スライム級の俺がドラゴン級になるまで

燈蒼

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憧れの冒険者

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 あんまり体力を使いすぎて回復しないと大変だ。今日は早いところ帰って明日に備えるべきだろう。
 そんな理由をつけて宿に戻る。この生活最低限の宿にも少し愛着がわいてきた。
 そろそろ宿を出ることになるかもしれない。その時のために軽く荷物をまとめていた。
 もともと荷物はほとんどない。まとめるのも簡単だ。

 もはや慣れた優雅な朝を迎えて、ここでようやく試験の時間を知らないことを思い出した。
 ギルドにある程度の荷物を持って向かう。完全なる軽装だ。
 以前買っておいた短剣も一応装備しているが、それもいつも通りの格好なので違和感はない。
「試験ってのはいつ始まるんだ?」
 唯一と言っていい友好的な知り合い受付嬢である、アルスの下へ向かって聞いてみる。
「気まぐれです。第一次試験の試験官が開始したら始まります。今日のうちではありますが、いつになるかはわかりません」
 なるほど、だから酒を飲んでいるわけでもないのに酒場にたむろするやつらがいたんだな。
 ならば俺も酒場で待たせてもらうとしよう。
「そうか。ありがとう」
「いえいえ」
 終始ニコニコだったアルスから視線を離して酒場に向ける。
 酒場に向かって財布に金が入っていることを確認してから適当に水とフライドポテトを注文する。
 注文を取った店員はどことなく違和感を感じさせた。新入りなのだろうか、少しぎこちない動きに見えた。
 あやつらは何も頼んでいやがらない。それでは酒場の商売上がったりだ。

「合格です」

 …………は?
 俺はつい目を瞬かせた。
「もう一度言ってくれ。…………いや、その前にお前は誰だ」
 その女性に懐疑的な目線を向けた。
 薄い金髪のショートカットに薄い翡翠のような瞳。かなり整った顔をした女性だ。
「私は……冒険者試験、第一次試験官のアリス・スタディオと申します。あなたは今、第一次試験に合格しました」
 何も分からんな。
 いやコイツが一次試験官のアリス・スタディオで俺がそのお眼鏡にかなったということは分かった。
 しかし何故かが分からん。俺は何もしていないぞ。
「……理由を説明してくれ」
 それも俺に分かって納得できるような。
「こちらへ来てください。注文は通っていないので届くことはありません」
 注文が通っていない、か……。まさか酒場に忍び込んでいるとはな。
「分かった」
 何が理由かは知らんが試験に通ったのならついて行く他ない。

 連れて行かれたのは何やら平地。いつもの森とは反対側から街を出てそれなりに歩いた。
 大分早かったが今の俺ならそこまで付いていくのは難しくなかった。おそらく加減していたのだろう。
 そこには数十人がいた。男も女もいる。見たところ最高で四十代だろうか。
「ここは?」
「街をかなり離れた何も無い平地です。場所の指定は第二次試験官が言っていただけですので詳しくは分かりません」
「試験ってのは何だったんだ」
 そこが一番の疑問だ。本当に俺は何もした記憶はない。
「酒場で注文することです」
「…………は?」
 そんな呆れ返るような声しか出なかった。
 そんなことで良かったのか?じゃあ試験開始を待って座っていた奴らはただのバカじゃねぇか。
「試験の開始を待って席に座るだけ座るのは迷惑でしかありません。迷惑すらも考えられないような人は冒険者には必要ないんです」
 それは最もだが……。俺が注文したのだってそれが理由だ。
「もちろん、頼みすぎる者もいりません。3品程度までを頼んで待機していた人のみが合格です。試験なんてどうでもいいのか酒を頼む方もいましたよ」
 ハハ、哀れだな。
「二次試験をここでお待ち下さい」
 何して待てと言うんだ。なんも暇つぶし用のもんは持ってねぇぞ。
「あぁ、そういえば。あなたの注文を取ったのは私の魔道具です」
 後ろを向いて歩き出す前に振り返って笑顔を向けて末恐ろしい言葉を残した。
 呆けていると走り去って一瞬で見えなくなった。
 魔道具……魔道具か。感じた違和感はそれだったのか。
「すげぇよな、魔道具であんな完璧な人間を作れるなんて。違和感ゼロだぜ」
 ゼロではない。ゼロではないが確かにあれはすごい。とてつもない時間と技術が必要になるだろう。
「誰だお前は」
 急に話しかけてくるやつにはいいイメージがないんだ。前世含め厄介なやつらと出会ったせいでな。
「お前と同じ、運良く合格した受験者だよ」
 それならいいんだ。
「んで、二次試験はどうなると思う」
 どうなると言われてもこんな予想外なことされちゃ想像もつかんな。
「さぁな」
「おいおい、冷たいな」
 何故お前に暖かくせにゃならんのだ。
 名前も知らない同年代と思しき青年とは面識などありはしない。
「そんなこと言わずに。仲良くしようぜ」
「おっと、心の声が漏れてたか」
 ルフとの会話でそこら辺あやふやになったか?
「本音ってことじゃないか」
「当たり前だ。お前に優しくする義理はない」
 暇だな。
 もう寝るか。
 地面に寝転がり、惰眠を貪ろうとする。
「おい、寝るなよ。せっかくなんだから話し相手にでもなってくれ」
「そうだな……確かに俺も暇だ」
 俺は思考するフリをする。
「じゃあ二次試験の予想でもしようぜ」
「だが断る」
 何でもないことだが一度言ってみたかったね。
「この真白冬弥の最も好きなことの一つは、期待している奴を上げて落とすことだ。俺は寝る」
 よし、満足。てことで寝る。
「オイオイオイ~~っ!?」
 青年を無視しつつ結局睡眠をとる。
 会社のデスクで鍛えられた暗黒の精神によってどこででも寝られる俺はこんな平地程度極安ベッドだ。
「まじで寝やがったぞこいつ……」
 その言葉が届いたのはまだ起きているタイミングだった。
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