198 / 402
第二章
475
しおりを挟む
わからない。そう言われてしまえば、話は終わりだ。
だが実際、メルア自身、本当にわかっていないようだ。
「そうか。なら仕方がないな」
メルアは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい」
俺は慌てて両手を顔の前で振った。
「い、いや、別に謝るようなことじゃない」
するとメルアが頭を上げ、とびきりの笑顔を振りまいた。
「そう。なら、よかった」
「ああ。それじゃあな」
俺はそう言ってメルアの側から離れた。
「はい。じゃあまた」
庭を横切る俺の背中越しに、メルアが言った。
それを聞きながら、俺は考える。
俺とは何だ?僕って何だ?
性格とは?人格とは?
アイデンティティーって何なんだ?
前に、アイデンティティーとは、自己同一性のことだと聞いたことがある。
要は、その人物の一貫性の話だろう。だが――
難しいな。俺は哲学者じゃないからな。
自分自身のこととはいえ、こういった話は、俺には不向きだ。
できればレノアに考えてもらいたいところだが――難しそうだ。
レノアは忙しい。やることが山積みだ。
一緒に森の中を探索していたときは、様々な雑事をベルトールたちが負担していた。
だが、レノアでなければ出来ないことが色々とあるらしい。
だから、帰ればやることが沢山待っていると言っていた。
なので、相談するのは少し憚られる。
となれば、相談するとすればギャレットか。
人生経験は豊富だろう。
――いや、ダメだ。ギャレットも、アリアスほどじゃないにしろ、俺の変化に戸惑っていた。
自己同一性に関する相談相手とは、なりえない。
やはり、一番はエニグマだ。
あいつが一番俺のことをわかっている。
俺を心中から引き出した張本人だしな。
しかし、悪魔に相談ていうのもおかしな話だ。
本当のことを言うかもわからない。いや、あの契約魔法を使えばいいか。
どうだろうか。しばらくたてばエニグマも乗ってくるかもしれない。
だが今は、エニグマがあの魔法を使って互いを縛り合ってまで聞きたい情報を、俺は持ち合わせていない。
ならばエニグマにとってのメリットはない。だから、きっと奴は受けないだろうと思う。
参ったな。相談相手か――
と、俺の視線の端っこに何やら黒い影が映り込んだ。
俺はそこで、はたと立ち止まり、首を回した。
いるじゃないか。誰よりも大人で、頭脳明晰なうってつけの相談相手が。
俺は庭の中央ど真ん中の芝生の上で、身体を丸くさせて寝転び、暖かな日差しを受けて気持ちよさそうに日向ぼっこしている漆黒の存在に向かって、進行方向の舵を切った。
だが実際、メルア自身、本当にわかっていないようだ。
「そうか。なら仕方がないな」
メルアは申し訳なさそうに頭を下げた。
「ごめんなさい」
俺は慌てて両手を顔の前で振った。
「い、いや、別に謝るようなことじゃない」
するとメルアが頭を上げ、とびきりの笑顔を振りまいた。
「そう。なら、よかった」
「ああ。それじゃあな」
俺はそう言ってメルアの側から離れた。
「はい。じゃあまた」
庭を横切る俺の背中越しに、メルアが言った。
それを聞きながら、俺は考える。
俺とは何だ?僕って何だ?
性格とは?人格とは?
アイデンティティーって何なんだ?
前に、アイデンティティーとは、自己同一性のことだと聞いたことがある。
要は、その人物の一貫性の話だろう。だが――
難しいな。俺は哲学者じゃないからな。
自分自身のこととはいえ、こういった話は、俺には不向きだ。
できればレノアに考えてもらいたいところだが――難しそうだ。
レノアは忙しい。やることが山積みだ。
一緒に森の中を探索していたときは、様々な雑事をベルトールたちが負担していた。
だが、レノアでなければ出来ないことが色々とあるらしい。
だから、帰ればやることが沢山待っていると言っていた。
なので、相談するのは少し憚られる。
となれば、相談するとすればギャレットか。
人生経験は豊富だろう。
――いや、ダメだ。ギャレットも、アリアスほどじゃないにしろ、俺の変化に戸惑っていた。
自己同一性に関する相談相手とは、なりえない。
やはり、一番はエニグマだ。
あいつが一番俺のことをわかっている。
俺を心中から引き出した張本人だしな。
しかし、悪魔に相談ていうのもおかしな話だ。
本当のことを言うかもわからない。いや、あの契約魔法を使えばいいか。
どうだろうか。しばらくたてばエニグマも乗ってくるかもしれない。
だが今は、エニグマがあの魔法を使って互いを縛り合ってまで聞きたい情報を、俺は持ち合わせていない。
ならばエニグマにとってのメリットはない。だから、きっと奴は受けないだろうと思う。
参ったな。相談相手か――
と、俺の視線の端っこに何やら黒い影が映り込んだ。
俺はそこで、はたと立ち止まり、首を回した。
いるじゃないか。誰よりも大人で、頭脳明晰なうってつけの相談相手が。
俺は庭の中央ど真ん中の芝生の上で、身体を丸くさせて寝転び、暖かな日差しを受けて気持ちよさそうに日向ぼっこしている漆黒の存在に向かって、進行方向の舵を切った。
55
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!
霜月雹花
ファンタジー
神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。
神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。
書籍8巻11月24日発売します。
漫画版2巻まで発売中。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。