4 / 7
第2話 金魚の糞と言われましたけど何か?
恋敵の小春は何時も魅力的
しおりを挟む「キスするタイミングが分からないや。……取り敢えずここらでチュッチュさせとくか?」
卒業式後、高校の入学式までは毎日が休日だ。例のごとく、わたしは毎日をダラダラと過ごしていた。
陽射しの入る勉強机に座り、今日も駄文を書きしたためる。そう、趣味の小説だ。読む方もやぶさかではないが、書く方が殊更に好きなのだ。
「くーっ、ダメだダメだ!」
物語の続きが上手く運べない。恋愛経験の乏しい、いや、ゼロのわたしには、恋愛小説はハードルが高い。
こう言う時は息抜きが大事だよね。
そんな無限ループ的な言い訳をして携帯を手に持った。
「もうお昼か。そろそろ練習が終わる頃か」
わたしを除く六人は、ライブハウスで午前帯に練習すると、昨晩のグループチャットで話していた。ここ数日は彼らとは会っていない。
父が所有する小さなライブハウスは、飽くまでも趣味であり、メイン利用は蓮たちの練習場所となっていた。
幼い頃、蓮に楽器を教えたのは、わたしの父なのだ。
父は直ぐに蓮の天才的な音楽センスに驚愕したらしい。それ以来、彼らを全面的にバックアップしているのだ。
当初、わたしと小春はそんな様子をただ見ているだけだったが、小春も音楽に興味を持ち、蓮と同じ道を選んだのだ。
「……もし、あの時にわたしも音楽を選んでいたら」
時々、そんなセンチメンタルな事を考えてしまう。でも、わたしは私でいい。
今日も冴えない自分にそう言い聞かせたのだ。
(2)
「雫ー! 小春ちゃんが来てるわよ。下りて来なさい!」
一階からわたしを呼びつける母の声が耳を触る。ハッキリとしない意識の中、それは何度か繰り返された。
「もーっ! うるさいなー」
いつのまにか勉強机でうたた寝をしてしまっていた様だ。
目をこすり、ぼんやりとした意識が次第に覚醒していく。
「えっ? 小春?」
ドタドタと階段を下り、玄関口に行くと小春が待っていた。彼女はムスッとした顔付きだ。
「遅い! 何やってたのよ?」
「ゴメン、完全に意識無くなってたの」
「寝てただけでしょ! ……それより顔酷い事になってるわよ。待ってるから顔洗ってきなさい」
「え? 何処かに出かけるの?」
「ショッピングよ。高校生になるんだから、ある程度お洒落な服も用意しておかないと。さあ、早く出掛ける準備してきて!」
彼女に言われるまま顔を洗い、適当な服装に着替えて、小春とショッピングに出掛けた。
ショッピングと言っても半田舎なこの街だ。駅前にある大型ショッピングモールぐらいしかない。
正直、出掛ける気分では無かったが、小春は服を買いに行くと言ったのだから、着いて行くしかない。それには理由があるのだ。
「徒歩、徒歩徒歩トホホッホ♪」
「何それ?」
「えっ、別に理由はないけど……」
「変なの」
そんなどうでもよい会話を挟みながら、二人並んで歩く。すれ違う男性は大抵がチラリと此方に視線をやる。
いつもの事だ。
その視線は僅かにわたしから外れて小春へと注がれる。うーん、美少女に磨きがかかってらっしゃる。
「何? ジロジロと見て」
「あっ、ゴメンね。やっぱり小春の長い髪が綺麗だなって思って」
「……そう言えば雫、髪伸びたわね。少し前まで『長い髪にメリットなし。メリット(商品名)は有るけどね』とか、つまらないダジャレ言ってたのに?」
くっ! 流石は頭いいだけあって、皆んなの前でクソ滑った、わたしの黒歴史も覚えている。
千夏だけが笑ってくれたんだよね、あの時。……引きつった愛想笑いだったけどね。
「そ、そうだね。心境の変化って奴よ。もう高校生だしね。後、出来ればダジャレの件だけど、記憶から消去しておいて。そんな記憶の為に使われている小春の脳細胞が、わたしは気の毒だよ」
小春は怪訝にわたしを見て、少し沈黙を挟んだ。
そして少しションボリした表情を浮かべ、再び口を開いた。
「こ、この前の事だけど、受験に落ちたなら落ちたで、頑張りなよって意味で言ったのよ。アタシ謝らないわよ」
相変わらずツンツンとされてらっしゃる。
どうやらこれを言う為に、わたしを誘った様だ。
一見、謝っていないが、これは間違い無く小春からの謝罪である。幼馴染のわたしには分かるのだ。
「別に謝らなくてもいいよ。皆んなに迷惑かけたわたしが悪いんだから」
「そう。そう言ってくれたら気が楽になったわ」
彼女は今日初めて笑顔を見せた。小難しい性格をしたわたしの恋敵は、やはり魅力的だったのだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
125
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる