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第三章
密 二
しおりを挟む粘ついた音を奏でながら、龍彦の指先がみなほの中を前後に往来し続ける。
「だめ……! もう」
「駄目ならば、脚を閉ざせ。それ以上にはせぬ」
揶揄だ。
嫌だと、抑止するような言葉を吐きながら、みなほは膝を左右に放ったままに腹を波打たせている。艶めかしい官能に酔って揺らぎ続ける。
横臥のまま、みなほの背後から龍彦は己を花芯の中に導いていく。じわり、とみなほが龍彦を押し包む。淡い膨らみの胸に手を置いて、引き寄せた。
高く澄んだ声で啼きながら、みなほは背を波打たせる。受容しきらない龍彦のそれを、指の先でなぞった。無邪気で淫らな仕草に、龍彦の動作が荒くなる。
「はぁっ……!」
みなほの触れる余地がないほど、龍彦は彼を深く沈ませた。掌の中でみなほの蕾が痛いほどに尖る。薄紅色に染まった肌が熱い。汗が滲んだ。
褥の上にみなほを伏せ、楔を繋いだまま龍彦は華奢な腰を持ち上げた。躯体に戦慄を走らせるみなほに、龍彦が身体を打ち付ける。か細い背が波打ち、撓む。
切ない声のすすり泣きが龍彦の耳に届いた。
それが悦びであると、もう知っている。
みなほの右の膝を掴み、後ろに引いた。なお深い所に龍彦が届いた。
肘を立て、なだらかな背をなおも撓めながら、みなほが高らかに悦びを歌った。甘噛みをするように身体の中の龍彦を締め上げ、弛緩する。その脈動が忙しない。忙しなく、龍彦には痺れるほどに快い。
「みなほ」
切迫した声の下で、龍彦は己を解放した。
力を失ったみなほの腰を掴み、この上ない快楽をもたらす坩堝に熱を注ぐ。
呼吸の整わぬみなほの傍らに龍彦が横たわる。肘を枕にして、横臥した。
睫毛に涙を残す可憐な顔を、いとおしく見下ろしている。
涼しげな切れ長の眼差しの中の、青いような光を帯びた瞳が、この上なく優しいとみなほは知った。誰からも与えられたことのない温かい視線が、一心にみなほを見つめてくれている。
高く通った鼻梁も、引き締まった口元も凛々しい眉も、みなほが知る誰よりも美しい。
「龍彦様……」
鋭い線を描く頬に、そっと手を伸ばす。龍彦の唇が、少し笑った。
嬉しくなって、みなほも笑った。
みなほに与えられたのは、淡い水色の薄絹だった。
身に纏っても肌が透ける。前を合わせ、白い帯をする。胸の蕾と、秘所の裂け目さえ絹を透かす。背後からは、白桃の形をした臀部が露わだった。
恥ずかしいような姿だが、みなほが居るその場所に、龍彦以外の視線など、ほとんど無い。
白木で造られたらしい御殿の中にいるのは解る。壁などは無い。柱と、御簾と、几帳がある。衝立もあった。内部の壁があって、部屋を仕切っているらしい。
今のところ、みなほは龍彦に「この屋敷から出ぬこと」と告げられ、それを破っていない。
白い靄が周囲を覆っていて、景色らしいものはない。あるいは水の上の城なのだろうか。
ふと靄が晴れかかったときに、縁側から下がそこはかとなく青かった。揺らいでいるようだった。
その水らしき色は、御子ヶ池のそれとよく似ている。
龍彦のための御殿なのだ、とみなほは思った。
その地面というか、水の上に、ときおり御用聞きの少女達が現れる。みなほよりももっと幼い、小さな女の子達だった。巫女のように、白い水干を纏っていた。靄に隠れて下肢のほうが見えない。二人はゆるゆると泳ぐように移動する。
「あゆ」
「ます」
という。
他にも、ここに仕えている者は居ると、彼女たちが言っていた。
あゆとますは、食べるものも運んでくれる。たいてい、重湯のような、ゆるくとろみのある食べ物だった。淡い甘さが、美味であった。
「私たちは御殿には上がれませぬゆえ、おきさき様が、少し降りてきて下さいませ」
縁側の真ん中の辺りに、二間ほどの幅の階段があった。
そこを三段下がったところに行くと、二人がひざまずいて皿を捧げ持っていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
礼を言うと、あゆとますは顔を見合わせてきょとんとした。それから嬉しそうな笑顔をみなほに見せた。
「いいえ、もったいない!」
かわいらしい少女達だ。
住まいと糧を与えられ、礼を言うと嬉しそうな笑みを返される。
みなほの胸の中が温かくなった。
部屋の壁の向こうが、浴室になっている。白い石をくりぬいた大きな桶に綺麗な水が常に張られていた。
日が傾く頃、みなほはその綺麗な水に身体を浸す。水は肌の温度と同じほどで、冷たくはない。寒いことは全くない。
薄絹で過ごすみなほの身体にも、暖かな気温の日々が続いている。
あの祭礼の夜から、もうずいぶん月日を過ごした。
数えればそろそろ木々の葉が色づいた頃でもあろう。
龍彦がみなほを連れて帰ったこの場所は、人の世の季節の移ろいには関わりが無いのだろうか。
気候は変わらないが、日が昇って沈み、月が欠けて満ちることは、人の世と同じようだ。
夕日が、靄を桃色に染めた。
ほんの半刻後には、みなほの肌は夕日の靄のような色に染められた。
龍彦の胡座の膝に乗り、彼の掌に身を委ねる。華奢な胴を撫で上げた手が、衣の上から膨らみを掴む。指の先が薄紅の尖りを弄ぶ。薄絹の下でそれは硬度を帯びて、紅い色を透かして見せた。
「あ、……は……」
「みなほ、可愛い」
喉の奥で、龍彦が色めいた声で笑う。薄く開いた目で見ると、美しい顔には緩やかな笑みが浮かんで、頬に幽かな血の色が差している。
彼の長い髪がみなほの肩を撫でた。
絹の上から、龍彦がみなほの白桃に掌を滑らせ、指の腹で熱くなりかけた秘裂を押す。
細かく喘ぎながら、みなほが身体を波打たせた。
「だめ、です……」
「何が?」
「衣が汚れてしまいます」
「いけない子だ。汚しているのは、みなほだよ」
「嫌……! 違います」
絹越しに、龍彦がみなほを刺激する。じわりと、蜜が滲み出す。
「いや、そんなふうにしないで」
「ならばどうして欲しい?」
みなほの耳たぶを舌でつつきながら龍彦が囁いた。
どうして欲しいか。
淫らな問いに、みなほの肌が羞恥に染まる。
して欲しいような仕草を思い浮かべたのか、それを口に出せぬと思ったのか。
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