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【一章】僕が最強モンスター職を手に入れるまで
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「あ゛ぁ゛ぁぁぁ、やっと目標達成じゃあぁ……」
何十体目かのゼリーマンを倒した末、僕たちはようやくレベル5に到達した。
花火さんは燃え尽きたように、へなへなと床に崩れ落ちた。かなりの苦行だったと僕も思う。星蘭さんなんか、額からたらたらと汗を流しながら、
「正直、ここまで頑張る必要はなかったかもしれないねぇ」
「それはバッタ倒して成長しながらって考えた場合じゃろ? うちらは特急電車で駅をすっ飛ばすみたいに第一階層を駆け抜けたいんじゃけぇ」
「うちらっていうより花火ちゃんだけでしょぉ?」
「まぁまぁ」僕はふたりをなだめながら、「これでジョブシステムとスキルシステムが解放されたはずですよ」
「そうだね。ここであれこれ言ってても仕方ないし、はやく試してみようか」
まずは星蘭さんのジョブ画面をみんなで見てみることにした。
画面にはいくつかのアイコンが横並びになっていて、それぞれのアイコンから下へ向かって枝分かれしている。そしてまたいくつものアイコンに繋がっていた。
要するにツリー形式になっているのだ。
そして定石通り、明るく表示されているのは最上段の横並びになっているアイコンだけだった。
「基本職とか一次職って感じだねぇ。そんで下のグレー表示になっているのは……」
「上級職? 二次職?」
「って感じですかね。でも最上段のアイコンの中でも、ところどころグレー表示になっているのはなぜなんでしょう?」
最上段がすべてアンロックされているとは限らなかったのだ。
中には上級職と同じようにグレーでロックされているジョブがいくつもある。
考えられる可能性としては、
「『適正』ですかね?」
「適正っていうと、向き不向きみたいな?」
この仮説を確かめるために花火さんのジョブ画面と比べてみた。
「うちも星蘭ちゃんも蓄積されたジョブポイントは4で同じじゃけど……」
「アンロックされている部分が違いますね」
「傾向として、花火ちゃんはバリバリの物理アタッカーって感じだねぇ。剣士、格闘家、盗賊、弓使い」
「星蘭さんはバランスがいいですね。槍使い《ランサー》、魔法使い、治癒師」
「なるほどぉ、適正というのはいい線かもしれないねぇ。でも、グミ君の方は? せっかくだし、ここで確認してみなよぉ」
「僕はふたりが決まってからでいいですよ」
そう言うと、花火さんと星蘭さんが顔を見合わせた後、目を丸くして僕を見やった。
「どうしたん、グミ?」「どうしちゃったの、グミ君?」
「えっ⁉」僕は声を引きつらせる。「別にどうもしないですよ?」
「そんなわけ。グミだって自分の好きなジョブ選びたいじゃろ?」
「いや、でもチームのバランスが大事ですからね。盾役だって必要だからなったわけで。僕はどうしたらチームに貢献できるかって考えてるだけですよ」
すると星蘭さんが眉をひそめた。
「グミ君……それは素晴らしい考えだと思うけど、自分を殺してまで頑張らなくて良いと思うんだけどなぁ」
「うちもそう思うよ。それにポイントがある限り、他のジョブだってかけもちできるじゃないの?」
「でもそれじゃダメなんですよ!」
気が付くと、僕は突発的に大声を出していた。
当然、ふたりは目を白黒させている。
まったくもって意味不明だと思われたのだろう。何がダメなのか、僕自身もいまいちわからなかった。
ただ、自分が焦っていることだけはわかった。
「ご、ごめんなさい。僕は……ふたりの役に立てたらって思ったんです」
「グミ……」「グミ君……」とふたりは口ごもってから。
「そんなんうちだってどうすれば貢献できるかくらい考えとるけぇ」
「えっ、そうなんですか?」
「当たり前じゃろ! うちをなんだと思っとるんよ?」
「ゲームみたいにプレイヤーがひとりで選択肢を決めたり、ポイント割り振ったりするのとは違うからね~。私たちはそれぞれ別の目的を持ってるし、お互い力になりたいとも思ってるけど、誰かの意見を封じ込めてまで探索をしたいとは思ってないんだよ?」
「うちはチームワークも大事にするけど、自分のやりたいことも大事。興味ないジョブとかやってもつまらんもん。みんな好きに選んで、どこかで壁にぶち当たったら、そん時はみんなで力を合わせて壁をぶち壊していければって思ってるよ!」
「花火さん……星蘭さん……」
あれれ、おかしいな。いつの間にか涙が溢れ出ていた。
そうか。僕はふたりにまったく釣り合わないと思うどころか、探索でも足手まといにならないだろうかと恐怖するあまり、最初の頃のわくわくしていた冒険心さえ失っていたのだ。
「ひっぐ、ひっぐ……ぐぇ……あ、安西先生……‼ ぼ、僕は……け、賢者になりたいです……」
「おぉ! 賢者って言ったら攻撃魔法も回復魔法も使えるやつじゃろ? ええじゃん、グミ!」
「はい、ゆくゆくは! そして、ふたりを守る盾としても活躍したいです!」
「グミくん! その調子だよ~! みんなで目指していこうね!」
「はい!」
「それじゃ、グミ! ジョブパネルを開いてみようか!」
「はいっ! では、メニューオープン!」
素晴らしい仲間に勇気と元気を貰い、颯爽とメニュー画面を呼び出した!
横にスライドゥ!
ジョブパネルを広げてっ━━
「「「………………………………」」」
……はっ⁉
オールグレー。画面いっぱいに広がる灰色の虚無。
なんだこれは? これはなんだ?
「えっ、これって……適職なし……?」
僕は震え声になりながら、手当たりしだいに画面をタップする。
『適正がありません』『適正がありません』『適正がありません』『適正がありません』『適正がありません』『適正がありません』
適正があるジョブがひとつもないじゃないか。
「…………………なにこれ」
「ええと、グミ、ほらきっとあれだよ……あれ。えぇと、ジョブポイントが足りないとか……」
「この表示だと、一次職は一律4ポイント。つまりパネル開放と同時に必ずジョブを身につけられるようになってるようですな」
僕の声は震えを通り越して、かすかすにかすれてた。
…………
ず~んと気持ちが沈んだまま僕たちは探索を再開した。ふたりは気を遣ってくれたのか、ふたりのジョブをバランス良く格闘家と治癒師にしようかと提案してくれたけど、僕の方から強く断った。
そりゃ、あんな話ししてくれた後だもん。
けっきょく当初の希望通り、花火さんが剣士、星蘭さんがランサーとなった。
ふたりの望みが叶って僕は幸せですよ。
ちなみに剣士はそのイメージ通り、近距離型アタッカー。ランサーは中近距離型で、比較的軽装だが、テクニカルな戦い方を得意とするタイプだ。
そして僕は何の取り柄もない無職。
「……………(ずぅ~ん)」
さて、探索を再開した僕たちは、待ちに待った次の階層へと進んだ。
入念な準備が功を奏したのか、ピンクバッタの群れを切り抜けることができた。
ゼリーマンからドロップした強化チップと素材チップで『鉄シャベル+3』にまで強化できたことと、転職したふたりの能力が底上げされたおかげだ。(たぶん後者の恩恵が大きかった。)
花火さんはドロップアイテム回収要員として、後ろから付いてくるだけだったけど、星蘭さんと(おまけ程度の)僕とで猪突猛進、ダンジョン地下第一階層を駆け抜けた。
無事に階段を発見し、下層へと進む。
地下第二階層は、これまでの薄暗いダンジョンから一変、明るい室内に緑の生い茂る草原のような造りになった。
天井一面が青空のように自然発光し、川の流れもあったりする。
「うわぁ、すごい緑ですね! 空気も美味しいし、川のせせらぎも心地よい! ダンジョンにもこんな場所があるんだぁ!」
落胆ぶりを見せれば、ふたりに気を遣わせてしまうと思い、僕は一世一代のカラ元気を発揮した。
「あははははっ! うふふふふっ!」
わざと大声で笑い、草原を駆け回る。
川の水を手ですくいあげ、ごくごくと音を立てて飲み干した。
「ぷはぁ! 美味しいですよ、この水っ!」
「グミくん……」「グミ……」
「あれ? どうしたんですふたりとも?」
「そんな無理して元気出さんでええんよ」
「無理して……なんて……ひっく……そんな……ぐふっ」
「グミくん、悲しい時は悲しんでいいんだよ」
「わああああああぁぁぁぁ!」
僕は青々とした地面に崩れ落ち、草に顔をうずめて泣き喚いた。
どうして僕はふたりと一緒にいるんだろう?
きっと向こうも同じことを思っているはずだ。どうして私たちはこんな役立たずと一緒にいるんだろうかって。よりによってハズレくじを引いてしまったって。
「帰りましょうか……ふたりとも……」
僕たちは早々に探索を切り上げて、ダンジョンを出ることにした。なんとも気まずい空気が流れて、ふたりも僕にどう声をかけていいのかわからないみたいだった。
「それじゃあ、着替えて先に上いってますね」
ふたりはダンジョンの中で着替えを済ますということなので、先に外に出た僕はジャージから制服に着替え直した。
井戸から空を見上げると、夕焼けが見えた。ハシゴをのぼる足が重い。ここで足を滑らせたら、いっそ楽になるかもなんて。
重すぎ?
大丈夫。さすがにここで死ぬつもりはない。
カンカンカン━━井戸の縁に手をかけた時だった。
「ぐぇっ⁉」
突然だった。
ガッシと何者かに手首を掴まれた。
そのまま強引に身体を引き上げられる。気づくと地面に投げ出されていた。
「いててて」
見上げると、そこにいた。
藤崎だ。
沈みかけの歪んだ太陽を背にして、表情はよく見えないが、ラガーマンみたいなごつい身体に、金色にブリーチした頭頂部の髪をキューピー人形みたいにツンと尖らせているシルエットなんて尾道にひとりしかいない。
「ふ……藤崎くん」
「よう、グミヤマ。久しぶりじゃな。最近つきあいが悪りぃのお。どうしたんじゃ、われぇ?」
それが質問じゃないことくらい思考停止した僕の脳みそでもわかった。
何十体目かのゼリーマンを倒した末、僕たちはようやくレベル5に到達した。
花火さんは燃え尽きたように、へなへなと床に崩れ落ちた。かなりの苦行だったと僕も思う。星蘭さんなんか、額からたらたらと汗を流しながら、
「正直、ここまで頑張る必要はなかったかもしれないねぇ」
「それはバッタ倒して成長しながらって考えた場合じゃろ? うちらは特急電車で駅をすっ飛ばすみたいに第一階層を駆け抜けたいんじゃけぇ」
「うちらっていうより花火ちゃんだけでしょぉ?」
「まぁまぁ」僕はふたりをなだめながら、「これでジョブシステムとスキルシステムが解放されたはずですよ」
「そうだね。ここであれこれ言ってても仕方ないし、はやく試してみようか」
まずは星蘭さんのジョブ画面をみんなで見てみることにした。
画面にはいくつかのアイコンが横並びになっていて、それぞれのアイコンから下へ向かって枝分かれしている。そしてまたいくつものアイコンに繋がっていた。
要するにツリー形式になっているのだ。
そして定石通り、明るく表示されているのは最上段の横並びになっているアイコンだけだった。
「基本職とか一次職って感じだねぇ。そんで下のグレー表示になっているのは……」
「上級職? 二次職?」
「って感じですかね。でも最上段のアイコンの中でも、ところどころグレー表示になっているのはなぜなんでしょう?」
最上段がすべてアンロックされているとは限らなかったのだ。
中には上級職と同じようにグレーでロックされているジョブがいくつもある。
考えられる可能性としては、
「『適正』ですかね?」
「適正っていうと、向き不向きみたいな?」
この仮説を確かめるために花火さんのジョブ画面と比べてみた。
「うちも星蘭ちゃんも蓄積されたジョブポイントは4で同じじゃけど……」
「アンロックされている部分が違いますね」
「傾向として、花火ちゃんはバリバリの物理アタッカーって感じだねぇ。剣士、格闘家、盗賊、弓使い」
「星蘭さんはバランスがいいですね。槍使い《ランサー》、魔法使い、治癒師」
「なるほどぉ、適正というのはいい線かもしれないねぇ。でも、グミ君の方は? せっかくだし、ここで確認してみなよぉ」
「僕はふたりが決まってからでいいですよ」
そう言うと、花火さんと星蘭さんが顔を見合わせた後、目を丸くして僕を見やった。
「どうしたん、グミ?」「どうしちゃったの、グミ君?」
「えっ⁉」僕は声を引きつらせる。「別にどうもしないですよ?」
「そんなわけ。グミだって自分の好きなジョブ選びたいじゃろ?」
「いや、でもチームのバランスが大事ですからね。盾役だって必要だからなったわけで。僕はどうしたらチームに貢献できるかって考えてるだけですよ」
すると星蘭さんが眉をひそめた。
「グミ君……それは素晴らしい考えだと思うけど、自分を殺してまで頑張らなくて良いと思うんだけどなぁ」
「うちもそう思うよ。それにポイントがある限り、他のジョブだってかけもちできるじゃないの?」
「でもそれじゃダメなんですよ!」
気が付くと、僕は突発的に大声を出していた。
当然、ふたりは目を白黒させている。
まったくもって意味不明だと思われたのだろう。何がダメなのか、僕自身もいまいちわからなかった。
ただ、自分が焦っていることだけはわかった。
「ご、ごめんなさい。僕は……ふたりの役に立てたらって思ったんです」
「グミ……」「グミ君……」とふたりは口ごもってから。
「そんなんうちだってどうすれば貢献できるかくらい考えとるけぇ」
「えっ、そうなんですか?」
「当たり前じゃろ! うちをなんだと思っとるんよ?」
「ゲームみたいにプレイヤーがひとりで選択肢を決めたり、ポイント割り振ったりするのとは違うからね~。私たちはそれぞれ別の目的を持ってるし、お互い力になりたいとも思ってるけど、誰かの意見を封じ込めてまで探索をしたいとは思ってないんだよ?」
「うちはチームワークも大事にするけど、自分のやりたいことも大事。興味ないジョブとかやってもつまらんもん。みんな好きに選んで、どこかで壁にぶち当たったら、そん時はみんなで力を合わせて壁をぶち壊していければって思ってるよ!」
「花火さん……星蘭さん……」
あれれ、おかしいな。いつの間にか涙が溢れ出ていた。
そうか。僕はふたりにまったく釣り合わないと思うどころか、探索でも足手まといにならないだろうかと恐怖するあまり、最初の頃のわくわくしていた冒険心さえ失っていたのだ。
「ひっぐ、ひっぐ……ぐぇ……あ、安西先生……‼ ぼ、僕は……け、賢者になりたいです……」
「おぉ! 賢者って言ったら攻撃魔法も回復魔法も使えるやつじゃろ? ええじゃん、グミ!」
「はい、ゆくゆくは! そして、ふたりを守る盾としても活躍したいです!」
「グミくん! その調子だよ~! みんなで目指していこうね!」
「はい!」
「それじゃ、グミ! ジョブパネルを開いてみようか!」
「はいっ! では、メニューオープン!」
素晴らしい仲間に勇気と元気を貰い、颯爽とメニュー画面を呼び出した!
横にスライドゥ!
ジョブパネルを広げてっ━━
「「「………………………………」」」
……はっ⁉
オールグレー。画面いっぱいに広がる灰色の虚無。
なんだこれは? これはなんだ?
「えっ、これって……適職なし……?」
僕は震え声になりながら、手当たりしだいに画面をタップする。
『適正がありません』『適正がありません』『適正がありません』『適正がありません』『適正がありません』『適正がありません』
適正があるジョブがひとつもないじゃないか。
「…………………なにこれ」
「ええと、グミ、ほらきっとあれだよ……あれ。えぇと、ジョブポイントが足りないとか……」
「この表示だと、一次職は一律4ポイント。つまりパネル開放と同時に必ずジョブを身につけられるようになってるようですな」
僕の声は震えを通り越して、かすかすにかすれてた。
…………
ず~んと気持ちが沈んだまま僕たちは探索を再開した。ふたりは気を遣ってくれたのか、ふたりのジョブをバランス良く格闘家と治癒師にしようかと提案してくれたけど、僕の方から強く断った。
そりゃ、あんな話ししてくれた後だもん。
けっきょく当初の希望通り、花火さんが剣士、星蘭さんがランサーとなった。
ふたりの望みが叶って僕は幸せですよ。
ちなみに剣士はそのイメージ通り、近距離型アタッカー。ランサーは中近距離型で、比較的軽装だが、テクニカルな戦い方を得意とするタイプだ。
そして僕は何の取り柄もない無職。
「……………(ずぅ~ん)」
さて、探索を再開した僕たちは、待ちに待った次の階層へと進んだ。
入念な準備が功を奏したのか、ピンクバッタの群れを切り抜けることができた。
ゼリーマンからドロップした強化チップと素材チップで『鉄シャベル+3』にまで強化できたことと、転職したふたりの能力が底上げされたおかげだ。(たぶん後者の恩恵が大きかった。)
花火さんはドロップアイテム回収要員として、後ろから付いてくるだけだったけど、星蘭さんと(おまけ程度の)僕とで猪突猛進、ダンジョン地下第一階層を駆け抜けた。
無事に階段を発見し、下層へと進む。
地下第二階層は、これまでの薄暗いダンジョンから一変、明るい室内に緑の生い茂る草原のような造りになった。
天井一面が青空のように自然発光し、川の流れもあったりする。
「うわぁ、すごい緑ですね! 空気も美味しいし、川のせせらぎも心地よい! ダンジョンにもこんな場所があるんだぁ!」
落胆ぶりを見せれば、ふたりに気を遣わせてしまうと思い、僕は一世一代のカラ元気を発揮した。
「あははははっ! うふふふふっ!」
わざと大声で笑い、草原を駆け回る。
川の水を手ですくいあげ、ごくごくと音を立てて飲み干した。
「ぷはぁ! 美味しいですよ、この水っ!」
「グミくん……」「グミ……」
「あれ? どうしたんですふたりとも?」
「そんな無理して元気出さんでええんよ」
「無理して……なんて……ひっく……そんな……ぐふっ」
「グミくん、悲しい時は悲しんでいいんだよ」
「わああああああぁぁぁぁ!」
僕は青々とした地面に崩れ落ち、草に顔をうずめて泣き喚いた。
どうして僕はふたりと一緒にいるんだろう?
きっと向こうも同じことを思っているはずだ。どうして私たちはこんな役立たずと一緒にいるんだろうかって。よりによってハズレくじを引いてしまったって。
「帰りましょうか……ふたりとも……」
僕たちは早々に探索を切り上げて、ダンジョンを出ることにした。なんとも気まずい空気が流れて、ふたりも僕にどう声をかけていいのかわからないみたいだった。
「それじゃあ、着替えて先に上いってますね」
ふたりはダンジョンの中で着替えを済ますということなので、先に外に出た僕はジャージから制服に着替え直した。
井戸から空を見上げると、夕焼けが見えた。ハシゴをのぼる足が重い。ここで足を滑らせたら、いっそ楽になるかもなんて。
重すぎ?
大丈夫。さすがにここで死ぬつもりはない。
カンカンカン━━井戸の縁に手をかけた時だった。
「ぐぇっ⁉」
突然だった。
ガッシと何者かに手首を掴まれた。
そのまま強引に身体を引き上げられる。気づくと地面に投げ出されていた。
「いててて」
見上げると、そこにいた。
藤崎だ。
沈みかけの歪んだ太陽を背にして、表情はよく見えないが、ラガーマンみたいなごつい身体に、金色にブリーチした頭頂部の髪をキューピー人形みたいにツンと尖らせているシルエットなんて尾道にひとりしかいない。
「ふ……藤崎くん」
「よう、グミヤマ。久しぶりじゃな。最近つきあいが悪りぃのお。どうしたんじゃ、われぇ?」
それが質問じゃないことくらい思考停止した僕の脳みそでもわかった。
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