異世界宝くじで一等を当てた俺は日本に転生して盲目の少女と気ままな旅をする

LABYRINTH

文字の大きさ
9 / 14

冒険のおはなし

しおりを挟む
 少しばかり湯船の底がぬるぬるしていたが、いい湯だった。

 老いた祖母と盲目の少女。一般的な家にしてはかなり広大なこの建物を管理するのは簡単な事ではないはず。手入れが行き届いてないのも仕方ないのだろう。

 何にせよ。廃業した旅館に泊まるなんて滅多にない経験だ。


 俺は頭をタオルで拭きながら、せめてもう一度ぐらい礼を言っておくべきだと考え、詠海の姿を探した。

 しかし、さすがにこう広いと見つけるのは至難の業だ。そう思っていたところに人の声が聞こえてきた。

 ロビーの方から明かりが漏れてきている。


「どういうつもりだい。着物なんか着て」


 詠海の祖母の声だった。

 穏やかな口調ではない。

 それは、そう……。

 ちょうど説教だ。そう直感した。

 俺は息を殺し、そろそろと明かりの方へ近づいた。


 かつては旅館のロビーだった場所には、テーブルやテレビなどが置かれていた。ちょうど居間のような感じだ。

 二人はテーブルを挟んで向き合っていた。

 お茶を入れたコップを両手で握りしめている詠海は、ぐっと唇を噛み、暗い表情を床に落としている。

 一方的に攻撃されているのは誰が見ても明らかだった。


「目さえあいてりゃね。婿でもとって店を継げたのにさ。お前がやってるのは、所詮ごっこ遊びだよ」


 見てはいけないものを見てしまったような気がした。

 逃げ出すべきだろうか。わざとらしく会話に割って入るべきだろうか。


「そんなもんはやく脱いじまいな。そうやって悔しそうな顔したって何も変わらないさ」

「…………」

「あんたみたいな欠陥品はね。外に出ちゃいけないもんなんだよ。何一つ人さまの役に立てないんだから、せめて生き恥をさらすんじゃないよ」

「…………」

「だいたいね。あんな得体の知れない怪しい男連れてきて、ご近所さまに見られたらどうするんだい」

「……怪しくないもん」

「口答えするんじゃないよ。どうしてあんたって子はおばあちゃんを困らせることばかりするのかね」


 まずい。気がつくと、いつのまにか足元にぴー太が擦り寄ってきていた。

 ふわふわした毛がまとわりついて非常にくすぐったい。


「(頼むよ。あとで遊んでやるから)」


 小声で叫んで、ぴー太を持ち上げようとした時、


「にゃあ」


 ぴー太が鳴いた。

 その直後、居間の方からがたりと椅子が動く音がした。


「そこにいるのかいっ?」ぴしゃりと祖母の糾弾するような声が届いた。「盗み聞きするとはいい度胸だね」


 間違いなく俺に向かって言い放たれた言葉だ。

 怖すぎる。恐怖で凍りついて動けない。

 なぜ俺もいるとばれた?

 ふと部屋に目を向けると、姿見鏡から詠海の祖母がこちらを睨みつけていることに気がついた。

 それにしても悪魔のような形相だ。


「いいかい。あんたもよく聞きな。この子はね、出来損ないだから両親に捨てられたんだよ。それで跡継ぎがいなくてこの始末さ」

「にゃ、にゃあ」

「猫の声真似なんてするんじゃないよ! とにかくね。どこの馬の骨か知らないけど、あんたにゃ口出しする権利なんてないんだよ。とっとと家から出ていきな」


 声の鞭でひっぱたかれるように、そそくさと俺はその場を後にした。



 部屋に戻って荷物をまとめようとしていると、詠海がぴー太を連れてやってきた。


「待って。行かないで」


 俺はふぅと息を吐いて、一旦荷物をおろした。確かに、今外に出たところで困るのは俺自身だ。

 どうすればいいのかわからず、俺は後頭部をごしごしと掻いた。


「しかし、あんなことを言われてしまってはなぁ……」

「大丈夫。おばあちゃんには後で説得しておくから」

「どうしてそこまでして……」


 俺はどかんと座布団に座り直した。

 それからしばらくの間、黙ってぽろぽろ涙を流す詠海の顔を見つめていた。


「旅館やりたかったんだな」


 黙っているのも息苦しくなって。俺は思い出したようにそんなことを言ってみた。


「別に」ぽつりと詠海は答えた。「私でも何かできるんだって証明したかっただけだよ」

「そうか。詠海はちゃんとできてたぞ。この調子だと名物美人若女将になれそうだな」

「全然できてないよ。そんなの自分でわかるもん」


 もっと励ましてやるべきだったかもしれないが、何を言っても駄目そうな気がした。

 それでも何かいい言葉はないかと、頭の中をぐちゃぐちゃと掻き回したが、やはり名案は浮かばなかった。

 俺は「ふぅ」とまた短いため息をついてから、


「じゃあ、約束通り俺の話を聞くか? 冒険の話でもな」

「……うん、聞きたい」


 詠海の表情が少しだけ明るくなった。

 本当はあまり過去の話はしたくない。いい思い出が少ないからだ。だが、それで彼女の気が晴れるならいい気もした。

 俺はこくこくと頷きながら、


「よし、いいだろう。そうだな。あれは俺がはじめて酒場で仲間を募集した時のことだったな……」

……
…………
………………
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する 

namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。  転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。  しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。  凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。  詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。  それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。  「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」  前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。  痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。  そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。 これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】異世界で神の元カノのゴミ屋敷を片付けたら世界の秘密が出てきました

小豆缶
ファンタジー
父の遺したゴミ屋敷を片付けていたはずが、気づけば異世界に転移していた私・飛鳥。 しかも、神の元カノと顔がそっくりという理由で、いきなり死刑寸前!? 助けてくれた太陽神ソラリクスから頼まれた仕事は、 「500年前に別れた元恋人のゴミ屋敷を片付けてほしい」というとんでもない依頼だった。 幽霊になった元神、罠だらけの屋敷、歪んだ世界のシステム。 ポンコツだけど諦めの悪い主人公が、ゴミ屋敷を片付けながら異世界の謎を暴いていく! ほのぼのお仕事×異世界コメディ×世界の秘密解明ファンタジー

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...