二十代高卒会社員が考える現代社会

かがり

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人は全知全能のパラドックスに打ち勝てるのか

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 昨今、何事においても『多様性の尊重』と言う価値観が重要視されるようになっている。私は、これを素晴らしい事だと思う。
 多様性と尊重をそれぞれ国語辞典で調べてみよう。
 デジタル大辞泉によると、多様性とは『いろいろな種類や傾向のものがあること。変化に富むこと』と記されている。
 次に尊重。これは『価値あるもの、尊いものとして大切に扱うこと』と記されている。
 つまり、現代社会は『様々な種類や傾向があり、変化に富むこと』に『価値があり、尊いものとして大切に扱う』としている、と言える。

 ここ数年でこの多様性の尊重によって理解の進んだ個性がいくつかあるが、その最たる例がLGBTの尊重だろう。
 日本でも、大手の企業であれば新入社員の教育にほぼ確実に含まれる内容だろう。
 私は、自衛官を退職してから民間企業に就職したが、新人研修で人権についての講習を受けた。覚えている限り、私は高校を卒業するまでの人権学習の中でLGBT差別について学んだ記憶が無い。故に、その講習の中でLGBT差別に触れられたときは新鮮さを感じた事を良く覚えている。
 加えて、私は元来他人に興味が無い性格だった事もあり、その講習で講演家の男性が主張していた事に対しても、

「まあ、それはそうだよな。差別は良くねぇわな」

 と、割とすんなり納得していた記憶がある。
 誤解を産まないために言うと、先にも述べた通り私は基本的に他人に興味が無い。しかし、これは排他的と言う意味では無い。何ならかなり寛容な可能性すらある。
 私の他人への無関心は、他人の大抵の事柄に対して疑問を持たず否定も極力しない、と言う事だ。
 故に、様々な方の主張を聞いたとして、余程の事で無い限りは私は何の疑問も持たずに納得はできる。まあ、そう言う意見もあるわな、と。
 ちなみに、差別の助長と根拠の無い意見は私個人としてはとても容認できない。

 ともあれ、そんな具合に他人に対して無関心な私だが、しかし全く完全に疑問を感じないわけでも無い。

 多様性の尊重という価値観の対極には、必ずと言って良いほど何かしらの差別が立ちはだかる。
 日本で言うなら、ハンセン病患者に対する非人道的な扱いに始まり、女性の社会的立場の問題、うつ病など精神疾患患者に対する偏見等々、数えだしたらまだまだ課題は山積みである事が分かる。本気で山積みになるので、全てを挙げる事はしないがここに記さなかった問題を軽んじるつもりは無いと言う事を明記する。

 それはそれとして、人間という生き物は何かしら差別をしてしまう生き物である事は間違い無い。未だに肌の色から来る差別は残っているし、言語、文化、宗教にまつわる差別も依然ある。

 そして、差別は良くない、と言う教育を受ける。
 
 さて、ある程度の方は気付いているだろうが、ここで矛盾する概念が発生し易い。

 それは『差別を良くないと思っている我々』が『差別する者達を見下し、悪し様に感じ、差別している』と言うものだ。

 私が疑問に思う事はここにある。差別が良くないものと認識される現代社会にあって、それでも差別意識を持ってしまう方々にどう向き合うのか?
 
 私は、ここに『多様性の尊重』の真価が問われる事になると考えている。

 私は、多様性の尊重に対立するものが差別である、と述べた。

 では、差別とは何か?
 
 再びデジタル大辞泉によると、二つの意味が出てきた。
 一つ目は『あるものと別のあるものとの間に認められる違い。また、それに従って区別すること』と記されている。
 次に、二つ目の意味。これは『取り扱いに差をつけること。特に、他よりも不当に低く取り扱うこと』とあった。
 今話題にしている差別は二番目の意味だ。

 さて、何故差別が産まれるのかを考えてみる。
 あくまで私個人の考察だが、差別の原因は個人の快、不快の感情によって産み出されていると考えている。そんな単純な、と思われるだろうがしかし人間は存外単純な生き物だ。
 自分にとって快なものは大事で不快なものは排除したい、そう言う特性を持った畜生なのだ。無論、私もその畜生の例に漏れない立派な畜生だ。

 話を戻して、何故その二択に絞り込めるのか、私なりの見解を述べる。

 改めて、ここで言う差別とは、乱暴に言ってしまえば物事の扱いに不当な優劣をつける事を指している。
 ここで考えるべきは、差別する側の視点と感情だ。ここで、この文章を読んでいるであろう読者の皆様を仮の加害者側に見立てよう。
 あなたはごく普通に暮らす一般市民だ。衣食住に困らず、毎日風呂に入れて生命の危機に瀕していない生活を送れている、としよう。
 そんなあなたがある日町を歩いていると、異臭を放つ不衛生な身なりの人物が道ばたで寝ているところに遭遇したとする。
 この時、その人物の異臭、あるいは見た目の汚さからか、あなたは不快感を覚えるだろう。

 差別の正体はその不快感だと私は考える。
 
 もう一度考え直して欲しい。
 あなたは、ごく普通に暮らしている一般市民だ。つまり、あなたが所属する社会において多数派の人間なのだ。そうなると、あなた以外の一般市民も似たような生活水準、教育を受け、ある程度共通の社会常識を共有している事になる。
 つまり、あなたが不快に感じるその状況は他の人もほぼ同じように不快と感じるのだ。

 要は、集団社会にとって不快な存在はどうしようも無く差別されてしまうのだ。例えそれが駄目な事だと分かっていても。

 ここで、もう一歩踏み込んでみよう。不快の基準についてだ。
 ここで注意しなければならない事は、主観の不快と社会全体の不快は密接に関連するが必ずしも同じでは無いと言う事だ。
 
 その上で、まず個人が感じる不快についてだがこれは簡単だ。
 自身の健康や生命を害する恐れのある事柄は、全て不快と認識するのだ。
 何せ人間も生物だ。五感で良くない異常を感知したら不快感を覚えるようにできているのだ。

 次に、集団社会にとっての不快についてだが、これも案外簡単だ。
 集団社会を維持するには、最低限の規則と常識が必要となる。その規則や常識に反する行いをした者が、集団社会にとっての不快なのだ。

 さて、お気付き頂けただろうか?
 我々は生物である限り、社会を維持し続ける限り、必ず何かしらの差別を産み続けてしまうのだ。

 それでも尚、差別は良くないものだと考え多様性の尊重を重視するのは何故なのか?
 それは、日本の民主主義社会において基本的人権の保障が謳われているからだ。

 日本国籍を持ち、日本の土地で生きている限りあらゆる人々は日本国の保証する基本的人権に守られている。
 従って、日本国と言う社会にとって不快な存在の基準が低くなってきているのだ。その背景には年々減少し続けている日本の総人口の影響も少なからずある。
 人的資源が減り続ける中で、もはや過去の社会通念や伝統や風習に縛られて人を選り好みしていられる余裕が無くなってきたのだ。

 しかし、先にも述べたが主観の不快と社会の不快は必ずしも同じではない。
 社会の側が急速に変化したとしても、各人がそれに追いつけるかと言えばそれは別問題だ。どうやっても齟齬は出てくる。
 
 無闇に多様性の尊重を声高に叫ぶ風潮ができあがりつつあるが、一度各人立ち止まって考えて欲しい。

 あなたが不快に思う事は何なのか? 努力を怠る人? 規則を破る人? 食事の行儀が悪いのか、教養が足りないのか? 人の数だけ不快に思う部分はあるだろう。
 だからこそ自身の中に潜む差別の意識を自覚する事が非常に大事なのだ。
 良い人無くして良い社会は有り得ない。

 私の考えを浅く青臭いと鼻で笑う方も一定数いるだろう。
 しかし、そんな浅い事すら解決できていないのが今の日本社会なのだ。
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