スライム級の俺がドラゴン級になるまで

燈蒼

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試験開始

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「起きろっ!」
「ぐほぉっ」
 いつかのルフを想起させる腹への衝撃。今回は蹴りではなく肘打ちだったらしい。
「てぇんめなにする!」
 飛び起きて拳を固める。
「おっ、結構本気で殴ったんだがなぁ」
 飛び起きる気力があるとは、と感心したように頷いている。
「本気で殴んなよ!」
 ムカつく野郎だ。
「声をかけても起きないんだから仕方ないだろ。感謝してくれてもいいんだぜ。……二次試験が始まる」
 寝過ごすとこだったってことか……。それならまぁ、許せなくもない。
 本当に本気で殴る必要があったのかは甚だ疑問だがな。
「これより、冒険者試験第二次を開始する」
 落ち着いた知性的な男性の声が響く。大きくはないが声の通りが非常にいい声だ。
「第二次試験の内容は忍耐力だ」
 乗ってきたのか後ろに置かれていた馬車から何かしらの道具を取り出してくる。
 見たところラジオのようだが、多分この世界にラジオなんてものはない。
「君たちはこれからこの魔道具から流れる音楽が百周するまで眠ってはいけない。この音楽には催眠作用がある。魔道具を介しているため少し作用は弱まっているが一般人なら二周も聞けば眠るほどのものだ」
 おいおい、今のところ一切体力使っちゃいないぞ。
「そして、会話は禁止だ。耳を塞ぐのもなし。ただ一人で音楽を遮ることなく百周し、一度も眠らないことが合格条件。体に傷をつけて眠気を覚ますなんてのもありだ。とにかく一人で集中して百周聞くこと」
 …………はっ舐めてやがんな。
 カフェインゼロ四徹の底力見せてやんよ。


 試験が開始された。
 既に一時間経過していて、二十周を迎えた。つまり三分で一周ということだな。
 あと四時間。ほんとにそんだけでいいのか?
 簡単すぎやしないだろうか。
 暇だしバレない程度に魔法の練習でもしようか。……やめとくか……。
 下手なことしてもな。音楽に集中してないといけないんだろ? 集中してるかなんて試験官の主観だ。こっちの実情なんか構いやしない。
 この音楽も確かに催眠作用があるのだろうが毎日しっかり眠れている俺からするとなんてことはない。
 周りの奴らはよっぽど睡眠不足らしい。
 今気がついたが、この曲完全に一周三分だ。超有能タイマーだな。ついでに心も落ち着く。
 こういうときに暇を潰せるもんでも持っておくべきだったな。
 あー暇だー。
 暇なのは嬉しいが本当にやれることがない。
 周りを見渡せば寝てんじゃないかと疑う程表情を笑顔から全く変えないイケメンがいた。
 主張しすぎない金髪に傷一つないが見ただけでもかなりの実力だと分かる覚悟の決まった顔に鍛え上げられた肉体。暇も眠気も意に介さない無料の笑顔。
 こういうイケメンに限って性格も良かったりするんだよな。ムカつく。
 そもそも何だよ、こんな状況で笑ってるって。
 今が試験じゃなくて曲が流れてなかったら嫌味の七つでも言ってやったんだがな。

 うぅむ。あっちには美人さんだな。
 あくまで人間の範疇でだがな。女神であるルフの方がかわいい。それに俺にはもっと良い人がいるから。……あぁ……いた、だな。
 厄介なこった。忘れられない記憶ってのは。
 アルスも人間なのか怪しいほどにはかわいい。
 ……俺の周りの顔面偏差値インフレし過ぎでは? そういえば前世も割とそうだった。
 そんなことされたらおれのフツメン度合いが際立つじゃないか。やめてくれ。

 ……ちょっとまて……あれ小学生じゃないか?
 一番拉致されそうな年齢の女子小学生にしか見えん。
 よく起きてんな。今ごろ寝顔を見せていてもおかしくない。むしろ起きてる方がおかしい気がするんだが……。
 確かこっちの世界にも学校はあったはずだ。小中一貫の義務でもないやつが。
 本当に大丈夫なんだろうかね。死ぬことはないだろうとかアルスが言っていたが危険なことには変わりないだろうに。
 よくよく見てみれば完全に表情が死んでやがる。コイツの家系は殺し屋一家かなんかなのか。
 これは明らかに天然物ではない。そう教育されていると考えないとおかしいほど読めない表情がそう訴えているような、救いを求めるような顔で虚空を見ている。曲が聞こえているのかすら怪しい。

 「…………!?」

 感情もハイライトもない白い目がこちらに向いた気がした。その途端とてつもない圧を受ける。
 思わず数メートル後ろに飛び退くところだった。
 ……これが……小学生…………? そんなわけないだろ。
 ほんの少し、首をこちらにずらしただけだ。本当にこちらをただ向いただけ。……そのはずだ。しかし、圧が同じ人間のものであるとは思えなかった。
 曲に注意を戻す。深く考えてもあれ以上圧をかけられても試験はめちゃくちゃになるかもしれん。
 知らぬが仏だ。

 あそこの奴は長老みたいな雰囲気があるな。
 こういう奴のほうが俺より魔法使いっぽい。というか魔法無しで活躍できんのか。
 体はそこまで強そうでもないんだがな。
 あれか? 会長的な。
 それにしてもあの年から冒険者試験受けるか? 別にいいんだが体は大事にすべきだ。

 四十周突破。

 あの青年もなんだかんだ眠っていないな。
 何かしら本を読んでいる。恐ろしく分厚い本だ。中身は少ししか見えないが魔物の図鑑か何かに見える。

 あれは露出狂。

 …………え? そんなんで済ませるな?
 でも俺の近くにもっとひどい先輩がいたからなぁ、露出狂には慣れてる。つっても中学のときの話だが。
 まぁ露出狂ってほどでもないと思うんだが、単純に肌の露出が多いだけだ。寒そう。かなり薄い肌色をしているが明日には小麦色になっていそうだな。
 局部に最低限の衣類をまとってそれ以上は何も付けちゃいない。ギリギリ年齢制限がかからない衣装だな。サイズがあんなんだから余計ダメだ。
 ……いや本当にかからないよな? 怪しいぞ。
 見た目だけで童貞を殺せるだろうか。経験こそないが俺には効かん。

 アイツは何かしら絵を描いている。なんだありゃ。魔物か? いや、魔物にすら見えねぇ。すげー下手。
 イカスミパスタを適当にぶちまけてパスタだけを拾ったみたいなハチャメチャな絵をいい年した大人が描いていた。
 これでかわいい女の子なら許せるんだが男なんだからな。かわいげもない。
 あんな絵描いて何が楽しんだか。

 三桁以上いた受験者のうち三十後半が眠ってしまっている。その他に今にも眠りそうなやつが、えーとひーふーみーよー…………次はなんだ。素直に漢数字でいこう。
 一、二、三、四、五………
 十七、か。大体五十がほぼ脱落だな。もともといた人数なんか知らんが適当に言うなら六分の一くらいだろうか。
 まさか四徹経験がこんな訳の分からんタイミングで活きるとはな。感謝はしたくないが報われた気がするぜ。

 ちょっとまて。
 アイツ寝てねぇ。瞑想してるだけだ。この状態で瞑想できんのはかなり肝が据わってるっていうかなんていうか。
 あんなんすぐ寝るな。そもそも瞑想ってなんなんだ。忍耐力が強いなんてレベルじゃないだろ。
 確実に今やることではねえな。あまりにも危険が危ない。すぐ寝てしまいそうだ。

 あーあー暇すぎるったらありゃしねぇ。
 今六十七回。つまり三時間二十一分経過だ。
 計算しやすいだけ優しいってもんかな。

 あっちには年相応の寝顔を見せる小学生らしい男子が、こっちにはだらしのない顔でよだれを垂らしながら横になってる金髪美少女。
 三者三様、最も眠っているのは三人程度ではないが、それぞれが幸せそうな悩みのない寝顔を見せている。
  人の寝顔なんて見てても眠くなるだけだ。この相乗効果はよろしくない。
 せめて起きてるやつを観察すべきだな。今起きてるやつはそれなりの忍耐力を持ってる奴らだ。

 あっちには催眠効果さえありそうな分厚い文字しか書かれていない本を読んでいるいかにもな文学少女がいた。
 あんな本枕にしか使えないだろ。読み終わるのに何年かかることか。
 そもそもあんなん持ってても重いだけじゃないか。
 今更だがこちらにもメガネはあるのだな。店主も執事しか付けないような片方メガネをかけていた。
 片眼鏡は酔うと思うんだ。

 あそこの男も強そうだ。歴戦の風格がある。今更試験を受けるのはよく分からないが体は鍛えられているし未だ元気だ。

 空を指差している人がいた。
 何やら点と点を繋げるような動作を繰り返している。
 もしやこんな昼間に星座でも探しているというのか? 確かに雲は一つとしてないが明るすぎるだろ。
 本当に星を探しているというならもう目がいいなどという次元ではない。もはや視力の問題ではないだろう。
 黒いフードを深く被っている。黒以外の何物でもないローブがほとんど光を反射せず怪しげに風にゆられた。
 顔は見えないが体つきからして女性だろう。
 その足下には何やら黒い表紙の妙に分厚くこれまた枕になりそうな本が置いてあった。
 タイトルは……『天体と大地について』か。論文かよ。
 論文にはいい思い出がない。何度書き直したことか。
 いやそんなことよりも本当に天体観測なのかあれ。さすがに人知を超えすぎた視力だろそら。
 偶然置いてるだけだろう。そんな存在がごろごろといてたまるか。

 八十突破。

 今脱落してんのとしかけなのは合計で七十二。

 あのイケメンが寝てないか期待したんだがそんなことはなかったな。今もなおプライスレススマイルをばらまき続けている。

 イケメンの周り数人の女性が正座して目を輝かせながら少し頬を赤らめて恍惚とした視線を向けている。
 ハハ、ムカついてきたわ。
 しかもみんななかなかに顔がいいじゃねぇか。これが生まれつきの優遇点ということだな
 後で何かしら突っかかろうか。
 ……いや……イケメンだけならまだしも周りの親衛隊が怖すぎるな。なんたって数が多い。
 まぁいいよ。俺にだって惚れてくれる人はいたからな。ここの誰よりもかわいいやつが。
 元気してるかな。死にそうにはなってたが生きててくれるといいんだが。試験終わりにでもルフに聞いてみるか。

 その昔話はいつかにするとして今は置いておこう。

 いかにも役者なイケメンがあっちにいる。こういうイケメンなら全然いいんだよ。俺が苦手なのはさわやかイケメンだ。
 ドラマはそれなりに好きだったしその辺のやつよりは見てる自信がある。
 どれもこれも大学くらいの頃にやってたやつだけどな。社会人になってからテレビを観たのなんてどのくらいだろうか。とてもそんな時間はなかったからな。
 しみじみと思い出にふけっているとその間にも一人、また一人と眠りに落ちていくのが見える。
 二次試験も終盤だ。今のところ睡魔なんてもんは一度たりとも襲ってきちゃいない。あと三十分あの曲を聞いているだけでいいってほんとかよ。
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