放課後、学園のアイドルからダンジョン探索に誘われた

LABYRINTH

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【二章】終わらない夏休み

ハンティング③

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「ハタヤマという男。ダンジョンでさまよっている時に出会ったんです。あの人はたぶん、ゼリーマンになりました」


「えっ、どういうこと⁉ 面識でもあるん?」


 花火さんは眉をひそめた。

 質問には答えず、僕はすぐに言葉を繋いだ。


「ダンジョンでの怪我で僕と同じ病院に入ってたんだと思います」僕はあえて話を濁すように言葉を選んだ。「手術で完治させるのは無理だったんでしょう。ある男が来て、ハタヤマはゼリーマンの力を与えられました」


 向かいに座るふたりは顔を見合わせ、首を傾げた。端折りすぎな説明の仕方であることは僕にも自覚がある。

 あらかじめ示し合わせていたとおり、ここでマリンちゃんに目配せした。


「グミきゅんはモンスター職のようなものじゃないかと予想してるらしいにゃ。それ関連の情報ならすでに探索者ウィキやDチャンネルにあるみたいだし。でも、ここで気になるのは、ハタヤマに接触した謎の男の存在ね」


 ふたりはまだそれどころではない、って顔をしていた。


「ハタヤマっていう男の背後には何かあるんじゃないかとマリンは思うにゃ。もしかすると怪しげな組織が絡んでる可能性もある」


「ちょっと待って。話がどんどん進んでる気がするんだけど」


 花火さんは身を乗り出すように、ソファの端に座り直した。

 マリンちゃんはそれを見下ろしながら、同意するように頷きを繰り返す。


「マリンも同じ気持ちにゃ。でも、よく考えて。現実はもっと目まぐるしく変化してるの。振り落とされないよう必死にしがみついて。ちみたちならそれができるし。疑問があれば、みんなで共有していくにゃよ」


「私もぜんぜん頭の整理できてないや」


 星蘭さんは苦笑いを浮かべながら、ほっぺたに手を添えていた。

 そりゃそうだ。

 あえて混乱するように話しているのだから。


「でもさ。仮に色々のみこんだとしても、ゆうてうちらはダンジョン探索者じゃろ?」花火さんが口を尖らせた。「地上のことまで手を出していいもんなん?」


「逆にゃ逆。地上の治安維持にも貢献する姿勢を表明するにゃよ。他が動き出す前に、既成事実を作る。それが先手必勝ってこと。単なる金儲け集団と思われたらおしまいにゃ」


 僕は犯罪組織の事務所を襲ったユーツーバーたちの事を思い浮かべていた。

 彼らも慈善的な動機で動いていた。裏にどんな思惑があるのかはわからないが。

 ただの再生数稼ぎ?

 そんなことはないだろう。


 なんにせよ。暴走したハタヤマを止めるには相応の武力がいる。市街地に自衛隊や大規模な機動隊を出動させることは、今の段階ではあまり現実的とはいえない。

 実質的に、これはダンジョン探索者に対応能力があるということを示すプレゼンテーションというわけか。

 ハタヤマのようなダンジョンから生まれた脅威だけを取り沙汰されるのは、こっちとしても都合が悪い。

 僕としてはなるべく事を大きくしたくないが、マリンちゃんとしてはそれなりのインパクトを社会に与えるつもりでいるらしい。


「すぐに動けとは言わない。準備も必要だろうし、ゆっくり頭の中を整理するにゃ。みんなとの再会を喜び合うのもよし! 冷蔵庫やコーヒードリッパーとかの器具類はそのまま譲り受けたから自由に使うにゃ」


「なんか秘密基地みたいだね」


 星蘭さんは嬉しそうに花火さんを見た。

 僕はそろりと手を上げて、


「あの、マリンちゃん自身の今後の予定を聞いておきたいんですけど」


 こんな質問を待っていたようだった。


「うむ。とりあえずマリンたちはハタヤマの素性を調べる。バックになにが潜んでいるのかもね。あとはダンジョン外になぜモンスターが現れるようになったのか。そこを掴めば次の一手が出しやすいでしょ?」


 マリンちゃんは人差し指をばしっと立てた。

 僕たち学生三人は、またしても互いに顔を見合わせる。


「……マリンたち?」
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