気まぐれ魔竜

猫盾

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○第一話「基本、人でなし」

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「やっと来たか……その格好を見る限り、どうせまたどこかのモンスターを虐殺してたんだろ」
「まあな。で、この写真の娘……村長の孫か?」

 ギルド本部、マスターの部屋にて。
 送られてきたデータにあった写真をマスターに見せる。
 その写真には、一人の亜人の少女が写っている。
 亜人とは、人間に近いが人間ではない……という、微妙な立ち位置に居る種族の事だ。
 身体的な違いは、耳が尖っている事と髪の色素が極端に少ない事くらいだが、人間は彼らを下に見る傾向にある。

 そもそも亜人と言う呼び方も人間が勝手につけたものであり、長い歴史の中で、両者の間には埋めようも無い溝ができているのだ。

「亜人の依頼だからって断るなよ? 今回の依頼はな、バックに色々事情が――」
「そんなもんどうだっていいんだ。この娘が村長の孫で、次の生贄なんだな? で、この娘を助けりゃいいんだな?」
「……ああ、結果的にはそうだな」
「ふふん。なら条件次第で受けてやる」
「……嫌な予感丸出しだな……まあいい、じゃあ依頼主を酒場に呼んでおくから、直接交渉しろ。それと、一応風呂入って行けよ。モンスターの血の匂いがすげ~から」

 ホテルにて、言われた通りに入浴を済ませた俺は、鏡の前で自分の体を見る。
 うむ……素晴らしい。何がって、ほぼ無傷であると言う事が。

 ギルドに所属している高名な傭兵の殆どは、禿でマッチョなゴリラばかりだ。
 そしてそういう奴らはいつも、自分の体にある名誉の負傷の跡を自慢しあっている。

 しかし俺から言わせればそれらは、自分がヘマしたからついた傷跡なのであって、何の自慢にもならない。
 その点俺は、ほぼ無傷。しかも筋肉だって無駄につけてないし、スマートだ。どっちがカッコイイかは一目瞭然だろう。

 とまあ、いつまでも自分の体を見ていたい気持ちは山々だが、一応人に会う約束があるからな。服を着なければ。
 黒を基調としたローブと、とんがり帽子……いかにも力のある魔法使いという格好が、俺の正装、というか仕事着?

 特徴がない? 何を言う、ここまで魔法使いらしい格好ともなると、生半可な魔法使いじゃ逆に着こなせない。俺ほどの大魔法使いでなければ、ただのコスプレになってしまうからな。

 約束の場所はギルドが経営している酒場だ。
 表向きはただの酒場だが、ここには世界情勢やら何やらの噂が集まる。
 まあ俺がその恩恵を受けたと実感できた事はないが、ギルドとしては色々役に立つ情報があるんだろう。

 カウンターに着き、バーテンに合図を送る。
 と、そのバーテンからまた合図を受けて、一人の亜人の爺が俺の横に座った。
 いかにも田舎の村の村長って感じの爺だな。

「貴方がリグさんですか」
「おい。リグ『様』だろぉ?」
「あ、ああはい、すみませんリグ様」
「ふん。で、依頼の話を詳しく教えろ」
「は……? 依頼書はお読みになったんじゃ?」
「んなもん全部読んでられるか。重要なところしか見てねえよ」
「重要って……で、ですから、わが村を脅かす魔竜を退治していただきたいのです」
「……んあ~……で、その魔竜ってのが村の娘を生贄に取ってるってのか?」
「ええ、そうです。今までも何人か傭兵を雇い、魔竜討伐を依頼してきたのですが……誰も魔竜を倒す事ができませんでした。そうこうしている間に、年頃の娘は私の孫娘のみに……」
「……はぁん。で、俺に行き着いたってか」
「はい。どうか……どうかお願いします」

 妙だな。
 確かにその魔竜が強力で、他の傭兵どもじゃ倒せないのかもしれないが……俺に劣らず金にうるさいギルドマスターが、こんなしょぼくれた爺の依頼を受けるものだろうか?
 そういやバックに事情がどうとか言ってたが……

「アンタ、金持ちなのか?」
「……私はただの、亜人の村の長に過ぎません。そう、勘ぐらないでください」
「ふん、まあいい。だが俺が依頼を受けるには、金以外に条件がある」
「なんですか?」
「お前の孫だ」
「……は?」
「お前の孫をよこせ。何、嫁にもらうって意味じゃない。物として所有させろ」
「……い、意味がちょっと」
「鈍いな、ボケてるのか? 俺が抱きたくなったらいつでも抱ける女にさせろっての。気が向いたらお前の村に行って、お前の孫を抱く。そして跡腐れなく出て行って、また気が向いたらお前の孫を抱きに来る……分かるか?」
「そ、そんな……それではまるで、娼婦か何かと同じじゃないですか!」
「嫌ならいいんだよ、俺やらねえから。マスターに泣きついても無駄だぞ、俺がそういう奴だって事は重々承知のはずだから」
「…………分かりました。仕方ありません……」

 ――魔竜。
 その名の通り、魔法を操る事ができる竜とされているが、その時点で他の竜族とは一線を画す存在と言える。
 だがそれ以外は一切謎で、人語を解するだの、息をするだけで周囲の命を奪うだの……眉唾物の噂が沢山ある。

 そんな相手だから、この爺が言う魔竜ってのが本当にその魔竜なのかすらも怪しいものだ。

 しかしまぁ、仮に本物だとしても……俺には自信があった。
 自分で言うのもなんだが、この世界で俺に勝てる奴なんてもうどこにもいないと思っている。
 それこそ、自分自身と戦うハメにならない限りは。


 そして数日後、爺の案内で村へ。
 何となく予想はしていたが、なんともまあ、地味な村だ。
 それに加えて、香でも炊いてるのか知らんが、村中が葬式臭いっつうか。

 ……しかしそんな事よりも、見渡す限り若い娘が一人も居ない。
 爺が言うとおり、生贄に取られたせいだろうが……色気がないってのは致命的だな。婆とガキしかいねえ。

 それでも村長の家に行くと、例の孫娘がいたのでマシだった。
 やはり、写真で見るより実物は何倍もイイ。ほんのりと褐色の肌に映える、銀色の長い髪。そして肉感的なボディラインと、それとは対照的に清楚な顔立ち……

 たまらんね! 今すぐそのデカ乳にむしゃぶりつきたいところだ!

「これが、孫のアルです……アル、こちらは傭兵のリグ、様だ。挨拶を」
「……こん、にちは……」

 アルは一瞬だけ俺の顔を見たが、すぐに奥へ引っ込んでしまった。
 恥ずかしがってるのか、それとも恐れているのか……いいぞ、ああいう奥ゆかしい娘に色々教え込むのは楽しいからな。

「むふふふ……」
「リグ様? あの、聞いてますか?」
「……あ? なんだ爺、まだいたのか?」
「……と、ともかく、今日のところはこの家でお休みください」
「ふうん。あ、ちょっとつまみ食いしてもいい?」
「だ、だめです! 依頼料は既に前払いしているので、それ以上の事は、魔竜を倒してからにしてください」
「チッ……じゃあ依頼達成したら、その分ものすっごいプレイさせっからな!?」
「も、ものすっごいって……」

 と言いつつ、その日の夜、俺はこっそりとアルの部屋へと向かった。
 爺との約束など、知った事ではない。俺は、俺のやりたいタイミングでやりたいのだ!

 アルの両親は既に他界しており、この家にいるのはあの爺とアルだけらしい。
 どうせ爺はさっさと寝ただろうし、ちょろっと味身するくらいならバレないだろう。アルのあの感じじゃ、爺にチクったりもできないだろうし……どの道、魔竜倒した後は俺のものになるんだからな!

 木製のドアをそーっと開け、室内に侵入成功。
 やはりこういう田舎の家じゃ、部屋ごとの鍵なんてついてないんだな。好都合だ。
 ベッドの膨らみ……アルももう寝ているようだ。こんな田舎じゃ、夜更かししても面白い事なんて何もないだろうからな。

 でも今日からは違う! 俺が、楽しい夜の過ごし方と言うものを教えてやろう!
さあて……いただきま~~す!

「いやんばかん」
「……じ、爺! 何してやがんだあああ!!」


 ――翌日、大怪我した爺が広場で発見された。何とか一命を取り留めたらしいが、あのくそ爺、俺が夜這いかけると踏んで、アルと摩り替わってやがった。ろくな事しねえな……
 
 そんなわけで、朝っぱらからテンション下がりまくりなわけだが……まあいい、魔竜を殺せば、アルを堂々と抱けるんだ……それだけを楽しみに、やるしかねえ。

 魔竜の棲家である塔は、近隣の森林地帯の中にある。
 塔は相当大きなものらしく、村の中からでもその天辺が見えていたくらいだ。
おかげで特に案内されなくとも辿り着けそうだ。

 森に入り、塔に近づくに連れて魔力の流れのようなものを感じるようになった。風と共に清涼感のある空気が体を撫でるのが分かる。

 ……魔竜がいるからか?
 しかし命を奪う息を吐くって噂とは、随分イメージが遠い気がするが……まさか噂を気にして、口臭ケアしてたりして?

 道中は特に問題なく進み、塔前へ到着。
 塔は巨大だが、かなり古いものらしく、ほぼ廃墟だ。
 内部は一階から天辺までの天井が完全に抜け切っており、吹き抜け状態になっていると言う。想像するに、魔竜はこの塔の天辺から出入りしているのだろう。

 さて、一頻り説明し終えたところで、そろそろ中に入るとしよう。
 誰に説明してたんだっていう野暮な質問は受け付けない。胸に手を当ててよく揉んでみろ。

 今にも朽ち果てそうな、巨大な扉を押し開く。
 ギィーっという、如何にも立て付けが悪くなったような、嫌な音が塔内に響く……
 ――と、その時、

「何者だ……」
「あん? お前こそ誰だ。人に誰だと尋ねるときは、自分が誰なのかを先に名乗れと教わらなかったのか? 俺は教わってないが」
「この力は……貴様、どうやってそこまでの魔力を……」

 塔の奥から、威圧的な声が聞こえてくる。
 それと共に、何か巨大なものが動いているという気配も感じる。

 つまりこの声は、魔竜の物という事か。噂どおり、人の言葉が分かるようだな。

「村長に頼まれたのか? どこから連れてきたのか知らんが……よかろう、ここまで来い」
「何でお前、ちょっと上から目線なんだよ。言われなくても殺しに行くっつうの」

 入り口から暫く通路を歩いた先の大広間に……魔竜はいた。
 巨大な翼と手足……広間の半分以上を占める巨躯……確かに中々の迫力だ。

「……貴様は自分が今、どのような状態にあるのか分かっているのか?」
「お前こそどういう状況か分かってるんだろうな? 今から俺に殺されるんだぞ?」
「ふん……よかろう。どの道貴様を見過ごすわけには行かない。生きて帰れると思うな」

 魔竜が上半身を起こし、二足で立つ。そして雄叫びと共に自身の魔力を解き放つ。
 魔竜と呼ばれるだけはある……久しぶりにいい経験値が稼げそうだ!

「ふはは! いいぞ、ここ最近で一番お前が強そうだ! 少しは楽しませてもらわないとな!」

 俺はいつものように、無詠唱で魔方陣を多重展開する。

 さあ、楽しい戦闘の始まりだ!!
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