6 / 11
四話
3
しおりを挟む「お前、大学院に行けるのか?」
東京の下町にある下宿の二階を訪ねていた。
残暑が厳しい中、
狭い部屋に男が二人で向かい合うと、
かなり暑苦しい。
「行けるように頑張るよ」
俺たちは大学二年生。
本来四年間通えるはずが、
戦争で三年間に短縮されると決まった。
卒業後の進路次第では、
戦地に行く可能性が増える。
「遠子のため、だもんな?」
俺は彼の妹の遠子さんと結婚する予定だ。
わざわざ俺の顔を
覗き込むようにして聞いてくる。
照れて赤くなるのを狙って
からかっているのだ。
「……当たり前だろう」
努めて憮然とした表情を作って答える。
大学院に行ければ兵役を免除される。
それ以外は大半が入隊するのだから、
遠子さんのためにも目指すのは当然だ。
「しっかしお前、頭いいよなー。
大学院を目指すなんて
俺には考えられないね」
窓枠に寄りかかって、
開いた襟元をうちわであおぎながら、
にやにや笑っている。
いつだってこうやってからかうのだ。
「病院は兄がやってくれてるから。
俺は自由にさせてもらえる」
あえて無視して返事をすると、
さすがにつまらなそうな顔をした。
ようやくあきらめたらしい。
出会ったのは古本屋だったか?
農学部と医学部。
本来接点のない俺たちが
同学年とは言え親友になれたのは、
ひとえに彼の性格のせいだろう。
屈託ない――を通り越すいたずら好きで、
突拍子もないことを次々とやらかすから、
こちらも色々心配しつつ巻き込まれ、
どういうわけか互いの家族ぐるみで
付き合うほどの間柄になっていた。
遠子さんとはそんな中で知り合い、
こんなご時勢だからの一言で
秋には学生結婚することが決まっている。
最近はここぞとばかりに
そのネタで俺をからかうことに余念がない。
他愛ない会話をしていると、
誰かが階段を登ってくる足音がした。
「望月さーん、電報よ」
呼び声とともに戸が叩かれる。
「あ、ありがとうございます」
慌てて立ち上がって受け取りに出た。
閉まった引き戸の前で、
随分長く立ったままでいる。
電報を読んでいるのだろうが、
やけに長く動かない。
「どうした?」
「赤紙が来たらしい。俺に」
「……そうか」
「ちょっと家に帰る」
「……ブドウの収穫を手伝いに
俺も後から行くよ」
「おお、待ってる」
それ以上は何も言えずに、
俺は下宿を後にした――。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる