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文箱
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しおりを挟む師走のはじめ。
台所の片隅に保存のための漬物を作った。干した大根が樽に詰め込まれ、糠や塩で漬けられている。
作業の中心になったのは老婢のいねである。髪がすっかり白くなり、逸と初めて会ったときよりも腰が曲がった。
「いっしょに」
と、逸はたすきをかけていねを手伝った。
土間の筵の上に収穫の後に干して乾かした大根を広げていた。大根は水城家の知行地の百姓から届けられたものだ。
干した大根を運ぶ作業は、ミツと喜一が歓声を上げながら手伝ってくれた。大根を振り回していて母親のお咲に叱られた後、しょんぼりした喜一に逸が声をかけた。
「三本も持てて、喜一は力持ちね」
「もっと持ってこれるよ!」
褒められたことで機嫌が治った喜一は、次は五本を一度に運んできた。よろめきながら、どうだ、という顔をした彼の表情が可笑しく、逸はいねとならんで声を立てて笑う。
逸がいねの作業を手伝うと言ったとき、
「奥様にそのような」
といねは遠慮をしたが、逸はきかなかった。筵から大根を拾いあげる作業が、いねには辛かろうと思ったからだ。水分を飛ばした大根は生の物ほど重くはないが、腰や膝を曲げて拾い上げる動作は、年寄りには辛かろう。
いねも、松尾や和子と同様に逸を奥様と呼ぶことが嬉しいらしい。以前に下働きであったころに最も身近な存在だったいねにそう呼ばれることが少し面映かったが、師走に入ってようやく慣れてきた。
いねの夫の留吉も、高齢になったが庭の掃除などの仕事を怠らずに勤めている。
彼ら夫婦には子も孫も居る。隠居として子らの家族と暮らすことも出来るのだろうが、身体の動く限りは水城家で働いていたいと考えているようだ。
もしかしたら、将来、年老いた彼らを看取るかもしれないと逸は思ったことがある。そうしてやりたいと願ってもいる。
「そう思うのです」
「もし、いねと留吉の子らがそれを許してくれるなら、そうしよう」
その話を新兵衛にしたとき、彼も頷いた。
もし、彼らが病に倒れて動けなくなったとしても、そのことで老人たちを血縁のもとに帰すことはせず、出来るだけの看病をしてやりたいと新兵衛も思っていたようだ。
「そのようなことはずっとずっと先のことであれば良いな」
と新兵衛は微笑んだ。
皺だらけのいねの手に大根を渡しながら、逸は、新兵衛の少し寂しげな笑顔を思い出している。
新年を、迎えた。
師走の頃に減った来客は、正月に入ってまた増えた。
増えた来客の理由は正月だからということであったようだ。考えてみれば新兵衛と逸も、年頭の挨拶のために数々の親類知人の家を訪問していた。それと同じだけの人々の訪れが、水城家にもあったということだ。
逸は、新兵衛の妹の園子が水城家の養子にと願っているという彼女の三男に、会った。
子供はこの正月で九歳になったそうだ。
年頭の挨拶に園子に伴われてきた少年は、逸が驚いて思わず首を巡らせて見比べたほどに、彼の伯父である新兵衛によく似ていた。
年のころから考えても、良い縁組であることは間違いがない。
園子は、逸の表情と仕草を見て安堵を隠そうともしなかった。これで縁組が整えば、彼女の三男の行く末は安泰なのだ。新兵衛と逸の様子を見る限り、それは成立していると考えてもいい。そう思ったようだ。
あの晩秋の日。
何もせず、ただ抱き合い睦みあって過ごした日の後から、どこか、互いに隔たりのないことを言えるような、そんな感情が流れ始めていた。
様々のことを新兵衛と逸は話し合っていた。
もし養子として園子の三男を迎えるのであれば。そういう話をした。
今後、もし逸から男子が生まれたとしても、その子は、他家へ出さなければならない。
それは辛いことに違いない。しかし家を大過なく存続させるためでもあり、また生家を離れて縁を繋いだ子に対しての義であろうと、その新兵衛の言葉を、逸は理解した。
理解はした。だが感情の部分で、まだくすぶっているようなものが心の片隅にある。
「急いで決めるべき話でもない。よく考えることにしよう」
まだ、決めなくてもいいと新兵衛は言う。
それでも、決めなくてはならない時期がすぐそこに来ていることが、逸には解っていた。
そうであれば。
密かに、逸は祈るようになった。
女の子を授かりたいと願う。女子であれば、養子に迎える新兵衛の甥とその女子を、夫婦に成す事が出来る。少なくともこれから生まれるであろう子のうち一人は、手元から離さなくて良いことになる。
身勝手な願いを許して欲しいと、逸は仏壇の前で合掌する。
つい先日までは、跡取りの男子をと祈り、状況が変われば女子をと願う。欲の深いことだ。亡き結に、呆れられているかもしれない。
しかしその欲求の変遷こそが、日々もがきながら見苦しくも懸命に生きている証なのだと逸は思う。亡き人にもそう考えてもらえたら、幸いなことだ。
新兵衛と逸は、正月の三日に鳥越の許を訪れた。二人にとっては仲人でもある。挨拶を欠かすことの出来ない相手である。
時の執政であるところの鳥越邸には、まさに門前市を成すと俗に言うとおりの来客があるのだった。
数多の客を相手にして疲労もあるだろうに、鳥越はそれでもにこやかに新兵衛と逸を迎えた。たいていの客と同じように、一言二言の挨拶を述べて、多忙であろう鳥越の許を辞そうというのが新兵衛と逸の考えではあった。
逸は、それでも一つだけ、改めて礼を言わねばならぬことがある。
鳥越様、と一通りの挨拶の後に、改めて声を掛ける。
「ひとかたならぬご厚情にはいかほど感謝申し上げても足りないことと存じます」
「なんの。私はできることしかしておらぬ。礼には及ばぬことばかりだよ」
手紙を、とあからさまに言うべきではないだろうと、逸は鳥越邸までの道すがらで考えていた。
罪人であったころの新兵衛に、密かに逸の手紙を届けたということは、鳥越の立場上、それは公正を欠く仕業であると指摘されかねないことであるからだ。
「我が家に文箱がございます。……そこに、人の心の温もりを見つけました。さしたる事と鳥越様がお思いでなくとも、私には何よりありがたい宝物に思えます」
膝の前に手をついて、柔らかな微笑を浮かべて逸は鳥越の温顔を見上げている。おおらかな目鼻立ちの頬が、また、ふと和らいだ。
「……笹生から手紙が来たのだが、逸子、そなたは面白い娘だな。そなたの宝は、その文箱か?」
「文箱そのものも、中身そのものも大切ではございますが、それにまつわる心が、私にとっては何よりも贅沢な宝物と思えます」
「それが、逸子にとっては贅沢か」
明るい声で鳥越が笑う。
「若君はそなたへ贈る物を誤ったのだな。否、そもそもの考えが違うな。美衣をまとって殿様に侍ることも逸子には贅沢ではないか。そういう考え方こそ、国母に相応しかったものを、……誠に惜しいことだった。笹生も残念がっていたよ。」
今さらな話だな、と彼はさらに笑う。視線を新兵衛に向けた。
「そうだ。それに、そなた達を引き合わせたのは自分だ、本当なら仲人も自分だったはずだと笹生がしつこく手紙に書いていた。折あらば何か便りを送ってやると良かろう」
私にそう言われたからと書き添えておいてくれ、と鳥越は言った。
「畏まりました。必ず……」
鳥越の笑顔に誘われるように笑みを浮かべながら請け合う。
それを潮に、新兵衛と逸は鳥越邸を辞した。
彼等が出て行く後にも、まだ何人もの客が待っているようだった。
幸いに晴れているものの、足元には雪が積もっている。
門の脇で新兵衛と逸を待っていた用人の松尾は、鳥越の家人が好意で焚いているらしい火にあたっていた。彼の周囲には似たような立場の者達が五ほど居る。
「奥様に、駕籠を呼びましょう」
逸に柔らかく笑う松尾の髪にも雪が降ったように白い物が増えている。
松尾にも苦労を掛けた。
老境に差し掛かった松尾も、主人に降りかかった妻の死とそれにまつわる様々の出来事ではよほど胸を痛めただろうと、新兵衛はしみじみ思う。そろそろ隠居して楽になってもいい年頃だ。彼にも後継が必要だな、と新兵衛は思った。
松尾夫婦に実子は居ない。これまでの働きに報いるためにも、良い者との縁を探し出してやりたいものだと考えた。
そのことについては逸にも、異存はないだろうと新兵衛は疑わない。
松尾と彼の妻の和子は、逸が下働きで居るときから彼女に好意的だった。逸はそういう気持ちに鈍感ではなかったはずだ。逸も松尾や和子に好意を抱いていただろう。
新兵衛に、逸を娶れと最初に言ったのも松尾だった。負傷して動けない新兵衛に、如何様に逸の親に叱責を受けようとも貰い受けてまいります、とまで彼は言っていた。
逸を、「奥様」と呼ぶことを、きっと松尾はとても喜んでいるのだろう。
松尾の申し出を遠慮する逸に、彼の言うとおりにせよ、と新兵衛は告げた。
逸、と夜半に新兵衛が細い腕を引き寄せた。
「一つ訊きたい」
胸の中に逸を収めて新兵衛は言う。
「若君様は、もしや」
覚えず、腕に力がこもった。く、というような逸の苦しげな声が胸元に湧く。いっそ、逸を砕いてしまおうかとするほど、新兵衛は逸を抱きしめる腕に力を篭める。
逸が江戸の屋敷に勤めると書いた手紙を読んだときと同じ胸の痛みを覚えている。
昼間の鳥越の話が、新兵衛の脳裏に引っかかっている。若君が逸に贈るものを誤った、鳥越はそう言っていた。
(やはり……)
懸念したとおりの事があったのだろうと想像した。
逸が江戸の屋敷で藩主の奥方に仕えたとき、藩主の後嗣となった欣之介という若君と親しく言葉を交わすこともあったと手紙に書いていた。
旦那様、と苦しげな逸の声が胸元に湧く。
国母にふさわしかったのに惜しかった、と鳥越は言った。つまりそうなのだろう。若君も逸に心惹かれたという事なのだろう。新兵衛がそうであったように。
鳥越の話をつぶさに思い出すに、逸は、何か若君から贈り物をされたということではあるまいか。その品々が贅沢であったがゆえに、逸は、貧しい者の事を考えぬ贅沢だとでも若君に言ったのではないか。それは、若君に求愛されたということではないのか。
逸が勤めを退いた理由を問うたとき、「若君様に無礼を申しました」と言っていた。逸が若君に対して贅沢をするなと諫言をなした状況とはどのようなものか、不思議に思っていた。
その疑問の答えが、そうなのだろう。
「逸……」
少し腕を緩め、逸の頬を探る。唇を求めて頬を挟んで引き寄せる。
見ると、逸は笑っている。
「……旦那様、やきもちでございますか?」
有明行灯だけの暗い闇なのに、まるで晴天が見えるような声音で言った。
明朗に、嫉妬であろうかと逸に訊かれ、新兵衛は狼狽した。ざわざわとその胸を支配していた黒い影が逸の言葉に退いていく。
「その通りだ、逸」
覚えず噴き出した笑みと共に新兵衛は逸の頬に置いた手をつと下降させた。
きゃ、と逸が身を弾ませる。
「嬉しそうな顔をして。ひどいな」
「いや、旦那様」
新兵衛の手を逃れようとして逸が身体を捩る。
それを執拗に追って、彼は、逸の脇腹を指先でくすぐっている。水揚げされた海老のように逸は身体を丸めて弾ませた。
小さな笑い声を洩らして新兵衛の手から逃げようとする逸を捕まえながら、同じように新兵衛も笑う。
もう、敵わない。そんなことを思う。
逸が他の男に思いを掛けられたということだけで、新兵衛は胸にじわじわと妬心を湧かせ、それを逸に悟られてしまった。悟った逸は、ひどく嬉しそうだった。
敵わない。快いような敗北感で、小さな苦笑を浮かべる。逸をくすぐる手は止めない。
「嫌……、あっ……や……」
「逸……」
苦笑のまま、新兵衛は少し潤んだような音色をこぼした逸の唇を探る。
甘く、柔らかく、愛しい感触を貪った。
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