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それぞれの想い①
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エリザベスside
初夏の晴れやかな空が心地よい朝。私ーーエリザベス・ボルテンは馬車に揺られ学院の中を走っていた。職員用玄関を目指して。
「……」
女王と学院の理事長を兼務する多忙な私が唯一何も考えなくていい時間だった。窓枠を支えに頬杖をついてただただ時間の経過とともに明るくなっていく空、風に流れる雲を眺めた。
"お母様、どうでしょうか?初めてうまく描けました"
しかしそんな貴重な瞬間にいつも思い浮かぶのはなぜか幼い頃、王子教育もまともに受けず描き上げた絵を見せてきたロベルトの姿だった。
「……はぁぁ」
なぜなのかーーそれはあの時、絵を見せてきたロベルトに対して私は落胆して相手にしなかったことを後悔しているから?では、なぜ落胆したのか。
"王族たるもの。何事においてもトップでなくてはならない"
私には理解できなかったからだ。私が幼かった頃、私の他に子が生まれず早くも将来は女王になることが決まった。
そのため物心ついた時にはすでに弱音を吐けば叩かれるほど厳しい教育を強制された。そして成長と共に周りから見られることが増えていった。少しでも王族として相応しくない発言や所作ーーくしゃみ、早歩き、寝癖等があれば、
"あんな人が将来この国の王になるとか大丈夫なの?"
と言われる。どんな時も気が抜けなかった。精神を張り詰め、誰よりも優秀でなければならなかった。自分の想いを殺し続け、いつしか「自分自身」というものを失おうとも励み抜いた。
"おぎゃー!おぎゃー!"
そんな私だったけど唯一の幸せがあったとするならば子供を産んだことだった。嬉しかった。生まれたばかりの我が子達を見て抱きしめた。それでも母親で居続けるわけにはいかなかった。女王として息子達に接した。二人の兄達が順調にかつての私のように育つ一方で、
"お母様。僕の絵はどうでしょうか"
ロベルトだけは違った、違いすぎた。感情のままに行動し、自分の好きなことに邁進した。これまでの私の人生と違う日々を送るロベルトのことが理解できず、どう接すれば良いかもわからず、私は逃げた。そしてついには王城から追い出してしまった。
「エリザベス様。到着いたしました」
馬車が止まり、御者がゆっくりとドアを開いた。
「……」
私は特に返事せずにイスから立ち上がると、ドレスのスカートを持ってゆっくりと降りた。それから職員用玄関を通って理事長室へと向かった。しかしその途中、生徒用玄関の方が騒がしかった。
「?」
気になった私はそちらへ向かった。そして「そろそろ授業が始まるから各教室へ向かうように」と注意しようとして生徒達の目が釘付けとなっている物を見て足を止めた。
(ああ……)
その物とはーー額縁に納められた一枚の絵だった。整った顔立ちの少女が笑った様子を描かれたモノで、背景はなかった。しかもキャンバスに鉛筆だけを使用して描かれた白黒の絵だった。
しかしその絵は古今東西、様々な絵師が描いた色鮮やかな絵に見慣れているはずの私達ーー王侯貴族の目を釘付けにした。
どんな細工や工夫がなされているのかわからない。が、描かれている少女の笑顔が春の日向のように暖かく見ているとほっこりしてしまった。
私達がよく目にする「力強い」「上手い」を体現した絵とは真反対の「しなやか」で「柔らかさ」を感じる絵だった。
(そうか)
見たことしかわからない。どんな技能が使われているのかなんて特にわからない。ただ一つだけわかったことがある。この絵を誰が描いたのか。
(あなたの『そのまま』を肯定してあげるだけでよかったのね)
それはかつて理解できないからと無視し、最後には自身から遠ざけた我が子ロベルトが描いた絵だった。
後悔した。なんてことをしてしまったのだろう、と。
(しかし今さら。時間は戻らない。もう何もかもが遅い。後悔してもあの子との亀裂は修復できはしない)
私が後悔していた時だった。
「あなたことがずっと好きでした!大好きでした!」
という女性の声が聞こえた。
◇◇◇
キャロルside
時は少し遡り8時ごろ……。
「信じられない」
「あれが本当にあの娘なの……」
生徒用玄関に昨日完成したばかりのロベルト殿下が描いた絵をみんなの目の届く所へ張り出した。そうしたら「何だ何だ?」と絵を張り出してから瞬く間に人だかりができた。そして絵を見た人たちは一様に絵と絵の前に立つ私を指さして、
「噂じゃ八十くらいの老婆のように醜いって」
「誰だよ!嘘じゃねえか!」
それぞれで驚きを隠せない様子で目を見開いた。そしてそれは私も同じだった。
(嘘でしょ)
昔から「醜い」と後ろ指をさされてきた私がロベルト殿下の絵のおかげとはいっても、
「醜い?美しいの間違いじゃないか」
とか、
「可憐だわ」
って言われてる。それに小さい頃から私のことを「醜い」って言ってた同じ学年の人たちが、
「嘘じゃないか!」
「話を盛るなんて貴族としてどうなの!!」
と先輩や後輩から責められている。うまく言葉にできない。だけど、
「見たか!そこのお前!」
ロベルト殿下が私のことを醜いと言ったマリアベルに対して指をさしてそう言った。その光景を目にしたら何だか胸の奥にあったモヤモヤしたものが晴れたような気がして、
「見たか!」
ついつられてマリアベルに向かって指をさして、ロベルト殿下が言ったように言って笑った。
「おお!言うね!」
とロベルト殿下が笑いかけてきたので、
「はい!」
って笑い返した。
初夏の晴れやかな空が心地よい朝。私ーーエリザベス・ボルテンは馬車に揺られ学院の中を走っていた。職員用玄関を目指して。
「……」
女王と学院の理事長を兼務する多忙な私が唯一何も考えなくていい時間だった。窓枠を支えに頬杖をついてただただ時間の経過とともに明るくなっていく空、風に流れる雲を眺めた。
"お母様、どうでしょうか?初めてうまく描けました"
しかしそんな貴重な瞬間にいつも思い浮かぶのはなぜか幼い頃、王子教育もまともに受けず描き上げた絵を見せてきたロベルトの姿だった。
「……はぁぁ」
なぜなのかーーそれはあの時、絵を見せてきたロベルトに対して私は落胆して相手にしなかったことを後悔しているから?では、なぜ落胆したのか。
"王族たるもの。何事においてもトップでなくてはならない"
私には理解できなかったからだ。私が幼かった頃、私の他に子が生まれず早くも将来は女王になることが決まった。
そのため物心ついた時にはすでに弱音を吐けば叩かれるほど厳しい教育を強制された。そして成長と共に周りから見られることが増えていった。少しでも王族として相応しくない発言や所作ーーくしゃみ、早歩き、寝癖等があれば、
"あんな人が将来この国の王になるとか大丈夫なの?"
と言われる。どんな時も気が抜けなかった。精神を張り詰め、誰よりも優秀でなければならなかった。自分の想いを殺し続け、いつしか「自分自身」というものを失おうとも励み抜いた。
"おぎゃー!おぎゃー!"
そんな私だったけど唯一の幸せがあったとするならば子供を産んだことだった。嬉しかった。生まれたばかりの我が子達を見て抱きしめた。それでも母親で居続けるわけにはいかなかった。女王として息子達に接した。二人の兄達が順調にかつての私のように育つ一方で、
"お母様。僕の絵はどうでしょうか"
ロベルトだけは違った、違いすぎた。感情のままに行動し、自分の好きなことに邁進した。これまでの私の人生と違う日々を送るロベルトのことが理解できず、どう接すれば良いかもわからず、私は逃げた。そしてついには王城から追い出してしまった。
「エリザベス様。到着いたしました」
馬車が止まり、御者がゆっくりとドアを開いた。
「……」
私は特に返事せずにイスから立ち上がると、ドレスのスカートを持ってゆっくりと降りた。それから職員用玄関を通って理事長室へと向かった。しかしその途中、生徒用玄関の方が騒がしかった。
「?」
気になった私はそちらへ向かった。そして「そろそろ授業が始まるから各教室へ向かうように」と注意しようとして生徒達の目が釘付けとなっている物を見て足を止めた。
(ああ……)
その物とはーー額縁に納められた一枚の絵だった。整った顔立ちの少女が笑った様子を描かれたモノで、背景はなかった。しかもキャンバスに鉛筆だけを使用して描かれた白黒の絵だった。
しかしその絵は古今東西、様々な絵師が描いた色鮮やかな絵に見慣れているはずの私達ーー王侯貴族の目を釘付けにした。
どんな細工や工夫がなされているのかわからない。が、描かれている少女の笑顔が春の日向のように暖かく見ているとほっこりしてしまった。
私達がよく目にする「力強い」「上手い」を体現した絵とは真反対の「しなやか」で「柔らかさ」を感じる絵だった。
(そうか)
見たことしかわからない。どんな技能が使われているのかなんて特にわからない。ただ一つだけわかったことがある。この絵を誰が描いたのか。
(あなたの『そのまま』を肯定してあげるだけでよかったのね)
それはかつて理解できないからと無視し、最後には自身から遠ざけた我が子ロベルトが描いた絵だった。
後悔した。なんてことをしてしまったのだろう、と。
(しかし今さら。時間は戻らない。もう何もかもが遅い。後悔してもあの子との亀裂は修復できはしない)
私が後悔していた時だった。
「あなたことがずっと好きでした!大好きでした!」
という女性の声が聞こえた。
◇◇◇
キャロルside
時は少し遡り8時ごろ……。
「信じられない」
「あれが本当にあの娘なの……」
生徒用玄関に昨日完成したばかりのロベルト殿下が描いた絵をみんなの目の届く所へ張り出した。そうしたら「何だ何だ?」と絵を張り出してから瞬く間に人だかりができた。そして絵を見た人たちは一様に絵と絵の前に立つ私を指さして、
「噂じゃ八十くらいの老婆のように醜いって」
「誰だよ!嘘じゃねえか!」
それぞれで驚きを隠せない様子で目を見開いた。そしてそれは私も同じだった。
(嘘でしょ)
昔から「醜い」と後ろ指をさされてきた私がロベルト殿下の絵のおかげとはいっても、
「醜い?美しいの間違いじゃないか」
とか、
「可憐だわ」
って言われてる。それに小さい頃から私のことを「醜い」って言ってた同じ学年の人たちが、
「嘘じゃないか!」
「話を盛るなんて貴族としてどうなの!!」
と先輩や後輩から責められている。うまく言葉にできない。だけど、
「見たか!そこのお前!」
ロベルト殿下が私のことを醜いと言ったマリアベルに対して指をさしてそう言った。その光景を目にしたら何だか胸の奥にあったモヤモヤしたものが晴れたような気がして、
「見たか!」
ついつられてマリアベルに向かって指をさして、ロベルト殿下が言ったように言って笑った。
「おお!言うね!」
とロベルト殿下が笑いかけてきたので、
「はい!」
って笑い返した。
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