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勇者対魔王
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「レイも始めたようだな」
魔王は手のひらを上下に構え、
自身にのみ意識を向ける
日向に右の正拳突きを放つ。
(こちらの話し声も届かない程の集中力……
それに私の殺気に対して
殺気をぶつけ平常心を保つか……)
日向の成長に
思わず笑いが浮かぶ。
「ふぅ……」
魔王の正拳突きに対して、
左手の裏側を
魔王の腕の内側に滑り込ませ
払うとともにそのまま懐へ踏み込み、
左脇腹に右拳を放つ。
「ははは!やるな!」
日向の右拳を
魔王は左腕で受け止める。
「これはどうだ?」
日向の左みぞおちに
魔王の右膝が迫る。
「く!」
踏み込んだ右足にほとんどの体重が乗っている。
(左手でガード……
いや、魔王のことだから
膝を硬質化させてくるかも……)
体重の乗った右足に
そのまま全体重をかけて
右横に倒れ込み、
受け身を取って立ち上がる。
「ふむ……」
魔王は棒立ちなり、首を回す。
「準備運動はこれくらいでいいな……
「闇箱(ブラックボックス)」
…ふむ…」
魔王の前方に
ブラックホールと同じ
黒い穴が出現し、
無造作に穴の中に手を突っ込み
中を探る。
「これだ……」
穴から漆黒の西洋剣を取り出す。
つばから切先に向かって
緩いS字に湾曲した
独特な形の剣を右手に持つ。
それを見た日向も
マジックバックから
槍を取り出す。
「ふむ……空間歩法」
日向の正面に現れた魔王は、
右手で掲げた剣を振り下ろす。
魔王の姿を見失っていた日向は、
「…!」
と、一拍遅れて反応し、
槍の柄で剣を受け止める。
「おお……
よく反応したな……」
限界突破も使用せずに
受け止めた日向に
魔王は素直に驚く。
(魔王の戦い方を
もう少しだけ見たかったけど……
しょうがない……)
日向の体を緑色の魔力が覆う。
「〈限界突破〉を発動しました。
使用限界時間は30分です。
その後は、1日のクールタイムに入ります
クールタイム中は使用できませんので
ご注意下さい」
脳内に女性のアナウンスが流れる。
「ようやくか……」
日向から距離を取った魔王は
両手で剣を握る。
「ふぅ…来い…」
魔王の顔から笑みが消える。
ピリッと肌を刺す空気……
(本当に準備運動だったんだ)
真剣に相手をしていた日向は
魔王の底知れない実力に寒気を感じる。
(ここからが本番……)
さらに気を引き締め、
今度は日向から仕掛ける。
ーその頃ー
ドガァァン!
「戦いの振動がここまで伝わってくる」
地上に残っていたリーパーの軍勢を
殲滅したリナ達は、
魔王と戦う日向の元に向かっていた。
「魔力から言って
日向は本気で戦ってるわね」
魔王がお茶をしていた
丘の上を歩く4人。
「おそらくここから1kmは
離れた場所で戦っているだろう」
4人は顔を見合わせ、
頷きあう。
「急ごう」
*****************
「3連突き!」
血が滲(にじ)み、
しみる右目をなんとか開き、
縮地で距離を詰め、
1秒間に3連続の突きを放つ。
「ははは!よく考えてるな!」
眉間、みぞおち、臍(へそ)……
生物が反応しにくい正中線上を
上下に3箇所狙ってくる日向。
それを見た魔王は、
攻撃の一手一手にちゃんとした狙いがあり、
気が抜けないと感じる。
生まれてから、
戦いの中で、
気が抜けないと思った事のない魔王……
魔物達が楽しそうに戦う姿を見て、
「何が楽しいのだ?」
と思っていたが……
ここにきての好敵手…
魔王の胸に生まれて初めて
ワクワクした気持ちで満たされる。
(満たされることなんて
あの時以来なかったが……
私は満たされたかったのか?
まあ、今は気分がいい…
この気持ちに理由を探すのはよそう)
正中線への3連撃を、
全て剣で受け切る。
「喰らえ!「闇纏(ブラックラップ)」!」
「一閃!」
互いに剣先に風と闇を纏った突きを放つ。
お互いに狙うは心臓……
剣先同士が衝突する。
ドガァァン!
轟音が鳴り響く。
その音はもはや落雷
「ははは!いいぞ!」
余裕を見せる魔王
「はあ!」
なんとか喰らいつく日向
「これくらいなら
まだ耐えられるか?」
余裕の魔王は握る柄に
さらに力を加える。
「く!……う、ぁぁ!」
自身の体のどこかに残ってるかも知れない
力をなんとかかき集めて耐えようとするが、
魔王に押し込まれる。
「こんなものか…
もういい…」
少し前まで高揚感に包まれていた魔王の心……
しかし、魔王の気分が乗って来た所で、
急に着いて来られなくなった日向を見て、
またいつもの虚無感に苛まれる。
お前も結局は着いて来られないのか……
表情が凍りつき、
無感情ないつもの顔へと戻る。
「吹き飛べ」
魔王から伝わる力が一気に強くなり、
突然の暴風に飛ばされる傘のように
宙を舞う。
(ああ……全身、痛いはずなのに
気持ちいい…
露天風呂に浸かっている時の感覚だ…)
曇天の空。
(耐えきれなかった……)
瞳に4人の顔が浮かぶ。
「ごめんなさい……
リナさん、エミさん、ミカさん、エマさん…」
浮遊が終わり、
落下していく。
(僕にしては頑張ったよね。
父さん、母さん)
瞳を閉じる。
「「「「うわぁぁ!」」」」
どこかで聞き慣れた声が聞こえる。
(ん?この声……)
地面に横たわる日向は、
瞳を開けて、
声のした上空を見る。
「おい!エミ!」
「しょうがないでしょ!
残りの魔力を考えての判断よ!」
赤い髪と水色の髪をなびかせ、
上空から落下しながら、
喧嘩をするリナとエミ
「それならポーションを飲めば良いのでは?」
エミの言い訳に
正論を返すミカ
「ひなたー!おまたせー!
愛しのエマちゃんが来たわよー♡」
地面に横たわる日向に
両手を振るうエマ。
「そうか…
あいつもダメだったか」
上空から落ちてくる
リナ達を見て、
レイが倒されたことを悟る。
4人の姿を見た日向は、
「ははは!」
と笑う。
鉛のように重かく、
ピクリとも動かなかった体が、
自然と動き出す。
「エマ!何とかして!」
空中で身動きが取れず、
どうしようもないエミは
地面が近づいて来た事で焦り、
満面の笑みで日向に手を振るエマに叫ぶ。
「はいはい。
重力操作…20分の1」
4人の体重が軽くなる。
「よし!これくらいなら!」
4人は、タン…と華麗に着地を決める。
「マイダーリン♡……
て!全身血だらけじゃない!」
着地早々に日向に抱きつこうとしたエマが叫ぶ。
「アクアハイヒール!」
上空から落下するときに、
怪我の程度を確認していたエミは、
日向に近づき、
回復魔法で治療する。
「はい!チョコレートです!」
治療中に日向の口へと
ミカはチョコレートを突っ込む。
「モガッ!」
驚きの声をあげながらも、
美味しくいただく。
「身体強化「Ⅴ」」
リナは腰の剣を抜き放ち、
魔王に向けて構える。
「お仲間の登場か……
数が増えた所で、
私とお前の実力差が
ひっくり返ることはないぞ」
治療を終えた日向は、
「ありがとうございます」
と一言お礼を伝えて、
立ち上がり槍を構える。
悠然と片手で剣を構える魔王に向かって
スタスタ……と、歩く。
散歩のように
「もうお前に興味はない…」
魔王は剣を振り上げる。
それでも微動だにせず魔王への
歩みを止めず、ゆっくりと近づいていく。
「死ね」
幽霊のように下を向いて
近づいてくる日向に
剣に闇の魔力をまとわせ
力一杯振り下ろす。
「……縮地」
魔王が剣を振り下ろした瞬間、
フッ…と日向の姿が
魔王の瞳から消える。
(何!)
空を切る魔王の剣。
(どこだ!)
首を左右に動かす。
「一閃」
魔王の背後から日向の声……
(まずい!)
魔王は慌てて背中に魔力を集約させる。
「硬質化!」
ズガァンン!
背中から鉄のハンマーで
思い切り叩かれたような
衝撃が体を走る。
(ぐ!……なんとか間に合ったか……)
魔王は吹き飛びながら、
自身の胸を触る。
ドガガガ……
魔王は地面を転がる。
「勇者専用スキル〈一心同体〉の使用を確認。
称号「勇者の恋人」を持つ人物から
ステータス値30%が勇者に加算されます。
使用限界時間は5分です」
日向の脳内で女性のアナウンスが流れる。
*****************
(リナさん、エミさん、ミカさん、エマさん
4人との繋がりを感じる……
力をお借りします)
日向の思いが心を通じて、
4人に流れ込む。
(存分に使ってください!)
(やっちゃえ!日向!)
(決めてください!)
(きゃー!最高にかっこいいわ!)
4人の思いも心を通じて
日向に流れ込む。
互いの視線が交差し、
「うん」と頷きあう。
「まだ力を隠していたのか……」
魔王は立ち上がり、
スーツについた砂を払う。
「全く驚異的な力……
本気を出さなければやられてしまうな……」
目を瞑り、
体の奥底に眠らせていた
強大な力……
それを封じていた蓋を外す。
「……はぁ!」
解放された魔王の魔力により、
地面が縦に揺れる。
「いくぞ……」
フッ……
今度は魔王が姿を消す。
魔王の動きは、
早いとかそんな生優しいものではなく、
急に姿を消した瞬間に
背後に現れたり、
「扉(ゲート)」なしに
空間を移動しているので、
その間は気配を感じない。
(気配探知を解いた瞬間にやられる……
正面!)
日向のレーダーに反応……
「は!」
懐に現れた魔王は、
日向の顔に至近距離から
ブラックホールを打ち込む。
「く!」
予想外の攻撃だが、
日向はギリギリで避け、
なびく黒髪をかすめて、
空へとブラックホールが飛んでいく。
「よく避けた!」
今度は両手で思いっきり
剣を振り下ろす。
「風壁!」
振り下ろした直前……
剣に力が完全に乗り切る前に
魔王の剣の前に風壁を出現させる。
グン……と体だけが前に倒れ、
両手が剣ごと空中に残る。
その様は、バスの吊り革に
ばんざい状態でぶら下がる
男子中学生のような姿
「ははは!なるほどな!
そう言う使い方もあるのか!」
力で強引に風壁を破壊し、
日向に剣を振り下ろす。
「縮地……」
高速移動で魔王の背後へ
「一閃!」
「させるか!」
振り向き様に横凪に振るった魔王の剣と
風を纏った日向の槍が交差……
ドガアアン!
武器が交差した場所の地面が吹き飛び、
5mのクレーターが出来上がる。
「ふん!」
「は!」
日向の突きと魔王の上段からの振り下ろし……
バキバキバキ……
クレーターがさらに広がる。
「闇壁(ブラックブロック)!」
2人の戦いの余波は
500m離れた所から
観戦しているリナ達にも届き、
ミカの発動した防御壁でしのぐ。
「ほれ!」
「は!」
ギィン…キィン!……ギャリッ!
「凄まじいな……」
「ええ。全く目で追えない」
レベル90台のリナ達ですら
視認できないほどのスピードで
行われる人外レベルの斬り合い……
「ほれ!どうした!は!」
「く!」
そんな高速の斬り合い……
初めは互角だったが、
戦いの中で、日向の戦い方を学び
どんどん成長していく魔王に
日向が徐々に押され始める。
ー決戦前日ー
「……だったので、
おそらく〈限界突破〉〈一心同体〉を
同時に使えば互角の戦いになるはずです
そうなれば……で決めます」
日向は自身の想定を、
4人に話していた。
(戦いの最中に進化するとか想定外……)
ギィン…キィン!
「ほれほれ!」
「く!」
防戦一方にまで追い込まれる。
そんな状況で、
日向は笑う。
(本当にいつもいつもうまくいかない……
笑えるほどに……)
諦め、開き直り……
いろんなものが混じった笑顔を浮かべた後、
すぐに凛々しい顔に変化する。
(でも、いつものこと……
慌てても状況がすぐに変わるわけじゃない。
焦るな。タイミングを見極めろ!
僕ならできる!……たぶん)
ギィン……キィン!
「どうした!
手を出してこなければつまらんぞ!
ほら!手を出してこい!」
防戦一方の日向に
魔王はイラつき出す。
「ほら!手を!出してこい!虫ケラ!」
徐々に攻撃が大振りになっていく。
「っ!この!!」
痺れを切らした魔王は、
上段から剣を大振りする。
「ふん!」
力だけが乗った
鋭さのない剣の振り……
(ここだ)
我慢に我慢を重ねて
やって来たチャンス……
力んで固まりそうになる体を
「ふぅ……」と呼吸で柔らかくする。
「風は摩擦によって大気を揺るがし、
雷となる……
雷魔法「須佐之男命(スサノオ)!」」
バチバチバチ……ズガァンン!
日向の体が発光、
音を置き去りにし、
魔王の懐へ飛び込み、
そのまま勢いで胸を貫く。
パリィン……
「グフッ!」
魔王は胸を貫かれ、吐血する。
ドサッ……
日向の左肩に魔王の顎が乗る。
「まさか……まだ力を隠していたとはな……」
ヒューヒュー……と虫の息となった魔王
それを見た日向は
「終わった……」
と一安心する。
「一つ聞きたい……」
日向の耳元で苦しそうに囁く魔王。
「俺たち生命体は、
なぜこの世に生まれてくるのだろうか?」
魔王の声が徐々に掠れていく。
「わからない。この感情とは何の為にある?」
そんな魔王の話を聞いていた日向の頭には、
両親、リナ、エミ、ミカ、エマ、国王……
これまでに出会った人々の顔が浮かぶ。
「……誰かと笑う為、誰かを怒る為、
誰かと泣く為に生まれて来たような気がする」
戦いが終わったことを知り、
日向の所へ走ってくるリナ達。
「感情は、その誰かと笑ったりする為にある?」
自分で言っているようで、
勝手に動く自分の口に
日向は驚く。
(へぇ……
僕ってこんなこと思ってたんだ)
どこか他人事。
「……そうか」
魔王はどこか寂しそうな目をして、
「私はとっくに失っていた…の」
ドサッ……
空を見上げて倒れる。
「……はぁ」
魔王が倒れたことで、
緊張の糸がきれた日向は、
息を吐く。
ドサッ……
「想像は超えなかったけど
想定は超えて来たなぁ……
あそこで避けられてたら危なかった
なかなかうまくいかないな」
魔王が倒されたことで晴れ渡っていく空……
「やっぱり青空が1番綺麗だな……」
日向の意識が切れる。
「日向殿!」
日向に駆け寄り、顔を覗き込む。
すーすー……
日向は寝息を立てて気持ちよさそうに眠る。
「ふふふ」
リナは日向の頭を抱えて、
自身の太ももへ
「お疲れ様です」
微笑むリナ
そんな2人を見て、
頷きあう3人。
「「「お似合いだとしても!
正妻の座だけは譲らないからね!」」」
仲良くハモる声が響き渡る。
魔王は手のひらを上下に構え、
自身にのみ意識を向ける
日向に右の正拳突きを放つ。
(こちらの話し声も届かない程の集中力……
それに私の殺気に対して
殺気をぶつけ平常心を保つか……)
日向の成長に
思わず笑いが浮かぶ。
「ふぅ……」
魔王の正拳突きに対して、
左手の裏側を
魔王の腕の内側に滑り込ませ
払うとともにそのまま懐へ踏み込み、
左脇腹に右拳を放つ。
「ははは!やるな!」
日向の右拳を
魔王は左腕で受け止める。
「これはどうだ?」
日向の左みぞおちに
魔王の右膝が迫る。
「く!」
踏み込んだ右足にほとんどの体重が乗っている。
(左手でガード……
いや、魔王のことだから
膝を硬質化させてくるかも……)
体重の乗った右足に
そのまま全体重をかけて
右横に倒れ込み、
受け身を取って立ち上がる。
「ふむ……」
魔王は棒立ちなり、首を回す。
「準備運動はこれくらいでいいな……
「闇箱(ブラックボックス)」
…ふむ…」
魔王の前方に
ブラックホールと同じ
黒い穴が出現し、
無造作に穴の中に手を突っ込み
中を探る。
「これだ……」
穴から漆黒の西洋剣を取り出す。
つばから切先に向かって
緩いS字に湾曲した
独特な形の剣を右手に持つ。
それを見た日向も
マジックバックから
槍を取り出す。
「ふむ……空間歩法」
日向の正面に現れた魔王は、
右手で掲げた剣を振り下ろす。
魔王の姿を見失っていた日向は、
「…!」
と、一拍遅れて反応し、
槍の柄で剣を受け止める。
「おお……
よく反応したな……」
限界突破も使用せずに
受け止めた日向に
魔王は素直に驚く。
(魔王の戦い方を
もう少しだけ見たかったけど……
しょうがない……)
日向の体を緑色の魔力が覆う。
「〈限界突破〉を発動しました。
使用限界時間は30分です。
その後は、1日のクールタイムに入ります
クールタイム中は使用できませんので
ご注意下さい」
脳内に女性のアナウンスが流れる。
「ようやくか……」
日向から距離を取った魔王は
両手で剣を握る。
「ふぅ…来い…」
魔王の顔から笑みが消える。
ピリッと肌を刺す空気……
(本当に準備運動だったんだ)
真剣に相手をしていた日向は
魔王の底知れない実力に寒気を感じる。
(ここからが本番……)
さらに気を引き締め、
今度は日向から仕掛ける。
ーその頃ー
ドガァァン!
「戦いの振動がここまで伝わってくる」
地上に残っていたリーパーの軍勢を
殲滅したリナ達は、
魔王と戦う日向の元に向かっていた。
「魔力から言って
日向は本気で戦ってるわね」
魔王がお茶をしていた
丘の上を歩く4人。
「おそらくここから1kmは
離れた場所で戦っているだろう」
4人は顔を見合わせ、
頷きあう。
「急ごう」
*****************
「3連突き!」
血が滲(にじ)み、
しみる右目をなんとか開き、
縮地で距離を詰め、
1秒間に3連続の突きを放つ。
「ははは!よく考えてるな!」
眉間、みぞおち、臍(へそ)……
生物が反応しにくい正中線上を
上下に3箇所狙ってくる日向。
それを見た魔王は、
攻撃の一手一手にちゃんとした狙いがあり、
気が抜けないと感じる。
生まれてから、
戦いの中で、
気が抜けないと思った事のない魔王……
魔物達が楽しそうに戦う姿を見て、
「何が楽しいのだ?」
と思っていたが……
ここにきての好敵手…
魔王の胸に生まれて初めて
ワクワクした気持ちで満たされる。
(満たされることなんて
あの時以来なかったが……
私は満たされたかったのか?
まあ、今は気分がいい…
この気持ちに理由を探すのはよそう)
正中線への3連撃を、
全て剣で受け切る。
「喰らえ!「闇纏(ブラックラップ)」!」
「一閃!」
互いに剣先に風と闇を纏った突きを放つ。
お互いに狙うは心臓……
剣先同士が衝突する。
ドガァァン!
轟音が鳴り響く。
その音はもはや落雷
「ははは!いいぞ!」
余裕を見せる魔王
「はあ!」
なんとか喰らいつく日向
「これくらいなら
まだ耐えられるか?」
余裕の魔王は握る柄に
さらに力を加える。
「く!……う、ぁぁ!」
自身の体のどこかに残ってるかも知れない
力をなんとかかき集めて耐えようとするが、
魔王に押し込まれる。
「こんなものか…
もういい…」
少し前まで高揚感に包まれていた魔王の心……
しかし、魔王の気分が乗って来た所で、
急に着いて来られなくなった日向を見て、
またいつもの虚無感に苛まれる。
お前も結局は着いて来られないのか……
表情が凍りつき、
無感情ないつもの顔へと戻る。
「吹き飛べ」
魔王から伝わる力が一気に強くなり、
突然の暴風に飛ばされる傘のように
宙を舞う。
(ああ……全身、痛いはずなのに
気持ちいい…
露天風呂に浸かっている時の感覚だ…)
曇天の空。
(耐えきれなかった……)
瞳に4人の顔が浮かぶ。
「ごめんなさい……
リナさん、エミさん、ミカさん、エマさん…」
浮遊が終わり、
落下していく。
(僕にしては頑張ったよね。
父さん、母さん)
瞳を閉じる。
「「「「うわぁぁ!」」」」
どこかで聞き慣れた声が聞こえる。
(ん?この声……)
地面に横たわる日向は、
瞳を開けて、
声のした上空を見る。
「おい!エミ!」
「しょうがないでしょ!
残りの魔力を考えての判断よ!」
赤い髪と水色の髪をなびかせ、
上空から落下しながら、
喧嘩をするリナとエミ
「それならポーションを飲めば良いのでは?」
エミの言い訳に
正論を返すミカ
「ひなたー!おまたせー!
愛しのエマちゃんが来たわよー♡」
地面に横たわる日向に
両手を振るうエマ。
「そうか…
あいつもダメだったか」
上空から落ちてくる
リナ達を見て、
レイが倒されたことを悟る。
4人の姿を見た日向は、
「ははは!」
と笑う。
鉛のように重かく、
ピクリとも動かなかった体が、
自然と動き出す。
「エマ!何とかして!」
空中で身動きが取れず、
どうしようもないエミは
地面が近づいて来た事で焦り、
満面の笑みで日向に手を振るエマに叫ぶ。
「はいはい。
重力操作…20分の1」
4人の体重が軽くなる。
「よし!これくらいなら!」
4人は、タン…と華麗に着地を決める。
「マイダーリン♡……
て!全身血だらけじゃない!」
着地早々に日向に抱きつこうとしたエマが叫ぶ。
「アクアハイヒール!」
上空から落下するときに、
怪我の程度を確認していたエミは、
日向に近づき、
回復魔法で治療する。
「はい!チョコレートです!」
治療中に日向の口へと
ミカはチョコレートを突っ込む。
「モガッ!」
驚きの声をあげながらも、
美味しくいただく。
「身体強化「Ⅴ」」
リナは腰の剣を抜き放ち、
魔王に向けて構える。
「お仲間の登場か……
数が増えた所で、
私とお前の実力差が
ひっくり返ることはないぞ」
治療を終えた日向は、
「ありがとうございます」
と一言お礼を伝えて、
立ち上がり槍を構える。
悠然と片手で剣を構える魔王に向かって
スタスタ……と、歩く。
散歩のように
「もうお前に興味はない…」
魔王は剣を振り上げる。
それでも微動だにせず魔王への
歩みを止めず、ゆっくりと近づいていく。
「死ね」
幽霊のように下を向いて
近づいてくる日向に
剣に闇の魔力をまとわせ
力一杯振り下ろす。
「……縮地」
魔王が剣を振り下ろした瞬間、
フッ…と日向の姿が
魔王の瞳から消える。
(何!)
空を切る魔王の剣。
(どこだ!)
首を左右に動かす。
「一閃」
魔王の背後から日向の声……
(まずい!)
魔王は慌てて背中に魔力を集約させる。
「硬質化!」
ズガァンン!
背中から鉄のハンマーで
思い切り叩かれたような
衝撃が体を走る。
(ぐ!……なんとか間に合ったか……)
魔王は吹き飛びながら、
自身の胸を触る。
ドガガガ……
魔王は地面を転がる。
「勇者専用スキル〈一心同体〉の使用を確認。
称号「勇者の恋人」を持つ人物から
ステータス値30%が勇者に加算されます。
使用限界時間は5分です」
日向の脳内で女性のアナウンスが流れる。
*****************
(リナさん、エミさん、ミカさん、エマさん
4人との繋がりを感じる……
力をお借りします)
日向の思いが心を通じて、
4人に流れ込む。
(存分に使ってください!)
(やっちゃえ!日向!)
(決めてください!)
(きゃー!最高にかっこいいわ!)
4人の思いも心を通じて
日向に流れ込む。
互いの視線が交差し、
「うん」と頷きあう。
「まだ力を隠していたのか……」
魔王は立ち上がり、
スーツについた砂を払う。
「全く驚異的な力……
本気を出さなければやられてしまうな……」
目を瞑り、
体の奥底に眠らせていた
強大な力……
それを封じていた蓋を外す。
「……はぁ!」
解放された魔王の魔力により、
地面が縦に揺れる。
「いくぞ……」
フッ……
今度は魔王が姿を消す。
魔王の動きは、
早いとかそんな生優しいものではなく、
急に姿を消した瞬間に
背後に現れたり、
「扉(ゲート)」なしに
空間を移動しているので、
その間は気配を感じない。
(気配探知を解いた瞬間にやられる……
正面!)
日向のレーダーに反応……
「は!」
懐に現れた魔王は、
日向の顔に至近距離から
ブラックホールを打ち込む。
「く!」
予想外の攻撃だが、
日向はギリギリで避け、
なびく黒髪をかすめて、
空へとブラックホールが飛んでいく。
「よく避けた!」
今度は両手で思いっきり
剣を振り下ろす。
「風壁!」
振り下ろした直前……
剣に力が完全に乗り切る前に
魔王の剣の前に風壁を出現させる。
グン……と体だけが前に倒れ、
両手が剣ごと空中に残る。
その様は、バスの吊り革に
ばんざい状態でぶら下がる
男子中学生のような姿
「ははは!なるほどな!
そう言う使い方もあるのか!」
力で強引に風壁を破壊し、
日向に剣を振り下ろす。
「縮地……」
高速移動で魔王の背後へ
「一閃!」
「させるか!」
振り向き様に横凪に振るった魔王の剣と
風を纏った日向の槍が交差……
ドガアアン!
武器が交差した場所の地面が吹き飛び、
5mのクレーターが出来上がる。
「ふん!」
「は!」
日向の突きと魔王の上段からの振り下ろし……
バキバキバキ……
クレーターがさらに広がる。
「闇壁(ブラックブロック)!」
2人の戦いの余波は
500m離れた所から
観戦しているリナ達にも届き、
ミカの発動した防御壁でしのぐ。
「ほれ!」
「は!」
ギィン…キィン!……ギャリッ!
「凄まじいな……」
「ええ。全く目で追えない」
レベル90台のリナ達ですら
視認できないほどのスピードで
行われる人外レベルの斬り合い……
「ほれ!どうした!は!」
「く!」
そんな高速の斬り合い……
初めは互角だったが、
戦いの中で、日向の戦い方を学び
どんどん成長していく魔王に
日向が徐々に押され始める。
ー決戦前日ー
「……だったので、
おそらく〈限界突破〉〈一心同体〉を
同時に使えば互角の戦いになるはずです
そうなれば……で決めます」
日向は自身の想定を、
4人に話していた。
(戦いの最中に進化するとか想定外……)
ギィン…キィン!
「ほれほれ!」
「く!」
防戦一方にまで追い込まれる。
そんな状況で、
日向は笑う。
(本当にいつもいつもうまくいかない……
笑えるほどに……)
諦め、開き直り……
いろんなものが混じった笑顔を浮かべた後、
すぐに凛々しい顔に変化する。
(でも、いつものこと……
慌てても状況がすぐに変わるわけじゃない。
焦るな。タイミングを見極めろ!
僕ならできる!……たぶん)
ギィン……キィン!
「どうした!
手を出してこなければつまらんぞ!
ほら!手を出してこい!」
防戦一方の日向に
魔王はイラつき出す。
「ほら!手を!出してこい!虫ケラ!」
徐々に攻撃が大振りになっていく。
「っ!この!!」
痺れを切らした魔王は、
上段から剣を大振りする。
「ふん!」
力だけが乗った
鋭さのない剣の振り……
(ここだ)
我慢に我慢を重ねて
やって来たチャンス……
力んで固まりそうになる体を
「ふぅ……」と呼吸で柔らかくする。
「風は摩擦によって大気を揺るがし、
雷となる……
雷魔法「須佐之男命(スサノオ)!」」
バチバチバチ……ズガァンン!
日向の体が発光、
音を置き去りにし、
魔王の懐へ飛び込み、
そのまま勢いで胸を貫く。
パリィン……
「グフッ!」
魔王は胸を貫かれ、吐血する。
ドサッ……
日向の左肩に魔王の顎が乗る。
「まさか……まだ力を隠していたとはな……」
ヒューヒュー……と虫の息となった魔王
それを見た日向は
「終わった……」
と一安心する。
「一つ聞きたい……」
日向の耳元で苦しそうに囁く魔王。
「俺たち生命体は、
なぜこの世に生まれてくるのだろうか?」
魔王の声が徐々に掠れていく。
「わからない。この感情とは何の為にある?」
そんな魔王の話を聞いていた日向の頭には、
両親、リナ、エミ、ミカ、エマ、国王……
これまでに出会った人々の顔が浮かぶ。
「……誰かと笑う為、誰かを怒る為、
誰かと泣く為に生まれて来たような気がする」
戦いが終わったことを知り、
日向の所へ走ってくるリナ達。
「感情は、その誰かと笑ったりする為にある?」
自分で言っているようで、
勝手に動く自分の口に
日向は驚く。
(へぇ……
僕ってこんなこと思ってたんだ)
どこか他人事。
「……そうか」
魔王はどこか寂しそうな目をして、
「私はとっくに失っていた…の」
ドサッ……
空を見上げて倒れる。
「……はぁ」
魔王が倒れたことで、
緊張の糸がきれた日向は、
息を吐く。
ドサッ……
「想像は超えなかったけど
想定は超えて来たなぁ……
あそこで避けられてたら危なかった
なかなかうまくいかないな」
魔王が倒されたことで晴れ渡っていく空……
「やっぱり青空が1番綺麗だな……」
日向の意識が切れる。
「日向殿!」
日向に駆け寄り、顔を覗き込む。
すーすー……
日向は寝息を立てて気持ちよさそうに眠る。
「ふふふ」
リナは日向の頭を抱えて、
自身の太ももへ
「お疲れ様です」
微笑むリナ
そんな2人を見て、
頷きあう3人。
「「「お似合いだとしても!
正妻の座だけは譲らないからね!」」」
仲良くハモる声が響き渡る。
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