１×∞（ワンバイエイト） 経験値１でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました！

第二章

606

　俺の問いに、バーン翁は肩をすくめた。

「二十歳くらいの時じゃった。きっかけは、恐らくあれじゃな」

　俺は驚き、慌てて先を急かせた。

「きっかけがあったんだな？それは一体なんだった？」

「不慮の事故で生死の境を彷徨った時があった。それ以降、あやつはレベルが急激に上がり出した」

「生死の境を彷徨う……それが発動のトリガーということか」

　バーン翁は再び肩をすくめた。

「わからん。確証はない。だがそれくらいしか思いつかんし、実際あやつが意識を取り戻してすぐのことじゃったからな。たぶんそれがトリガーだと思うぞ」

　俺は眉根に力を込めて寄せた。

「ならば、ヘルムート・バーンの兄弟たちや、アルフレッドも生死の境を彷徨うようなことがあれば、発動するかもしれないってことか？」

　するとアルフレッドが素早く食いついた。

「そうなのか!?俺もＳランクになれるのか!?」

　俺は、アルフレッドの反応が意外だった。アルフレッドは常に飄々としているように俺には見えていたからだ。だが今、目の前のアルフレッドは違った。Ｓランクに対して、心の底からの渇望を表に出しているように見えている。アルフレッドは、Ｓランクになりたかったのか？そんな風には見えなかったが。

　と、バーン翁が首を横に振った。

「それはわからん。ヘルムートの姉のアマンダも、幼き頃に病で生死の境を彷徨ったことがあった。だがお前も知ってのとおり、アマンダはＳランクとはなっておらん」

　アルフレッドの顔に、落胆の色が濃く映し出された。

「じゃあ親父にとってのきっかけがそうだったってだけで、俺が生死の境を彷徨ったところでダメってことか」

「それもわからん。お前はヘルムートによく似ておる。だからもしかしたらいずれヘルムートのように覚醒することもあるやもしれぬと、わしは思うておる」

　すると、アルフレッドの顔に嫌悪感が浮かび上がった。

「ふん！似てなんかないぜ」

　バーン翁はため息を吐いた。

「反抗期か？ずいぶんと遅いのう」

「そんなんじゃない！」

「その割には激しく反応しておるじゃないか」

「そんなんじゃないって。ただ……」

　アルフレッドが言い淀んだ。

　バーン翁はたっぷりと間を開けてから、優し気な声音で言った。

「ただ……なんじゃ？言うてみい」

　アルフレッドは軽く息を吐き出し、言った。

「ただ、なんとなくムカつくだけだ」

　バーン翁は再びため息を吐いた。

「のう、アルフレッドよ。なにがあった？お前たちの間に、一体いつ、どんなわだかまりが出来たと言うんじゃ？」