俺TUEEEの【転生魔術師】~ほのぼの暮らしながらも陰から仲間の復讐を支援します~

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第一章 序章

8話 タームの過去と心からの笑顔(1)

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 俺はタームを連れて歩き、宿街へとやって来た。
 タームは俺の三歩後ろを歩く。
 時より振向くと、彼女はビクッと身体を強張らせる。
 そんな状態なので会話もままならない。
 どんな酷い仕打ちを受けたのだろうか? 彼女は暴力に怯えている。

 俺は見栄えの悪い宿に入った。

「……一部屋なら空いてるよ」

 店番の老婆がカウンターとも呼べない長テーブルに腰掛けて、料金表を提示した。
 この世界のタバコなのだろうか、煙を高々に吹き出した。

「1000G? 金貨ならあるが」
「おいおい、あんた若いのに大金持ってるじゃないか」

 老婆は金貨を受け取らない。

「悪いが、うちにはそんなに多額のお釣りは用意してないよ。明日でいいから、換金してから千G持って来ておくれ」

 そう言った老婆は鍵をテーブルに投げ置いた。

 俺はタームとともに、鍵に刻まれた番号部屋へと向かった。
 古びた木造の宿だけあって、床がギシギシと軋む。
 それにしても驚いた。
 金貨一枚が百万Gの価値だったとは。あの露店主一体何者なんだ?

 部屋に入るとベッドが一つ。
 六畳間の狭い空間は質素というより見窄らしい。

「じゃあ、寝るか」
「は、はい」

 安宿には風呂もないらしい。
 スマホも、ゲームも、テレビも無いこの部屋で、やれる事は何もない。分からない事だらけのこの世界。取り敢えず明日、魔術学園の試験に行ってみよう。
 俺は小窓から星空を眺めながら、明日の予定の算段を立てた。

「ご、ご主人様……」
「どうした、ターム?」

 タームの呼びかけに振り向く。
 彼女は、布がすり切れたワンピース型の奴隷服を脱ぎすてて立っていた。
 少女の身体に残る傷跡を見てギョッとした。
 彼女はウサギ耳を小刻みに震わしている。

「何やってるんだ!」

 モジモジと手をこまねくタームに、慌てて服を着せた。

 彼女が幼いといっても、十二、三歳ぐらいだ。
 さっき出会ったばかりの男の前で半裸になるのは、どう考えてもおかしい。
 俺はタームの考えを訊いてみる。

「……えーと、一緒に奴隷小屋にいたエルフのお姉さんが言ってたから」
「何を?」
「ご主人様が男性の場合、夜寝るときは自分から裸になって、喜ばせないといけないって」

 愛玩奴隷というやつか……。
 この国は薄汚れてやがる。
 タームの口ぶりでは、まだ性的な被害にはあって無さそうたが。

「前もどこかで奉仕していたのか?」
「はい。農家の女ご主人様のところにいました」
「そこでどんな目にあっていたんだ?」
「……」

 タームは答えない。
 忠誠心などではないだろう。
 彼女が俺を見る瞳。笑顔の奥に隠されたドス黒いものが垣間見られる。元の世界で社畜として働いていた俺と同じ目だ。

 上司には絶対服従。拒否権などの自由はない。
 俺はその時どう思っていた……。
 上司に嫌われないように、いつも上司の顔色を伺っていた。観察していた。タームと同じ作り笑顔を浮かべて。

 彼女も観察している──俺の機嫌、人物像を。

 俺は同情心だけでタームを連れてきたことを後悔した。
 偽善者だけの俺が、この娘をどう育てていけばいいのか混迷したからだ。
 どちらにせよ、不遇で育った彼女の心を解放してあげるには、時間がかかりそうだ。
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