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猫盾

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○第四章「二人目」

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 そうして数日後、再びの納品日。
 二回目だけど、やっぱり緊張する。
 それに、今度の彼女は……何て言うか、未知の領域というか。

 と、そこで前回同様、外階段を誰かが上る気配と、続けざまにインターホンの音が。
 でも、今回のインターホンは一回では鳴り止まず、落ち着きなく連打されたような音になっていた。

「は、はい、はい」

 その、急かすような音に慌てながら、玄関を開けた僕。
 するとそこに立っていたのは……気だるそうな表情でタバコを吹かす、如何にもギャル系なファッションに身を包んだ響だった。

「……あ~つっかれたぁ」

 と、少し呆然としている僕を余所に、ズカズカと部屋に入っていって、ソファに座り込む響。

「飲み物ないの~?」
「え!? あ、えと、コーラでいい?」
「太るじゃ~ん、マジつかえね~……茶~くらい買っておくでしょ普通」

 響は心底呆れたような声を出しつつ、携帯灰皿を取り出して、タバコを潰す。

「ご、ごめん……なさい」
「はぁ~~……つまんないな」

 なんとも気まずい雰囲気……こ、これは……どうにかしなくちゃ!

「あ、げ、ゲームでもする? 色々あるよ?」

 僕は棚から、ゲームのコントローラーや携帯ゲームを出してみせた。こういうギャルっぽい子でも、ゲームなら楽しめるんじゃないかって……

「アンタとやっても盛り上がらないっしょ絶対……」

 でも、冷たく流されてしまった。

「……」
「……」

 どうしたら……いいんだ? 何を話せばいいんだろう?
 何かもう、僕の全部を否定されてしまっている気がして……とても悲しいと言うか、居た堪れない気持ちになった。
 自分の部屋なのに……何なんだろう、このアウェー感……

「――もういいや、ちょっと遊んでくんね~……」

 すると突然、響はソファから立ち上がり、部屋を出て行こうとした。

「……え?」
「あ、お小遣いちょうだい」

 そして、さも当然であるかのように、僕にお小遣いを要求してくる響……
 その表情には、僕に対する感情は何も込められていないように思えた。

「な、なんで……?」
「なんでって? 保護者でしょ?」
「そうなんだけど、なんで外行くの?」
「だってここ居てもつまんないし」
「だ、だめだってば」
「なんでよ」
「自分が何なのか分かってるの?」
「なあにぃ? 私がアンタだけのものだと思ってんの~? 超うざいんだけど」

 明らかに、バカにしたような顔で嘲笑う響……

「そ、そういう事じゃなくて」
「じゃあなんだってのよ、いいからお金出しなさいよ」

 何で、そんな平気な顔で、金をせびれるんだ……?
 何で、僕をそんな目で見るんだ……?
 響は……そんな目はしなかった。僕を、見下すような目はしなかった……

「お前……本当に彼女なのか?」
「何言ってんの! 早く金出せよ!」

 響は……そんな汚い言葉を使わなかった……そんな表情は、しなかったんだ。
 だからこいつは、違う……違うんだ!

「お前は彼女じゃない……」
「何わけの分かんない事言ってんの!? この顔と声、忘れたっての!?」
「違う……違う違う! 彼女はお前みたいな女じゃない!!」
「あ~もういいよ! 適当に男引っ掛けておごらせるから! ば~か!」

 そんな事、許せるわけがないっ……

「待て……」

 僕は、部屋を出て行こうとする人形の腕を掴み、止めた。

「ちょ、痛いんですけど~!? 離しなさいよ!」

 こいつは人形だ。彼女じゃないんだ。
 だけど、確かに……顔と声は同じだ。
 同じ……同じだからこそ……許せない……

「その顔で」
「ちょ…ちょっと! 本当に痛いってば!」
「その声で……」
「離してってば! 離せよバカ! こら!」
「そんな汚い言葉をつかうなああああ!!!」

 僕は、人形の頭を掴み、床に叩きつけた。

「お前じゃない!!」

 そして、拳を振り上げては人形の顔目掛けて……

「お前じゃない!!」

 何度も、何度も、何度も……
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