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第十三話 ドヘタのミレイ 前編
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ここ数日は門の外の林の中で魔法の特訓に費やした。
結局空は【風魔法】を駆使して飛ぶことで出来るようになった。
体全体に風を纏い、更に足の下や背中から追い風を送るような感じで自由自在である。
あるいは両手を広げてそれこそ鳥のように飛ぶことも可能になった。
これは……実に楽しい。
ただ集中しないと落ちてしまうので、結構スリリングである。
あと私は高所恐怖症でなくて良かったなぁと改めて思った。
絶叫系とかも好きな部類なので、その辺は問題ない。
そして【風魔法】はあっさりレベル10へと上がった。
どうやらレベル10が最高らしい。おまけにそれ以上進化したり派生したりも今のところは確認出来なかった。
余りにもあっけなく上がってしまったが、それだけ≪神の落し子≫の能力がチートなのだろうか。うーむ。
そして【空間魔法】であるが。
とりあえず空間を捻じ曲げることには成功した。具体的には手の一部分を別の所に出す、みたいな感じである。
これで届きにくかった背中もかけるようになったぞ!
また背中や頭のてっぺんを鏡を使わずに見ることも出来るようになった!
……だからなんだって話なんですけど。ええ。
まあテレポートとかはまだお預けのようだ。
ちなみに【空間魔法】はレベル5まで上がった。
結構上がったように見えるが、それだけ最初のイメージが難しかったこともある。
これはしっかり訓練しないと。
そんな魔法の特訓の最中ではあるが、出会ったモンスターはしっかりと倒すようにしている。
最近は【土魔法】などで相手の動きを止めてから【剣術】で倒すようにすると、同時にスキルのレベルが上がっていいな、と思って試しているところだ。
お蔭で【土魔法】はレベル6に、【剣術】はレベル4まで上がった。
勿論【探査】や【鑑定】もモリモリ上がってどちらもレベル8まで来た。
この手のスキル上げやレベル上げは本当に楽しいなぁ、とRPG大好きなおじさんは思うわけで。
あとモンスターから隠れるように行動していると【隠密】スキルを獲得した。
名前の通り、移動が相手に気付かれにくくなるようだ。便利なスキルである。
そして倒したモンスターを毎度ギルドに持ち込んで、片っ端から換金しているので、なんだかんだでお金は溜まってきた。
今後の予定としては……とりあえず他の町とかに行って、もう少しこの国というか世界を色々と知りたいと思う。
根無し草のヒッチハイク旅みたいなものだろうか。
そういうのにちょっと憧れていたので、楽しみである。
という訳で今日もスキルのレベル上げの為に門を出て近くの林に向かい、モンスターと戦い冒険者ギルドへと戻ってくると、ギルドの入口付近に女性が倒れていた。
黒いマーメイド調のロングドレスに大胆なスリット。そして艶やかな黒髪。顔は俯せで分からないがボディラインのとても素敵な女性だ。肌も色白で美しい。
私は慌てて彼女を抱き起こした。
「あの! 大丈夫ですか!?」
「だいじょーぶじゃないですぅ……」
顔もキリッとしていて可愛いというより美人な顔立ちだ。
黒髪なのに顔立ちは西洋風である。これはまたなんというか……見事な造形だった。
ただ返答が……余りにも残念である。なんじゃそりゃ。
そんな返答をされてしまうと、私もちょっと困ってしまう。
だが最低でも意識はあることが分かった。死んでたりすると流石に気まずい。
しかしここは冒険者ギルドの目の前だ。誰もが知らんぷりというのも……
「あっエリィちゃんそいつに声かけちゃったかー」
「えっ!?」
通りすがりの冒険者の人に声をかけられる。
最近毎日出入りをしているので、流石に顔と名前は憶えられている。
いやまあ色々と悪目立ちしたのもあるけれど……。
それでも、普通に接する分には害は無いと判断されているようで、皆フレンドリーに接してくれている。
いやらしい目付きとか一晩買わせろとかそーゆー輩は相変わらず股間に電撃で懲らしめているので、最近はほぼそういう目では見られなくなった。
まあきっと結構恨みは買ってるのかもしれない。
今でも遠巻きに私を見てギリギリと歯ぎしりとかする音が聞こえるしー。
でもそんなん知ったこっちゃないので。私の邪魔はしないでいただきたいものです。
そうこうしていると、冒険者の皆さんが集まってくる。
「『ドヘタのミレイ』なんか放っておけよ」
「えっと……良く分からないですけど、冷たいんじゃ……」
「そうですよ……つめたいですよ……」
弱りきった声で、倒れていた彼女も反論する。
「そうだよなーエリィちゃんは知らないもんなー」
「またかよ……お前も成長しろよー」
「毎度毎度こりねーなー」
がやがやと冒険者の皆さんどころか町の人まで野次馬感覚で集まってきた。一体どういうことだろう。
「なんやなんや!? お前らなにしてんねん!」
おっと、ギルドマスターのご登場だ。
「ってあぁ……ミレイか」
「みたいです……あのぅ」
「エリィじゃ分からんよなぁ……来い。説明したるわ」
所変わってこちらはギルマスの執務室である。以前お邪魔したこともあるので、今日は二度目のご案内だ。
「そいつはミレイ。サキュバスや。サキュバスって分かるか?」
「えっと……精気を食べる種族、でしょうか」
「まあ、あながち間違っとらんな。で、大抵のサキュバスは娼館とかで働いとる。ちなみに娼館って分かるか?」
「知識くらいは」
「そーか」
ギルマスはホッと一息。そりゃあ私のような自分の娘くらいの美少女に娼館を説明しろだなんて、例え仕事だったとしても私だって気まずい。いやどこぞのセクハラ上司なんかは嬉々としてやりそうだけど。
「で、こいつはさっきも回りから言われとったけど『ドヘタのミレイ』って呼ばれてんねん。まあつまるところ、そういうのが下手なんや」
「えっと……つまり?」
「こういうことや」
ふと彼女を見ると、ゴギュルルルルとすごい音がした。
「おなかすきましたぁ……」
ああ……つまり例えて言うなら剣も魔法も出来ない冒険者ってことね。そりゃあ大変だ。
おまんまの食い上げってやつですか。
「そんな有名人やさかい誰もこいつを買わへんし、普通に食事しても殆ど満たされへん。こいつが技術なりスキルなりを手に入れられたらええんやけど、流石にウチらではどーにもならんしな……」
流石のギルマスも頭をガシガシとかきながら困り顔だ。まあどうにもならないのは良く分かる。
そして、渦中のミレイさんといえば。
「お願いしますよぉ買ってくださいよぉ」
「アカンアカン!わいには大事な妻と娘がおんねん!」
「じゃああなた! あなたでもいいですからぁ!」
「ええっ私!?」
私もあなたと同じ女だぞ!? 女の子同士というのも……
いや中身はおじさんなのでまんざらでもないといえばそうなのだが。
何より彼女、見た目だけで言えばその辺のグラビアアイドルなんて目じゃないくらいの色っぽい体つきをしている。スラリとした細身がこれまた実に美しい。夏のビーチで一等賞なんか余裕だろう。都内を歩いていたら、十人が十人振り返るような女性である。おまけにマーメイド調のロングドレスはボディラインを際立たせ、思わず喉をごくりとやってしまいそうな……そんな、そんな見事な造形美の女性である。服装の色もそうだが、なんというか……未亡人のような儚さすら覚えた。
そんな感覚を覚えて、私もつい手を差し伸べてしまったのだが。
これをもし彼女が狙ってやっていたとすれば、随分と男を手玉に取る才能がお有りのようだ……が。
「男でも女でも精気なんて変わらないんですよぉ! そんなことよりお腹いっぱい食べさせてくださいよぉ!」
「そ、そういわれても……」
「お願いしますぅ! ただで! ただでいいですからぁ! 一晩だけでいいからご一緒させてくださいよぉ!!」
私のスカートにしがみついて離れそうにない。
見た目が綺麗系の美人さんだからこそ、余計に残念である。
具体的に言うなら、キリリとしたスーパーOLさんがのんだくれてへべれけになって絡み酒してるようなそんな感じである。
ああ勿体ない。
「一晩くらい、なんとかならへんか?」
「ちょっと! ガーリーさん!」
「阿呆その名前で呼ぶな! でもそうなったミレイは離れんからな。諦め」
「そんなぁ」
「お願いですう……ごはん……」
「はぁ……分かりました。退治したモンスターを換金したら一緒に宿に向かいましょう」
「ありがどうごじゃいまずぅ!! いっぱいがんばりまずがらぁ!!」
ミレイさんは涙ぼろぼろの洟ぐずぐずで、美人さんのカケラもない。ホント勿体ないなぁ。
「えっと……まあほどほどに……」
いやはや、異世界も大変だ。
という訳で、ギルドでいつものようにモンスターを渡し、換金を終えて私の腕に引っ付いて離れないミレイさんを引きずるようにして宿へと向かう。周りからの視線が生暖かかった。
「お帰り! ってアンタそれ……」
「えっと……まあ色々ありまして……」
「ウチはそういうのはちょっと、って言いたいとこだけどねぇ。ミレイじゃしょうがないさね」
おかみさんも呆れ顔だ。彼女、そんなに有名なのか。
「捕まっちまったのかい?」
「冒険者ギルドの前で倒れてまして」
「いつもの手だよ。アンタみたいに余所者にすがるくらいしか相手して貰えないのさ」
「はぁ」
「あの……もう限界ですぅ……」
「ああもう、仕方ないねぇ。食事はいつでもいいから、とりあえずなんとかしてきな」
「はい……すみません」
女三人でこの手の会話は……流石に気まずい。
やっとこさ部屋に到着。
さてさて。仕方がないのでさっさと始めることにする。
残念ながら描写は以下の通りである。
私の頭の中は不健全なものも多少はあるかもしれないが、描写出来る部分はここまでなのだ!
とゆーわけで。
「うぅ……よいしょ、よいしょ」
「うにうに、うにうにっと」
「むーん……ほーれすか?」
あーこれは駄目だわ。非道いわ。
おじさんは初めての女の子とのにゃんにゃんのはずなのに、こんなに私がなにも感じないとは思わなかったわ。
こりゃ男でやらなくて良かったわ。
そして町の人達のあの残念な反応がよぉく分かったわ。
こんなんされるくらいなら、そりゃ他の人買うわ……。いや一人でやった方が全然気持ちいいわ。
美人なのに、なんて残念なんでしょ。
「はぁ……今日もこれだけ……」
ミレイさんは、最低限は脱したようだが、お腹いっぱいには全然全くこれっぽっちも足りてないご様子。
仕方ない。一肌脱ぐか。
「あの……ちょっといいかな?」
「なんですか?」
「今度は立場を入れ替えてもいい?」
「へ? いいですけど」
私が彼女にご奉仕する番だ。
なぁに、今世でも前世でも初めてだが、おじさんは漫画とか映像とかで予習はバッチリなのである!
とゆーわけで第二ラウンド。以下は彼女の音声のみにて。
「えっ!? なにこれ!?」
「すごいですぅ! ひゃあぁあっっ!!」
「こんなの! こんなの知らないですぅ!!」
「だめぇ! もうだめですぅ!!」
「おっ!! おかしくなっちゃうぅ!!」
「ああっっ!! あっああーーっっ!! ああーーーーーーーっっ!!!」
……ふぅ。
よしよし満足。
改めて体感しているけれど……女の子って……凄いね。
終わらないんだね。
大体体感で一時間ほど経過したくらいか。
私はまだまだ元気だが、ミレイさんは気を失ってしまったので、私は一人水魔法で用意したぬるま湯で体を拭き、一階の食堂で食事を頂きに向かった。
今では水魔法でお湯も水もぬるま湯も自由自在なのである! 結構難しかったけど、私頑張った!
丁度ご飯時だったのだが、私が階段で下まで降りて顔を見せると、皆が私の方を向いて、そしてさっと眼をそらす。
……あれ?
「アンタねぇ……」
えっと……もしかして?
「次からは外で頼むよ。あんなに凄いんじゃ丸聞こえだよ」
恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
食事は全部食べたが、全く味が分からなかった。
うぅ……。私が悪いわけでは……。
翌朝。
ミレイさんが目を覚ます。
昨日のまま放置は流石にかわいそうだったので、ミレイさんも一通り綺麗にして一緒の布団で寝た。
服も布団も【クリーン】で水気は無い。【クリーン】は本当に便利な生活魔法である。
「はっ!?」
「おはよ。ミレイさん」
「おはようございますぅ。えっ!? あれ!?」
「どうしたの?」
「お腹……お腹いっぱいですぅ! こんなに!! こんなに幸せなのはじめてぇ!!」
「あーそれは良かった」
本当に良かった。
「うぅ……お腹いっぱいですぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
泣き出してしまった。
「あぁもう。よしよし。泣かなくていいから」
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
私はベッドの上で彼女を抱きしめ、頭を撫でる。
ミレイさんは、私の胸の中でいつまでも泣いていた。
何度も言うようだが……なんと残念な娘さんなのだろうか。
おじさん段々彼女が可愛く見えてきたぞ。
「とゆーわけで、これから私はエリィ様についていきますぅ!」
「おおそうか! 良かった良かった!」
「皆さんにはご迷惑をおかけしましたぁ! でもこれからはぁ! エリィ様と仲睦まじくお世話になりますぅ!」
私の腕に両腕を絡めたまま、彼女こと『ドヘタのミレイ』は、冒険者ギルドの中で、皆さんにそう宣言した。
「えっと……私の意思は」
「頼むよエリィちゃん」
「俺達じゃミレイの相手はちょっと」
「あいつがあんな元気なの見たことねぇんだ。頼むよ」
冒険者の皆さんが口々にお願いを圧力してくる。参ったな。
「ワイからも頼むわ」
「ガーリーさん」
「だからギルマスって呼ばんかい! ミレイは害がある訳やないんやけど、それでもみんなお手上げやってん。それにあいつ……ホンマ幸せそうやし」
「えへへー」
確かに。恋する女の子が好きな人と一緒にいるときの、デレッデレの顔だ。漫画かアニメでしか見たことがない。
幸か不幸か、私はこんな顔を向けられたのは初めてなので、少し照れてしまう。
「それともアレか? 好きな男でもおるんか? それともこれから告白予定か?」
「そんな相手はいませんしこれからも特にそんな予定はありません」
確かに肉体は女になったが私はちやほやされたいだけなので、恋愛対象を男に変更するつもりはないぞ!?
むしろお金を貯めたらハーレムなんかを作っちゃって……ってあれ? だったらこのままでいいのか?
「せやったら問題あらへんな。いやー流石やで、ホンマ懐深いわぁ! よっ! 好色勇者!」
「いや全くだ!」
「ちょ、ちょっと!?」
こうして、ギルマスや冒険者の皆さんに、なし崩しに決められてしまったのであった。
まあでも、美人さんだし私特に損してないし……いっかな?
「えへへー」
なでなで。おっとつい頭なでなでしてしまった。
前の世界なら立派なセクハラ案件なのだが、とりあえず彼女は私を訴えてはこないらしい。
おまけにちょっと喜んですらいるようだ。良かった。
結局空は【風魔法】を駆使して飛ぶことで出来るようになった。
体全体に風を纏い、更に足の下や背中から追い風を送るような感じで自由自在である。
あるいは両手を広げてそれこそ鳥のように飛ぶことも可能になった。
これは……実に楽しい。
ただ集中しないと落ちてしまうので、結構スリリングである。
あと私は高所恐怖症でなくて良かったなぁと改めて思った。
絶叫系とかも好きな部類なので、その辺は問題ない。
そして【風魔法】はあっさりレベル10へと上がった。
どうやらレベル10が最高らしい。おまけにそれ以上進化したり派生したりも今のところは確認出来なかった。
余りにもあっけなく上がってしまったが、それだけ≪神の落し子≫の能力がチートなのだろうか。うーむ。
そして【空間魔法】であるが。
とりあえず空間を捻じ曲げることには成功した。具体的には手の一部分を別の所に出す、みたいな感じである。
これで届きにくかった背中もかけるようになったぞ!
また背中や頭のてっぺんを鏡を使わずに見ることも出来るようになった!
……だからなんだって話なんですけど。ええ。
まあテレポートとかはまだお預けのようだ。
ちなみに【空間魔法】はレベル5まで上がった。
結構上がったように見えるが、それだけ最初のイメージが難しかったこともある。
これはしっかり訓練しないと。
そんな魔法の特訓の最中ではあるが、出会ったモンスターはしっかりと倒すようにしている。
最近は【土魔法】などで相手の動きを止めてから【剣術】で倒すようにすると、同時にスキルのレベルが上がっていいな、と思って試しているところだ。
お蔭で【土魔法】はレベル6に、【剣術】はレベル4まで上がった。
勿論【探査】や【鑑定】もモリモリ上がってどちらもレベル8まで来た。
この手のスキル上げやレベル上げは本当に楽しいなぁ、とRPG大好きなおじさんは思うわけで。
あとモンスターから隠れるように行動していると【隠密】スキルを獲得した。
名前の通り、移動が相手に気付かれにくくなるようだ。便利なスキルである。
そして倒したモンスターを毎度ギルドに持ち込んで、片っ端から換金しているので、なんだかんだでお金は溜まってきた。
今後の予定としては……とりあえず他の町とかに行って、もう少しこの国というか世界を色々と知りたいと思う。
根無し草のヒッチハイク旅みたいなものだろうか。
そういうのにちょっと憧れていたので、楽しみである。
という訳で今日もスキルのレベル上げの為に門を出て近くの林に向かい、モンスターと戦い冒険者ギルドへと戻ってくると、ギルドの入口付近に女性が倒れていた。
黒いマーメイド調のロングドレスに大胆なスリット。そして艶やかな黒髪。顔は俯せで分からないがボディラインのとても素敵な女性だ。肌も色白で美しい。
私は慌てて彼女を抱き起こした。
「あの! 大丈夫ですか!?」
「だいじょーぶじゃないですぅ……」
顔もキリッとしていて可愛いというより美人な顔立ちだ。
黒髪なのに顔立ちは西洋風である。これはまたなんというか……見事な造形だった。
ただ返答が……余りにも残念である。なんじゃそりゃ。
そんな返答をされてしまうと、私もちょっと困ってしまう。
だが最低でも意識はあることが分かった。死んでたりすると流石に気まずい。
しかしここは冒険者ギルドの目の前だ。誰もが知らんぷりというのも……
「あっエリィちゃんそいつに声かけちゃったかー」
「えっ!?」
通りすがりの冒険者の人に声をかけられる。
最近毎日出入りをしているので、流石に顔と名前は憶えられている。
いやまあ色々と悪目立ちしたのもあるけれど……。
それでも、普通に接する分には害は無いと判断されているようで、皆フレンドリーに接してくれている。
いやらしい目付きとか一晩買わせろとかそーゆー輩は相変わらず股間に電撃で懲らしめているので、最近はほぼそういう目では見られなくなった。
まあきっと結構恨みは買ってるのかもしれない。
今でも遠巻きに私を見てギリギリと歯ぎしりとかする音が聞こえるしー。
でもそんなん知ったこっちゃないので。私の邪魔はしないでいただきたいものです。
そうこうしていると、冒険者の皆さんが集まってくる。
「『ドヘタのミレイ』なんか放っておけよ」
「えっと……良く分からないですけど、冷たいんじゃ……」
「そうですよ……つめたいですよ……」
弱りきった声で、倒れていた彼女も反論する。
「そうだよなーエリィちゃんは知らないもんなー」
「またかよ……お前も成長しろよー」
「毎度毎度こりねーなー」
がやがやと冒険者の皆さんどころか町の人まで野次馬感覚で集まってきた。一体どういうことだろう。
「なんやなんや!? お前らなにしてんねん!」
おっと、ギルドマスターのご登場だ。
「ってあぁ……ミレイか」
「みたいです……あのぅ」
「エリィじゃ分からんよなぁ……来い。説明したるわ」
所変わってこちらはギルマスの執務室である。以前お邪魔したこともあるので、今日は二度目のご案内だ。
「そいつはミレイ。サキュバスや。サキュバスって分かるか?」
「えっと……精気を食べる種族、でしょうか」
「まあ、あながち間違っとらんな。で、大抵のサキュバスは娼館とかで働いとる。ちなみに娼館って分かるか?」
「知識くらいは」
「そーか」
ギルマスはホッと一息。そりゃあ私のような自分の娘くらいの美少女に娼館を説明しろだなんて、例え仕事だったとしても私だって気まずい。いやどこぞのセクハラ上司なんかは嬉々としてやりそうだけど。
「で、こいつはさっきも回りから言われとったけど『ドヘタのミレイ』って呼ばれてんねん。まあつまるところ、そういうのが下手なんや」
「えっと……つまり?」
「こういうことや」
ふと彼女を見ると、ゴギュルルルルとすごい音がした。
「おなかすきましたぁ……」
ああ……つまり例えて言うなら剣も魔法も出来ない冒険者ってことね。そりゃあ大変だ。
おまんまの食い上げってやつですか。
「そんな有名人やさかい誰もこいつを買わへんし、普通に食事しても殆ど満たされへん。こいつが技術なりスキルなりを手に入れられたらええんやけど、流石にウチらではどーにもならんしな……」
流石のギルマスも頭をガシガシとかきながら困り顔だ。まあどうにもならないのは良く分かる。
そして、渦中のミレイさんといえば。
「お願いしますよぉ買ってくださいよぉ」
「アカンアカン!わいには大事な妻と娘がおんねん!」
「じゃああなた! あなたでもいいですからぁ!」
「ええっ私!?」
私もあなたと同じ女だぞ!? 女の子同士というのも……
いや中身はおじさんなのでまんざらでもないといえばそうなのだが。
何より彼女、見た目だけで言えばその辺のグラビアアイドルなんて目じゃないくらいの色っぽい体つきをしている。スラリとした細身がこれまた実に美しい。夏のビーチで一等賞なんか余裕だろう。都内を歩いていたら、十人が十人振り返るような女性である。おまけにマーメイド調のロングドレスはボディラインを際立たせ、思わず喉をごくりとやってしまいそうな……そんな、そんな見事な造形美の女性である。服装の色もそうだが、なんというか……未亡人のような儚さすら覚えた。
そんな感覚を覚えて、私もつい手を差し伸べてしまったのだが。
これをもし彼女が狙ってやっていたとすれば、随分と男を手玉に取る才能がお有りのようだ……が。
「男でも女でも精気なんて変わらないんですよぉ! そんなことよりお腹いっぱい食べさせてくださいよぉ!」
「そ、そういわれても……」
「お願いしますぅ! ただで! ただでいいですからぁ! 一晩だけでいいからご一緒させてくださいよぉ!!」
私のスカートにしがみついて離れそうにない。
見た目が綺麗系の美人さんだからこそ、余計に残念である。
具体的に言うなら、キリリとしたスーパーOLさんがのんだくれてへべれけになって絡み酒してるようなそんな感じである。
ああ勿体ない。
「一晩くらい、なんとかならへんか?」
「ちょっと! ガーリーさん!」
「阿呆その名前で呼ぶな! でもそうなったミレイは離れんからな。諦め」
「そんなぁ」
「お願いですう……ごはん……」
「はぁ……分かりました。退治したモンスターを換金したら一緒に宿に向かいましょう」
「ありがどうごじゃいまずぅ!! いっぱいがんばりまずがらぁ!!」
ミレイさんは涙ぼろぼろの洟ぐずぐずで、美人さんのカケラもない。ホント勿体ないなぁ。
「えっと……まあほどほどに……」
いやはや、異世界も大変だ。
という訳で、ギルドでいつものようにモンスターを渡し、換金を終えて私の腕に引っ付いて離れないミレイさんを引きずるようにして宿へと向かう。周りからの視線が生暖かかった。
「お帰り! ってアンタそれ……」
「えっと……まあ色々ありまして……」
「ウチはそういうのはちょっと、って言いたいとこだけどねぇ。ミレイじゃしょうがないさね」
おかみさんも呆れ顔だ。彼女、そんなに有名なのか。
「捕まっちまったのかい?」
「冒険者ギルドの前で倒れてまして」
「いつもの手だよ。アンタみたいに余所者にすがるくらいしか相手して貰えないのさ」
「はぁ」
「あの……もう限界ですぅ……」
「ああもう、仕方ないねぇ。食事はいつでもいいから、とりあえずなんとかしてきな」
「はい……すみません」
女三人でこの手の会話は……流石に気まずい。
やっとこさ部屋に到着。
さてさて。仕方がないのでさっさと始めることにする。
残念ながら描写は以下の通りである。
私の頭の中は不健全なものも多少はあるかもしれないが、描写出来る部分はここまでなのだ!
とゆーわけで。
「うぅ……よいしょ、よいしょ」
「うにうに、うにうにっと」
「むーん……ほーれすか?」
あーこれは駄目だわ。非道いわ。
おじさんは初めての女の子とのにゃんにゃんのはずなのに、こんなに私がなにも感じないとは思わなかったわ。
こりゃ男でやらなくて良かったわ。
そして町の人達のあの残念な反応がよぉく分かったわ。
こんなんされるくらいなら、そりゃ他の人買うわ……。いや一人でやった方が全然気持ちいいわ。
美人なのに、なんて残念なんでしょ。
「はぁ……今日もこれだけ……」
ミレイさんは、最低限は脱したようだが、お腹いっぱいには全然全くこれっぽっちも足りてないご様子。
仕方ない。一肌脱ぐか。
「あの……ちょっといいかな?」
「なんですか?」
「今度は立場を入れ替えてもいい?」
「へ? いいですけど」
私が彼女にご奉仕する番だ。
なぁに、今世でも前世でも初めてだが、おじさんは漫画とか映像とかで予習はバッチリなのである!
とゆーわけで第二ラウンド。以下は彼女の音声のみにて。
「えっ!? なにこれ!?」
「すごいですぅ! ひゃあぁあっっ!!」
「こんなの! こんなの知らないですぅ!!」
「だめぇ! もうだめですぅ!!」
「おっ!! おかしくなっちゃうぅ!!」
「ああっっ!! あっああーーっっ!! ああーーーーーーーっっ!!!」
……ふぅ。
よしよし満足。
改めて体感しているけれど……女の子って……凄いね。
終わらないんだね。
大体体感で一時間ほど経過したくらいか。
私はまだまだ元気だが、ミレイさんは気を失ってしまったので、私は一人水魔法で用意したぬるま湯で体を拭き、一階の食堂で食事を頂きに向かった。
今では水魔法でお湯も水もぬるま湯も自由自在なのである! 結構難しかったけど、私頑張った!
丁度ご飯時だったのだが、私が階段で下まで降りて顔を見せると、皆が私の方を向いて、そしてさっと眼をそらす。
……あれ?
「アンタねぇ……」
えっと……もしかして?
「次からは外で頼むよ。あんなに凄いんじゃ丸聞こえだよ」
恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
食事は全部食べたが、全く味が分からなかった。
うぅ……。私が悪いわけでは……。
翌朝。
ミレイさんが目を覚ます。
昨日のまま放置は流石にかわいそうだったので、ミレイさんも一通り綺麗にして一緒の布団で寝た。
服も布団も【クリーン】で水気は無い。【クリーン】は本当に便利な生活魔法である。
「はっ!?」
「おはよ。ミレイさん」
「おはようございますぅ。えっ!? あれ!?」
「どうしたの?」
「お腹……お腹いっぱいですぅ! こんなに!! こんなに幸せなのはじめてぇ!!」
「あーそれは良かった」
本当に良かった。
「うぅ……お腹いっぱいですぅ……うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
泣き出してしまった。
「あぁもう。よしよし。泣かなくていいから」
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
私はベッドの上で彼女を抱きしめ、頭を撫でる。
ミレイさんは、私の胸の中でいつまでも泣いていた。
何度も言うようだが……なんと残念な娘さんなのだろうか。
おじさん段々彼女が可愛く見えてきたぞ。
「とゆーわけで、これから私はエリィ様についていきますぅ!」
「おおそうか! 良かった良かった!」
「皆さんにはご迷惑をおかけしましたぁ! でもこれからはぁ! エリィ様と仲睦まじくお世話になりますぅ!」
私の腕に両腕を絡めたまま、彼女こと『ドヘタのミレイ』は、冒険者ギルドの中で、皆さんにそう宣言した。
「えっと……私の意思は」
「頼むよエリィちゃん」
「俺達じゃミレイの相手はちょっと」
「あいつがあんな元気なの見たことねぇんだ。頼むよ」
冒険者の皆さんが口々にお願いを圧力してくる。参ったな。
「ワイからも頼むわ」
「ガーリーさん」
「だからギルマスって呼ばんかい! ミレイは害がある訳やないんやけど、それでもみんなお手上げやってん。それにあいつ……ホンマ幸せそうやし」
「えへへー」
確かに。恋する女の子が好きな人と一緒にいるときの、デレッデレの顔だ。漫画かアニメでしか見たことがない。
幸か不幸か、私はこんな顔を向けられたのは初めてなので、少し照れてしまう。
「それともアレか? 好きな男でもおるんか? それともこれから告白予定か?」
「そんな相手はいませんしこれからも特にそんな予定はありません」
確かに肉体は女になったが私はちやほやされたいだけなので、恋愛対象を男に変更するつもりはないぞ!?
むしろお金を貯めたらハーレムなんかを作っちゃって……ってあれ? だったらこのままでいいのか?
「せやったら問題あらへんな。いやー流石やで、ホンマ懐深いわぁ! よっ! 好色勇者!」
「いや全くだ!」
「ちょ、ちょっと!?」
こうして、ギルマスや冒険者の皆さんに、なし崩しに決められてしまったのであった。
まあでも、美人さんだし私特に損してないし……いっかな?
「えへへー」
なでなで。おっとつい頭なでなでしてしまった。
前の世界なら立派なセクハラ案件なのだが、とりあえず彼女は私を訴えてはこないらしい。
おまけにちょっと喜んですらいるようだ。良かった。
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