気まぐれ魔竜

猫盾

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○第四話「走馬灯……って、どんな灯り?」

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「また来たのか……」
「うん」
「親は知っているのか?」
「……いないの。うち、お爺ちゃんだけなの」
「ならばその祖父は知っているのか?」
「ううん。貴方がいるから、駄目だって。まりゅーの眠りを妨げてはいけないんだって」
「……それを知っていながら、なぜ来た」
「だって貴方はもう、起きてるじゃない」

 ……これは、なんだ? このガキは……アルか?

『我の記憶だ。さしずめ、走馬灯の如き追憶……という奴だろうな』

 何でお前の記憶を見なくちゃならないんだ。走馬灯ってのは自分の過去を見るもんだろ。

『貴様は我の体に封じられているのだから、走馬灯も我のものになるのだろう』

 ……ふん。

「貴方のお名前は?」
「……そんなものを聞いてどうする」
「どうするって、お友達になりたいから」
「相手を選ぶことだな。我は竜、貴様は亜人……同族の友を探せ」
「……そんなのいないもん」
「…………」
「ねぇ……私、アルだよ。ほら、名乗ったから……教えてよ」
「……我が名はシグマ」
「シグマ! よろしくね」

『アルは、塔の周りにある森で迷子になっていた。だから我が塔へ導き、背に乗せて村の傍へ送ったのだ。それからと言うもの、時折こうして塔へ来ては我と共に過ごしていた』

 やっぱりお前達は昔からの知り合いだったのか。で、頼まれて生贄を逃がしていたんだな?

『そうだ。アルは人間と亜人が憎み合うのが辛かったのだろう。なぜなら……』

「貴様の父親は人間なのか……」
「うん。それで、私が5歳になるまではお父さんもお母さんもいたんだけど、お父さんが急にいなくなっちゃって、お母さんも私をお爺ちゃんに預けて、どっか行っちゃったの」
「……心当たりはないのか?」
「わかんないよ……」

 アルはハーフだったのか……?

『そうだ。そしてアルが15歳になった時、祖父に両親の事を教えられたようだ。父親は元は貴族の生まれで、亜人と結ばれた事を責められて妻と娘を捨てたのだと。そしてそれを追いかけた母親は捕まり、奴隷として売られてしまったと』

 ……それは本当か?

『……いや。実際は、父親は自分の家柄を捨てる覚悟で、結婚を認めてもらおうとしたのだ。だがそれは聞き入れられず、軟禁状態にされてしまった。そして母親は夫の一族の者に呼び出され、話し合いも成されずにあらぬ罪を被せられ、奴隷として売られてしまった。その後、父親は自分の妻の処遇を聞いて絶望し、自ら命を絶った。そして妻も、汚され続ける事に耐え切れず、同じく命を絶った』

 ……それはお前が調べたのか?

『アルが自分で調べたのだ。アルが通っていた魔法学校は何の因果か、父親の実家がある街にあってな。いやむしろ、それを調べる為に魔法を習おうとしていたのかもしれない』

 魔竜の記憶の中のアルは、無邪気に魔竜の尻尾にじゃれ付いている。
 この、余りに平和すぎる記憶の裏側には……随分と暗い現実があるようだ。

『祖父……つまり村長が人間の奴隷を商売にし始めたのは、アルが預けられるよりも前だ。恐らくそれも、この不幸を招く原因の一つだったのだろう。そんな商売をしている村の出身であれば、当然人間から憎まれてもおかしくは無いからな』

 でも人間の国じゃ、奴隷は亜人なんだろ? どっちもどっちじゃねえか。

『人間も亜人も、互いが互いを認めようとは思っていない。自分達こそが正しいと思っている。我から見てもそう、どちらも愚かな種族だ。だが、アルはその間に生まれてしまった』

 アルがハーフだとしても、亜人の村で育ったんなら、人間を憎むんじゃないのか? 現に自分の両親を不幸にしたのは人間側だろ?

『アルは人間でも亜人でもない。故に、どちらかを憎む、という事ができないのだろう。だがあの村の者達は皆亜人で、亜人寄りの意見しか持たない。誰とも意見が合わないアルは、孤独だったのだ。故にアルは、自分と同じように世界を見る友を欲していた。人間も亜人も同じ物を見て、同じように感じられるはずだと、そう分かり合える友を』

 だからお前に懐いていたってのか。

『恐らくはそうだろう。我からすれば、人間も亜人も大差ないからな』

 そんで、憎しみの元になっちまう奴隷を解放したかったってわけか。

『ああ……実に愚かな娘だ。お人好しで、世間知らずで……だが、アルは我が友。友の頼みとあらば、聞いてやらねばなるまい?』

 ……ふん。

『……さあ、そろそろ出て行け。ここは我の記憶、我の居場所だ。貴様のような男に居座られては、折角の平穏が乱れる』

 んな!? て、てめえ! 大体てめえが俺を! 
 ……って、ちょっと待て、走馬灯なんだから、俺もう死ぬんじゃねえの?

 お……おい、ちょっと待て! おい!?

「――っ!? あれ?」
「あ! 起きました!?」
「え、あれ? 何で俺生きてんの?」
「あの、みんなが手伝ってくれたんです」

 ふと目を覚ますと、目の前にはアルと、元奴隷の女達が並んでいた。
 そして自分の体を見てみると、ボロ布をひも状にしてなんとか止血したという跡が。

「治癒魔法が使える人は魔法で、使えない人はみんなの服で止血をして……」

 言われて見れば、アルを含めて全員の服が、随分とこじんまりと……っていうか大分隠せてない状態になっている。
 う~ん、ある意味絶景だなこりゃ。
 で、俺が目覚めた事を喜び、抱き合って泣いたりしてる女達。
 何なんだろうねえこいつらは……庇ったのはただの成り行きなのによ。

『ようやく起きたのか』

 お前……おい、さっきの走馬灯は何だったんだ? 普通、走馬灯見たら死ぬだろ?

『……我が思っていたよりも、その体は丈夫だった、という事だろうな』

 なんだよそりゃ……まあ、でも結果は同じだろ。俺の命は大きく削れたんだよな? 影を殺したから、俺もいずれ死ぬんだろ?

『その通り。貴様の命は大きく削られた。500年ほど』

 ……ん、ちょっと待て。

『我の体は1000年の時を生きる。今の姿はおよそ200年の成長を遂げた状態だ。残り300年しかないな』

 ちょ、待て、命が削られるって、この体の寿命の事かよ!?

『貴様は今や、我そのもの。それ以外に何を削るというのだ』

 え、え、じゃあ俺、あと300年も竜の体のまま!?

『人を超えた貴様の力を収めておくには、これ以上ない器だろう?』

 頭の中で、魔竜が高笑いしてやがる……
 くそ、300年も女抱けないってのかよぉ!? 納得いかねえぞ!

『まあそう腐るな。貴様の魔力ならば、いつか人型に化ける魔法くらい作れるかもしれん』

 本当だろうな!?

『保証はせんがな。さて……そろそろ時間のようだ。我はもう消える。貴様は我の術を破った……後は好きにするがいい』

 あ、ああ? なんだお前……消えるって? 死ぬって意味か?

『あの術はそもそも、我の命を懸けた術。発動した時点で我は死んでいるのだ。この意識は残り香のようなもの……貴様が生き延びようとも、消え去るのが道理』

 …………チッ、最後までむかつく奴だ!

 アルは俺の尻尾に寄りかかって、談笑している他の女達を眺めている。
 正直、こんな面倒な事をなんで俺がしてやらにゃならんのか、とも思うのだが……ともかく声を掛ける。

「おい、アル」
「え、何ですか?」
「あ~……確か、シグマっつったか、お前の友達」
「あ、ええ……はい」
「何か言っておく事はねえか? 消えちまうんだとよ」
「え!? は、話せるんですか?」

 驚きと共に、意外にも少し辛そうな顔をする、アル。
 何だよ、友達との別れの挨拶させてやろうってのに……ちったぁ嬉しそうにしろよな。

「……直接は無理だ。だがお前の声は聞こえてる」
『おい、何のつもりだ』
「早くしろ。手遅れになるぞ」
「……シグマ……私……もし、私が我侭を言わなかったら、ずっと貴方と一緒に居られたんじゃないかって……」

 まあ、そうだな。奴隷を助ける為にシグマを利用し、そのせいで俺を雇うようになったわけだからな。奴隷を助けたのも、アルの自己満足に過ぎないわけで……

「ごめんなさい……私、結局自分一人じゃ何もできなくて、貴方に頼りすぎて……」
『……世話を焼くなら、最後までやれ……アルに伝えるのだ』

 そう言って、シグマは俺の頭の中でゆっくりと、伝言する言葉を紡ぐ。
 そしてそれを俺は、そのままの意味になるようにアルに伝える。

「シグマも、お前を友と思っていた。お前はシグマに意味のある時間を与えたのだ。お前に会うまでは、シグマはただ無意味に自分の寿命を消化していた。お前に会って、ようやくシグマの命に意味ができた。友とは、助け合い、与え合うものだ。お前はシグマの友……何も悔やむ事はない。与えられ、そして与えた。それだけだ」
「…………シグマ……」

 アルはその場に座り込み、静かに涙を流し続けた。
 そしてシグマは、消え際に……確かにこう言った。感謝する、と。
 その言葉もアルへの伝言だったのだろうか? それとも……俺に言ったのだろうか。

 つうかよ……お前ら二人して感動的なエンディングっぽくしてっけど……俺一人だけ不幸なまんまじゃね? 竜にされちまうわ、死に目には遭うわ……

「……リグ様、ありがとうございました」
「あん? ああ、まあ……」
「そ、それであの、お願いがあるのです」
「なんだよ」
「ま、魔法を教えていただけませんか? 私、もっと魔法上手くなって……いつでも貴方を助けられるようになりたいんです」
「……なんで俺を?」
「え、だって……依頼の報酬、私なんですよね? 少なくとも貴方は、貴方の仕事をしたわけですから……約束は守らなければ」

 ……いやそりゃ、そうなんだけどさ……ええ~? 律儀すぎて眩暈がするわ。

「あ! 私も魔法習いた~い!」
「私も私も!」
「かっこよかったもんね!」

 こっそり話を聞いていたらしい元奴隷の女共が、我も我もと手を挙げる。

「お、お前らな……」
「だめ、ですか? 貴方の傍にいるのなら、私も貴方のお役に立ちたいんです」

 う、ご……アルお前、そんなキラキラした目で見上げるなよ……

「…………しょ、しょ~~がね~な~、お前ら! 俺についてこい!」
「は~い!!」
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