桜の頃

つきこ

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彼女の夢

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いつからだろう

舞い上がる桜の花びらに魅せられているうちに
遥か遠くに見つけた黒い影

それがヒトだと解って
影だけど後姿なのだと解ったのは

いつからだろう

ロクに動かないと解っているのに
追いつこうと思ったのは

届かないと解っているのに
手を必死に伸ばすのは

解っているのに
哀しくて涙が止まらなくなったのは

どうしてなんだろう



  「―――っ。ねえ、次移動だよ」
  肩を強く揺さぶられて、重い目を開ける。
  のろのろと支度して、連れ立って教室を出る。
  「ねえ、ちゃんと寝てる?」
  「うん」
  「今年はいつもよりひどいんじゃない?」
  「そうかな」
  そうだよと勢いよく頷いた。
  「あたしたちはひどい花粉症だって解ってるけど、学年主任は解ってないからね。『今年から特進クラスになったのにやる気がないのか』って担任にくってかかってる」
  「そう」
  「あんた………復活したら担任に謝っときなさいよ。今の担任、結構不憫よ」
  呆れたように大きくため息をついて頭を抱える。
  申し訳ないと解っているから、素直に頷いた。


  いつの頃からかは忘れてしまったが、夢をみるようになった。

  桜の花びらに溺れそうになっていると、遠くに男の人の後姿が見える。
  追いかけようにも足は鉛のように重たくて、絶対に届かないと解っているのに必死に手を伸ばす。出ない声を張り上げようとする。

  桜の咲く時季にだけみるその夢で、私は毎朝目が溶けてなくなりそうなほど泣いて起きる。
  毎晩毎晩夜の間中泣いているものだから、昼間は頭がぼうっとして使い物にならない。
  夢のせいと言っても信じてもらえないと思い、薬も効かないほどひどい花粉症だと誤魔化している。

  あと数週間。
  桜が散れば夢に泣かされることもない。
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