5 / 8
○第四章「二人目」
しおりを挟むそうして数日後、再びの納品日。
二回目だけど、やっぱり緊張する。
それに、今度の彼女は……何て言うか、未知の領域というか。
と、そこで前回同様、外階段を誰かが上る気配と、続けざまにインターホンの音が。
でも、今回のインターホンは一回では鳴り止まず、落ち着きなく連打されたような音になっていた。
「は、はい、はい」
その、急かすような音に慌てながら、玄関を開けた僕。
するとそこに立っていたのは……気だるそうな表情でタバコを吹かす、如何にもギャル系なファッションに身を包んだ響だった。
「……あ~つっかれたぁ」
と、少し呆然としている僕を余所に、ズカズカと部屋に入っていって、ソファに座り込む響。
「飲み物ないの~?」
「え!? あ、えと、コーラでいい?」
「太るじゃ~ん、マジつかえね~……茶~くらい買っておくでしょ普通」
響は心底呆れたような声を出しつつ、携帯灰皿を取り出して、タバコを潰す。
「ご、ごめん……なさい」
「はぁ~~……つまんないな」
なんとも気まずい雰囲気……こ、これは……どうにかしなくちゃ!
「あ、げ、ゲームでもする? 色々あるよ?」
僕は棚から、ゲームのコントローラーや携帯ゲームを出してみせた。こういうギャルっぽい子でも、ゲームなら楽しめるんじゃないかって……
「アンタとやっても盛り上がらないっしょ絶対……」
でも、冷たく流されてしまった。
「……」
「……」
どうしたら……いいんだ? 何を話せばいいんだろう?
何かもう、僕の全部を否定されてしまっている気がして……とても悲しいと言うか、居た堪れない気持ちになった。
自分の部屋なのに……何なんだろう、このアウェー感……
「――もういいや、ちょっと遊んでくんね~……」
すると突然、響はソファから立ち上がり、部屋を出て行こうとした。
「……え?」
「あ、お小遣いちょうだい」
そして、さも当然であるかのように、僕にお小遣いを要求してくる響……
その表情には、僕に対する感情は何も込められていないように思えた。
「な、なんで……?」
「なんでって? 保護者でしょ?」
「そうなんだけど、なんで外行くの?」
「だってここ居てもつまんないし」
「だ、だめだってば」
「なんでよ」
「自分が何なのか分かってるの?」
「なあにぃ? 私がアンタだけのものだと思ってんの~? 超うざいんだけど」
明らかに、バカにしたような顔で嘲笑う響……
「そ、そういう事じゃなくて」
「じゃあなんだってのよ、いいからお金出しなさいよ」
何で、そんな平気な顔で、金をせびれるんだ……?
何で、僕をそんな目で見るんだ……?
響は……そんな目はしなかった。僕を、見下すような目はしなかった……
「お前……本当に彼女なのか?」
「何言ってんの! 早く金出せよ!」
響は……そんな汚い言葉を使わなかった……そんな表情は、しなかったんだ。
だからこいつは、違う……違うんだ!
「お前は彼女じゃない……」
「何わけの分かんない事言ってんの!? この顔と声、忘れたっての!?」
「違う……違う違う! 彼女はお前みたいな女じゃない!!」
「あ~もういいよ! 適当に男引っ掛けておごらせるから! ば~か!」
そんな事、許せるわけがないっ……
「待て……」
僕は、部屋を出て行こうとする人形の腕を掴み、止めた。
「ちょ、痛いんですけど~!? 離しなさいよ!」
こいつは人形だ。彼女じゃないんだ。
だけど、確かに……顔と声は同じだ。
同じ……同じだからこそ……許せない……
「その顔で」
「ちょ…ちょっと! 本当に痛いってば!」
「その声で……」
「離してってば! 離せよバカ! こら!」
「そんな汚い言葉をつかうなああああ!!!」
僕は、人形の頭を掴み、床に叩きつけた。
「お前じゃない!!」
そして、拳を振り上げては人形の顔目掛けて……
「お前じゃない!!」
何度も、何度も、何度も……
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる