いじめられっ子の僕が

さくしゃ

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退散

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 「岩壁(ロックウォール)」

 ヴァッテンは、ジェット、リア、リーパーを岩の壁で覆い、降り注ぐ矢の雨を防ぐ。

 それを確認した日向は降り注ぐ矢を操作して、自分達の通る道を作る。

 「動きます!」

 日向の合図に2人は頷き、それぞれの障壁を解き、走り出し、包囲網を脱する。

 「すみませんでした。助かりました」

 日向は抱えた少女を下ろし、即座に自身の行動を謝る。

 「無事ならそれで良いです」
 「そうそう。それでフォーメーションは?」

 リナとエミは、日向が思わず行動してしまう時は誰かを助ける時だと分かっているので何も言わない。

 (ありがとうございます)

 そんな2人に日向は心から感謝する。

 「ふぅ……2番で行きます」

 日向は頭を上げて、呼吸を整えフォーメーションを伝える。

 日向の指示に2人は頷き、各々の武器を構え、日向とリナが前衛に移動し、エミは後ろに下がり、横たわる少女の前に立つ。

 「それで〈限界突破〉の制限時間は後どれくらいですか?」

 リナは、エミにも聞こえる音量で話す。

 〈限界突破〉を使用していることをすっかり忘れていた日向は、慌てて視界の端に表示された時間を確認する。

 「……残り時間は後15分です」
 
 日向は2人に話す。

 「撤退しましょう」

 リナは迷わずに答えを出す。

 「そうね。魔人の両腕が使い物にならなくなっているけど、されど魔人。気は抜けない。あのグール3体も強すぎる。さらに数は向こうが上……撤退がいいわね」

 エミもリナの意見に同意する。

 「ええ。だから、一斉攻撃で隙を作って、帝国領まで撤退します。もうじき夜明けです。最悪追ってきてもグール達は太陽の光で滅びます。そうなれば、魔人だけになります。日向殿には無理をしてもらいますが、3人のコンビネーションで押し切りましょう」

 日向はリナの提案に頷く。

 そのタイミングで、矢の攻撃が終わり、魔人達が砂煙の中から、姿を現す。

 日向達は頷き合い、リーパーとグールがまとまる瞬間を待つ。

 「クソ無能野郎が!」

 リーパーは怒りで顔を歪(ゆが)ませ、日向と3体のグールを睨む。

 「ふざけやがって…使えねぇゴミどもが…」

 下を向き、ふるふると体を揺らす。

 「全部まとめてぶっ殺してや……!」

 リーパーが上体を起こし、叫んだ瞬間に「ピー!ピー!」とアラームのような音が鳴る。

 「「「!」」」

 日向、リナ、エミは何かの合図かと思い警戒する。

 しかし、何かが起こることはなく。「……ち!……おい!退くぞ!掃除の時間だ!」とリーパーがグール達に叫ぶ。

 「「「……」」」

 リーパーの命令にグール達は構えを解き、リーパーの元へ。

 リーパーは「空間移動(ワープ)」と唱える。

 すると、3m台の黒い穴が発生し、グール達は何も言わずにその中へと入っていく。

 「ち!」

 最後にリーパーもそれに続き、黒い穴に入る瞬間にもう一度日向を睨みつけ消えていった。

 「「「……」」」

 突然、退いて行ったリーパー達の行動が分からず、日向達は罠ではないかと思い、半径3kmを探査魔法で探ったが、どこにも反応はなかった。

 「掃除って何?なんで急に退いたの?」

 エミはリーパー達が退いた理由が分からず、気持ち悪そうな納得のいかない顔をする。

 「理由はどうであれ、こちらが助かったことに変わりはない。1度帝国領まで撤退しましょう。後、この少女は魔人と同じ感じがするが、万が一太陽の光が弱点ということもありますから、移動と拠点の設置は森の中にしましょう」

 リナの指示で、日向達は魔物が襲ってくる心配のない。太陽の光が差し込む帝国領を目指し、森の中を進む。

 *****************

 無事に帝国領へとついた日向達はテントを張り、その中に少女を寝かせ、遅い昼食を取った。移動や戦いの疲れもあり、食事中は無言だった。

 「少し薪を集めてきます」

 日向は、いつもと変わらない笑顔を浮かべて薪を拾いに行った。

 「リナ……」

 エミはリナの方を見る。
 
 「ああ。ここを任せていいか?」

 リナは立ち上がりながらエミに聞く。

 「任せて。日向のことお願いね」

 こくりと頷き、リナは日向の後を追う。

 リナの頭には、グールに囲まれた状況で、それでもリーパーだけを見据えて攻撃を続けていた日向の姿が浮かぶ。

 (咄嗟に人を助けに行くことはこれまでもあった。それに人を襲う魔物達を殺す時ですら苦しそうな顔をする日向殿が、敵に向かってあんな形相で睨むのは初めて見た……)

 薪を拾いにいくと笑った時の日向の顔は、明らかに何かを抱えて思い詰めている時の顔だった。

 (思い詰めすぎていなければ良いが……)

 時々、信じられないような大胆な行動を取ることがある日向。
 
 (日向殿……)

 心配からリナの足取りは早くなっていく。


 ***************

 (……)

 日向はボーッと地面を眺めながら、森の中を歩く。

 パキパキ……

 地面に落ちた枯れ枝を踏むたびに静かな森に乾いた木の折れる音が鳴る。

 (リーパーが両親を殺した通り魔だと分かった時に心が沼の底へと落ちて行った。沼の中は暗くドロドロしていて抜け出せず、とてつもない怒りに支配されて流されるままにリーパーに攻撃した…)

 そこでリナとエミの顔が浮かぶ。

 (2人は気にしないと言ってくれたけど、僕は大切な2人を危険に晒してしまった……)

 日向は「ガリ!」と歯が折れそうなほど強く噛み締め、手を強く握りしめる。

 それからしばらく歩くと森の中を流れる川へと出た。

 (……)

 意識したわけではないが、自然と体は川の方へと動き出し、川から少し離れたところにできた水溜りに映り込む自分の顔を見て立ち止まる。

 「……」

 それは僕ではなく。僕の中に存在する自責の念が眉間に皺(しわ)を寄せ、目を吊り上げて睨んでいた。

 (……両親が殺されたばかりの頃も同じだった。あいつの異常性に気づいていながら足がすくみ、怯えて両親を守れなかった自分が憎くて。鏡を見るたびに自分を睨んでいた……)

 日向は河原にある大きな足に腰掛け、太陽の光に照らされ宝石の様に輝く水の流れを見つめる。

 (リーパーが両親を殺したのを得意気に語っていた時、確かにあいつの事が憎いと思った。でも、それだけじゃなくて、あの時の死んでいく両親を思い出すと守れなかった自分の事も憎くて……)

 日向は河原にある平たい大きな岩へと移動する。

 (そして、足がすくんだ。そんな情けない自分に腹が立ち、さらに感情に飲み込まれ、周りが見えなくなってしまった……)

 日向は体育座りとなり、膝を抱える手に力を入れる。

 (僕が勇者である以上は再びあいつと戦わなくちゃいけない。その時、憎しみと自分に対する「怒り」を抑えられず、また暴走して、2人を危険に晒してしまうかもしれない……)

 両親の存在とリナ、エミの存在が重なる。日向にとってもう一度できた両親と同じくらいかけがえのない存在……失うのが怖い……

 日向の体が震える。

 そんな時、「日向殿」とうずくまる自分の名前を呼ぶ女性の声。

 日向は顔を上げて振り返る。

 声の主はリナだった。

 リナは風になびく綺麗な赤い髪を耳にかけながら日向の元へとやってきて、うずくまる日向の後ろに腰掛けて、背中に寄りかかり、同じようにうずくまる。

 「私も昔はよく部屋のベッドでこうしてうずくまっていました」

 空を見つめて、懐かしむように話す。

 「ブラントン家は昔から王国を守る兵士を輩出してきた名門の家……当主は性別関係なく1番初めに生まれた子供が継ぐと言うしきたりがあり、昔から厳しく育てられてきました」

 リナの口調が少しどもる。

 「周りからは常にプレッシャーをかけられ続け、うまくいかなければ罵倒される。あの時期は常に人が怖くて他人の顔を見るだけでも過呼吸になってました。唯一話せたのは優しかった父だけ……それ以外は自分自身も含めて憎くててしょうがなかったです……」

 近くの石を手に取り、川へと投げる。

 「そんな時に父が話してくれた言葉がありました」

 ーーいいかい。感情はね。人間に備わった道具の1つなんだ。人間は初め、嬉しい時に笑い、悲しい時に泣く。そんな今は当たり前のことも初めは知らなかったんだ。長い年月をかけて、感情という道具の使い方を学んできたんだ。だから、いろんな感情を抱いていい。そして、感情という道具の正しい使い方を学んでいけばいいんだよ。

 「その言葉で私の胸はとても軽くなりました。それからは、憎しみを一つの原動力として努力を重ね、罵倒してきた人達を見返しました」

 リナは再び空を見る。

 「今になって思うとあの時に「怒り」「憎しみ」と言った道具の使い方を学べたから、フレバンスを守れなかった悔しい思いを原動力にする事で、怖いと思う魔物と臆することなく戦えているのだと思います」

 それからリナは立ち上がり、日向を後ろから抱きしめる。

 「日向殿なら絶対に大丈夫です。それに私やエミは日向殿と共に旅をする中で、信じられないほど強くなっていますよ。例えば……」

 リナは立ち上がり、河原の近くにある20m程の巨木を両手で掴み、「よいしょおおお!」と日本昔ばなしに出てくる巨大なかぶを引っこ抜くように身体強化もなしで引っこ抜いてしまった。

 「ほら……」

 引き抜いた巨木を両手で掲げて笑う。

 「は!……一閃!」

 掲げた巨木を空中へと放り、腰に刺したロングソードを抜き放ち、上段からの振り下ろしで、巨木を縦に焼き切る。

 「まだ特訓中だったんですが、勇者殿の技を自分なりに真似した結果生まれた奥義のような技です」

 剣を腰に戻し、にっこりと笑う。

 「先に戻ります。夕食は日向殿の好きなカレーです。お腹を空かせて帰ってきてください」

 リナは拠点へと戻って行った。

 日向は視線を川へと戻す。

 (感情は道具……)

 川のせせらぎ、風に揺れる枝、舞い散る木の葉、少し湿ったコケの香り……それから、パタリと石の上に横たわり、太陽の色が白からオレンジ色へと変わっていく様、クジラの形をした雲などを眺めて過ごした。

 (あの経験があったから今があると言える事……)

 日向はリナの話を思い出しながら、空を眺め考える。

 ****************

 河原を後にしたリナは、拠点を目指して森の中を歩いていた。

 (あれでよかったのだろうか……)

 日向に話したことを思い返す。

 (でも、日向殿の姿を見ていたら自然と話していた。それまでは何を話したら良いか分からなかったのに……)

 ーーははは!大丈夫さ!言葉は意外と考えて喋る言葉よりも自然と出てくる言葉の方が伝わるものだよ。大切なのは相手を思いやる気持ちさ。その強さによって言葉の伝わり方が違うからね。

 (お父さん。私の言葉はちゃんと届いたのだろうか?)

 日向はかなり自分を責めているようだった。そんな日向の心を軽くするために話した言葉で、さらに自分を責めてしまうのではないか?とリナは不安でいっぱいだった。

 (もう少し一緒にいた方が良かっただろうか?)

 リナは日向の元へ引き返そうとして止まる。

 (いや。1人の時間も必要なはず)

 思い直し、拠点へと戻ろうと歩き出し、また思いとどまり、日向の元へと引き返しを繰り返した。

 結局、10分の距離を1時間かけて戻った。

 「おかえり」

 拠点に戻るとエミがカレーを作りながら出迎えてくれた。

 それから2時間して、日向殿は作り笑顔ではなくて、いつもの暖かい笑顔を浮かべて戻ってきた。

 「「「いただきます」」」

 帝国領へと戻ってきたときはお通夜のような暗かった空気が嘘のように和やかな空気でカレーを食べる。
 日向はカレーを食べながら、自分のこれまでのこと、自分の両親を殺した通魔がリーパーとして生まれ変わっていた事、憎しみと怒りで暴走してしまった事、そしてリナとエミが自分の中でかけがえのない存在である事……胸の中にあるものをすべてさらけ出した。

 「私も同じ……目の前で私を守って殺されていった隊士達の夢を見るし、あの時のことがフラッシュバックする……魔物を見ると憎くて、冷静な判断ができない時がある。そんな時は、日向達を見るようにしているの。少しでも感情に任せて動けば、かけがえのない2人を失ってしまうって思ってバランスをとっているの」

 日向の胸の内を聞いて、エミも抱えていたものを話す。

 「私も2人はかけがえのない存在です。失うことなんて考えられない」

 リナも2人の思いを聞いて嬉しそうに話す。

 「……ん?ねぇ。て言うことは私たちって3人とも両思いって事じゃない?」

 エミは真顔でリナと日向に聞く。

 「えーと……そう言うことになるかな」
 「そ、そうだな」

 2人は顔を真っ赤に染めて、頬を指でかく。

 「そっか……なら」

 エミは立ち上がり、日向の元へ行き、しゃがみ込み顔を近づける。

 「ちか…い…む!」

 唇から柔らかくぷにっとした感触が伝わる。

 「よろしくね…ひーなた!」

 エミは笑顔で日向に抱きつく。

 「……く!」

 2人の〇〇を呆然と眺めていたリナは、悔しさを滲ませ、立ち上がり、日向の元へ。

 顔を赤らめながら「ずるいです。私にもしてください」と拗ねたように言い、日向の袖を掴み、自身の方に引っ張り寄せる。

 「うわぁ!」

 日向の体が宙をまい、上を向いたリナの唇へと吸い込まれていく。

 ゴオオン!

 しかし、唇に触れる直前にリナは「やっぱり2人きりの時がいい!」と日向を木の方へと投げ飛ばした。

 結果、硬い硬い幹に唇を奪われ、そのまま木を薙ぎ倒し、地面にめり込む。

 「ひ、日向殿!」

 リナは慌てて、日向を地面から引っこ抜く。

 「あ……」

 慌てるあまりに勢いよく引っこ抜いてしまい、日向が手からすっぽ抜けて、後方へと飛んでいき、木の幹に足からダーツのように刺さり、地中から無事に帰還した。

 「い、今、助けます!」

 慌ててリナがやってきたのを見て、青い顔で「大丈夫です」と断り、自力で抜け出す。

 「すみませんでした!キスをするなら日向殿を独占した時にと思って投げてしまって……」
 
 リナは必死で謝罪する。

 「あはは」

 生まれて初めてのキスを体験し、心臓がバクバク鳴っている日向は、リナの反応になんて返していいかわからずに、ただただ笑顔を浮かべる。

 「ほら。ご飯が冷めちゃうから食べよう」

 事の発端であるエミは平然としていた。しかし、2人はその事を突っ込まず、元の場所に戻り、静かにカレーを食べる。

 「それで眠ってるあの子はどうするの?」

 話題はテントの中で眠る少女の話へ。

 「微かに聞こえた話からではリーパーとはかなりの因縁があるみたいでした」

 日向は上空に上がる前に少女がリーパーを敵意むき出しで睨んでいた顔が頭に浮かぶ。

 「魔人と変わらない魔力……でも、邪悪さはなく、日向殿をグールの攻撃から守ってくれた……」
 「はい。それに僕たちに対して敵意はないと思います」

 日向は断言する。

 「なんでそう思うの?」

 ミナはおかわりのカレーを食べる。

 「なんとなくだけどわかるんです。自分に敵意を持っているかどうかは……」

 日向は日本にいた頃、騙そうとする人、暴力を振るおうとする人達からは、急に冷たいものを首裏に当てられてビクッ!とするように反応していた。そんな反応をする時はいつも走って逃げたら、誰が声を荒げながら追ってきた。
 
 リナはテントの方を見る。

 「今回は魔人だけではなく強いグールが3人。それもかなりの連携……協力してくれるとありがたいですね」
 「はい」

 日向もテントの方を見る。

 「じゃあ、起きてから話を聞くという事で話は終わり!お先に3杯目いただきます」

 エミは鍋のカレーを掬う。

 「お前は……王女なのだからもう少しだな」
 「はいはい……んー!うまー!」

 口うるさい母と娘のようなやり取りをするリナとエミを見て日向は笑いながらカレーを食べる。

 すると、「バサっ!」とテントの中で眠っていた少女が勢いよくテントの幕を開けて顔を出した。


 
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