4 / 12
試験開始
しおりを挟む
「起きろっ!」
「ぐほぉっ」
いつかのルフを想起させる腹への衝撃。今回は蹴りではなく肘打ちだったらしい。
「てぇんめなにする!」
飛び起きて拳を固める。
「おっ、結構本気で殴ったんだがなぁ」
飛び起きる気力があるとは、と感心したように頷いている。
「本気で殴んなよ!」
ムカつく野郎だ。
「声をかけても起きないんだから仕方ないだろ。感謝してくれてもいいんだぜ。……二次試験が始まる」
寝過ごすとこだったってことか……。それならまぁ、許せなくもない。
本当に本気で殴る必要があったのかは甚だ疑問だがな。
「これより、冒険者試験第二次を開始する」
落ち着いた知性的な男性の声が響く。大きくはないが声の通りが非常にいい声だ。
「第二次試験の内容は忍耐力だ」
乗ってきたのか後ろに置かれていた馬車から何かしらの道具を取り出してくる。
見たところラジオのようだが、多分この世界にラジオなんてものはない。
「君たちはこれからこの魔道具から流れる音楽が百周するまで眠ってはいけない。この音楽には催眠作用がある。魔道具を介しているため少し作用は弱まっているが一般人なら二周も聞けば眠るほどのものだ」
おいおい、今のところ一切体力使っちゃいないぞ。
「そして、会話は禁止だ。耳を塞ぐのもなし。ただ一人で音楽を遮ることなく百周し、一度も眠らないことが合格条件。体に傷をつけて眠気を覚ますなんてのもありだ。とにかく一人で集中して百周聞くこと」
…………はっ舐めてやがんな。
カフェインゼロ四徹の底力見せてやんよ。
試験が開始された。
既に一時間経過していて、二十周を迎えた。つまり三分で一周ということだな。
あと四時間。ほんとにそんだけでいいのか?
簡単すぎやしないだろうか。
暇だしバレない程度に魔法の練習でもしようか。……やめとくか……。
下手なことしてもな。音楽に集中してないといけないんだろ? 集中してるかなんて試験官の主観だ。こっちの実情なんか構いやしない。
この音楽も確かに催眠作用があるのだろうが毎日しっかり眠れている俺からするとなんてことはない。
周りの奴らはよっぽど睡眠不足らしい。
今気がついたが、この曲完全に一周三分だ。超有能タイマーだな。ついでに心も落ち着く。
こういうときに暇を潰せるもんでも持っておくべきだったな。
あー暇だー。
暇なのは嬉しいが本当にやれることがない。
周りを見渡せば寝てんじゃないかと疑う程表情を笑顔から全く変えないイケメンがいた。
主張しすぎない金髪に傷一つないが見ただけでもかなりの実力だと分かる覚悟の決まった顔に鍛え上げられた肉体。暇も眠気も意に介さない無料の笑顔。
こういうイケメンに限って性格も良かったりするんだよな。ムカつく。
そもそも何だよ、こんな状況で笑ってるって。
今が試験じゃなくて曲が流れてなかったら嫌味の七つでも言ってやったんだがな。
うぅむ。あっちには美人さんだな。
あくまで人間の範疇でだがな。女神であるルフの方がかわいい。それに俺にはもっと良い人がいるから。……あぁ……いた、だな。
厄介なこった。忘れられない記憶ってのは。
アルスも人間なのか怪しいほどにはかわいい。
……俺の周りの顔面偏差値インフレし過ぎでは? そういえば前世も割とそうだった。
そんなことされたらおれのフツメン度合いが際立つじゃないか。やめてくれ。
……ちょっとまて……あれ小学生じゃないか?
一番拉致されそうな年齢の女子小学生にしか見えん。
よく起きてんな。今ごろ寝顔を見せていてもおかしくない。むしろ起きてる方がおかしい気がするんだが……。
確かこっちの世界にも学校はあったはずだ。小中一貫の義務でもないやつが。
本当に大丈夫なんだろうかね。死ぬことはないだろうとかアルスが言っていたが危険なことには変わりないだろうに。
よくよく見てみれば完全に表情が死んでやがる。コイツの家系は殺し屋一家かなんかなのか。
これは明らかに天然物ではない。そう教育されていると考えないとおかしいほど読めない表情がそう訴えているような、救いを求めるような顔で虚空を見ている。曲が聞こえているのかすら怪しい。
「…………!?」
感情もハイライトもない白い目がこちらに向いた気がした。その途端とてつもない圧を受ける。
思わず数メートル後ろに飛び退くところだった。
……これが……小学生…………? そんなわけないだろ。
ほんの少し、首をこちらにずらしただけだ。本当にこちらをただ向いただけ。……そのはずだ。しかし、圧が同じ人間のものであるとは思えなかった。
曲に注意を戻す。深く考えてもあれ以上圧をかけられても試験はめちゃくちゃになるかもしれん。
知らぬが仏だ。
あそこの奴は長老みたいな雰囲気があるな。
こういう奴のほうが俺より魔法使いっぽい。というか魔法無しで活躍できんのか。
体はそこまで強そうでもないんだがな。
あれか? 会長的な。
それにしてもあの年から冒険者試験受けるか? 別にいいんだが体は大事にすべきだ。
四十周突破。
あの青年もなんだかんだ眠っていないな。
何かしら本を読んでいる。恐ろしく分厚い本だ。中身は少ししか見えないが魔物の図鑑か何かに見える。
あれは露出狂。
…………え? そんなんで済ませるな?
でも俺の近くにもっとひどい先輩がいたからなぁ、露出狂には慣れてる。つっても中学のときの話だが。
まぁ露出狂ってほどでもないと思うんだが、単純に肌の露出が多いだけだ。寒そう。かなり薄い肌色をしているが明日には小麦色になっていそうだな。
局部に最低限の衣類をまとってそれ以上は何も付けちゃいない。ギリギリ年齢制限がかからない衣装だな。サイズがあんなんだから余計ダメだ。
……いや本当にかからないよな? 怪しいぞ。
見た目だけで童貞を殺せるだろうか。経験こそないが俺には効かん。
アイツは何かしら絵を描いている。なんだありゃ。魔物か? いや、魔物にすら見えねぇ。すげー下手。
イカスミパスタを適当にぶちまけてパスタだけを拾ったみたいなハチャメチャな絵をいい年した大人が描いていた。
これでかわいい女の子なら許せるんだが男なんだからな。かわいげもない。
あんな絵描いて何が楽しんだか。
三桁以上いた受験者のうち三十後半が眠ってしまっている。その他に今にも眠りそうなやつが、えーとひーふーみーよー…………次はなんだ。素直に漢数字でいこう。
一、二、三、四、五………
十七、か。大体五十がほぼ脱落だな。もともといた人数なんか知らんが適当に言うなら六分の一くらいだろうか。
まさか四徹経験がこんな訳の分からんタイミングで活きるとはな。感謝はしたくないが報われた気がするぜ。
ちょっとまて。
アイツ寝てねぇ。瞑想してるだけだ。この状態で瞑想できんのはかなり肝が据わってるっていうかなんていうか。
あんなんすぐ寝るな。そもそも瞑想ってなんなんだ。忍耐力が強いなんてレベルじゃないだろ。
確実に今やることではねえな。あまりにも危険が危ない。すぐ寝てしまいそうだ。
あーあー暇すぎるったらありゃしねぇ。
今六十七回。つまり三時間二十一分経過だ。
計算しやすいだけ優しいってもんかな。
あっちには年相応の寝顔を見せる小学生らしい男子が、こっちにはだらしのない顔でよだれを垂らしながら横になってる金髪美少女。
三者三様、最も眠っているのは三人程度ではないが、それぞれが幸せそうな悩みのない寝顔を見せている。
人の寝顔なんて見てても眠くなるだけだ。この相乗効果はよろしくない。
せめて起きてるやつを観察すべきだな。今起きてるやつはそれなりの忍耐力を持ってる奴らだ。
あっちには催眠効果さえありそうな分厚い文字しか書かれていない本を読んでいるいかにもな文学少女がいた。
あんな本枕にしか使えないだろ。読み終わるのに何年かかることか。
そもそもあんなん持ってても重いだけじゃないか。
今更だがこちらにもメガネはあるのだな。店主も執事しか付けないような片方メガネをかけていた。
片眼鏡は酔うと思うんだ。
あそこの男も強そうだ。歴戦の風格がある。今更試験を受けるのはよく分からないが体は鍛えられているし未だ元気だ。
空を指差している人がいた。
何やら点と点を繋げるような動作を繰り返している。
もしやこんな昼間に星座でも探しているというのか? 確かに雲は一つとしてないが明るすぎるだろ。
本当に星を探しているというならもう目がいいなどという次元ではない。もはや視力の問題ではないだろう。
黒いフードを深く被っている。黒以外の何物でもないローブがほとんど光を反射せず怪しげに風にゆられた。
顔は見えないが体つきからして女性だろう。
その足下には何やら黒い表紙の妙に分厚くこれまた枕になりそうな本が置いてあった。
タイトルは……『天体と大地について』か。論文かよ。
論文にはいい思い出がない。何度書き直したことか。
いやそんなことよりも本当に天体観測なのかあれ。さすがに人知を超えすぎた視力だろそら。
偶然置いてるだけだろう。そんな存在がごろごろといてたまるか。
八十突破。
今脱落してんのとしかけなのは合計で七十二。
あのイケメンが寝てないか期待したんだがそんなことはなかったな。今もなおプライスレススマイルをばらまき続けている。
イケメンの周り数人の女性が正座して目を輝かせながら少し頬を赤らめて恍惚とした視線を向けている。
ハハ、ムカついてきたわ。
しかもみんななかなかに顔がいいじゃねぇか。これが生まれつきの優遇点ということだな
後で何かしら突っかかろうか。
……いや……イケメンだけならまだしも周りの親衛隊が怖すぎるな。なんたって数が多い。
まぁいいよ。俺にだって惚れてくれる人はいたからな。ここの誰よりもかわいいやつが。
元気してるかな。死にそうにはなってたが生きててくれるといいんだが。試験終わりにでもルフに聞いてみるか。
その昔話はいつかにするとして今は置いておこう。
いかにも役者なイケメンがあっちにいる。こういうイケメンなら全然いいんだよ。俺が苦手なのはさわやかイケメンだ。
ドラマはそれなりに好きだったしその辺のやつよりは見てる自信がある。
どれもこれも大学くらいの頃にやってたやつだけどな。社会人になってからテレビを観たのなんてどのくらいだろうか。とてもそんな時間はなかったからな。
しみじみと思い出にふけっているとその間にも一人、また一人と眠りに落ちていくのが見える。
二次試験も終盤だ。今のところ睡魔なんてもんは一度たりとも襲ってきちゃいない。あと三十分あの曲を聞いているだけでいいってほんとかよ。
「ぐほぉっ」
いつかのルフを想起させる腹への衝撃。今回は蹴りではなく肘打ちだったらしい。
「てぇんめなにする!」
飛び起きて拳を固める。
「おっ、結構本気で殴ったんだがなぁ」
飛び起きる気力があるとは、と感心したように頷いている。
「本気で殴んなよ!」
ムカつく野郎だ。
「声をかけても起きないんだから仕方ないだろ。感謝してくれてもいいんだぜ。……二次試験が始まる」
寝過ごすとこだったってことか……。それならまぁ、許せなくもない。
本当に本気で殴る必要があったのかは甚だ疑問だがな。
「これより、冒険者試験第二次を開始する」
落ち着いた知性的な男性の声が響く。大きくはないが声の通りが非常にいい声だ。
「第二次試験の内容は忍耐力だ」
乗ってきたのか後ろに置かれていた馬車から何かしらの道具を取り出してくる。
見たところラジオのようだが、多分この世界にラジオなんてものはない。
「君たちはこれからこの魔道具から流れる音楽が百周するまで眠ってはいけない。この音楽には催眠作用がある。魔道具を介しているため少し作用は弱まっているが一般人なら二周も聞けば眠るほどのものだ」
おいおい、今のところ一切体力使っちゃいないぞ。
「そして、会話は禁止だ。耳を塞ぐのもなし。ただ一人で音楽を遮ることなく百周し、一度も眠らないことが合格条件。体に傷をつけて眠気を覚ますなんてのもありだ。とにかく一人で集中して百周聞くこと」
…………はっ舐めてやがんな。
カフェインゼロ四徹の底力見せてやんよ。
試験が開始された。
既に一時間経過していて、二十周を迎えた。つまり三分で一周ということだな。
あと四時間。ほんとにそんだけでいいのか?
簡単すぎやしないだろうか。
暇だしバレない程度に魔法の練習でもしようか。……やめとくか……。
下手なことしてもな。音楽に集中してないといけないんだろ? 集中してるかなんて試験官の主観だ。こっちの実情なんか構いやしない。
この音楽も確かに催眠作用があるのだろうが毎日しっかり眠れている俺からするとなんてことはない。
周りの奴らはよっぽど睡眠不足らしい。
今気がついたが、この曲完全に一周三分だ。超有能タイマーだな。ついでに心も落ち着く。
こういうときに暇を潰せるもんでも持っておくべきだったな。
あー暇だー。
暇なのは嬉しいが本当にやれることがない。
周りを見渡せば寝てんじゃないかと疑う程表情を笑顔から全く変えないイケメンがいた。
主張しすぎない金髪に傷一つないが見ただけでもかなりの実力だと分かる覚悟の決まった顔に鍛え上げられた肉体。暇も眠気も意に介さない無料の笑顔。
こういうイケメンに限って性格も良かったりするんだよな。ムカつく。
そもそも何だよ、こんな状況で笑ってるって。
今が試験じゃなくて曲が流れてなかったら嫌味の七つでも言ってやったんだがな。
うぅむ。あっちには美人さんだな。
あくまで人間の範疇でだがな。女神であるルフの方がかわいい。それに俺にはもっと良い人がいるから。……あぁ……いた、だな。
厄介なこった。忘れられない記憶ってのは。
アルスも人間なのか怪しいほどにはかわいい。
……俺の周りの顔面偏差値インフレし過ぎでは? そういえば前世も割とそうだった。
そんなことされたらおれのフツメン度合いが際立つじゃないか。やめてくれ。
……ちょっとまて……あれ小学生じゃないか?
一番拉致されそうな年齢の女子小学生にしか見えん。
よく起きてんな。今ごろ寝顔を見せていてもおかしくない。むしろ起きてる方がおかしい気がするんだが……。
確かこっちの世界にも学校はあったはずだ。小中一貫の義務でもないやつが。
本当に大丈夫なんだろうかね。死ぬことはないだろうとかアルスが言っていたが危険なことには変わりないだろうに。
よくよく見てみれば完全に表情が死んでやがる。コイツの家系は殺し屋一家かなんかなのか。
これは明らかに天然物ではない。そう教育されていると考えないとおかしいほど読めない表情がそう訴えているような、救いを求めるような顔で虚空を見ている。曲が聞こえているのかすら怪しい。
「…………!?」
感情もハイライトもない白い目がこちらに向いた気がした。その途端とてつもない圧を受ける。
思わず数メートル後ろに飛び退くところだった。
……これが……小学生…………? そんなわけないだろ。
ほんの少し、首をこちらにずらしただけだ。本当にこちらをただ向いただけ。……そのはずだ。しかし、圧が同じ人間のものであるとは思えなかった。
曲に注意を戻す。深く考えてもあれ以上圧をかけられても試験はめちゃくちゃになるかもしれん。
知らぬが仏だ。
あそこの奴は長老みたいな雰囲気があるな。
こういう奴のほうが俺より魔法使いっぽい。というか魔法無しで活躍できんのか。
体はそこまで強そうでもないんだがな。
あれか? 会長的な。
それにしてもあの年から冒険者試験受けるか? 別にいいんだが体は大事にすべきだ。
四十周突破。
あの青年もなんだかんだ眠っていないな。
何かしら本を読んでいる。恐ろしく分厚い本だ。中身は少ししか見えないが魔物の図鑑か何かに見える。
あれは露出狂。
…………え? そんなんで済ませるな?
でも俺の近くにもっとひどい先輩がいたからなぁ、露出狂には慣れてる。つっても中学のときの話だが。
まぁ露出狂ってほどでもないと思うんだが、単純に肌の露出が多いだけだ。寒そう。かなり薄い肌色をしているが明日には小麦色になっていそうだな。
局部に最低限の衣類をまとってそれ以上は何も付けちゃいない。ギリギリ年齢制限がかからない衣装だな。サイズがあんなんだから余計ダメだ。
……いや本当にかからないよな? 怪しいぞ。
見た目だけで童貞を殺せるだろうか。経験こそないが俺には効かん。
アイツは何かしら絵を描いている。なんだありゃ。魔物か? いや、魔物にすら見えねぇ。すげー下手。
イカスミパスタを適当にぶちまけてパスタだけを拾ったみたいなハチャメチャな絵をいい年した大人が描いていた。
これでかわいい女の子なら許せるんだが男なんだからな。かわいげもない。
あんな絵描いて何が楽しんだか。
三桁以上いた受験者のうち三十後半が眠ってしまっている。その他に今にも眠りそうなやつが、えーとひーふーみーよー…………次はなんだ。素直に漢数字でいこう。
一、二、三、四、五………
十七、か。大体五十がほぼ脱落だな。もともといた人数なんか知らんが適当に言うなら六分の一くらいだろうか。
まさか四徹経験がこんな訳の分からんタイミングで活きるとはな。感謝はしたくないが報われた気がするぜ。
ちょっとまて。
アイツ寝てねぇ。瞑想してるだけだ。この状態で瞑想できんのはかなり肝が据わってるっていうかなんていうか。
あんなんすぐ寝るな。そもそも瞑想ってなんなんだ。忍耐力が強いなんてレベルじゃないだろ。
確実に今やることではねえな。あまりにも危険が危ない。すぐ寝てしまいそうだ。
あーあー暇すぎるったらありゃしねぇ。
今六十七回。つまり三時間二十一分経過だ。
計算しやすいだけ優しいってもんかな。
あっちには年相応の寝顔を見せる小学生らしい男子が、こっちにはだらしのない顔でよだれを垂らしながら横になってる金髪美少女。
三者三様、最も眠っているのは三人程度ではないが、それぞれが幸せそうな悩みのない寝顔を見せている。
人の寝顔なんて見てても眠くなるだけだ。この相乗効果はよろしくない。
せめて起きてるやつを観察すべきだな。今起きてるやつはそれなりの忍耐力を持ってる奴らだ。
あっちには催眠効果さえありそうな分厚い文字しか書かれていない本を読んでいるいかにもな文学少女がいた。
あんな本枕にしか使えないだろ。読み終わるのに何年かかることか。
そもそもあんなん持ってても重いだけじゃないか。
今更だがこちらにもメガネはあるのだな。店主も執事しか付けないような片方メガネをかけていた。
片眼鏡は酔うと思うんだ。
あそこの男も強そうだ。歴戦の風格がある。今更試験を受けるのはよく分からないが体は鍛えられているし未だ元気だ。
空を指差している人がいた。
何やら点と点を繋げるような動作を繰り返している。
もしやこんな昼間に星座でも探しているというのか? 確かに雲は一つとしてないが明るすぎるだろ。
本当に星を探しているというならもう目がいいなどという次元ではない。もはや視力の問題ではないだろう。
黒いフードを深く被っている。黒以外の何物でもないローブがほとんど光を反射せず怪しげに風にゆられた。
顔は見えないが体つきからして女性だろう。
その足下には何やら黒い表紙の妙に分厚くこれまた枕になりそうな本が置いてあった。
タイトルは……『天体と大地について』か。論文かよ。
論文にはいい思い出がない。何度書き直したことか。
いやそんなことよりも本当に天体観測なのかあれ。さすがに人知を超えすぎた視力だろそら。
偶然置いてるだけだろう。そんな存在がごろごろといてたまるか。
八十突破。
今脱落してんのとしかけなのは合計で七十二。
あのイケメンが寝てないか期待したんだがそんなことはなかったな。今もなおプライスレススマイルをばらまき続けている。
イケメンの周り数人の女性が正座して目を輝かせながら少し頬を赤らめて恍惚とした視線を向けている。
ハハ、ムカついてきたわ。
しかもみんななかなかに顔がいいじゃねぇか。これが生まれつきの優遇点ということだな
後で何かしら突っかかろうか。
……いや……イケメンだけならまだしも周りの親衛隊が怖すぎるな。なんたって数が多い。
まぁいいよ。俺にだって惚れてくれる人はいたからな。ここの誰よりもかわいいやつが。
元気してるかな。死にそうにはなってたが生きててくれるといいんだが。試験終わりにでもルフに聞いてみるか。
その昔話はいつかにするとして今は置いておこう。
いかにも役者なイケメンがあっちにいる。こういうイケメンなら全然いいんだよ。俺が苦手なのはさわやかイケメンだ。
ドラマはそれなりに好きだったしその辺のやつよりは見てる自信がある。
どれもこれも大学くらいの頃にやってたやつだけどな。社会人になってからテレビを観たのなんてどのくらいだろうか。とてもそんな時間はなかったからな。
しみじみと思い出にふけっているとその間にも一人、また一人と眠りに落ちていくのが見える。
二次試験も終盤だ。今のところ睡魔なんてもんは一度たりとも襲ってきちゃいない。あと三十分あの曲を聞いているだけでいいってほんとかよ。
0
あなたにおすすめの小説
リヴァイヴ・ヒーロー ~異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる~
灰色キャット
ファンタジー
「君に今の時代に生まれ変わって欲しいんだ」
魔物の王を討伐した古き英雄グレリア・ファルトは死後、突然白い世界に呼び出され、神にそう言われてしまった。
彼は生まれ変わるという言葉に孫の言葉を思い出し、新しい人生を生きることを決意した。
遥か昔に生きていた世界がどう変わっているか、発展しているか期待をしながら700年後の時代に転生した彼を待ち受けていたのは……『英雄召喚』と呼ばれる魔法でやってきた異世界人の手によって破壊され発展した――変貌した世界だった。
歴史すら捻じ曲げられた世界で、グレリアは何を求め、知り……世界を生きるのだろうか?
己の心のままに生き、今を知るために、彼は再び歴史を紡ぐ。
そして……主人公はもう一人――『勇者』、『英雄』の定義すら薄くなった世界でそれらに憧れ、近づきたいと願う少年、セイル・シルドニアは学園での入学試験で一人の男と出会う。
そのことをきっかけにしてセイルは本当の意味で『勇者』というものを考え、『英雄』と呼ばれる存在になるためにもがき、苦しむことになるだろう。
例えどんな困難な道であっても、光が照らす道へと……己の力で進むと誓った、その限りを尽くして。
過去の英雄と現代の英雄(の卵)が交差し、歴史を作る!
異世界転生型アンチ異世界転生ファンタジー、ここに開幕!
――なろう・カクヨムでも連載中――
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
没落貴族は最果ての港で夢を見る〜政敵の公爵令嬢と手を組み、忘れられた航路を拓いて帝国の海を制覇する〜
namisan
ファンタジー
日本の海運会社に勤めていた男は、事故死し、異世界の没落貴族の三男ミナト・アークライトとして転生した。
かつては王国の海運業を牛耳ったアークライト家も、今や政争に敗れた見る影もない存在。ミナト自身も、厄介払い同然に、寂れた港町「アルトマール」へ名ばかりの代官として追いやられていた。
無気力な日々を過ごしていたある日、前世の海運知識と経験が完全に覚醒する。ミナトは気づいた。魔物が蔓延り、誰もが見捨てたこの港こそ、アークライト家再興の礎となる「宝の山」であると。
前世の知識と、この世界で得た風を読む魔法「風詠み」を武器に、家の再興を決意したミナト。しかし、その矢先、彼の前に最大の障害が現れる。
アークライト家を没落させた政敵、ルクスブルク公爵家の令嬢セラフィーナ。彼女は王命を受け、価値の失われた港を閉鎖するため、監察官としてアルトマールに乗り込んできたのだ。
「このような非効率な施設は、速やかに閉鎖すべきですわ」
家の再興を賭けて港を再生させたい没落貴族と、王国の未来のために港を閉鎖したいエリート令嬢。
立場も思想も水と油の二人が、互いの野望のために手を組むとき、帝国の経済、そして世界の物流は、歴史的な転換点を迎えることになる。
これは、一人の男が知識と魔法で巨大な船団を組織し、帝国の海を制覇するまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる