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第二章
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忘れ去ろう、捨て去ろうと、目をそむけていた思いを心の中で掴んでしまった。
好きだと思うなら、なお、そういうことをするべきではないと思いながら、源治は月子の前に膝を滑らせた。
好きだと思うから、欲しい。
月子の唇の端に付いた米粒を、源治がついばんだ。
「まあ……」
少し驚いたように目を見開く月子の手を取って、そこに付着した飯を舐め取る。
「月子」
と、源治はまた月子を呼び捨てにした。
「はい」
戸惑ったような顔で、月子は頷いている。頬が、熱い。
(月子、と……)
源治がまたそう呼んでくれた。それが嬉しい。
ついさっきまでの源治は丁寧な言葉を使い、月子を遠いものにしようとしていたような気配を発していた。それが月子にはひどく寂しく悲しかった。
迷惑だったのだろうか。
そんなことを昼の間ずっと考えた。
貴方がいい、と月子は源治に言った。源治が戸惑っていたのを月子は知っている。
何度も、止めよう、もう止めよう、と言っていたのを覚えている。繰り返し、許してくれと言っていた。ついには彼は涙まで流していた。
源治を、苦しめたのだろうかと、思う。
考えてみれば、月子は源治が江戸でどういう暮らしを営んでいるのか知らない。
もしかしたら彼には江戸に妻が居るのではないかという疑問が湧いた。源治は月子より一回りは年上だろう。そんな年頃の、彼のような人柄の男が独り身であるとは月子には考えにくい。妻ではなくとも、大切な誰かは居るのではあるまいか。
身体を売りに来たものの、月子はそのすべを知らず、まして男性を知らなかった。ただ呆然と辻に立ち、そして不意に背後から乱暴な手に抱きすくめられて恐慌した。
そんなときに源治を見出して、一度は羞恥のあまり逃げ出したくなったものの、しまいにはその姿に必死で縋りついた。
貴方がいい。月子はそう言った。嘘ではない。
しかしそうして源治を求めたことで、月子は彼に、彼の大事な誰かを裏切らせたのではないだろうか。
月子が伸ばした手を、源治は受け止めてくれた。苦悩しながら、彼は月子の乙女を破った。そして懊悩をいっそう深めたように、月子の身体を抱いて、彼は泣いた。
苦しめた。
月子は身体に走る疼痛と同じくらいに、その思いに胸を痛めた。
今もなお。
素肌にした月子の上を源治の掌が巡る。目蓋を上げると、眉を寄せてどこか痛むような表情の彼が居る。
乳房を掴む源治の手を月子は抱くように腕を絡めて身を捩る。
「許してくれ」
「……」
男の言葉に首を横に振る。月子は、苦悩を滲ませる源治の頬に手を伸ばして撫でた。
彼の手が温かい。苦しんでいても、それでも。
他の男など知らない。だが源治の手が月子に優しいことは、解る。
もしこの先、どれほど惨い人の手に触れられようとも、耐えられる。
生涯、彼の優しさだけを身体に刻み付けて居ればいい。それだけを覚えていれば、きっと耐えていられる。月子はそう思った。
せめて、最初くらいは本当に好きな男に抱かれてからなら、まだ諦めもつくのに。
そう言ったのは美知江だっただろうか。あの時は、その意味が解らなかった。
今なら、と月子は思う。今ならば美知江の言葉に合点がいく。
「あ」
喉をそらして月子は喘ぐ。爪先が褥を噛む。
源治の手が月子に沈む。水面を叩くような音がする。月子の芯を源治の指が往来して滑る。それを感じる。手の甲で目を覆った。熱いようなものが睫毛の下に噴き零れていた。
嗚咽になった。
「月子……」
吐息の中で源治が呼んでいる。戸惑いが潜むのは、月子の涙を懸念しているのだろうか。
目蓋に、源治の唇が触れた。唇が月子の唇に移動した。
低く喉を鳴らす月子の舌先を源治が触れ、やがて重なって絡み合った。
辛くはないか、と訊く。答えを聞くこともなく、もう一度、唇を合わせた。一途に互いのそれを貪りあう。時折、息を継ぎながら、果てしなくその仕草を繰り返した。
辛いのかもしれない。それでも、月子は、源治に触れていて欲しかった。
月子は、源治こそ辛いのではないか、と問いたかった。
しかし答えが恐ろしい。
妻が居るという答えが返ってきたのなら、月子は己の罪の重さに、否、恐らくは嫉妬に、胸が破れてしまうような気がした。
月子、と源治がまた呼んだ。指でそっと月子の狭間をなぞりながら、唇で青白い胸の膨らみを吸った。尖らせた頂きに彼の歯が触れた。痛みと違う感覚が、月子の吐息を途切れさせる。
首筋にも源治の唇が触れる。肌の上に在る彼の項を、そっと月子は抱え込んだ。
ほんの一瞬開いた目蓋に、少しだけ微笑んだ源治の眼差しが残った。
もし嫌でないなら、もし源治にとって月子に触れることが苦しみで無いのなら、もっと強く深く、月子を壊すほどに激しく触れて欲しかった。
源治の手でその身体でもって、消えない傷を、月子に刻み付けてくれれば良い。この先どんな手に触れられても同じ痛みが走るような傷を、残していって欲しい。いっそ砕いてほしい。
月子の身体が、跳ねた。
唇で左の手を噛み締めている。右の手で源治の額を押しているあいだに、指先が髪に絡んで彼の髷を乱した。
「ああ……」
嘆息は、どちらのものだろう。
頬に触れる滑らかな腿を、源治の濡れた指がまた開く。小刻みな月子の吐息に高い声が混じる。嫌、と言っているのかもしれない。源治の唇が月子の花芯を這う。指先で押し開き舌で探り当てた粒に、淡く歯を触れた。
月子の躯体の波浪がわかる。愉悦か苦悩か判然としない嗚咽が、頭上に切れ切れに聞こえていた。
耳朶に触れる声が、狂おしい響きを帯びた。その音色の高まりを、源治は執拗に求めている。
「月子……」
その身体に指を沈めた。じわりと湿った襞が熱くその侵入者を阻むように絡みつく。幾度か抜き挿しをするうちに、己の指が月子の蜜に濡れていく様子に源治は目を凝らす。
「……は……っ」
また華奢な身体が跳ね上がる。
いつしか、侵入者が二本になっていた。往来の摩擦が倍になり、それが奥深くに沈み、退く。粘質な音を立てて同じ仕草が繰り返される。
月子はその感触に慄いて、喘ぎながら絶え間なく身を捩った。
うねり始めたか細い腿を抱え込んで、源治は月子の秘所に喰らいついた。滲む蜜を音を立てて吸い、狭間を舐め上げて固くなった芽に触れる。跳ね上がる身体を抑え、舌を中へと侵入させ、月子を味わい、執拗に貪る。
月子の絶え絶えの声が源治の耳に甘い。
「……嫌!」
眉をひそめ硬く閉ざした目蓋の下が濡れている。
しなやかに身悶えて痙攣と弛緩を繰り返す月子の裸身を、身を起こした源治が、滾るような眼で見下ろした。
好きだと思うなら、なお、そういうことをするべきではないと思いながら、源治は月子の前に膝を滑らせた。
好きだと思うから、欲しい。
月子の唇の端に付いた米粒を、源治がついばんだ。
「まあ……」
少し驚いたように目を見開く月子の手を取って、そこに付着した飯を舐め取る。
「月子」
と、源治はまた月子を呼び捨てにした。
「はい」
戸惑ったような顔で、月子は頷いている。頬が、熱い。
(月子、と……)
源治がまたそう呼んでくれた。それが嬉しい。
ついさっきまでの源治は丁寧な言葉を使い、月子を遠いものにしようとしていたような気配を発していた。それが月子にはひどく寂しく悲しかった。
迷惑だったのだろうか。
そんなことを昼の間ずっと考えた。
貴方がいい、と月子は源治に言った。源治が戸惑っていたのを月子は知っている。
何度も、止めよう、もう止めよう、と言っていたのを覚えている。繰り返し、許してくれと言っていた。ついには彼は涙まで流していた。
源治を、苦しめたのだろうかと、思う。
考えてみれば、月子は源治が江戸でどういう暮らしを営んでいるのか知らない。
もしかしたら彼には江戸に妻が居るのではないかという疑問が湧いた。源治は月子より一回りは年上だろう。そんな年頃の、彼のような人柄の男が独り身であるとは月子には考えにくい。妻ではなくとも、大切な誰かは居るのではあるまいか。
身体を売りに来たものの、月子はそのすべを知らず、まして男性を知らなかった。ただ呆然と辻に立ち、そして不意に背後から乱暴な手に抱きすくめられて恐慌した。
そんなときに源治を見出して、一度は羞恥のあまり逃げ出したくなったものの、しまいにはその姿に必死で縋りついた。
貴方がいい。月子はそう言った。嘘ではない。
しかしそうして源治を求めたことで、月子は彼に、彼の大事な誰かを裏切らせたのではないだろうか。
月子が伸ばした手を、源治は受け止めてくれた。苦悩しながら、彼は月子の乙女を破った。そして懊悩をいっそう深めたように、月子の身体を抱いて、彼は泣いた。
苦しめた。
月子は身体に走る疼痛と同じくらいに、その思いに胸を痛めた。
今もなお。
素肌にした月子の上を源治の掌が巡る。目蓋を上げると、眉を寄せてどこか痛むような表情の彼が居る。
乳房を掴む源治の手を月子は抱くように腕を絡めて身を捩る。
「許してくれ」
「……」
男の言葉に首を横に振る。月子は、苦悩を滲ませる源治の頬に手を伸ばして撫でた。
彼の手が温かい。苦しんでいても、それでも。
他の男など知らない。だが源治の手が月子に優しいことは、解る。
もしこの先、どれほど惨い人の手に触れられようとも、耐えられる。
生涯、彼の優しさだけを身体に刻み付けて居ればいい。それだけを覚えていれば、きっと耐えていられる。月子はそう思った。
せめて、最初くらいは本当に好きな男に抱かれてからなら、まだ諦めもつくのに。
そう言ったのは美知江だっただろうか。あの時は、その意味が解らなかった。
今なら、と月子は思う。今ならば美知江の言葉に合点がいく。
「あ」
喉をそらして月子は喘ぐ。爪先が褥を噛む。
源治の手が月子に沈む。水面を叩くような音がする。月子の芯を源治の指が往来して滑る。それを感じる。手の甲で目を覆った。熱いようなものが睫毛の下に噴き零れていた。
嗚咽になった。
「月子……」
吐息の中で源治が呼んでいる。戸惑いが潜むのは、月子の涙を懸念しているのだろうか。
目蓋に、源治の唇が触れた。唇が月子の唇に移動した。
低く喉を鳴らす月子の舌先を源治が触れ、やがて重なって絡み合った。
辛くはないか、と訊く。答えを聞くこともなく、もう一度、唇を合わせた。一途に互いのそれを貪りあう。時折、息を継ぎながら、果てしなくその仕草を繰り返した。
辛いのかもしれない。それでも、月子は、源治に触れていて欲しかった。
月子は、源治こそ辛いのではないか、と問いたかった。
しかし答えが恐ろしい。
妻が居るという答えが返ってきたのなら、月子は己の罪の重さに、否、恐らくは嫉妬に、胸が破れてしまうような気がした。
月子、と源治がまた呼んだ。指でそっと月子の狭間をなぞりながら、唇で青白い胸の膨らみを吸った。尖らせた頂きに彼の歯が触れた。痛みと違う感覚が、月子の吐息を途切れさせる。
首筋にも源治の唇が触れる。肌の上に在る彼の項を、そっと月子は抱え込んだ。
ほんの一瞬開いた目蓋に、少しだけ微笑んだ源治の眼差しが残った。
もし嫌でないなら、もし源治にとって月子に触れることが苦しみで無いのなら、もっと強く深く、月子を壊すほどに激しく触れて欲しかった。
源治の手でその身体でもって、消えない傷を、月子に刻み付けてくれれば良い。この先どんな手に触れられても同じ痛みが走るような傷を、残していって欲しい。いっそ砕いてほしい。
月子の身体が、跳ねた。
唇で左の手を噛み締めている。右の手で源治の額を押しているあいだに、指先が髪に絡んで彼の髷を乱した。
「ああ……」
嘆息は、どちらのものだろう。
頬に触れる滑らかな腿を、源治の濡れた指がまた開く。小刻みな月子の吐息に高い声が混じる。嫌、と言っているのかもしれない。源治の唇が月子の花芯を這う。指先で押し開き舌で探り当てた粒に、淡く歯を触れた。
月子の躯体の波浪がわかる。愉悦か苦悩か判然としない嗚咽が、頭上に切れ切れに聞こえていた。
耳朶に触れる声が、狂おしい響きを帯びた。その音色の高まりを、源治は執拗に求めている。
「月子……」
その身体に指を沈めた。じわりと湿った襞が熱くその侵入者を阻むように絡みつく。幾度か抜き挿しをするうちに、己の指が月子の蜜に濡れていく様子に源治は目を凝らす。
「……は……っ」
また華奢な身体が跳ね上がる。
いつしか、侵入者が二本になっていた。往来の摩擦が倍になり、それが奥深くに沈み、退く。粘質な音を立てて同じ仕草が繰り返される。
月子はその感触に慄いて、喘ぎながら絶え間なく身を捩った。
うねり始めたか細い腿を抱え込んで、源治は月子の秘所に喰らいついた。滲む蜜を音を立てて吸い、狭間を舐め上げて固くなった芽に触れる。跳ね上がる身体を抑え、舌を中へと侵入させ、月子を味わい、執拗に貪る。
月子の絶え絶えの声が源治の耳に甘い。
「……嫌!」
眉をひそめ硬く閉ざした目蓋の下が濡れている。
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