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第二章
569
祖父。祖母。おじいちゃん。おばあちゃん。
そんな者は俺にはいなかった。親戚だっていなかったし、兄弟もだ。
俺にとって確認できる肉親は、あのケダモノ夫婦だけだった。
空虚だ。俺の記憶は、とても空虚に思える。
ああ、いつの間にか、先ほどの考えに戻ってしまった。
業が記憶そのもののことなら、記憶が空虚な俺は、業を背負っていないのだろうか。
……いや、ある。
これまで俺は、親愛の情なんてものは、誰にも感じることはなかった。
それは対象者がいないのだから、当然だろう。
あのケダモノたち以外の肉親が、存在したかどうかすら知らなかったのだから、当たり前だ。
あるのは憎悪だけ。あのケダモノたちに対しての憎しみだけだった。
だが俺は、そのくびきから逃れることが出来た。
俺自身の手でケダモノたちを葬り去ることで、憎しみの鎖から解き放たれた。
だがそのかわり、業を背負ったのだろう。
親殺しの業だ。世間的にはとても罪深いものだ。
どんな哲学や宗教でも、この業は深いとされるだろう。
だが俺の記憶の中には、確かにあのときのことが鮮明に刻印されている。
なら背負っていくしかあるまい。
この記憶を消し去ることが出来ないのならば、共に生きていくしかないだろう。
業とは、宿痾のようなものか。
多くの亡くなった老人の遺体を調べると、そのほとんどが癌細胞に侵されていたという。
その死因がたとえ癌でなくとも、解剖してみるとほとんどの老人が、体内の何処かに癌細胞を抱えていたらしい。
つまり誰もが、癌細胞という宿痾と共に生きてきたということだ。
人は皆、年齢を重ね、宿痾を背負っていく。
やはり、業と宿痾は同じようなものだ。
そう考えると、いずれ業は俺を殺すのかもしれない。
宿痾と同じく苛烈な業火となって、いつの日か俺を焼き殺すのかもしれない。
業火か。文字通りの業の火か。
ならば、それでいい。
ひとは死ねば、焼かれる。骨となって消えてなくなる。
それが生前か死後かの違いに過ぎない。
空虚な俺には、どちらでも構わない。
焼くなら焼け。消すなら消せ。
所詮、人生なんて胡乱なものさ。
「おい、またか」
バーン翁の声に、俺は我に返った。
「ああ、すまん。ちょっと考え事をしていた」
「何を考えていた?」
俺は少し間を開け、答えた。
「なに、昔のことをちょっと考えていただけだ」
「昔……というと、元の世界のことだな?」
「ああ、そうだ」
バーン翁は目を細め、俺を見つめる。
「お前さんは、元の世界には戻りたくないと言っていた。何かあるのか?」
そんな者は俺にはいなかった。親戚だっていなかったし、兄弟もだ。
俺にとって確認できる肉親は、あのケダモノ夫婦だけだった。
空虚だ。俺の記憶は、とても空虚に思える。
ああ、いつの間にか、先ほどの考えに戻ってしまった。
業が記憶そのもののことなら、記憶が空虚な俺は、業を背負っていないのだろうか。
……いや、ある。
これまで俺は、親愛の情なんてものは、誰にも感じることはなかった。
それは対象者がいないのだから、当然だろう。
あのケダモノたち以外の肉親が、存在したかどうかすら知らなかったのだから、当たり前だ。
あるのは憎悪だけ。あのケダモノたちに対しての憎しみだけだった。
だが俺は、そのくびきから逃れることが出来た。
俺自身の手でケダモノたちを葬り去ることで、憎しみの鎖から解き放たれた。
だがそのかわり、業を背負ったのだろう。
親殺しの業だ。世間的にはとても罪深いものだ。
どんな哲学や宗教でも、この業は深いとされるだろう。
だが俺の記憶の中には、確かにあのときのことが鮮明に刻印されている。
なら背負っていくしかあるまい。
この記憶を消し去ることが出来ないのならば、共に生きていくしかないだろう。
業とは、宿痾のようなものか。
多くの亡くなった老人の遺体を調べると、そのほとんどが癌細胞に侵されていたという。
その死因がたとえ癌でなくとも、解剖してみるとほとんどの老人が、体内の何処かに癌細胞を抱えていたらしい。
つまり誰もが、癌細胞という宿痾と共に生きてきたということだ。
人は皆、年齢を重ね、宿痾を背負っていく。
やはり、業と宿痾は同じようなものだ。
そう考えると、いずれ業は俺を殺すのかもしれない。
宿痾と同じく苛烈な業火となって、いつの日か俺を焼き殺すのかもしれない。
業火か。文字通りの業の火か。
ならば、それでいい。
ひとは死ねば、焼かれる。骨となって消えてなくなる。
それが生前か死後かの違いに過ぎない。
空虚な俺には、どちらでも構わない。
焼くなら焼け。消すなら消せ。
所詮、人生なんて胡乱なものさ。
「おい、またか」
バーン翁の声に、俺は我に返った。
「ああ、すまん。ちょっと考え事をしていた」
「何を考えていた?」
俺は少し間を開け、答えた。
「なに、昔のことをちょっと考えていただけだ」
「昔……というと、元の世界のことだな?」
「ああ、そうだ」
バーン翁は目を細め、俺を見つめる。
「お前さんは、元の世界には戻りたくないと言っていた。何かあるのか?」
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