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第四話 ギルド
「ちょっとそこの可愛いお兄ちゃん、このギルドに何か用かい?」
ギルドのナイスバディーな妙齢のお姉さんが、キョロキョロと不審げにのぞき込む俺に声を掛けてきた。
俺はギルドを訪れるのは初めてだったため、少々どぎまぎしながら中へと一歩、足を踏み入れた。
「ええと、ちょっと教えて欲しいことがあって……」
「ずいぶんと緊張しているようね。ギルドって恐い?」
お姉さんがセクシーにウインクしながら言った。
俺はまたもどぎまぎして答えた。
「あ、いや、その……まあ、初めてだから……」
「ふうん、あんた歳はいくつ?」
「十五歳だけど……」
するとお姉さんが優しく微笑んだ。
「そうかい。さてはクラス判定を終えて、早速冒険者として活躍したいと思って、ここへ来たんだね?」
俺はかなり複雑な表情をしたのだと思う。
お姉さんは俺の顔を見て、うん?と小首を傾げた。
「違うのかい?まあとにかくそこへお座りよ」
お姉さんは自分がいるカウンターの前に置いてある椅子を指し示し、俺を手招いた。
俺は素直に従い、その椅子に座った。
「さあ、それじゃあ用件を聞こうかね。わたしばっかり話してもあれだしね」
俺は軽く愛想笑いをしつつ、口を開いた。
「このギルドに出入りしている、最強のパーティーを教えてもらおうと思って」
お姉さんは少し驚きの表情を見せたもののすぐに冷静になり、前屈みとなって俺の目をのぞき込んで言った。
「なんでそんなことを知りたいんだい?」
俺は前屈みとなったことでくっきりと浮き上がった彼女の豊満な胸にかなりドキドキしたものの、今自分が置かれている困難な状況を思い出し、軽く咳払いをしてから説明をしはじめた。
「最強パーティーに頼みたいことがあって」
「どんなことだい?」
「ドラゴンスレイヤーになりたいんだ」
するとお姉さんが目を大きく見張った。
「……あんた、正気かい?」
お姉さんが驚くのも無理はない。
ドラゴンスレイヤーになりたいなど、そう簡単に口にしてよい言葉ではない。
ドラゴンとはこの地上で最強クラスの生物であり、そのドラゴンを倒した者に与えられる称号こそがドラゴンスレイヤーなのである。
他に秀でた圧倒的なまでの才能と、積年に及ぶたゆまぬ努力をひたすらに重ねなければ、決して得られる称号ではないのだ。
それを今、俺は口にした。
お姉さんの愕然とした表情は当然のことといえた。
だが俺も冗談を言いにこんなところまで来たわけじゃない。
「正気だよ。俺にはやらなければならないことがあるんだ」
俺は断固たる決意を胸にして言った。
するとその意気込みだけは伝わったらしい。
「そうかい。どうやら本気らしいね」
お姉さんはうんうんとうなずきながらそう言った。
だがすぐに真剣な眼差しとなって、俺を見据えた。
「だけどね、そいつは無理な相談ってものだよ。冒険者にとってドラゴンスレイヤーってのは、あんたが思っているよりも遙かに途轍もなく大きな称号なんだからね」
判っている。
並大抵のことで得られる称号じゃない。
でも今の俺にはそれがいる。
どうしてもドラゴンスレイヤーの称号が必要なんだ。
「でもまあ、一応理由だけでも聞いておこうかね?」
お姉さんが滋味溢れた笑みを湛えて言った。
俺は事情を説明すべきかどうか悩んだ。
だが俺の目の前に居る女性は、心底俺のことを心配してくれているように思えた。
悪い人じゃないよな。
だから俺は、決断した。
「実は……」
俺は自分の正体も、そしてクラス判定儀式の結果も、そして今後予想出来得る暗澹たる未来のことも、その全てを洗いざらい白状した。
お姉さんの反応は凄かった。
俺の話に一喜一憂して聞き入ってくれた。
途中、俺の話を盗み聞きしていた男を怒鳴りつけ、しっしと手をやって追い返しながら最後まで俺の話を親身になって聞いてくれた。
そして俺が話し終えると、神妙な顔つきとなって言ったのだった。
「そうかい……そういう事情があったんだね……」
お姉さんは少し涙ぐみながらそう言うと、威儀を正して自己紹介してくれた。
「あたしの名前はドーラさ。覚えておきな」
俺は話して良かったと思った。
だがドーラの次なる反応は、俺の予想していた言葉とは違っていた。
「ジーク、あんたの話には同情する。でもね、だからといって大金を積んで最強パーティーに入ったところで、あんたがドラゴンスレイヤーの称号を得るなんてことは出来やしないんだよ」
「どうして!?」
思わず勢い込んで問い掛ける俺に、ドーラが優しく教えてくれた。
「知っているかい?ドラゴンスレイヤーの称号を得るには、当然のことながらドラゴンを倒す必要がある」
「もちろん知っているよ。だから俺は……」
「あんたは金を積んでなんとか最強パーティーに潜り込み、その連中にドラゴンを倒してさえもらえれば、自分もドラゴンスレイヤーの称号を得られると思っているんだろう?」
「……違うの?」
するとお姉さんが残念そうにうなずいた。
「違う。パーティーに入っているだけじゃ、ダメなんだよ」
「嘘!?そんな……それは一体どういうことなのさ!?」
さらに勢い込んで問い掛ける俺に、お姉さんが右手を上げて制した。
「落ち着きなさい。ちゃんと説明してあげるから」
俺は荒い息を整え、深呼吸してから再度ドーラに尋ねた。
「落ち着いた。どうか教えて欲しい」
ドーラは俺の様子を見て大きくうなずくと、ゆっくりと口を開いた。
「ドラゴンスレイヤーの称号を得られるのは、パーティーで一人だけ。それもとどめの一撃を浴びせた者だけが、ドラゴンスレイヤーの称号を得ることが出来るのさ」
とどめの一撃。
ドラゴン相手にとどめの一撃を、俺が浴びせる。
「そのとどめの一撃っていうのは、力が弱くても、ドラゴンが瀕死の状態だったら出来るんじゃ……」
ドーラは悲しみを湛えた目で俺を見据え、言った。
「いいや。とどめの一撃はドラゴンの心臓を貫くか、首を切り落とすかなどの決定的な一撃を加えないといけないんだ。だからどうみたってあんたの腕力じゃ、到底無理さ」
出来ないか?
……ドーラの言うとおり、どう考えたって無理だろう。
俺の力じゃ、まずドラゴンの鱗を貫き通すことすら出来まい。
パーティーに瀕死の状態にしてもらったところで、ドラゴンに決定的な一撃を加えてとどめを刺すなんてことは出来ないだろう。
俺は暗澹たる気持ちとなった。
するとその俺の思いを感じ取ったのか、ドーラが哀れむような視線を送りながら言った。
「だからね、残念だけど、あんたはドラゴンスレイヤーにはなれない。諦めるんだね」
「他の方法はないだろうか?どんな方法でもいい。貴族社会が認めるような、何か凄い称号を得られるようなことは……」
ドーラは悲しそうに首を横に振った。
俺は首を落としてうなだれた。
「残念だけど、この冒険者ギルドじゃあんたの役には立てそうもないよ。心苦しいけど、他の方法を探すことを薦めるよ」
ドーラはそう言って目を伏せた。
そうして俺は、ガックリと肩を落としてうなだれたまま、冒険者ギルドを後にしたのだった。
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