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第2話 金魚の糞と言われましたけど何か?

恋敵の小春は何時も魅力的

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「キスするタイミングが分からないや。……取り敢えずここらでチュッチュさせとくか?」

 卒業式後、高校の入学式までは毎日が休日だ。例のごとく、わたしは毎日をダラダラと過ごしていた。
 陽射しの入る勉強机に座り、今日も駄文を書きしたためる。そう、趣味の小説だ。読む方もやぶさかではないが、書く方が殊更に好きなのだ。

「くーっ、ダメだダメだ!」

 物語の続きが上手く運べない。恋愛経験の乏しい、いや、ゼロのわたしには、恋愛小説はハードルが高い。
 こう言う時は息抜きが大事だよね。
 そんな無限ループ的な言い訳をして携帯を手に持った。

「もうお昼か。そろそろ練習が終わる頃か」

 わたしを除く六人は、ライブハウスで午前帯に練習すると、昨晩のグループチャットで話していた。ここ数日は彼らとは会っていない。

 父が所有する小さなライブハウスは、飽くまでも趣味であり、メイン利用は蓮たちの練習場所となっていた。
 幼い頃、蓮に楽器を教えたのは、わたしの父なのだ。
 父は直ぐに蓮の天才的な音楽センスに驚愕したらしい。それ以来、彼らを全面的にバックアップしているのだ。
 当初、わたしと小春はそんな様子をただ見ているだけだったが、小春も音楽に興味を持ち、蓮と同じ道を選んだのだ。

「……もし、あの時にわたしも音楽を選んでいたら」

 時々、そんなセンチメンタルな事を考えてしまう。でも、わたしは私でいい。
 今日も冴えない自分にそう言い聞かせたのだ。



 
(2)

しずくー! 小春ちゃんが来てるわよ。下りて来なさい!」

 一階からわたしを呼びつける母の声が耳を触る。ハッキリとしない意識の中、それは何度か繰り返された。

「もーっ! うるさいなー」

 いつのまにか勉強机でうたた寝をしてしまっていた様だ。
 目をこすり、ぼんやりとした意識が次第に覚醒していく。

「えっ? 小春?」

 ドタドタと階段を下り、玄関口に行くと小春が待っていた。彼女はムスッとした顔付きだ。

「遅い! 何やってたのよ?」
「ゴメン、完全に意識無くなってたの」
「寝てただけでしょ! ……それより顔酷い事になってるわよ。待ってるから顔洗ってきなさい」
「え? 何処かに出かけるの?」
「ショッピングよ。高校生になるんだから、ある程度お洒落な服も用意しておかないと。さあ、早く出掛ける準備してきて!」

 彼女に言われるまま顔を洗い、適当な服装に着替えて、小春とショッピングに出掛けた。
 ショッピングと言っても半田舎なこの街だ。駅前にある大型ショッピングモールぐらいしかない。
 正直、出掛ける気分では無かったが、小春は服を買いに行くと言ったのだから、着いて行くしかない。それには理由があるのだ。
 
「徒歩、徒歩徒歩トホホッホ♪」
「何それ?」
「えっ、別に理由はないけど……」
「変なの」

 そんなどうでもよい会話を挟みながら、二人並んで歩く。すれ違う男性は大抵がチラリと此方に視線をやる。
 いつもの事だ。
 その視線は僅かにわたしから外れて小春へと注がれる。うーん、美少女に磨きがかかってらっしゃる。

「何? ジロジロと見て」
「あっ、ゴメンね。やっぱり小春の長い髪が綺麗だなって思って」
「……そう言えば雫、髪伸びたわね。少し前まで『長い髪にメリットなし。メリット(商品名)は有るけどね』とか、つまらないダジャレ言ってたのに?」

 くっ! 流石は頭いいだけあって、皆んなの前でクソ滑った、わたしの黒歴史も覚えている。
 千夏だけが笑ってくれたんだよね、あの時。……引きつった愛想笑いだったけどね。

「そ、そうだね。心境の変化って奴よ。もう高校生だしね。後、出来ればダジャレの件だけど、記憶から消去しておいて。そんな記憶の為に使われている小春の脳細胞が、わたしは気の毒だよ」

 小春は怪訝にわたしを見て、少し沈黙を挟んだ。
 そして少しションボリした表情を浮かべ、再び口を開いた。

「こ、この前の事だけど、受験に落ちたなら落ちたで、頑張りなよって意味で言ったのよ。アタシ謝らないわよ」

 相変わらずツンツンとされてらっしゃる。
 どうやらこれを言う為に、わたしを誘った様だ。
 一見、謝っていないが、これは間違い無く小春からの謝罪である。幼馴染のわたしには分かるのだ。

「別に謝らなくてもいいよ。皆んなに迷惑かけたわたしが悪いんだから」
「そう。そう言ってくれたら気が楽になったわ」

 彼女は今日初めて笑顔を見せた。小難しい性格をしたわたしの恋敵は、やはり魅力的だったのだ。
 
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