勇者王国の落ちこぼれ剣士と第一王女

さくしゃ

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決意

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「どっこいしょ……」

 部屋に入ってきたジョンは、ベッド脇にある年季の入った木椅子へと腰掛ける。
 椅子と自身の腰を気遣いながら。

 「いたた……さっきまで立ち仕事をしていたから全身が痛いのぅ」

 腰を叩きながら笑う。

 「そこら中、傷だらけ……理不尽とも思える現実にうちのめされる度に立ち上がって来たから、特にな」

 僕を見つめて話すジョン。でも、その瞳に映っているのは僕ではなくて……遠い過去を懐かしむかのよう。

 「しかし、後悔は少ないな。驚くほどに。それら全てに勝てたわけではないから、全くではないがな」

 そう話したジョンの瞳に僕が映る。
 
 「ふふふ」と優しい笑みを浮かべたジョンは僕の頭を撫でる。

 庭師の仕事柄、まめができるたびに潰れて硬くなった分厚い手のひら……
 しかし、柔らかい。物理的には硬いはずなのに柔らかいし、それに心に吹く風が穏やかになっていく。

 「じゃあの。そろそろわしは眠るな……おやすみ」

 ジョンは部屋を出ていった。

 「……」

 自室に再び訪れる静寂。しかし、僕の怒気が和らいだことで湿り気はなくなっている。

 「……」

 その後、ベッドの中でジョンの伝えたかったことはなんなのか考える。
 僕が何かにつまづいた時は、いつもこうして遠回しではあるが、立ち上がるためのヒントをくれる。

 「理不尽な現実……か」

 僕は窓辺を照らす月を見る。
 いつの間にか雲は消えていて、満点の星々と満月が輝いていた。
 
 太陽と違ってうっすらとした光に照らされる地上。
 遠くにある山の輪郭はわかるが、山に至るまでの道が暗闇でわからない。

 「はぁ……」

 僕のこれまでの人生と同じような気がした。
 周りから存在すること自体をうとまれ、隠され、どんなに頑張っても誰もみてくれない。
 前に進んでいるのかわからない……

 「くそ!」

 いつしか歩くのに疲れ果て歩みを止めようとする自分を殴りつけるようになった。
 その度に神経は鋭利さを増していき、全てのことに敏感になり、眠れない日々が続いた。

 「助けて……」

 それでも黒い世界を歩き続けた。
 しかし、そんな僕の世界に突然眩い光が差し込んだ。
 目を瞑りたくなる。でも、よく見ると包み込まれる優しい光。
 心地よくて、あたたかくて、ずっと一緒にいたいと思える場所。

 「ナタリー」

 それからまともに動けるようになるまでずっと考えた。
 そして、気がついた。
 正確には、ずっと気がついていたけど目を背けてきた現実を受け入れた。

 「進みたい」

 そう願った僕の足元から山にまで続く道に光が差し込んだ。
 遅い。けど、歩み出した。屋敷へと向かって。
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