いじめられっ子の僕が

さくしゃ

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成長と仲間

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 ーマーク王国王都にある兵士訓練場ー

 「両者、準備はいいですか?」

 サッカーコート場と変わらない広さ100m×100mの芝生の訓練場の真ん中で、総勢500名の「紅蓮」の隊員達が見守る中、風の勇者「日向」と紅蓮の隊長「リナ・ブラントン」による世紀の一戦が行われようとしていた。

 両者は向かい合い、お互いに、日向は槍、リナはロングソードを構える。

 準備万端という空気を感じ取った審判のアルスは、「始めてください!」と手を振り下ろす。

 「まさか訓練を始めて10日でうちの弟のアルスを倒してしまうとは……末恐ろしいですな。日向殿」
 「ははは。リナさんや隊員の方達のおかげです」

 2人は、試合が始まったとは思えない緊張感のない会話を始める。

 (あと半歩……いや、踏み込んだ瞬間に突かれて終わる)

 話しながらもリナは、1mm単位で距離をずらし、隙を伺う。

 対する日向は、

 (もしかしたら、隙を伺っているのかもしれない……最悪の場合は、リナさんお得意の身体強化を一瞬で発動して一気に距離を詰めてくるかもしれない……そうなったら、訓練初日のようにみんなの前で転ばされる……恥ずかしい……1撃。身体強化を発動する前に1瞬だけ体が硬直する瞬間を狙うしかない……)

 しばらくの沈黙の後、見守る兵士たちの額から流れる汗が地面に落ちた瞬間。

 リナが一歩踏み込む。

 その踏み込みに力みはなく、待ち合わせをした友人に笑顔で挨拶するときのように自然に歩いてきた。

 (何か裏でもあるのか……いや。ただ前に歩いてきているだけ?何の狙いがあるんだ?)

 日向の頭の中では様々な疑問が浮かび、対策を考えようとするが、どれもしっくりこず、結局、体が勝手に槍を突き出す選択を取る。

 いつもなら絶好のタイミングを見計らい、打ち出される槍だが、なんとなく繰り出された突きのため、簡単に交わされて、首筋に剣を当てられてる。

 「そこまで!勝者、リナ!」

 模擬戦の終了が告げられる。

 日向とリナは互いに武器を納め、そのまま握手。

 「やられました。僕は相手がなんの目的を持って行動するのかを考えてしまうところがあるので、逆に意図が読めないとどう動いて良いか分からずに攻撃が単調になってしまう。反省点です」
 「いや。そこまでわかっているなら上出来だ。だが、私も気が抜けなくなってきた。今日なんてつい本気を出してしまった。日向殿の成長速度には参るよ。どうだ?剣、短剣、斧、槍と歴代の勇者の使った武器を試したが、誰が1番しっくりきた?」
 「そうですね……槍ですかね」
 「そうか。では、徹底的に槍を伸ばしていこう」
 「はい。よろしくお願いします」

 試合後の反省を軽く行う。

 「ふん!まだまだね!」

 模擬戦を見ていた1人であるミナは、そんな感想を残して訓練場を去っていく。

 「ははは。今日も厳しいな……」

 (だけど、道に迷ってる時とか助けてくれるから悪い人ではないんだよな。街の人達も不器用なだけだからって笑って言ってたし……)

 その後は、魔力操作の訓練をして1日が終わる。

 「勇者様!今日「紅蓮」のみんなでご飯食べにいくんですけど、一緒にどうですか?」

 隊士が日向を食事に誘う。

 (うわあ……人に食事に誘われるなんて初めてだ。緊張する。でも、すごく嬉しい)

 「行きます」

 日向が返事をすると、「やったー!みんなー!勇者様も来るってよ!」「おお!そりゃいい!」と盛り上がる。

 隊士達と街にくりだせば、「あ!勇者様!」「今日もお疲れだね!」「楽しんでいきな!」とみんなが温かく迎えてくれる。

 日向の優しい人柄もあり、この世界に来て約2週間。すっかり街の人達と馴染んでいた。しかし、ただ1人を除いては……

 訓練の方も順調すぎるほどで、人類でも5本の指に入るリナとステータスにおいて差がなく、後は技術と経験くらい。実力はすでに「紅蓮」でリナとエミの次に強いレベル50台後半のアルスを追い抜いた。

 そして、勇者の装備はというと、かなりの物が出来上がった。

 まずは、勇者の魔力を繊維に変えて作った服。軽い上に、通常時でも鎧と同じ強度を誇り、魔力を通すとダイヤモンドと同じ硬さになる。デザインは、本人の希望により、黒のパーカ、七分丈のズボン、白のスニーカーとラフな格好となっている。

 後は、家一軒分の収納ができる「マジックバック」、どんな怪我も3回までなら全回復できる「トリプルマジック」という首飾りと自分のステータスが表示されるステータスプレートを渡された。

 そして、装備以外では、この世界の現状について教えてもらった。

 *******************

 それから2日後の夕方、訓練が終わった頃……

 「南門に魔物襲来!数は、オーガ10、ゴブリン50、グール300です!」

 1人の兵士が慌てて走ってきた。

 「わかった!すぐにいく!日向殿。準備はいいか?」

 リナは、すぐに準備を済ませて日向に尋ねる。

 日向は2週間前に戦った時のことを思い出す。

 (怖い……けど、家族以外で初めて受け入れてくれた大切な人たち……絶対に守り抜く!)

 「はい!」

 日向は力強く返事をして、リナの後をついていく。

 ****************

 「ギャア!」
 「おお!」

 門に着くとゴブリンはすでに倒されていて、オーガ10体、グール700体となっていた。

 「オーガは私と日向殿で対処する!残りの者達は、グールの方へ加勢しろ!くれぐれも無理はするな!」

 リナは引き連れてきた100人の兵士に即座に指示を飛ばす。

 「日向殿!私は固まっているオーガの集団の右から切り込む!日向殿は左から切り込んでくれ!」
 「わかりました!」
 「うむ!では、ゆくぞ!」
 「「「おお!」」」
 
 リナの指示に従い、みんなそれぞれの相手に向かっていく。

 日向は、オーガが近づくにつれ、次第に重くなっていく胸を抑える。

 (大丈夫だ。2週間前とは違う!この2週間で鍛えまくって強くなった。リナさんもオーガなど相手にならんって言ってくれていた。大丈夫だ!いける!やれる!)

 揺らいでいた火が、強く燃え上がる。

 「グアア!」

 オーガの間合いに躊躇いなく踏み込む。しかし、同時に日向の槍の間合いでもある。

 「はあああ!」

 オーガが攻撃しようと棍棒を振り上げようとした時には、すでに日向の槍がオーガの胸を貫き終わった後。

 「グア?」

 それから数秒して、オーガは貫かれたことにも気が付かぬまま倒れる。

 (……)

 日向は自分が倒したとはいえ、2週間前に相対した時は死を覚悟するほどの実力差のあった相手を自分が一瞬で倒してしまった事が信じられずにしばらく呆然と立ち尽くす。

 (……やれる!大丈夫!ちゃんと強くなっている!少なくともオーガから大切な人たちを守れるくらいには強くなれてる!)

 それから槍を構え直して、残りのオーガへと槍を振るう。  
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