気まぐれ魔竜

猫盾

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○プロローグ「どちらかというと魔王」

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 テリブルアント―ー
 それは体長2メートルを超える殺人アリの名称である。
 時には人の集落を襲い、一夜にして壊滅させてしまう事もある、恐ろしいモンスターだ。

 奴らは主に山を刳り貫いて、洞窟状の巣を作って生活している。
 基本的な習性は普通のアリと同じだが、奴らは仲間が殺されると、殺した相手を集団で襲うという特徴がある。

 なぜいきなりこんなモンスターの説明を始めたかと言うと……俺の最近のマイブームが、このテリブルアントの習性を利用したレベル上げだからだ。

 そんなワケで俺は今、奴らの巣穴前に居る。背中に、テリブルアントの死体を担いで。

 巣穴の奥からはこちらを伺うような視線を感じる。俺が、自分の仲間を殺した仇なのかどうかを見定めているのだろう。

 俺は死体をこれ見よがしに巣穴の前に降ろし、離れる。
 そして用意しておいた休憩用の椅子に座り、茶を啜る。
 ショーの前の一服と言ったところだ。
 
 そうして喉が潤ったところで、懐から投げナイフを取り出し、先程置いたアリの死体に向かって投げつける。

 まるでダーツを楽しむかのように何本も、何本も……

 その行為に、俺と言う人間が明らかに自分達の敵であると判断したアリ達が、巣穴からわらわらと溢れ出してきた。
 仲間を殺し、あまつさえその死体を弄ぶ俺に対し、復讐するために。

 怒りに我を忘れ、一直線に俺に向かって突進してくるアリ達……

 だが、奴らの攻撃が俺に届く事はなかった。

 巣の出口、その上空に無数の魔方陣が展開し、そこから強力な魔法の矢が発射される。
 その一撃は、強固で知られるテリブルアントの体を容易く貫き、命を奪う。
 巣穴からは次々と仲間の仇を取ろうとしてアリ達が出てくるが、雨のように降り注ぐ魔法の矢は自動的にアリを攻撃し、死体の山を築いていく。

 そう、この魔方陣は俺が予め発動させておいたものだ。
 俺はただ茶を啜りながら、目の前の惨劇を見物……それだけで、経験値が面白いように貯まっていく。

 勿論、こんな芸当ができるのは俺だけだ。並の魔道士では、そもそも一撃でテリブルアントを殺せるほどの火力は出せないだろうし、すぐにMP切れを起こすだろう。

 何故俺がこんな事ができるのかと言えば、単純に、俺が天才だからである。

 人は俺を、勇者に最も近い男と呼ぶ。ギルドに所属している傭兵の中では一番の実力者で、おまけに顔もイイ。

 しかし一方で、魔王に最も近い男とも呼ばれている。それは俺が、このようなやり方でレベルを上げまくり、何種類ものモンスターを絶滅に追い込んでいるからだ。

 まあ、半分はただの妬みなんだろうがな。このやり方だって、実力が無ければできないのだから。要するに俺は、運命に選ばれし者なのだ。

 ――と、魔法による爆音に混じって、携帯電話の呼び出し音が微かに聞こえてきた。
 俺はこの、優雅な一時を邪魔された事に少しイラつきながらも、懐から携帯電話を取り出す。

「誰だ?」
『誰だじゃない、リグお前、どこうろついてるんだ!?』

 この声は……ギルドマスターだな。普段なら一傭兵に直接声をかけることなんてないのだが、俺は別だ。

 ああちなみに、リグってのは俺の名前だ。イカす名前だろ?

「俺がどこいようと勝手だろ。で、何だ? また戦争に派遣するんじゃねえだろうな?」
『お前を戦争に使うとすぐ金で寝返るから、信用ががた落ちだ! ともかく戻って来い、お前にしかできなさそうな仕事だ!』
「やだね。今お楽しみの最中だ」

 実際俺くらいのレベルになると、こんなやり方でモンスターを虐殺してもレベルは中々上がらない。
 だからこれも、レベル上げが目的というより娯楽の為という意味合いが強い。

『とにかく、依頼のデータを送るから目を通せ! いいな!』
「だからやだって……チッ……切りやがった」

 そしてすぐ、携帯電話に依頼のデータが送信されてきた。
 一応開いて見ると……何だこりゃ。依頼主は聞いた事もないような村の村長じゃねえか。なんでこんなしょぼい仕事を俺に……

 ん? 生贄? この写真は……

 ――と、俺が写真に目を凝らしたその時、地面が大きく揺れるのを感じた。

「おっと……来たな」

 そうして何度目かの地響きのあと、巣穴から……巨大なアリの足が出てきた。どうやら女王様がお出ましになられるようだ。

 俺は一旦電話をしまい、立ち上がる。
 折角の女王様だ、こいつまでトラップの餌食にしてしまうのは、勿体無い。

「さあてそれじゃ、仕上げと行こうか!」

 トラップに倒れた働きアリ達の死体の山……それを越える巨躯を持つ女王アリが、巣穴の入り口を壊しながら現れる。

 何とも言えない叫び声をあげる女王アリ……それは、子供を殺された悲しみか、それとも俺への怒りの声か……

「まあどっちでもいいがな。とりあえず死ね!」
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