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第2章 迷宮成長編

第87話 来訪者

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「なんで893がこの街に?」
「領主殿? どうかされたのですか?」
「893・・・もとい妖狸将軍、鬼柴様がこっちへ向かってるって報告が・・・・なあ撃墜しちゃっていいかな? 今なら領空侵犯ということでサクっと殺すことができると思う・・・・・うん。そうしよう」
「なっ!? ダメに決まってるでしょう!! 摩耶も笑ってないで領主殿を止めなさい! 貴女のお爺様なのでしょう」

「え~ めんどくさい。お爺様なら簡単にはくたばらないから撃墜しちゃっていいよ。無駄だと思うけどさ~」
「ちょ、ちょっと摩耶! そうかも知れないけど孫としてそれでいいの?」
「撃墜ってこの変なゴーレムが攻撃するんだよね? 面白そうだからやっちゃっていいよ。あっ! できればその様子も見たいな。慌てるお爺様なんて面白そうじゃない? ルナも見たいでしょ?」 
「えっ!? ちょっと見たいかも・・・・・」
「てことでよろしく!」

 これはチャンスだ! 摩耶ちゃんの言うとおり殺すことはできないまでも、その行為自体が問題行動である。領空侵犯とはいえ味方の将軍と知ったうえで攻撃を仕掛けようというのだから。怒った将軍が婚約破棄を俺に告げてめでたしめでたし。イイね! その計画でいこう。


「ヤマト様ほんとによろしいのですか?」
「いいって、ちゃんと孫娘の了承も得てるし問題ない!」

 騒ぎを聞きつけてやってきた嫁たちを踏まえて領主館、会議室にてその様子を見守ることになった。

「あれは・・・鬼狸こと鬼柴タンホイザー玄八郎!」
「知ってるのかメティス?」
「ええ。アゼルシュタイン連邦でも超危険人物と認識している人物よ」
「そ、そうなんだ・・・・まあいいや。だいぶ街に近づいてきたし攻撃を開始します。攻撃するのはこちらの迎撃機です」

 俺の紹介で映し出される戦闘機タイプの魔動機2機。その目標は鬼柴将軍とその乗り物らしき巨大なトンボのような蟲。
 通常なら視認できない距離からの魔導砲による遠距離攻撃、並みの魔物であれば一撃で息の根を止めることのできる魔導砲が火を噴いた。
 二条の光の筋が鬼柴将軍と巨大トンボを襲った。

「やったか?」
 爆炎に包まれ蒸発する巨大トンボ・・・・そして落下していく物体。
 しかしその瞬間、魔動機からの映像が途絶えた。
 は? 予想外の出来事に唖然とした。
 だって魔動機3体いたんだよ。それが一瞬でやられちゃったの? マジで? あの一瞬で3体・・・・ミスリルゴーレムだよアレ・・・・

「ほらな。お爺様の手にかかればこんなもんよ。あ、そこの騎士君。飛竜でお爺様迎えに行ってきてくれる? 大丈夫。あんなことでは怒ってないから」
「あんなことって・・・・バケモンかよ・・・・」
「あれが妖狸将軍なのね・・・・・」

 今さらになって自分のしでかしたことに恐怖した。
 とんでもない化物に喧嘩を売ってしまったと・・・・婚約破棄どころではないかも知れん・・・・ど、ど、どうしよう・・・・


「大層な出迎えご苦労である。ん? どうした婿殿、元気がなさそうだが、ちゃんと食ってるのか? 顔色が悪いぞ」
 飛竜から降りた将軍はピンピンしていており、怒った様子もない。
 あれ? 逆に俺が心配されちゃってる? なんで?

「あの・・・・将軍・・先ほどの攻撃は・・・・」
「んっ? あれか、あれはわしも度肝を抜かれたぞ! 周りで何か飛んでいたのは知っていたが、あんな距離から攻撃されるとは思わなんだわい。無意識に反撃してしまったが悪かったの。まあこれでお互い様じゃ」
「あははは・・・ところで将軍はどうしてこちらに?」

「それじゃそれ! どこぞの馬鹿娘が行方をくらましたと報告を受けてな。聞けばオルファース家の娘と飛竜に乗って飛び去ったというではないか。そこでわしは婿殿の領地へ向かったと直感したので追いかけてきたのだ」

「ちょ、摩耶! 行方をくらましたってどういうことよ。私そんな話聞いてないわよ。私はてっきり許可を得たと思ったから連れてきてやったのに、騙したわね」
「え~ その方が面白そうじゃん」
「摩耶・・・貴女ねえ・・・・鬼柴様申し訳ございません」
「うむ。気にすることはない。わしも面白そうと思ったからやってきたまでのこと。逆に孫娘が迷惑かけたな」

 面白そうだからって・・・家族に無言で家を飛び出した娘も、それを笑って追いかけてくる将軍も・・・・実は何も考えてないんじゃなかろうか・・・ただの面白いことが好きな人たち? いや狸たち?
 だとしたら恐ろしい一族だ・・・・

「して婿殿よ。わしは孫より聞いたラーメンなる麺を所望するぞ」
「アタイもラーメン食べたい!」
「私も食べたいかも・・・ほんのちょっとだけ・・・お腹空いてるの・・・・ほんのちょっとだけよ・・・・」

「はいはい。空腹の御一行様ご案内いたします」
 俺たちは昼食を済ませた後だし、ランチタイムの忙しい時間帯を過ぎた今なら街の飲食店街も空いているだろう。観光がてら街を案内するかな。


「むむっ! 貴様は葛葉の一族か!」
 街へと移動するために魔動機を用意している時に出会ってしまったのだ・・・・狸と狐が・・・・・
 
「婿殿、このふしだらな女子おなごは?」
「妻のステラです」

「そ、そうか・・・摩耶よ。妖狸族の長として命ずる。この妖狐族の女子より婿殿の寵愛を勝ち取るのだ。相手は3本尾の葛葉の一族、並大抵の相手ではないが負けることは許さん。寝所でも戦力としてもだ!」

「もちろんですお爺様! こんな年増に摩耶は負けません!」
「なっ! 誰が年増よ誰が! チビで貧素な小娘が私に喧嘩売ろうってのことかしら? 調子に乗ってると燃やすわよ」
「ふん。できるもんならやってみなさいよ。おばさんにできるならね」
「何ですって! このチンチクリン」
「おっぱいデカいからっていい気になるな!」
「残念でした。ヤマト様はこのおっぱい大好きなんですぅ。小娘の貧素なお胸ではヤマト様は満足しません」
「なにおぅ! アタシのどこが貧素だってのよ! ルナより胸あるもん!」
「なにを偉そうに。いいからしっぽ巻いて逃げ帰りなさい」

 なにこのしょうもない言い争い・・・・・子供の喧嘩か?
 これ、どうすればいいんだ? 
 ・・・・・・・・・よし、ほっとこう。
 いつまでも続く狸と狐の口喧嘩になんて付き合ってられん。

 ルナちゃんとその護衛騎士を乗せた魔動機が向かう先は、街の名所となりつつあるラーメン横丁。
 各店それぞれ特色の違うラーメンを考案して提供している。競合店が多く各店生き残りをかけて日々切磋琢磨しているものだから、次々に旨いラーメンが生まれてくる。日本の名店には程遠いがそのうちに追いつくことも可能かも知れない。
 
「このすべての店でラーメン食べれるの?」
「そうだね。お店によって食べられる味が違って人気なご飯処なんだよ」
「ホントに高級店じゃなく庶民の店だったんだ・・・それにお昼どき過ぎてるのに凄い人・・・・これ全部人気店の行列なのね」
「ちょっと並ぶことになるけど、お勧めはこっちの豚骨ラーメンだよ。それともあさっり系がいい?」
「ううん。豚骨ってこの前食べたスープよね? そこでいいわ」

「ちょっとぉぉ! 置いてくなんて酷くない?」
「喧嘩してるお前が悪い! お爺様もどうして止めてくれないのですか!」
「面白かったから。それよりもここは面白いとこじゃのう」
「お爺様! 全店制覇しますわよ!」
「おう孫娘よ! どちらが早く食べれるか勝負じゃ!」

 息を切らして追いかけてきたのは狸娘だった。
 そして騒がしいふたりは風のように去って行った・・・・

「・・・・・あの人たちいつもああなの?」
「摩耶はともかく将軍は厳格な人なのですが・・・どうにも調子が狂うわね」
「そなんだ・・・・とにかくラーメン食べよう」

 この店の豚骨スープは豚骨特有のにおいやドロッとした感じがまったくなく、麺にしっかり絡むスープは濃厚でクリーミーな味わいが食べやすいのでラーメン初心者にお勧めなのだ。
 テーブル上の調味料も豊富で味変も可能なのがポイント高い。

「こ・・・これはハマりますな・・・・」
「私の護衛は良いから、貴方たちも自由にしなさい」
「お嬢様。ありがとうございます。よし、俺たちも次の店にいくぞ!」
「おう! お嬢様についてきて良かったな。帰ったら仲間に自慢できるぞ」
 
 ルナちゃんの護衛騎士は嬉しそうに別の店に並び出した。

「ルナちゃんはもういいの?」
「だって・・・こんなの美味しいものいっぱい食べたら・・・太りそうで怖いわ。他にも名物あるんでしょう? 私はスイーツが食べたいわ」
「君は君でちゃっかりしてるね」
「なにか言ったかしら?」
「なんでもないです!」

 スラリと伸びた身体を見ても綺麗だと思うルナちゃん。カロリー高めのラーメンは確かに太りやすい。しかし・・・スイーツは同様にヤバいよ。
 そんなことは口にできないけど・・・・

 洋菓子店にて様々なケーキを買い、帰宅した俺たちは仕事に戻った。
 あまり遊んでいるとシルエラに怒られるのだ。
 そのシルエラはルナちゃんたちと楽しそうにお茶会を開いている・・・いいなあ・・・俺も仲間に入れて欲しいなぁ・・・・俺・・・領主なのにな・・・・

 夕食は鬼柴将軍たちや新参のメティスらを踏まえて晩餐会を開いた。
 晩餐会といっても本人たちの希望で焼肉パーティーなのだが、昼間あれだけ食べたのにまだ食べるつもりなのだから驚きだ。
 ちなみにラーメン店全18店舗すべて制覇したらしい。勝負の行方は将軍の勝ちらしいがどんな胃袋してんだよ。
 摩耶ちゃん曰く、竜骨ラーメンをマシマシで頼んだのが勝負の勝敗を左右したらしいが話を聞いているだけで胃もたれしそうだ。

 各地より取り寄せたお肉に、特製ダレ。脂の乗ったカルビはとろけるように柔らかく、特に骨まわりの肉は絶品なのだ。

「んふ~ こいつはいけるのう! 酒も美味いし、婿殿! わしはこの街が気に入ったぞい。なあ孫娘よ。わしの目に狂いはなかったじゃろう」
「ええお爺様。ああっ! そのお肉アタイのお肉! せっかく楽しみに取っておいたのに。かくなる上は・・・そのお肉もーらい!」
「ぬあぁぁぁ! わしの肉がぁぁぁぁ! おのれぇぇ!」

 なんとも騒がしい人たちだな・・・・


「やだやだやだっ! 摩耶もここに泊まるぅぅぅ!」
「ダメです! 客人は大人しくホテルに泊まってください」
「客人じゃなく婚約者だもん!」
「婚約者でもダメなものはダメです!」

 駄々をこねているのは摩耶ちゃんだった。
 しかしシルエラに許可をもらえず駄々をこねているのだ。

「孫娘よ。ここは正妻殿に従うのだ!」
「しかしお爺様!」
「良いからこっちにこい。少し話がある」
 なにやらこそこそと話をしているが、絶対にろくでもないこと話してるな。

「お爺様分かりました! 摩耶がんばります。年増の狐になど負けません!」
「その意気だぞ。では婿殿、わしらは大人しくホテルとやらに泊まるのでな。御馳走になったわい。ではお休みなのじゃ!」
「お休みなさい」

 あれ? 大人しく引き下がったぞ・・・もっと駄々こねると思ったのに意外だな・・・・それとも何か企んでる?



「うふっふっふ。お爺様上手くいきましたね」
「ああ、一旦引くと見せかけて奇襲する。戦の基本戦術じゃわい」
「ですね。寝静まった夜更けに夜這いして既成事実を作り妻としての地位を確保するこの作戦。絶対成功させますとも!」
「うむ。頑張るのじゃぞ!」

 不穏な逆夜這い計画を企てる妖狸一族の祖父と孫。
 

「・・・なんてこと考えてるでしょうね」
「ステラに同意だな。ここは我ら一同一致団結して狸娘の屋敷への侵入を阻止するぞ! まずはその作戦会議だ!」
 
 同族嫌悪とでもいうのか・・・狸娘の行動を読み取ったステラによって、厳戒態勢の敷かれた領主館。

 こうして狸娘摩耶 VS 嫁一同とメイドたちによる攻防戦が開始された。
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