気まぐれ魔竜

猫盾

文字の大きさ
3 / 6

○第二話「どうしてこうなった……」

しおりを挟む

 どうしてこうなった……

 そりゃ確かに、今まで色々してきた。小銭の為に弱いモンスターだって容赦なく殺すし、魔族が支配しているというダンジョンを建物ごと破壊してレベル上げたりとかもした。

 だが、そのおかげで助けられた奴もいたはずだし、決して悪い事ばかりではなかったはずだ。

 俺はレベルが高い。確か今、3629だったと思う。
 ギルドのナンバー2のレベルが78だから、実力は推して知るべしという所だ。
 ここまでレベルを上げるにはそれなりの苦労があった。俺が傍若無人に振舞えるのも、そうした努力あってこそできる芸当なのだ。

 まあ尤も、生まれた時からレベルが150くらいあったんだけど……
 だとしても努力はした。努力は報われるべきだ。こんな目に遭うために大量虐殺してきたわけじゃない!

 俺は今……死にかけている。
 いや、魔竜相手に殺されるわけじゃない。魔竜と言えど俺の敵ではなかったのだ。

 だが……ともかく、時間を遡って何があったのかを見てみよう。


 ――2時間ほど前


「ふははははは! 死ね死ね死ねぇ!! あの娘は俺のものだ!!」

 俺は高らかに笑い、常人には不可能なほど魔法を連射しつつ、素手で魔竜の鱗を砕いていく。

 そう、俺は魔法使いではあるが、格闘術だって極めている。
 レベルに裏打ちされたSTRとAGI……そこから繰り出される拳は、黄金の鉄の塊でさえ砕くのだ!

 一方魔竜は激しい攻撃を受けて、反撃の体勢をとる事もままならない。悲鳴にも似た鳴き声をあげつつ、防御し続けるのがやっとだ。
 だがそれでも魔竜の意地があるのか、なんとか隙を縫い、巨体を唸らせながら手を振り下ろしてきた。俺を叩き潰そうと……

 だが! 俺はそれを避けようともせずに受け止める!

「それがどうした! ふはははは!!」

 俺は、自分の頭に乗っかっている魔竜の拳に向かって魔法を打ち込む。
 それによって魔竜の腕に衝撃が走り抜け、その所々から血が噴出す。
 魔竜はさすがに痛みに耐え切れなかったのか、後退りして座り込んでしまった。

「ぐうぅぅ……貴様、本当に人間か……?」
「神様かもしれねえぞ?」
「……確かに、貴様の力は異常だ。なればこそ、この世に貴様のような存在を放置しておくわけにはいかんな……」
「そんな状態で何を言ってやがる! いいから死ね!」
「ああ、我は死ぬ。だが……それは貴様をこの身に封じてからだ!」
「!?」
 魔竜から突然、激しい閃光が発せられ、俺は視界を失う。そして何か、引き寄せられるような感覚と共に、竜の咆哮が聞こえてきて……

 ――気がつくと、辺りは静けさを取り戻し、魔竜の姿は消えていた。

 あれはただの目潰しだったのか? 俺が目を眩ませていた間に逃げたのか?
 しかしそれだけにしては、いてぇ。それに、体が全然動かない。
 てか、何で倒れてんの俺。やばいくらい血が出てる感覚が……

「グ……グフゥー……?」

 痛みに声を漏らす、と……なんだこの、野太い声は。
 いや、野太いとか言うレベルじゃない。これじゃまるで、モンスターか何かの吐息のような……

 あ……分かってしまった。消えたのは竜じゃねえ、俺の方だ。
 そして今、俺の意識があるのは……あの魔竜の体の中なのだ。


  ――で、現在。

 今の俺の体は、巨大な爬虫類系の体。顔だって当然、そこらの奴は見ただけで腰抜かすような竜の顔。かつてのパーフェクトボディは失われ、何人もの女を虜にした美青年フェイスも失われた。
 奴が最期に何をしたのかは分からないが、あの言葉の通りなら……俺はあの魔竜の体に封印されてしまったと言う事らしい。

 勿論どうすれば治るのかなんて分からない。それに……そうのんびりもしていられない。

 この体は、俺自身が散々痛めつけた魔竜の体だ。やばいくらいの出血を感じる。
 幸い体がでかいせいか、じっとしていれば痛みは少ないが、それでも死にそうだと言う事は分かる。

 なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ……
 俺は、俺自身の目的はどうあれ魔竜を退治しようとしたんだ。俺は良い事をしようとしていたはずだ。

 なのにこの仕打ちは何だ? 
 何で俺が封じられなきゃいけないんだ?
 何で俺が死にそうになってるんだ?

 納得いかん!

 ああでも、もうだめだ、出血が止まらん……段々力が入らなくなってきた。意識も薄れてきた気がする。

 あ~あもう……大体生き残れたとしても、こんな体じゃ女も抱けない、酒も飲めない。
 俺の輝かしい黄金の日々……こんな終わり方で良いのかよ……

 …………

 ――ん……?

 んん? 
 何か、暖かいものを感じる。腹の辺りに……何かいる?
 目だけを動かして、その何かを確認する。

 するとそこにいたのは……アル、だった。視界は少し霞んでいるが、間違いない……俺が美人を見間違うわけないからな。

 アルは、この巨体に対して余りに小さなその体で、決して強力ではない回復魔法を一生懸命かけ続けていた。
 尤もあの出力では、手をかざしている一帯の怪我を治すくらいしか効果は無いだろうが……

 しかしなぜだ? まだ人間だった頃の俺にすら怯え、隠れてしまったような娘が……他の誰もが恐れを成す様な竜を、回復しようとするなんて……

 それに、生贄にされるはずだったんだろ? なんで魔竜を助ける?
 それとも、もしかして俺が魔竜に封じられたのを知っているのか?

 俺は何とか話をしようと口を開くが、上手く人間の言葉にならない。
 さっきの魔竜はどうやって喋っていたんだ?
 口の構造が人間とは違うから、どうやって発声するのかも分からない。
 長年の経験とやらがあれば、こんな口でも人間の言葉が紡げるのかもしれないが、今の俺は新米ドラゴン。すぐには無理そうだ……

「だ、大丈夫、ですか?」
「グウウウ……」
「あの、男の人……逃げたんでしょうか? それとも……」
「……ウウウ……」
「酷い怪我……でも、生きていてくれてよかった……」

 どうやらこの娘、俺が死んだか逃げたかしたと思っている。
 つまり本当に魔竜を心配して回復魔法を使っているという事だ。

 生贄にされるはずの娘がする事じゃないよな……


 結局、アルは日が変わっても休まずに俺の体を回復し続けた。そのおかげで俺はなんとか一命を取り留めたようだ。

 そしてアルは、俺の容態が安定したことで安堵と共に疲れが出たのか、朝方、俺に寄りかかる姿勢で深く眠り込んでしまった。

 ……う~む、助かったのはいいが、これでは暫く動けそうもないな。ヘタに動くとアルを潰しちまいそうだし、そうならなくても起こしてしまうのは可哀想だ。

 仕方ない、どうせ動けないのなら、今のうちにゆっくりと状況を整理しよう。

 村長から聞いた話をまとめると、魔竜は毎月、生贄の娘を献上させていたと。
 それが適わなければ村を襲うと言われ、仕方なく応じてきたが、その間も傭兵を雇ったりして魔竜退治を試みていた。
 だが失敗し続け、遂には自分の孫娘の番にまで来てしまったと。

 で、アルがその孫娘なわけで、アルにとってこの竜は、最も恐れるべき相手のはずだ。

 だがアルは、竜となった俺の傷を癒し、今まさに安心しきった表情で俺に体を預け、眠っている。
 この娘が単なる変わり者だと言ってしまえばそれまでだが……本当にそれだけなのか?

 それに、依頼を受けた時はアルをどうやって手篭めにするかばかり考えていたが、改めて考えてみると……辻褄が合わない事がある。

 村長は生贄を出す一方で何人も傭兵を雇い、魔竜討伐を試みたと言っていた。
 そして魔竜自身も、俺が村長に頼まれてきた事を見抜いていた。

 ならなぜ、魔竜はおとなしくここで待ち続けていたんだ?
 生贄を出さねば村を襲うとまで言っておきながら、自分を殺す為の傭兵を雇うような行為を、黙って見過ごすというのは妙だ。

 更に言えば、毎月女を喰らっているにしては……この塔の中の空気は澄み切っている。もっと人骨とか食い散らかした後の腐臭とかあっても良さそうなものだ。まあ餌場が違うだけかもしれないが……

 もしかして、食う為の生贄じゃないんだろうか?
 だとしたら、何の目的があるんだ?
 俺みたいに抱くだけのつもり……ってのはないよな。この体じゃ、色んな意味で無理だろう。

「……あ……ごめんなさい、寝てしまいました」
「……グウ」

 アルが目を覚ましたようだ。
 だが、やはり事情を聞こうにも、上手く喋れない……もどかしい事この上ないな。

「もう、怪我は大丈夫みたいですね……」
「……」
「……でも、これで……私は貴方に会えなくなりますね。傷が治ったのなら、早くここから立ち去った方がいいですよ。今なら、あの男の人が退治したと思いこんでくれるはずです」

 やはりこの娘……以前からこの竜と会っていたって事か? 一体どうなってんだ?

「それじゃ……もう、帰りますね。何日も帰らなかったら、村の人も心配して見に来てしまうかもしれませんから」
「……」

 アルは何度も振り返りながら、塔を出て行く。
 間違いない、アルは魔竜に対して恐れなど持っていない。むしろ親愛の情を抱いているくらいだろう。

 となると……生贄云々って話は一体……?

 ――もしかして俺、騙されたのか? そうなのか!?

 じゃ、じゃあ俺が今こんな状態になのも、あの村の奴らのせいって事か!
 で、アレだ、今の俺は魔竜になってるわけだから、世間的には「リグは魔竜に負けた」って扱いになってしまうわけだよな?

 ……だめだ! だめすぎる! そんな事許せるはずがない!

 こうなったら、あいつ等の本当の目的を暴いて、それを滅茶苦茶にしてやらにゃ気がすまん。場合によっては、あの村ごと滅ぼしてくれる!


 という訳で、とりあえずの目的を見出した俺は、早速行動に移ることにした。
 口は利けなくとも、魔法は使えるようだ。俺は姿を消す魔法をこの体に見合った出力で放ち、カメレオンのように周囲の色に馴染んだ。

 そういや俺は今、竜なんだよな……魔法なしでも飛べるのか? 一応大きな翼があるわけだし……折角だから試してみよう。

 多少手探りな感じで翼を動かし、それっぽく羽ばたいてみる。
 すると……物凄い風を巻き起こしながら体が浮かび上がる感覚を感じた。

 おお……こりゃ案外、面白そうだな!

 俺は慣れないながらも羽ばたき続け、天井のない塔の天辺から上空へ抜け出た。
 そしてある程度の高さまで舞い上がってから、大きく翼を広げて――
 
 滑空!
 
 魔法に頼らずに空を飛び、巨体が風を切る……この爽快感は半端じゃない!
 俺は思わず、「きもちいい~!」って叫びたくなった。

 ……でも、どうせ言葉にならないので止めておいた。

 あんまり楽しかったので、本来の目的を忘れて暫く空中遊泳を楽しむ。
 魔法を使えば人間の時だってある程度飛べたのだが、それとは違う、まるで空の全てを支配したかのような感覚……癖になりそうだ!

 いや、だからってこのまま竜でいるつもりはないが

 とまあ、いつまでも空ばっかり飛んでてもしょうがない、そろそろアルも村に着く頃だろうし、いい加減本来の目的を果たすとしようか。

 羽ばたきによる風でバレない様にする為、村から少し離れた所にある平野に着地し、気配を消しながら村へ近づいていく。
 姿は完璧に消えてると思うが、足音とか鼻息とか、人間だった時とは勝手が違うからな、中々神経を使う……

 村の外壁から、にょきっと首を突っ込み、改めて村の様子を探る。
 と、村の広場に人が集まって、何やら相談事をしているようだ。

「あの傭兵は竜を倒せたのだろうか……もう二日も帰ってこないが……」
「どうだろうな……相手は魔竜だ。今、アルが見に行ってるらしいが……もしかしたらこのまま、アルも帰ってこないかもしれない」
「生贄だと思われて、か? だが他に、様子を見に行く勇気のある奴はおらんしな……アルも、村長の孫だからって、損な役割押し付けられたものだ」
「まあ、アルはな、しょうがないさ。そのくらいしてもらわんと……」

 村の連中はやはり、魔竜を恐れている。
 それに、生贄云々も……少なくとも村人は魔竜が生贄を取っていると思っているらしい。

 って事は、別に俺を騙したつもりはないのか?
 だがアルの態度からは、とてもそれが真実だとは思えない……一体どうなってるんだ?

 ともかく、もう少し村の様子を見てみよう。何かあるはずだ、俺が聞かされていない秘密が。
 幸い、広場に人が集まっているので、もう少し首を突っ込んでも気取られないだろう。

 見た目は普通の村……なんだよな、やっぱり。家だって質素なものばかりだし、特に変わったところはないように思うんだが……う~ん。
 中はどうなってんだ? 実は中身はキンピカだったりみたいなオチはないよな?

「ねえ、お母さん……まだ外出ちゃだめなの~?」
「だめよ、傭兵の人がどうなったか分からないもの」
「どうせまた駄目だったんだよ……いいじゃん、生贄出せばおとなしいんでしょ、魔竜も」
「そんな簡単な話じゃないんだよ」

 ……いるじゃねえか、若い娘。どうなってんだ?

 あ、まさかこの家、生贄に出されるのが嫌で娘を隠して……ってのは無理か、こんな田舎じゃ、隠し通せるもんじゃない。
 それに、この娘……生贄を出す事を恐れていない? 自分も対象になり得る歳だろうに、何故だ……

 他の家を覗いてみる。と、やはりいくつかの家にはアルとそう歳が変わらない娘がいた。

 ますます分からん。アルだけが生贄なのか?
 でもアルは村長の孫だし、特に迫害される理由もないはずだ。全員亜人の村なんだしな……

 あ~わかんね……段々面倒になってきた。
 とりあえず、アルも本当は生贄じゃないんだろうな……で、村の娘達も生贄にはなってないんだろう。
 でも魔竜が生贄を取っているという事になってて……

 となると、他に考えられるのは、どこか別のところから生贄をとってきてるとか?
 でも、生贄を取っているのが本当となると、アルの態度がおかしいよな……

 アルだけ……違うのか?
 アルが魔竜と顔見知りという前提なら、何らかの理由で、魔竜が生贄を望んでいるという噂をアルが広めた、とか。でも実際は生贄など取っておらず……

 って、これに何のメリットがあるってんだ。面白半分でやるにはリスクありすぎだし、無意味だろう。そんな事をするような娘にも見えないしな……

「おい! アルが戻ったぞ!」

 む……噂をすればって所か、アルが村に到着したようだ。
 広場の方から、村の連中がざわついている声が聞こえる。
 アルは、一体何を語るのだろうか?

「アル! どうだった?」
「……竜は息絶えていました。恐らくあの傭兵の人が……」
「ほ、本当か!?」
「竜の死骸から出ている瘴気が酷くて、これしか拾えませんでしたが……」

 アルは懐から、恐らくは治療の際に拾ったと思われる、ボロボロの竜の鱗を差し出した。
 それを見た男達はどよめき立ち、次に歓喜の声をあげた。

「おお! これでようやく安心して仕事ができるというもの!」
「しかしあの男、報酬を受け取りに来ないとはな……もしや相討ちにでもなったか?」
「まあいいではないか、金が浮いたのならそれに越した事はない!」

 アルは、顔を伏せたまま……何かに耐えるような表情を浮かべていた。
 一体なんだ、この村にある秘密は……
 アル、お前、何をそんなに悲しんでいる?

 広場の盛り上がりを聞きつけた村の娘達が通りへ出てくる。
 もう隠れる必要がなくなったって事か? 魔竜という脅威がなくなった今、これがこの村本来の姿なのかもしれないが……逆にアルは今にも泣き出しそうな顔で、家に篭ってしまった。

 分からん……というか、今一つ決定的な要素が足りないというか。
 アルは何で村人に嘘をついたんだ? アルにとって魔竜はどういう存在なんだ。生贄云々はどうなってんだ?

 あ~くそ、イライラする……
 大体くせ~んだよこの村。なんでこんなガンガンに香炊いてるんだよ。竜って鼻が利くのか知らんが、色々な匂いと香の匂いが混ざって、気持ち悪い。
 住んでる奴らは慣れてるからいいんだろうが、もうちょっと加減ってものを……

 ――あん……? なんだこの臭いは。

 どこかで嗅いだな。何て言うか、俺にとっては馴染みがありそうな臭い。香の匂いに混じって微かにだが漂う……汗というか、体臭というか、体液というか……そういうのが混ざったような臭いだ。女を数人寄せ集めて一晩かけて色々した時みたいな……これは……どこから?

 臭いを辿っていくと、一軒の建物に行き着いた。
 家畜を飼育している厩舎みたいな、そんな造りの建物。
 他の家と比べると遥かに大きいが、建材の質は明らかに悪い。

 何か飼ってるのか?
 まあ田舎の村とは言え、何か売るものくらいはあるんだろうが……人の流れを見る限り、ここは相当重要な場所らしい。入り口の前には屈強そうな野郎が二人見張っているしな。

 どれ、窓から中を覗いてみよう。

 …………

 鎖に繋がれて、ぐったりしている女達が見える……
 そして奥からは、微かな女のうめき声と、男達の嘲笑うような声、叩くような音…………

 ああ、こりゃ……奴隷牧場か?

 奴隷牧場ってのは、その名の通り、奴隷を飼育する施設の事だ。
 恐らくここは、女の奴隷を専門に扱っている牧場だろう。
 いやむしろ、この村自体がそれを商売にしているに違いない。

 ギルドマスターが言っていた、バックがどうのって話はここから来てるんだな。
 奴隷の飼育は国家事業だ。それを脅かす魔竜という存在は、依頼元の国としても一大事だったんだろう。国がバックについてるとなれば、俺を動かす金も出るわけだ。

 となると、色々繋がってくるな。優秀すぎる俺様の頭脳で、今まで掴んだ事実からこの村の真実を推理していこう。

 まず生贄の件だ。
 村長が話していた内容は、半分は本当で半分は嘘……生贄は出していたが、村の娘ではなく、奴隷の女を使ったのだ。

 当然アルが生贄になる予定などないし、他の娘も健在。
 娘達には俺が居る間、外に出ないように申し付けてあったのだろう。俺に、生贄に取られたせいで村の娘が誰もいなくなったと思わせる為に。

 なぜそんな事をしたのか。
 恐らく、奴隷牧場があるという事を外部の人間に知られる訳には行かなかったのだと思う。
 国家事業ではあるが、同時に国家機密でもある。
 奴隷は貴重な財産だからな、飼育場所は極秘扱いなのだろう。
 香をガンガン炊いているのも、あの独特の臭いを隠す為に違いない。

 だが、生贄自体も嘘だった、という事は考えられない。
 なぜならそんな嘘をつく必要がないからだ。魔竜を排除したいだけなら、単に村の傍に竜が住み着いたと言えばいい。

 つまり、少なくとも村人の中では生贄は本当の事だったのだろう。

 だが実際には、魔竜は生贄を食ったりしていないと思われる。
 なら女達は何処へ……もしや、魔竜が逃がしていたのか?

 ああ、そうか……アルは恐らくこの牧場にいる女達を憐れんで、逃がすために魔竜という存在を利用したのだ。

 アルは、魔竜が生贄を望んでいると言いふらし、牧場から生贄を出させるように仕組んだ。そして魔竜に頼み、女達を逃がしたのだろう。
 これなら全て辻褄が合う。

 綺麗な顔して、結構大胆な事考えるじゃねえか……お人好しが過ぎる気もするがな。

 だがアルは先程、魔竜が死んだという事にしてしまった。
 アルが悲しげな顔をしていたのは、これ以上奴隷を逃がす事ができなくなったから、か。

 アルがどういうつもりでその選択をしたのか知らんが……そもそも、アルと魔竜はどういう関係なんだ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

可愛らしい人

はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」 「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」 「それにあいつはひとりで生きていけるから」 女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。 けれど、 「エレナ嬢」 「なんでしょうか?」 「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」  その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。 「……いいえ」  当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。 「よければ僕と一緒に行きませんか?」

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...