フリー台本置き場(2名用)/メウアのエデン

メウア

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雪桜 (比率/男1:女1)

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(人物紹介)
 
優人:桜木 優人(さくらぎ ゆうと)男性。
騒がしい都会から逃げてきた大学生。桜が好き。
 
彩華:雪吹 彩華(ゆぶき さやか)女性。
お酒が大好きな社会人。桜が嫌い。
 
優人M:優人モノローグ。
 
彩華M:彩華モノローグ。

0:ト書。状況説明として読んでいただいても構いません。
 

(詳細)
2人台本。
所有時間約40分。

-可-
SE・BGM等の挿入可(フリーor自作のものに限る)
語尾などの軽微な変更

-不可-
世界観を壊すような過度なセリフ変更
登場人物の性別変更

 
 
 
本編スタート
 
 
優人M:まだ少し、肌寒い季節。桜のつぼみが咲く前。俺は、桜の木の下で、彼女と出会った。
 
彩華M:まだ少し、心痛い季節。桜が散る前。私は、桜の木の下で、彼と出会ってしまった。
 
 
0:桜の木の下にて。
0:桜を見上げる青年と、桜を見上げてお酒を飲む女性。

優人:「・・・まだ、咲いてないな」
彩華:「(お酒を飲む)・・・ぷはぁ!」
優人:「・・え?」
彩華:「・・んー?」
優人:「・・・」
彩華:「・・・」

0:目が合って気まずそうにする2人。

彩華:「・・君、この辺の子?」
優人:「・・そう、ですけど」
彩華:「ふーん?」
優人:「・・花見・・ですか?」
彩華:「そう!当たり!あ、よかったら一緒にどう?」
優人:「・・花見にしては、ちょっと早くないですか?」
彩華:「そう?もう、夕方だよ?」
優人:「そうじゃなくて。・・まだ、桜、咲いてませんよ」
彩華:「あー・・、桜の木の下で、座ってお酒飲んでたら、咲いてようが、咲いてなかろうが、お花見なの」
優人:「はぁ、そう言うもんですか」
彩華:「そ、そーゆーもん。ほーら、そんなとこ突っ立ってないで、こっちおいで!」
優人:「あっ!ちょっと!」

0:彩華は優人を引っ張り、隣に座らせた。

彩華:「はい!好きなの選んで」
優人:「好きなのって・・げっ、袋いっぱいに酒ばっかり・・」
彩華:「あー!今、コイツヤバい奴だって思ったでしょ!?」
優人:「・・・」
彩華:「黙っても顔に書いてるからねー?
罰として、1缶付き合ってよ。これも何かの縁ってこで。ね?」
優人:「・・・じゃあ、酎ハイで」
彩華:「どーぞ」
優人:「・・いただきます」

0:お酒を飲み始める2人。

彩華:「さっき、ここら辺の子って言ってたよね?」
優人:「はい。最近、引っ越してきたんです」
彩華:「こんな田舎に珍しい」
優人:「そんなに田舎じゃないですよ、ここ。都心部がうるさいだけです」
彩華:「あはは!言うねー!」
優人:「事実ですから」
彩華:「じゃあ、君は、そのうるさい所が嫌で、ここに癒しを求めてきたわけだ?」
優人:「まあ、そう、なるんですかね」
彩華:「そーなるんじゃない?」
優人:「そう・・、なるんですか」
彩華:「そう。そーなる」
優人:「・・・まだ、つぼみなのに。どうして早いうちに花見を?」
彩華:「・・・」
優人:「・・?」
彩華:「・・こうやってさー、つぼみ桜の下でお酒飲んでると、桜の成長が見れて楽しいよ?」
優人:「・・・」
彩華:「(お酒を飲む)ぷはぁ!・・ね?楽しい」
優人:「ふっ、変わってますね」
彩華:「あ、今、笑ったな?」
優人:「笑ってませんよ」
彩華:「ふーん?ま、初めましてだから許してやろう」
優人:「・・どうも」
彩華:「もっと喜べよー、素直じゃないなー」
優人:「・・ごちそうさまでした」
彩華:「ありゃ、もう1缶終わっちゃったか」
優人:「じゃ、俺、行きます」
彩華:「おう、付き合ってくれてありがとね」
 
優人M:手を振る彼女に会釈だけしてその場を離れた。
少し歩いて、振り返り、彼女を見ると、まだ咲くはずのない、桜のつぼみを見つめていた。
桜のつぼみを見つめるその顔は、遠くて、どんな顔をしているのか、分からなかった。
 
 
0:夕方。桜の木の下にて。

彩華:「お、また会ったね」
優人:「・・また飲んでるんですか?」
彩華:「またって、酷いなー。そう言う君も、また来てるでしょ?」
優人:「俺はただ、桜が咲くのが、いつかなと思って、たまに様子見に来てるだけですよ。あなたと一緒にしないでください」
彩華:「ふーん?」
優人:「そう言うあなただって、ほとんど毎日ここにいるじゃないですか。」
彩華:「え?なんで知ってんの?・・もしかして、・・ストーカー?」
優人:「いや、違います。ここ、通学路なんで。嫌でも見かけるんですよ」
彩華:「あぁ、なるほど。・・・ところで・・」
優人:「はい?なんですか?」
彩華:「よかったら、2缶付き合ってよ」
優人:「・・前回より1缶増えてますよ」
彩華:「細かいことは気にしないの」
優人:「・・・」
彩華:「ほーら、早くおいで」
優人:「・・はぁ、」

0:女性は青年にお酒を持たせる。
0:そして女性は、持っていた酒缶を一気に飲み干して、新しいお酒を手に持った。

彩華:「再会に、かんぱーい!」
優人:「・・乾杯」
彩華:「(お酒を飲む)・・ぷっはぁ!あー!美味しい!」
優人:「初めて会った時も思いましたけど、いい飲みっぷりですよね」
彩華:「それバカにしてる?」
優人:「・・・褒めてますよ」
彩華:「あ、思ってないな?それ。今、変な間があったぞ?」
優人:「細かいことは気にしないって言ってませんでしたっけ?」
彩華:「生意気だなぁ」
優人:「お褒めのお言葉、ありがとうございます」
彩華:「・・・ん?」
優人:「どうしたんですか?」
彩華:「さっき、・・ここ、通学路って言った?」
優人:「はい、言いましたよ?」
彩華:「え、」
優人:「え?」
彩華:「・・怖いこと聞いてもいい?」
優人:「なんですか?」
彩華:「もしかして・・なんだけど、君って・・・大学せ・・」
優人:「(被せて)大学生ですよ?」
彩華:「うわあああ!」
優人:「うぉお!急に大声出さないでください・・びっくりするじゃないですか」
彩華:「びっくりしたのはこっちよ・・・。え、なに?私、大学生の男の子を、酔った勢いでナンパしたヤバい奴だと思われてる?」
優人:「今更ですね。思ってますよ」
彩華:「嘘でしょ!?違うの!そんなやましいこと考えてないよ!?これは、その、たまたま!ね!?ね!?」
優人:「・・・ぷっ、あははは!」
彩華:「ちょ、笑うなって!」
優人:「あはは!たまたまってなんですか」
彩華:「いや、ほら、だから、お花見仲間を増やしたくて・・!ね?」
優人:「はいはい。そーですね」
彩華:「せめて、ヤバい奴って思い続けるのだけはやめて!?」
優人:「もう、思ってないですよ」
彩華:「もうってことは、前は思ってたんじゃん!」
優人:「そりゃあ・・、夕方に1人。桜の木の下で、大量のお酒抱えて飲んでるんですよ?しかも、まだ、つぼみ桜なのに・・・ヤバい奴の以外何があるんですか」
彩華:「ゔっ・・」
優人:「まあ、話してみたらヤバい奴じゃなくて、話せるヤバい奴でした」
彩華:「結果的にヤバい奴じゃん!」
優人:「あはは!本当だ」
彩華:「笑うなよー!」
優人:「・・・じゃあ、名前。教えてくれませんか?」
彩華:「名前?」
優人:「ヤバい奴って呼ばれたくないんですよね?」
彩華:「そう、だけど・・、」
優人:「名前も名乗れないようなヤバい奴なんですか?」
彩華:「違いますー!」
優人:「俺、桜木優人っていいます」
彩華:「・・・ゆうと・・か・・、」
優人:「・・?・・なんですか?」
彩華:「んー、いや?なんでもない!」
優人:「・・・?」
彩華:「私、・・雪吹彩華。改めてよろしくね。桜木くん」
優人:「はい。よろしくお願いします。雪吹さん」

0:握手を交わす2人。

彩華:「よし!お互いの名前も分ったことだし、新しいので!かんぱーい!」
優人:「乾杯」

0:お酒を飲む2人。

彩華:「ぷはぁっ!」
優人:「くっふふ」
彩華:「ちょっとー!私が飲む度、笑うのやめてくれる?」
優人:「笑ってないですよ」
彩華:「嘘!」
優人:「・・・」
彩華:「黙っても無駄だかんねー?顔に書いてるんだから!」
優人:「はいはい。乾杯」
彩華:「ほんっと、生意気」
優人:「ありがとうございます」
彩華:「褒めてないっての」
 
優人M:この頃、桜のつぼみの一部が、咲く準備をしていたことに、俺は気付かないでいた。

彩華M:この頃、桜のつぼみの一部が、私を呼んでいたことに、気付かないふりをしていた。
 
優人:「すっかり暗くなりましたね」
彩華:「・・・」
優人:「どうかしましたか?」
彩華:「いや、月明かりに照らされた、つぼみも綺麗だなーって」
優人:「・・確かに。綺麗ですね」
彩華:「・・・」
優人:「さ、いい加減、帰りますよ」
彩華:「2缶って言ったのに、結局長いこと付き合わせちゃって、ごめんね」
優人:「本当ですよ」
彩華:「懐かしくなっちゃって、つい」
優人:「懐かしい・・?」
彩華:「あー・・うん、前はよくお花見してたから」
優人:「・・前はってことは、最近までしてなかったんですか?」
彩華:「・・まあ、ね」
優人:「あんなに桜の木の主みたいに居座ってるのに」
彩華:「酷い言いようだな?」
優人:「ほら、無駄口叩いてないで、片付けて帰りますよ」
彩華:「はーい」

0:少しの間。

優人:「大体、片付きましたね」
彩華:「手伝わせてごめんねー、ありがと」
優人:「俺も片棒担いでしまったので」
彩華:「私のせいで犯罪に手出したみたいに言うのやめて?」
優人:「あ、雪吹さんのせいって自覚あったんですね。よかったです」
彩華:「ほんっと生意気だな?」
優人:「あはは。・・じゃ、俺、こっちなんで」
彩華:「あぁ、うん。じゃ、ここで」
優人:「じゃあ、また」

優人M:彼女は次に繋がるあいさつはしてくれなかった。
少し困った顔をして、俺に手を振っていたことは覚えている。
少し歩いて、振り返り、少し遠くの彼女を見ると、この間と同じように、桜の木を見つめていた。
 
 
彩華:「・・・・ゆうと・・くん・・・、か・・。なんで、ここで会っちゃったかな・・。」
 
 
彩華M:昔。私は桜が大好きだった。
一生懸命に準備して、みんなで一斉に咲く桜が。咲き誇って、私を笑顔にしてくれる桜が。夜になって姿を変える桜が。
彼の隣で、見れる桜が。大好きだった。
彼は、夜の桜が散る時が1番好きだと言った。
『月明かりに照らされて散る桜は、まるで春の夜空に降る雪みたいだから』そう言った。
 
 
優人:「・・・また居る・・」
彩華:「あ!桜木くん!待ってたよー!」
優人:「待たないでください」
彩華:「そんなこと言ってー、持ってる袋、見えてるぞー?」
優人:「こ、これは、たまたまコンビニに寄る用事があったからで・・」
彩華:「素直じゃないなー、もう。私と飲みたかったって認めな?」
優人:「・・・」
彩華:「黙っても無駄だからねー?だって、顔に書いて・・」
優人:「(被せて)ません」
彩華:「全く。ほんっと、素直じゃないなー。そんなんじゃモテないぞー?」
優人:「そんなこと言ってたら、これ、あげませんよ」
彩華:「ん?なになに?袋の中見ていいの?」
優人:「どうぞ」
彩華:「・・・っ!なにこれ!」
優人:「なんですか」
彩華:「全部私の好きな物ばっかり!」
優人:「・・・びっくりするくらいに全部酒のアテですよ」
彩華:「あ、今、私の事ただの酒豪だと思ったな?」
優人:「大丈夫です。元から思ってるんで」
彩華:「ちょっと、少しは否定してよ」
優人:「はいはい。酒豪だなんて思ってませんよー」
彩華:「棒読みだし!言いながら私にお酒渡してくるな!」
優人:「飲まないんですか?」
彩華:「飲むけど」
優人:「飲むんじゃないですか」
彩華:「当たり前でしょ?だって、お酒とおつまみがあるんだよ!?しかも桜まで!飲むでしょ!」
優人:「まだ咲いてな・・・、あぁ、少し咲き始めたんですね」
彩華:「そ!子供が生まれた感じ!」
優人:「いや、言ってること意味わかんないですよ」
彩華:「じゃ、子桜が生まれたことに!」
優人:「コザクラって・・・」
彩華:「かんぱーい!」
優人:「乾杯」

0:酒缶を鳴らし、飲む2人。

彩華:「・・ぷっはぁ!」
優人:「ふっ、本当にいい飲みっぷりですよね」
彩華:「私、今ならお酒のCM出れる気がする」
優人:「バカ言ってないで、食べてください。せっかく買ってきたんですから」
彩華:「ふーん?」
優人:「な、なんですか」
彩華:「やーっぱり、わざわざ買ってきてくれたんだ?」
優人:「っ!これは!いつもお酒だけしか飲んでないから、何か一緒に食べないと身体に悪いと思って・・!」
彩華:「私のことを心配してくれたわけだ?」
優人:「してません。俺はただ、桜を見に来てるだけなんで」
彩華:「桜が目当てかー、ざーんねん」
優人:「え、それって、どういう・・・」
彩華:「(被せて)なんてね!あはは!」
優人:「・・・」
彩華:「もー、何怒ってんのー?」
優人:「怒ってません」
彩華:「ほらほらー!カンパイしてやるから!ね?」
優人:「ちょ、いいですって!」
彩華:「ハイ!かんぱーい!」

0:カンッ。と音を鳴らす。

優人:「はぁ・・・」
 
優人M:こうやって、いつも振り回される。でも、不思議と居心地は悪くなく、つい、居座ってしまう。
知っているのは、名前と袋いっぱいのお酒を1人で飲んでしまうことと、酒のアテならなんでも好きってこと。
前に住んでいた、あの街と比べたら、彼女も負けないくらいにうるさいのに、どうしてだろう。もう少し、隣にいたいと思ってしまう。
桜が咲いている間は、桜が散るまでは・・・。
どうか、もう少し・・・。
 
 
0:桜木の肩に寄りかかって寝ている雪吹。
 
彩華:「・・・・・」
優人:「・・雪吹さん。雪吹さん、起きてください。そろそろ帰りますよ」
彩華:「・・・んー・・」

優人M:月明かりに照らされた彼女の顔は、桜のつぼみみたいに綺麗だった。

優人:「・・・・・」
彩華:「・・・・・」
優人:「・・・彩華・・さん」
彩華:「・・・ゆう、と・・?」
優人:「・・っ!」
彩華:「ん、んぁ?・・ふぁ・・・ごめん、私、寝ちゃってた?」
優人:「あ、いや、はい。」
彩華:「どっちよ」
優人:「・・寝てましたね」
彩華:「起こしてくれてありがと。」
優人:「・・い、いえ・・」
彩華:「・・・」
優人:「な、なんですか」
彩華:「いや、なんか、距離おかしくない?なんでそんな離れてんの?」
優人:「いや、なんというか、び、びっくりして・・・?」
彩華:「・・・?ま、いいや。帰るよー」
優人:「あ、あの!」
彩華:「ん?」
優人:「あ、いや、また・・・来ても・・いいですか?」
彩華:「・・ふふ」
優人:「・・・なんですか」
彩華:「いや?初めて素直になったなーって思って」
優人:「・・・」
彩華:「素直にしてれば可愛いんだから、よーしよし」
優人:「子供扱いはやめてください」
彩華:「あはは、ごめんごめん。じゃ、帰ろっか」
優人:「はい。じゃ、また」
彩華:「・・・」

優人M:次がある別れをすると、彼女は困った顔をする。
いつもみたいに、少し歩いて、振り返り、少し遠くの彼女を見る。彼女は、その桜の木から動くことなく、ただ、少し咲き始めた桜をじっと見つめていた。
まだ飲み足りないのか、それとも、桜がそんなに好きなのか。あるいは、俺との時間を、名残惜しいと思ってくれているのか。
俺と同じ気持ちで、居てくれているのだろうか。
 
 
 
優人M:あれから、何度かいつもの桜の木の下で飲んだ。他愛もない話をして、ふざけては飲んで、笑って、また、飲んで。
 
優人M:桜も咲き始め、本格的に花見の時期がやってきた。それでも、彼女は夕方から夜までしか、花見をしなかった。
 
彩華M:あれから、何度も君はここに来た。おつまみを持って、たまには、お酒を持って来て。私を、ここらか離さないみたいに、私を、見張っているみたいに。
 
彩華M:桜が咲き始め、周りが楽しくお花見をしている中、私は、ただ、あの日の事を思い出していた。叶わなかったお花見。彼の横で見るはずだった桜を、今でも望んでいる。
 
 
0:桜の木の下にて。
0:お酒を片手に満開の桜を見ながら話す2人。

優人:「綺麗に満開ですね」
彩華:「・・・そうだね・・。
彩華:・・・これで、桜木くんの目的は達成出来たわけだ?」
優人:「目的?」
彩華:「あれ?満開の桜が見たくて、通ってたんじゃないの?」
優人:「まあ、初めの頃はそうだったんですけど・・」
彩華:「・・ん?」
優人:「途中から、雪吹さんが1人で飲んでるの可哀想だなーって思って」
彩華:「同情かよー、いらないですー!」
優人:「可愛くないですよ。そこは嘘でも嬉しいって言った方がいいですよ」
彩華:「可愛くなくていいの」
優人:「じゃあ、可愛くない雪吹さんにカンパーイ」
彩華:「ちょ、カンパイの内容おかしいでしょ」
優人:「細かいことは気にしないんですよね?」
彩華:「ほんっと、生意気なのは変わんないなー」
優人:「あははは」
彩華:「あはは・・・」
優人:「・・・?」
彩華:「・・・じゃあ、今日で最後かな」
優人:「え?」
彩華:「お花見」
優人:「・・・何で、ですか?」
彩華:「だって、満開の桜は見れたでしょ?あとは、散るだけ」
優人:「雪吹さん、知らないんですか?」
彩華:「なにが?」
優人:「満開の桜も綺麗ですけど、『月明かりに照らされて散る桜は、まるで春の夜空に降る雪みたい』に綺麗なんですよ?」
彩華:「・・・っ!・・・今・・、なんて・・・」
優人:「雪吹・・さん?」
彩華:「・・なんで・・?同じこと・・言うの・・・」
優人:「・・・え」
優人M:彼女の目には涙が溢れ出していた。
彩華:「・・なんっ・・で・・っ・・」
優人:「雪吹さん・・・?」
彩華:「・・・・っ・・」

優人M:彼女はただただ、泣き続けた。今まで、支えていた糸が切れたみたいに、ただ、静かに、月明かりに照らされた桜のように、綺麗に泣いた。

0:間。

彩華:「・・・・」
優人:「・・・落ち着きましたか?」
彩華:「・・・ごめん、困らせたね」
優人:「・・いえ、少し驚いただけです」
彩華:「・・・・・」
優人:「・・・何があったか、聞いても・・いいですか・・?」
彩華:「・・・・・」

優人M:彼女はただ黙って、手にお酒を持った。飲むわけでもなく、月明かりに照らされた満開の桜を愛おしそうに見つめていた。

彩華:「・・・私ね、・・婚約者が居たの」
優人:「・・え」
彩華:「彼は、桜が大好きだった。桜の季節になったら、毎日のようにお花見をしてた。
おつまみを持って、お酒を持って・・・、桜の木の下で、小さなつぼみが満開に咲いて、散るまで・・・。彼と一緒に桜を見届ける・・。そんなお花見が、大好きだった」
優人:「・・それって・・・、今、雪吹さんがやってる・・・」
彩華:「・・そう、彼の真似」
優人:「・・・」
彩華:「・・・彼のせいで、私まで桜が好きになって・・・。いや、彼の隣に居させてくれる、彼を笑顔にしてくれる、そんな桜が大好きだった。
でもね、ある日、・・彼は重い病気にかかって、病室から出られなくなったの」
優人:「・・っ・・」
彩華:「その日が、桜木くん。君と出会った日の2年前のこと。桜が咲く前、つぼみの時期に、彼は歩くことが出来なくなった。
病室の窓から見える桜の木の一部が、成長して咲く姿を見届けるのが、・・彼の唯一の楽しみになったの。
・・・でも、桜が満開になる頃、彼は身体を自分で動かすことも、話すことすら出来なくなってた・・。
・・窓から見える桜を見ている時は、とても・・、嬉しそうな顔をしていたのを、今でも覚えてる・・・。
・・・・桜が散る少し前、話せなかった彼が、・・変わり果てた声で、振り絞るように言ったの。『月明かりに照らされて散る桜は、まるで春の夜空に降る雪みたいだから綺麗だよ』って」
優人:「・・俺が言ったのと・・・」
彩華:「そう、同じ。びっくりだよね・・それにね、・・名前も同じなの」
優人:「え、名前・・・?」
彩華:「彼の名前は・・、ユウト、って言うの」
優人:「・・っ!」
彩華:「・・ユウトがそう言ったのは、・・自分はもう、桜を見に行けないから、代わりに見て来てって、私に、お願いしたんだと思って、写真を撮って、見せて・・、・・・また、笑顔になってもらおうと思ったの・・・。
・・・・・そして、春の夜空に、桜が散った日。・・私は写真を撮りに、夜、出掛けた。写真を撮っていたら、・・病院から電話が入ったの・・・。・・事情を聞いて、急いでユウトが居る病室に向かうと、彼は・・、・・笑顔で・・・、・・大好きな・・桜と一緒に散って・・、・・私の前から、居なくなった・・・」
優人:「・・雪吹・・・さん・・」
彩華:「・・それが、2年前。・・そして、もうすぐ、この満開の桜も、散る頃・・・だから、・・私も・・・」
優人:「・・・」
彩華:「・・・(優しく微笑む)」
優人:「・・まさか!雪吹さんもユウトさんの所に・・?・・っ!!ダメだ!!雪吹さん余計なこと考えたら・・!」
彩華:「おかしな考えだけどさ、最初は、ユウトが桜木くんとして、私を止めに来たのかと思ってた・・・。共通点なんて、名前しかなかったのに・・・・、・・・話しているうちに・・、・・っ・・あの、頃を・・っ、思い出して・・、性格も・・、声も・・、目も・・っ・・!背丈も・・っ!・・全部・・・、全部・・!違うのに・・っ・・・!!
・・・2年前!!大好きだったユウトを!連れ去った桜が!!憎いのに!!大嫌いなのに!!!・・なんで・・っ・・!!・・どうしてっ・・!!!??どうして!!!またユウトを連れてきたの!!!!!」
優人:「雪吹さん・・!!」
彩華:「嫌いでいさせてよっ!!!!!桜なんて!!!!!ユウトを連れ去ったくせにっ・・!!!!私を1人にしたくせに・・・!!!どうして・・!桜木くんが・・っ!!」
優人:「俺が居ます!!雪吹さん1人じゃないです!俺が居ます!!!」
彩華:「・・っ!・・・っ・・うっ・・うぅ・・(力一杯に泣き叫ぶ)」
 
優人M:俺は、満開の桜の木の下で、泣き叫ぶ彼女を力一杯に抱き締めた。
少し強い風に、彼女という桜が散らないように。大事に。優しく。
 
 
彩華:「・・今日の夜、強風なんだって。明日には、この満開の桜も・・散ってるね」
優人:「・・雪吹さん」
彩華:「じゃあ、本当に今日で、・・桜、見納めだね」
優人:「雪吹さん・・」
彩華:「楽しかったよ、桜木くんとのお花見」
優人:「・・・」
彩華:「いっぱい、付き合わせちゃってごめんね。」
優人:「雪吹さん!」
彩華:「いっぱい、迷惑かけてごめんね・・」
優人:「雪吹さん!!!」
彩華:「・・っ!」
優人:「俺、雪吹さんが好きです」
彩華:「・・っ・・」
優人:「ユウトさんの代わりでも、なんでもいいです。ただ、・・雪吹さん・・・彩華さん。・・あなたの傍に居させてください・・・」
彩華:「・・・・」
優人:「困らせてるのも、迷惑なのもわかってます、ただ、小さいかもしれないけど、彩華さんが生きる理由が、・・俺じゃだめですか!
優人:桜をもう一度好きになる理由を、俺と一生に作りませんか・・・!」
彩華:「・・・・・ありがとう・・・。
彩華:・・・・・もう、帰ろっか・・」

0:桜木に背を向けて歩き出す雪吹。
0:同時に、強い風が2人と桜の木を襲う。

優人:「俺!明日!!ここで!待ってますから!!おつまみと、たくさんのお酒を持って・・!!待ってますから!ずっと!!待ってます!!!彩華さんを!!ずっと!!!ずっと待ってます!!!!!」

彩華M:次の約束をせずに、彼に背を向けて歩き出す。
少し歩いて、振り返り、少し遠くの彼を見る。
一瞬。戻ってくることの無い彼が、あの桜の木の下で、私を待っているように見えた。
風で夜空に桜が散る中。私の目の前は滲んでいく。

彩華:「・・バイバイ」
 
 
優人M:次の日。
1人では食べきれないおつまみと、大量に買ってしまったお酒を横に、桜の木にもたれ掛かる。
桜を見上げると、昨日の強風で、しぶとく生き残った桜たちが、春の夜空に降る雪みたいに散っていた。
それは、とても暖かくて、悲しくて・・、綺麗だった・・・。
彼女はもう2度と、この、桜の木の下に来ることはなかった。
 
0:終わり
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