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【二章】終わらない夏休み
いつもそこにいる①
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喫茶店の裏手には家があった。かなりの築年数と思われるボロい一軒家だ。
「先に行ってて。説明は後でするにゃん」
マリンちゃんにそう言われ、よくわからないまま店を出てきてしまったのだ。
ギルド長命令だし、逆らえないよな。
「ほんとに、ここでいいのかな?」
ふたりを交互に見るも、いまいちよくわかってないような顔をしている。
思い切って扉を叩いてみた。
「は~い、受信料ならもう払ってんだけど」
いかにも無害そうな声がして、太った男の人が中から出てきた。
てかてかした丸い顔に眼鏡をかけ、焼きそばみたいにウェーブした長髪は、いかにもオタクか浪人生か研究者といった風貌だ。
清潔感のある外見とはいえないが、綺麗なつぶらな目をしていてどこか憎めない。
「おぉ、なまJKキタコレ」
来客をひとつも想定していないような荒れた室内が見える。一瞬場所を間違えたかと思ったけど、反応からしてどうやら話は聞いていたみたいだ。
化石レベルのネット用語に関しては、誰もなにも触れようとはしなかった。
「まあ、遠慮なく上がりなよ」
中に通されると、簡単な自己紹介がはじまった。
男の名前は成宮。
情報工学の大学院生だったところをマリンちゃんに引き抜かれたらしい。
自分では実力を買われたみたいな言い方をしているが、こんなところにいて将来は大丈夫なのだろうか心配になる。
いや、勝手なお世話かな。
「ナルちゃんって呼んでにゃ♡」
彼は頬に人さし指をあて、ぶりっこポーズを炸裂させた。おそらくあの人の真似だったと思うが、タイミングよく(悪く?)本人が部屋に入ってきた。
「なにバカなことやってんの。それだれのマネ?」
マリンちゃんにキツく睨まれ、男はしゅんと縮こまった。
完全にびびってる。
うん、気持ちはわかる。意外と仲良くなれそうだと思った。
「またこんなに散らかして! このコーラまだ中身入ってるじゃない!」
マリンちゃんはビニール袋片手に部屋の片付けをはじめた。
いつもやっているのだろう。手慣れた様子はまるでお母さんみたいだった。
そんなマリンちゃんを横目にしながら、その元大学院生は咳払いをした。
「とまあ、ここはギルドの事務所でもあるけど、小生の自宅でもあるんだ。要は住み込みの丁稚奉公みたいなものですな」
強引にまとめられた。
僕は散らかるゴミを搔き分けながら床に腰をおろす。
花火さんと星蘭さんには精神的にきついものがあるのか、立ちっぱで乗り切るつもりらしい。
星蘭さんなんか、ちょんと爪先立ちにさえなっていた。
ちなみに成宮さんはモニターをいくつも並べたパソコンの前に座っている。まるでそのデスク周りだけが聖域のように整頓されてた。
こんなわけだから彼の扱い方は決まったも同然だった。
「じゃあ、成宮って呼ぶね」
花火さんが前言を無視して早くも見下しはじめた。
「おぉ、その無礼な距離のつめかた。まじ興奮であります」
成宮が鼻息を荒くする一方で、星蘭さんは苦笑いしている。
おそらく、これまでの人生にいなかったタイプなのだろう。
不安そうにこっちを見てきたので、僕は笑顔を半分向けながら、
「それで成宮さんは、ギルドで何をしてるんですか?」
「ふむ、いい質問だね。まずわかって欲しいのは、要するにギルドってのはざっくり言って組合だってこと。なんとなくイメージはできるかな?」
「えぇ、まぁ……」
「立場的には小生もキミたちと同じ扱いなわけなんだ。同じ組合員だからね。でも小生は見ての通りダンジョン探索はしない。事務方というか雑用なんだよね」
「ギルドの運営とかってことですか?」
「そんな感じだね。でも基本マリンちゃんの指示に従ってなんでもするし、それ以外はダンジョン全般に関する情報の収集と分析。もちろん貴君らのサポート役も兼ねているわけだ」
「先に行ってて。説明は後でするにゃん」
マリンちゃんにそう言われ、よくわからないまま店を出てきてしまったのだ。
ギルド長命令だし、逆らえないよな。
「ほんとに、ここでいいのかな?」
ふたりを交互に見るも、いまいちよくわかってないような顔をしている。
思い切って扉を叩いてみた。
「は~い、受信料ならもう払ってんだけど」
いかにも無害そうな声がして、太った男の人が中から出てきた。
てかてかした丸い顔に眼鏡をかけ、焼きそばみたいにウェーブした長髪は、いかにもオタクか浪人生か研究者といった風貌だ。
清潔感のある外見とはいえないが、綺麗なつぶらな目をしていてどこか憎めない。
「おぉ、なまJKキタコレ」
来客をひとつも想定していないような荒れた室内が見える。一瞬場所を間違えたかと思ったけど、反応からしてどうやら話は聞いていたみたいだ。
化石レベルのネット用語に関しては、誰もなにも触れようとはしなかった。
「まあ、遠慮なく上がりなよ」
中に通されると、簡単な自己紹介がはじまった。
男の名前は成宮。
情報工学の大学院生だったところをマリンちゃんに引き抜かれたらしい。
自分では実力を買われたみたいな言い方をしているが、こんなところにいて将来は大丈夫なのだろうか心配になる。
いや、勝手なお世話かな。
「ナルちゃんって呼んでにゃ♡」
彼は頬に人さし指をあて、ぶりっこポーズを炸裂させた。おそらくあの人の真似だったと思うが、タイミングよく(悪く?)本人が部屋に入ってきた。
「なにバカなことやってんの。それだれのマネ?」
マリンちゃんにキツく睨まれ、男はしゅんと縮こまった。
完全にびびってる。
うん、気持ちはわかる。意外と仲良くなれそうだと思った。
「またこんなに散らかして! このコーラまだ中身入ってるじゃない!」
マリンちゃんはビニール袋片手に部屋の片付けをはじめた。
いつもやっているのだろう。手慣れた様子はまるでお母さんみたいだった。
そんなマリンちゃんを横目にしながら、その元大学院生は咳払いをした。
「とまあ、ここはギルドの事務所でもあるけど、小生の自宅でもあるんだ。要は住み込みの丁稚奉公みたいなものですな」
強引にまとめられた。
僕は散らかるゴミを搔き分けながら床に腰をおろす。
花火さんと星蘭さんには精神的にきついものがあるのか、立ちっぱで乗り切るつもりらしい。
星蘭さんなんか、ちょんと爪先立ちにさえなっていた。
ちなみに成宮さんはモニターをいくつも並べたパソコンの前に座っている。まるでそのデスク周りだけが聖域のように整頓されてた。
こんなわけだから彼の扱い方は決まったも同然だった。
「じゃあ、成宮って呼ぶね」
花火さんが前言を無視して早くも見下しはじめた。
「おぉ、その無礼な距離のつめかた。まじ興奮であります」
成宮が鼻息を荒くする一方で、星蘭さんは苦笑いしている。
おそらく、これまでの人生にいなかったタイプなのだろう。
不安そうにこっちを見てきたので、僕は笑顔を半分向けながら、
「それで成宮さんは、ギルドで何をしてるんですか?」
「ふむ、いい質問だね。まずわかって欲しいのは、要するにギルドってのはざっくり言って組合だってこと。なんとなくイメージはできるかな?」
「えぇ、まぁ……」
「立場的には小生もキミたちと同じ扱いなわけなんだ。同じ組合員だからね。でも小生は見ての通りダンジョン探索はしない。事務方というか雑用なんだよね」
「ギルドの運営とかってことですか?」
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