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○エピローグ「魔竜と魔女」
しおりを挟むその数年後、世界各地で奴隷解放運動が起こり、それと同時に各地の奴隷牧場が襲撃される事件が相次ぐ。
事件の首謀者は「魔竜と魔女」とされている。
証言によれば、魔女の魔法によって見張りの者は全て眠らされ、魔竜が奴隷を根こそぎ連れ去ってしまうのだと。
また、この二者に戦いを挑んだ傭兵の証言によれば……
「あれは……あれはこの世のものじゃない! あいつらを怒らせたら世界が終わる!!」
そんな彼らを討伐するべく様々な国が軍を出したが、隠れ家を見つける事さえ適わなかった。
そして運良く、もしくは運悪く襲撃の際に遭遇する事になっても、特に魔竜の猛攻は凄まじく、彼らに傷一つ負わせる事もできないままに敗走するしかなかった。
彼らの行いによって、奴隷の取引で生計を立てていた集落などは大打撃を受け、何人もの人間や亜人が首を括った。
しかしそれでも、魔竜達は容赦がなかった。奴隷牧場は次々と壊滅し、どの国も奴隷による労働力の確保などができなくなり、奴隷制度は事実上崩壊した。
噂では、解放された奴隷達によって作られた国が存在し、魔竜達はその国の守護神なのだと言われている。
しかしその国がどこにあるのかは誰も知らず、奴隷制度が崩壊して以降、「魔竜と魔女」が現れる事はなくなった。闇で奴隷の取引などがあった際には、「魔女の子供達」と呼ばれる一団によって襲撃されてしまうという事件があったが、彼らと「魔竜と魔女」との関係は不明だ。魔女が育てた後継者達では、という説が濃厚であるが、確固たる証拠は見つかっていない。
そうした歴史の中で、「魔竜と魔女」は、御伽噺の存在となりつつあった。
ある地方では彼らは魔王であり、奴隷を解放したという彼らの行動を、人々を連れ去ったという言葉に置き換え、勇者が魔王を倒したから今の世界は平和なのだという物語になっている。
またある地方では彼らは神の使いであり、種族間の争いを続ける人々の愚かさを戒める存在であるとされている。
しかしいずれにせよ、奴隷制度はもう存在しない。
そして人種間の争いもまた、収まりつつある。
一匹の竜と、一人の魔女の我侭によって、世界は変わった。
彼らのやり方は実に強引ではあったが、誰も抵抗できない程の力によってしか、世界の常識は変わらないという事もまた事実。
これが正しい事だったのかどうかは、後の世が決めるだろう。
余談だが、「魔竜と魔女」が御伽噺となった時代に、各地の子供達の間だけで広まっていた噂がある。それが子供達の空想の中だけの物か、そうじゃないかは分からないが……その噂の内容はこうだ。
「満月の夜にね、僕は見たんだ。星空の中を飛ぶ、おっきなドラゴン! 本当だよ、ドラゴンは本当にいたんだ! それでね、よく見たら……その背中には僕と同じくらいの歳の、男の子と女の子が乗ってたんだよ! こっちに手を振ってたんだ!」
――おしまい――
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