水霊の贄 孤独な少女は人ならぬ彼へ捧げられた

春想亭 桜木春緒

文字の大きさ
18 / 34
第三章

密 二

しおりを挟む

 粘ついた音を奏でながら、龍彦の指先がみなほの中を前後に往来し続ける。
「だめ……! もう」
「駄目ならば、脚を閉ざせ。それ以上にはせぬ」
 揶揄だ。
 嫌だと、抑止するような言葉を吐きながら、みなほは膝を左右に放ったままに腹を波打たせている。艶めかしい官能に酔って揺らぎ続ける。
 横臥のまま、みなほの背後から龍彦は己を花芯の中に導いていく。じわり、とみなほが龍彦を押し包む。淡い膨らみの胸に手を置いて、引き寄せた。
 高く澄んだ声で啼きながら、みなほは背を波打たせる。受容しきらない龍彦のそれを、指の先でなぞった。無邪気で淫らな仕草に、龍彦の動作が荒くなる。
「はぁっ……!」
 みなほの触れる余地がないほど、龍彦は彼を深く沈ませた。掌の中でみなほの蕾が痛いほどに尖る。薄紅色に染まった肌が熱い。汗が滲んだ。

 褥の上にみなほを伏せ、楔を繋いだまま龍彦は華奢な腰を持ち上げた。躯体に戦慄を走らせるみなほに、龍彦が身体を打ち付ける。か細い背が波打ち、撓む。
 切ない声のすすり泣きが龍彦の耳に届いた。
 それが悦びであると、もう知っている。
 みなほの右の膝を掴み、後ろに引いた。なお深い所に龍彦が届いた。
 肘を立て、なだらかな背をなおも撓めながら、みなほが高らかに悦びを歌った。甘噛みをするように身体の中の龍彦を締め上げ、弛緩する。その脈動が忙しない。忙しなく、龍彦には痺れるほどに快い。
「みなほ」
 切迫した声の下で、龍彦は己を解放した。
 力を失ったみなほの腰を掴み、この上ない快楽をもたらす坩堝に熱を注ぐ。

 呼吸の整わぬみなほの傍らに龍彦が横たわる。肘を枕にして、横臥した。
 睫毛に涙を残す可憐な顔を、いとおしく見下ろしている。

 涼しげな切れ長の眼差しの中の、青いような光を帯びた瞳が、この上なく優しいとみなほは知った。誰からも与えられたことのない温かい視線が、一心にみなほを見つめてくれている。
 高く通った鼻梁も、引き締まった口元も凛々しい眉も、みなほが知る誰よりも美しい。
「龍彦様……」
 鋭い線を描く頬に、そっと手を伸ばす。龍彦の唇が、少し笑った。
 嬉しくなって、みなほも笑った。


 みなほに与えられたのは、淡い水色の薄絹だった。
 身に纏っても肌が透ける。前を合わせ、白い帯をする。胸の蕾と、秘所の裂け目さえ絹を透かす。背後からは、白桃の形をした臀部が露わだった。
 恥ずかしいような姿だが、みなほが居るその場所に、龍彦以外の視線など、ほとんど無い。
 白木で造られたらしい御殿の中にいるのは解る。壁などは無い。柱と、御簾と、几帳がある。衝立もあった。内部の壁があって、部屋を仕切っているらしい。
 今のところ、みなほは龍彦に「この屋敷から出ぬこと」と告げられ、それを破っていない。
 白い靄が周囲を覆っていて、景色らしいものはない。あるいは水の上の城なのだろうか。
 ふと靄が晴れかかったときに、縁側から下がそこはかとなく青かった。揺らいでいるようだった。
 その水らしき色は、御子ヶ池のそれとよく似ている。
 龍彦のための御殿なのだ、とみなほは思った。
 その地面というか、水の上に、ときおり御用聞きの少女達が現れる。みなほよりももっと幼い、小さな女の子達だった。巫女のように、白い水干を纏っていた。靄に隠れて下肢のほうが見えない。二人はゆるゆると泳ぐように移動する。
「あゆ」
「ます」
 という。
 他にも、ここに仕えている者は居ると、彼女たちが言っていた。
 あゆとますは、食べるものも運んでくれる。たいてい、重湯のような、ゆるくとろみのある食べ物だった。淡い甘さが、美味であった。
「私たちは御殿には上がれませぬゆえ、おきさき様が、少し降りてきて下さいませ」
 縁側の真ん中の辺りに、二間ほどの幅の階段があった。
 そこを三段下がったところに行くと、二人がひざまずいて皿を捧げ持っていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
 礼を言うと、あゆとますは顔を見合わせてきょとんとした。それから嬉しそうな笑顔をみなほに見せた。
「いいえ、もったいない!」
 かわいらしい少女達だ。

 住まいと糧を与えられ、礼を言うと嬉しそうな笑みを返される。
 みなほの胸の中が温かくなった。

 部屋の壁の向こうが、浴室になっている。白い石をくりぬいた大きな桶に綺麗な水が常に張られていた。
 日が傾く頃、みなほはその綺麗な水に身体を浸す。水は肌の温度と同じほどで、冷たくはない。寒いことは全くない。
 薄絹で過ごすみなほの身体にも、暖かな気温の日々が続いている。
 あの祭礼の夜から、もうずいぶん月日を過ごした。
 数えればそろそろ木々の葉が色づいた頃でもあろう。
 龍彦がみなほを連れて帰ったこの場所は、人の世の季節の移ろいには関わりが無いのだろうか。
 気候は変わらないが、日が昇って沈み、月が欠けて満ちることは、人の世と同じようだ。
 夕日が、靄を桃色に染めた。

 ほんの半刻後には、みなほの肌は夕日の靄のような色に染められた。
 龍彦の胡座の膝に乗り、彼の掌に身を委ねる。華奢な胴を撫で上げた手が、衣の上から膨らみを掴む。指の先が薄紅の尖りを弄ぶ。薄絹の下でそれは硬度を帯びて、紅い色を透かして見せた。
「あ、……は……」
「みなほ、可愛い」
 喉の奥で、龍彦が色めいた声で笑う。薄く開いた目で見ると、美しい顔には緩やかな笑みが浮かんで、頬に幽かな血の色が差している。
 彼の長い髪がみなほの肩を撫でた。
 絹の上から、龍彦がみなほの白桃に掌を滑らせ、指の腹で熱くなりかけた秘裂を押す。
 細かく喘ぎながら、みなほが身体を波打たせた。
「だめ、です……」
「何が?」
「衣が汚れてしまいます」
「いけない子だ。汚しているのは、みなほだよ」
「嫌……! 違います」
 絹越しに、龍彦がみなほを刺激する。じわりと、蜜が滲み出す。
「いや、そんなふうにしないで」
「ならばどうして欲しい?」
 みなほの耳たぶを舌でつつきながら龍彦が囁いた。

 どうして欲しいか。
 淫らな問いに、みなほの肌が羞恥に染まる。
 して欲しいような仕草を思い浮かべたのか、それを口に出せぬと思ったのか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...