。
そうだ、あの女神に愚痴でも言ってやろうかな。まぁどうやって言うんだという話だが教会とかならあり得ないだろうか。
この街にはなかなかでかい教会がある。
朝、優雅に日がかなり出ているような時間に起きた。ほんとブラック時代では考えられない時間だ。
よし、教会に行こう。
教会に着き、誰もいないことを確認してから片膝をついて手を組む。
「おい、ルフ、話せるのか?」
「……なんじゃ? 私はあまり暇じゃないんだ」
頭に声が響く。あまり機嫌が良くなさそうだ。
……愚痴はやめておこう。
「正直俺はもっと強い魔法が使えると思っていたんだが。俺は転生者なんだよな? もっと優遇してくれてもいいんじゃないか?」
「何を言っている。前の毒殺だけでも数人死んでいるんだぞ、そんなにぽんぽん与えられるか」
あまりにももっともすぎる。
「お前が死んでからすでに数千人は死んでいる。そんな人数に与える程のものはない。だがお前には多少の……いや、かなりの才能を与えたし能力値も多少伸ばしている。そもそも転生できるのすらお前だけなんだぞ? それにお前が使っている魔法、それはその世界では限られたものしか使えないし存在も知らない。お前は、運のいいことに隠していたが、人に見せていたらまずいことになっていたぞ」
本当にただ呆れるような声色でそんな長いことを言った。
それは確かに優遇されていると言ってもいいのではないか。じゃあもう愚痴なんか言えないな……。
「お前のステータスを調べるといい」
「一か月くらいかけてある程度調べた」
この作業は実に疲れた。体力測定とかだけならともかく知能もある程度調べた。まぁ座学が苦手な俺ではまともな問題は思い浮かばなかったが。
「……お前は……阿呆じゃな」
ため息をついてド直球の悪口を言ってくるルフに少しムカつく。殴りかかってやろうか。
「あぁやめておけ。いまの私は精神体だ。攻撃は届かん。そもそもお前が体勢を変えるとつながりも途切れてしまう」
「ナチュラルに俺の心読むなよ」
普通に怖いから。
「私は今お前の精神に入り込んでいる。心を読むなど容易い」
…………怖。
「そんな事はいい。ステータスは冒険者ギルドで数秒で測ることができる。そういう魔道具が置いてあるんじゃ。お前の努力は数秒でできることだったんじゃよ」
……それ転生前に言ってくれないかな。まぁ鍛えれたしいいんだけどさ。言ってくれたらうれしかったんだけどな。
「そんなこと一番最初に思いつくだろう。単純にお前が阿呆なだけじゃ。じゃが—————」
手を組むのを辞める。ルフと話していても馬鹿にされるだけだ。何か言おうとしていたがどうせ悪口だ。
精神体って言われると確かにルフが見えるような見えないような気がしたな。
よし、冒険者ギルドに行こう。
冒険者ギルドには場所を尋ねる時間を除いてだが、三分程で着いた。
このデカいのは冒険者ギルドだったのか。遠目でも分かるがすごいデカい。
俺の身長と比べるのは無理だ。東京駅と同じくらいのサイズだろう。知らんけど。
この前に立つとなんだか自分がアリにでもなったような気分になるな。
中に入ると人がたむろしている。付属した酒場からは酒の匂いや騒ぎ声がここまで届いてきた。
時間帯かなんかなのか空いていて、並んでいない受付嬢の下へ向かう。
今の俺は軽装すぎて舐められている。舐めた視線が付きまとっていた。
「いらっしゃいませ! 本日はどのようなご要件で?」
受付嬢の制服で身を包んだ黒髪に青目の女性、胸元にある名札を見るとアルス・グリファーと書かれている。目では理解できないが、脳では理解ができるのだ。
読むも書くも聞くも全対応。今のところもらったものの中で一番便利だ。
「ステータス確認がしたいんですけど……」
「ステータスの確認ですね! ではこちらにお手を」
これがルフの言っていた魔道具か……。
水晶のような物をカウンターに出した。それに手をかざすと光が放たれ、手に当たると止まる。
数秒してホログラムのように空気中に表示された。しかし、その値は俺の目にはあまり高く見えないのだが……。
「……平均的ですね。……あまりお勧めはしませんが……冒険者試験が近いので受けるだけ受けるのもいいと思いますよ」
アルスは遠慮がちに言った。
平均……か。優遇してこれかよ。ほんとに愚痴ろうかな。
アルスが笑顔で「死にはしません」と付け足した。
「せっかくなんで受けます」
そんな心躍ること、やらないわけにはいかない。
「では、ここにお名前と受ける部門をご記入くださいませ」
アルスは自然な動作で1枚の紙を取り出す。名前の記入欄に自動翻訳された自分の名を記入し、何種類かある部門の中からフリー部門を選択して用紙を渡す。
「えーと、マシロトウヤ様ですね。承りました」
読む気が沸かない大量の文字を指さしながらこちらに用紙の表を向ける。
「こちらに書いてあります通り、試験は三日後となっております。試験日にこちらのギルドへお越しくださいませ」
ずっと笑顔を崩さずに対応していたアルスにはどことなく親近感を抱く。
しかし三日後か。しあさってかささってどっちだっけ。
いや、そうじゃなくて。近いな。当然試験で魔法を使うことはないだろうから基礎体力と戦闘能力を伸ばせばいいだろう。
俺は街を出て森に向かう。未だに木に正拳突きを放つと痛いがたまにやりたくなってしまうが、そのたびに傷一つつかずに落胆しているのである。
日が沈むまで基礎訓練に勤しむ。
それでも九時までに宿に戻れる。異世界ってのは最高の生活水準だな。
あまり質がいいとは言えないが十分すぎるベッドに最低限生活が送れるだけの道具が付属している。
ブラック時代では考えられないような時間に目を覚まして宿から出る。
しかし、しかしだ。
体術の特訓だけでは面白くない!
魔法の特訓をしよう。しかし、最近は少し行き詰まっている。
まあ別系統を始めてもいいんだがとりあえず火をかなり上達させたい。最低三本の木を貫けるくらいを目指している。
師匠でも探したいんだが魔法を使える奴は少ないし教えるのもダメなんだよな。
どっかにいねぇかな……。
俺はルフの助けを求めて教会に向かいながら同じような思考を繰り返していた。
教会に入って形だけ祈りを捧げる。
「おい、ルフ。まほ————」
「お前っ! よくも勝手に切りやがったな!」
脳内にとんでもない音量で響き渡るその声は明らかに怒りが含まれている。
ルフの心地の良い声でなかったらなかなかにダメージが出ていただろう。昨日勝手に切ったのをよほど怒っているらしい。
「こ、心地の良いって……」
そういえば心読めるんだったな。
少し機嫌が良くなったような声が脳内に小さく届く。
「なぁ、俺の周りに魔法を使えるやつとかいないのか?」
「……私がおるではないか」
どことなく乙女のような甘い声に感じる。
「そうじゃなくてさぁ、いろいろ教えてもらいたいんだよね」
「なるほど……確かに私はひょいひょいと降りられないな。なら、あいつに聞いてみるといい。当然他の者に聞かれてはいかんぞ。お前も知っているだろう。青目に黒髪の女。あいつならいいことを教えてくれる」
青目に黒髪の女。俺が見た中でその特徴を持っているのは、あの受付嬢か。なかなかの美人なんだが、魔法まで使えるのかよ。
顔面偏差値ってのは残酷だな。
「あれ? ルフさんまた真白さんと話してるの?」
ルフよりも大人びた雰囲気のある声だ。
「あ゙? なんだウストラ。こんなとこで野次飛ばしてないで働け」
「最近下界覗いてる時もずっと真白さんのこと見てるもんね。…………もしかして、恋?」
ルフが黙り込んでしまった。
というかこれって思念伝達的なやつじゃないのか。他の人……あぁ、女神か。他の女神の声も届くんだな。電話みたいなものか?
「……な、なななななななわけないだろ! わわ、私がこんな下民のことを好きになるわけが……」
あれ、これ、照れてる?
「ふ、ふん……ウストラはどっか行ってろ! お前も早く切れよ! お前とは話したくない!」
……こんなことでへそを曲げる女神って……なんか可愛いじゃないか。
「か!?? かわいいっ!? うくくくく……」
女神にしては反応が分かり易すぎる。初心なんだろう。
悩殺ボイスが耳に届く。ずっと聞いていたくなる声だ。……嘘じゃない。
「……恋なんてしたことないんだ。…………と、とにかく、私の初恋はお前なんかにやれるものじゃない。期待するな」
平常心を取り戻してしまったらしい。もう少し聞いていたかった。
いつの間にやらウストラとやらはいなくなってしまったらしい。もっとやってほしかった。
「黙れ。とにかく、行ってこい。……私は1人になりたい」
…………仕方ない。行くか。
名残惜しいが手を崩して立ち上がる。
教会を出るのにも少し時間がかかるんだよな……。
教会の外までよりよっぽど遠いあの馬鹿でかい建物に向かうか。
それが俺の目に飛び込んできた。
「目が覚めましたか。大丈夫ですか?」
俺の感覚が正しければ身体がボロボロで眠っている。
すでに目は冴えた。だが現状がうまくつかめない。俺はついさっきため息をつこうとしたばっかのはずだが……。
「……ここは……」
「私の家です」
若い穏やかな男の声。
寝かせられているベッドの横の机にコップが置かれた。
「えっと……何故……?」
「あなたが森で倒れていたもので。ココアですのでよかったら」
俺はズキズキ痛む体を起こす。
首元に鈍い痛みが走り、思わず押さえてしまう。
「大丈夫ですか?」
「えぇ……ココアはありがたく頂きます」
なんだ? 首筋の痛み。気絶させられた?
思い出せない。なんかしたのか……されたのか……なにもわからない。記憶はある。魔力はないままだが魔法も使える。
もしかして魔力の使い過ぎで倒れたのか?
しかし……体中が筋肉痛とも違う痛みを訴えている。
「すみません、このお礼はどうしたらいいものか……」
「いえいえ、いいんですよ」
温かいココアに口を付ける。
「あなたがそれを飲んでくれたから」
男の顔が不敵なものに変わる。
マズイ、毒か!?
「あなたの神経は今に麻痺し始め、動けなくなり、やがて昏睡状態に陥る。そうなればあなたは私に勝てない。魔法を持っていてもね」
コイツが俺を気絶させたのか? しかし……ならなんでそのまま俺を殺さなかった?
「……不思議そうですね。確かに、ただ殺すだけなら先ほど倒れているのを見かけたときでよかった。ですが、私は特殊な趣味をしていましてね。あなたの恐怖に満ちたその顔を見たかった」
別にこいつが俺を気絶させたわけではない……か。
「…………」
確かに、恐ろしかった。だが……
「俺、動けるんですが」
「??????」
不気味な笑顔がハテナに歪む。
「…………そうですか。では、さようなら。の、前に、私は魔王軍幹部の者です。いつか、またお会いしましょう」
ずっと閉じていた瞳は、水色をしていた。
……………………結局どこなんだよここ!?
アイツに仕返せなかったことに俺は気を落としながらスリング・ロフトで取っている宿に足を向ける。
今俺は適当なバイトをしながら適当に暮らしているのだが、そろそろ刺激が欲しいな。
魔法研究以外全部適当に過ごしていた。どんなバイトでもあのブラックよりはマシだ。
そうだ、あの女神に愚痴でも言ってやろうかな。まぁどうやって言うんだという話だが教会とかならあり得ないだろうか。
この街にはなかなかでかい教会がある。
朝、優雅に日がかなり出ているような時間に起きた。ほんとブラック時代では考えられない時間だ。
よし、教会に行こう。
教会に着き、誰もいないことを確認してから片膝をついて手を組む。
「おい、ルフ、話せるのか?」
「……なんじゃ? 私はあまり暇じゃないんだ」
頭に声が響く。あまり機嫌が良くなさそうだ。
……愚痴はやめておこう。
「正直俺はもっと強い魔法が使えると思っていたんだが。俺は転生者なんだよな? もっと優遇してくれてもいいんじゃないか?」
「何を言っている。前の毒殺だけでも数人死んでいるんだぞ、そんなにぽんぽん与えられるか」
あまりにももっともすぎる。
「お前が死んでからすでに数千人は死んでいる。そんな人数に与える程のものはない。だがお前には多少の……いや、かなりの才能を与えたし能力値も多少伸ばしている。そもそも転生できるのすらお前だけなんだぞ? それにお前が使っている魔法、それはその世界では限られたものしか使えないし存在も知らない。お前は、運のいいことに隠していたが、人に見せていたらまずいことになっていたぞ」
本当にただ呆れるような声色でそんな長いことを言った。
それは確かに優遇されていると言ってもいいのではないか。じゃあもう愚痴なんか言えないな……。
「お前のステータスを調べるといい」
「一か月くらいかけてある程度調べた」
この作業は実に疲れた。体力測定とかだけならともかく知能もある程度調べた。まぁ座学が苦手な俺ではまともな問題は思い浮かばなかったが。
「……お前は……阿呆じゃな」
ため息をついてド直球の悪口を言ってくるルフに少しムカつく。殴りかかってやろうか。
「あぁやめておけ。いまの私は精神体だ。攻撃は届かん。そもそもお前が体勢を変えるとつながりも途切れてしまう」
「ナチュラルに俺の心読むなよ」
普通に怖いから。
「私は今お前の精神に入り込んでいる。心を読むなど容易い」
…………怖。
「そんな事はいい。ステータスは冒険者ギルドで数秒で測ることができる。そういう魔道具が置いてあるんじゃ。お前の努力は数秒でできることだったんじゃよ」
……それ転生前に言ってくれないかな。まぁ鍛えれたしいいんだけどさ。言ってくれたらうれしかったんだけどな。
「そんなこと一番最初に思いつくだろう。単純にお前が阿呆なだけじゃ。じゃが—————」
手を組むのを辞める。ルフと話していても馬鹿にされるだけだ。何か言おうとしていたがどうせ悪口だ。
精神体って言われると確かにルフが見えるような見えないような気がしたな。
よし、冒険者ギルドに行こう。
冒険者ギルドには場所を尋ねる時間を除いてだが、三分程で着いた。
このデカいのは冒険者ギルドだったのか。遠目でも分かるがすごいデカい。
俺の身長と比べるのは無理だ。東京駅と同じくらいのサイズだろう。知らんけど。
この前に立つとなんだか自分がアリにでもなったような気分になるな。
中に入ると人がたむろしている。付属した酒場からは酒の匂いや騒ぎ声がここまで届いてきた。
時間帯かなんかなのか空いていて、並んでいない受付嬢の下へ向かう。
今の俺は軽装すぎて舐められている。舐めた視線が付きまとっていた。
「いらっしゃいませ! 本日はどのようなご要件で?」
受付嬢の制服で身を包んだ黒髪に青目の女性、胸元にある名札を見るとアルス・グリファーと書かれている。目では理解できないが、脳では理解ができるのだ。
読むも書くも聞くも全対応。今のところもらったものの中で一番便利だ。
「ステータス確認がしたいんですけど……」
「ステータスの確認ですね! ではこちらにお手を」
これがルフの言っていた魔道具か……。
水晶のような物をカウンターに出した。それに手をかざすと光が放たれ、手に当たると止まる。
数秒してホログラムのように空気中に表示された。しかし、その値は俺の目にはあまり高く見えないのだが……。
「……平均的ですね。……あまりお勧めはしませんが……冒険者試験が近いので受けるだけ受けるのもいいと思いますよ」
アルスは遠慮がちに言った。
平均……か。優遇してこれかよ。ほんとに愚痴ろうかな。
アルスが笑顔で「死にはしません」と付け足した。
「せっかくなんで受けます」
そんな心躍ること、やらないわけにはいかない。
「では、ここにお名前と受ける部門をご記入くださいませ」
アルスは自然な動作で1枚の紙を取り出す。名前の記入欄に自動翻訳された自分の名を記入し、何種類かある部門の中からフリー部門を選択して用紙を渡す。
「えーと、マシロトウヤ様ですね。承りました」
読む気が沸かない大量の文字を指さしながらこちらに用紙の表を向ける。
「こちらに書いてあります通り、試験は三日後となっております。試験日にこちらのギルドへお越しくださいませ」
ずっと笑顔を崩さずに対応していたアルスにはどことなく親近感を抱く。
しかし三日後か。しあさってかささってどっちだっけ。
いや、そうじゃなくて。近いな。当然試験で魔法を使うことはないだろうから基礎体力と戦闘能力を伸ばせばいいだろう。
俺は街を出て森に向かう。未だに木に正拳突きを放つと痛いがたまにやりたくなってしまうが、そのたびに傷一つつかずに落胆しているのである。
日が沈むまで基礎訓練に勤しむ。
それでも九時までに宿に戻れる。異世界ってのは最高の生活水準だな。
あまり質がいいとは言えないが十分すぎるベッドに最低限生活が送れるだけの道具が付属している。
ブラック時代では考えられないような時間に目を覚まして宿から出る。
しかし、しかしだ。
体術の特訓だけでは面白くない!
魔法の特訓をしよう。しかし、最近は少し行き詰まっている。
まあ別系統を始めてもいいんだがとりあえず火をかなり上達させたい。最低三本の木を貫けるくらいを目指している。
師匠でも探したいんだが魔法を使える奴は少ないし教えるのもダメなんだよな。
どっかにいねぇかな……。
俺はルフの助けを求めて教会に向かいながら同じような思考を繰り返していた。
教会に入って形だけ祈りを捧げる。
「おい、ルフ。まほ————」
「お前っ! よくも勝手に切りやがったな!」
脳内にとんでもない音量で響き渡るその声は明らかに怒りが含まれている。
ルフの心地の良い声でなかったらなかなかにダメージが出ていただろう。昨日勝手に切ったのをよほど怒っているらしい。
「こ、心地の良いって……」
そういえば心読めるんだったな。
少し機嫌が良くなったような声が脳内に小さく届く。
「なぁ、俺の周りに魔法を使えるやつとかいないのか?」
「……私がおるではないか」
どことなく乙女のような甘い声に感じる。
「そうじゃなくてさぁ、いろいろ教えてもらいたいんだよね」
「なるほど……確かに私はひょいひょいと降りられないな。なら、あいつに聞いてみるといい。当然他の者に聞かれてはいかんぞ。お前も知っているだろう。青目に黒髪の女。あいつならいいことを教えてくれる」
青目に黒髪の女。俺が見た中でその特徴を持っているのは、あの受付嬢か。なかなかの美人なんだが、魔法まで使えるのかよ。
顔面偏差値ってのは残酷だな。
「あれ? ルフさんまた真白さんと話してるの?」
ルフよりも大人びた雰囲気のある声だ。
「あ゙? なんだウストラ。こんなとこで野次飛ばしてないで働け」
「最近下界覗いてる時もずっと真白さんのこと見てるもんね。…………もしかして、恋?」
ルフが黙り込んでしまった。
というかこれって思念伝達的なやつじゃないのか。他の人……あぁ、女神か。他の女神の声も届くんだな。電話みたいなものか?
「……な、なななななななわけないだろ! わわ、私がこんな下民のことを好きになるわけが……」
あれ、これ、照れてる?
「ふ、ふん……ウストラはどっか行ってろ! お前も早く切れよ! お前とは話したくない!」
……こんなことでへそを曲げる女神って……なんか可愛いじゃないか。
「か!?? かわいいっ!? うくくくく……」
女神にしては反応が分かり易すぎる。初心なんだろう。
悩殺ボイスが耳に届く。ずっと聞いていたくなる声だ。……嘘じゃない。
「……恋なんてしたことないんだ。…………と、とにかく、私の初恋はお前なんかにやれるものじゃない。期待するな」
平常心を取り戻してしまったらしい。もう少し聞いていたかった。
いつの間にやらウストラとやらはいなくなってしまったらしい。もっとやってほしかった。
「黙れ。とにかく、行ってこい。……私は1人になりたい」
…………仕方ない。行くか。
名残惜しいが手を崩して立ち上がる。
教会を出るのにも少し時間がかかるんだよな……。
教会の外までよりよっぽど遠いあの馬鹿でかい建物に向かうか。
0
あなたにおすすめの小説
リヴァイヴ・ヒーロー ~異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる~
灰色キャット
ファンタジー
「君に今の時代に生まれ変わって欲しいんだ」
魔物の王を討伐した古き英雄グレリア・ファルトは死後、突然白い世界に呼び出され、神にそう言われてしまった。
彼は生まれ変わるという言葉に孫の言葉を思い出し、新しい人生を生きることを決意した。
遥か昔に生きていた世界がどう変わっているか、発展しているか期待をしながら700年後の時代に転生した彼を待ち受けていたのは……『英雄召喚』と呼ばれる魔法でやってきた異世界人の手によって破壊され発展した――変貌した世界だった。
歴史すら捻じ曲げられた世界で、グレリアは何を求め、知り……世界を生きるのだろうか?
己の心のままに生き、今を知るために、彼は再び歴史を紡ぐ。
そして……主人公はもう一人――『勇者』、『英雄』の定義すら薄くなった世界でそれらに憧れ、近づきたいと願う少年、セイル・シルドニアは学園での入学試験で一人の男と出会う。
そのことをきっかけにしてセイルは本当の意味で『勇者』というものを考え、『英雄』と呼ばれる存在になるためにもがき、苦しむことになるだろう。
例えどんな困難な道であっても、光が照らす道へと……己の力で進むと誓った、その限りを尽くして。
過去の英雄と現代の英雄(の卵)が交差し、歴史を作る!
異世界転生型アンチ異世界転生ファンタジー、ここに開幕!
――なろう・カクヨムでも連載中――
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
没落貴族は最果ての港で夢を見る〜政敵の公爵令嬢と手を組み、忘れられた航路を拓いて帝国の海を制覇する〜
namisan
ファンタジー
日本の海運会社に勤めていた男は、事故死し、異世界の没落貴族の三男ミナト・アークライトとして転生した。
かつては王国の海運業を牛耳ったアークライト家も、今や政争に敗れた見る影もない存在。ミナト自身も、厄介払い同然に、寂れた港町「アルトマール」へ名ばかりの代官として追いやられていた。
無気力な日々を過ごしていたある日、前世の海運知識と経験が完全に覚醒する。ミナトは気づいた。魔物が蔓延り、誰もが見捨てたこの港こそ、アークライト家再興の礎となる「宝の山」であると。
前世の知識と、この世界で得た風を読む魔法「風詠み」を武器に、家の再興を決意したミナト。しかし、その矢先、彼の前に最大の障害が現れる。
アークライト家を没落させた政敵、ルクスブルク公爵家の令嬢セラフィーナ。彼女は王命を受け、価値の失われた港を閉鎖するため、監察官としてアルトマールに乗り込んできたのだ。
「このような非効率な施設は、速やかに閉鎖すべきですわ」
家の再興を賭けて港を再生させたい没落貴族と、王国の未来のために港を閉鎖したいエリート令嬢。
立場も思想も水と油の二人が、互いの野望のために手を組むとき、帝国の経済、そして世界の物流は、歴史的な転換点を迎えることになる。
これは、一人の男が知識と魔法で巨大な船団を組織し、帝国の海を制覇するまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる