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第六話 ドラゴンスレイヤー
「……凄い、なんともいえない威圧感を感じる……」
俺はダンジョン内に足を踏み入れた瞬間、その言いようのない異様な空気を感じ取った。
するとリーダーのダスティが、俺の背中をポンと叩きながら言った。
「当然さ。ここはドラゴンが巣食う最上級ダンジョンなんだからね」
俺は思わずごくりと大きな生唾を飲み込んだ。
そうだ。俺が来たのは、魔物の中でも最強クラスとうたわれるドラゴンが巣食うダンジョンだ。
そんじょそこらの空気感のはずがないじゃないか。
俺は改めて気持ちを引き締めて、さらなる一歩を踏み出した。
ダスティのパーティーに加入した俺は、早速ドラゴンスレイヤーの称号を得るべく、王都より丸三日の距離にある最上級ダンジョンへとたどり着いていた。
「さあ、どんどん行こうよ」
ダスティが軽やかに言う。
俺はダスティに誘われるまま、ダンジョン内部へとどんどん入っていった。
すると突然、前方に何かが、サッと影を引いて走った。
俺の眼には影のようなものにしか見えなかったが、何者かが右から左へと素早く移動したのは間違いなかった。
すると先頭を行く前衛のガーズが右手をサッとかざして、俺の前に立ちふさがった。
「ここは俺に任せてもらおうか」
ガーズはそう言うと、背負っていた巨大な戦斧に両手を掛けた。
「むん!」
ガーズは気合い一発、巨大な戦斧をむんずと振り下ろし、次いでぶんぶんと力強く振り回すと、ゆったりとした足取りでもって前へと出て行った。
俺は、ガーズがあまりにも自信たっぷりなため、ただ立ち止まって見守った。
するとガーズが、やおら巨大な戦斧を勢いよく頭上に振りかぶった。
そして振りかぶった勢いのまま、ガーズは前へと突進を仕掛けた。
「うぉーーーー!」
ガーズの雄叫びが、ダンジョン内に響き渡る。
すると左の岩陰から、緑色の巨大な魔物が飛び出してきた。
魔物は鞭のようにしなる腕を振り上げ、ガーズに襲いかかった。
だがガーズは慌てず、その太くたくましい脚を大地に突き刺すようにどっかと降ろすと、振りかぶった戦斧を力強く振り下ろした。
グブジャッ!
鈍く激しい音がこだますると同時に、おびただしい体液が辺りに四散した。
「ふん!簡単な相手だ」
ガーズは巨大な戦斧を力強く振ると、こびりついた青色の不気味な体液を振り払った。
ビジャッ!
地面に体液が塗りたくられる。
緑色の魔物は、何も出来ずに巨大な戦斧によって一刀両断されていた。
俺はガーズのそのあまりに圧倒的な武力に圧倒された。
すると振り向いたガーズがニヤリと笑った。
「どうした?びっくりしたか?言っておくがここはまだ序の口だぞ」
ガーズはそう言って大いに高笑いした。
俺は驚くと同時に、高揚した。
「す、凄い……一発で……」
するとガーズが得意満面といった様子で言ったのだった。
「当然だ。ここはまだ一階。ここで手こずるようならドラゴンスレイヤーの称号など手に入らんわ」
ガーズはそう言うと、再び大きな声で高笑いしつつ歩き出したのだった。
俺が色々なことに圧倒されていると、ダスティが人懐っこい笑みを浮かべて、肩をポンと叩いてきた。
「びっくりしたかい。でも何も心配いらないさ。何せ僕たちがついているんだからね」
ダスティはそう言うと軽やかな笑い声を上げながら、ガーズの後を追った。
そして次々にパーティーの連中が続いていった。
俺は一つ大きな深呼吸をして気持ちを新たにすると、軽くパンッと自らの頬を叩いて、後を追いかけたのであった。
「よっしゃーー!」
前衛のガーズが魔物の頭部に戦斧を力一杯振り下ろすや、ダンジョン内全体に響き渡るような雄叫びを上げた。
俺たちはすでに幾数十もの魔物を蹴散らし、地下十八階へとたどり着いていた。
そして今まさに、またも出くわした魔物を、先頭を行くガーズが一閃して粉砕したのであった。
するとパーティーリーダーのダスティが、呟くように言った。
「そろそろ現れてもいい頃合いなんだがな……」
その呟きが耳に入った俺が、反射的に尋ねた。
「なんの話?」
するとダスティが肩をすぼめて答えた。
「我々のお目当てさ」
「お目当てって……ドラゴン?」
「そうさ」
あっさりと言うダスティに、俺は大いに驚かされた。
「え?だってまだ十八階だよ?もちろん、ここは最上級ダンジョンだし、十八階だって相当だとは思うけど」
するとダスティが肩をすぼめながら答えた。
「大きいのはいないよ。でもね、小ぶりな奴はそろそろ出てきてもいい頃なんだ」
「そうなの?」
「ああ。ダンジョンっていうのは、下に潜れば潜るだけ各階が広く、天井も高くなるのが普通なんだ。だからこの階程度だと大きなドラゴンはもちろん居ない。でも小ぶりな奴ならいたりするんだよ。なぜだかわかるかい?」
俺は腕を組んで考え込んだ。
そしてしばらくして結論を出した。
「……深い階層だと、大きいドラゴンに餌を取られてしまうからかな?だから浅い階層に餌を求めて上がってくるとか」
するとダスティが満面の笑みを見せた。
「その通り。大正解。よくわかったね」
ダスティに褒められたものの、俺は首を傾げた。
「でもさ、そんな小ぶりなドラゴンでも倒したらドラゴンスレイヤーになれるの?」
するとダスティが大いにうなずいた。
「なれるよ。だって僕らが正にそうだからね」
「え?そうなの?」
「ああ。僕らの称号はドラゴンスレイヤーだ。君も見たろ?」
確かに見た。
ダスティたちが出したステータス画面には、確かにドラゴンスレイヤーの称号が書かれてあった。
「他には何か書かれていたかい?」
「他に?」
俺はその時の画像を思い起こそうとした。
だが、他に何か書かれていた記憶は無かった。
「いや、何も書かれていなかったと思うけど……」
するとダスティが胸の前でパンと手を叩いた。
「正解。他には何も書かれていないさ」
俺は首を傾げた。
「え?どういうこと?何が言いたいの?」
するとダスティが自らの顔の前で人差し指をピンと立て、左右に何度か振りながら言ったのだった。
「つ・ま・り、僕らはただのドラゴンスレイヤーに過ぎないのさ」
「ただのドラゴンスレイヤー?」
「そうさ。ドラゴンは一種類じゃない。沢山の種類がいるのさ」
「ああ、そうか。それは知っている。一応だけど……サーバントドラゴンとか、ウォータードラゴンとかでしょ?」
「そうそう。そういった名前のあるドラゴンはさ、メッチャクチャ強いんだよ」
「ああ、そうか。つまりノーマルのドラゴン……」
するとダスティがまたも人差し指を顔の前でピンと立てた。
「そう!僕らが倒したのは、どノーマルの何の変哲も無い、しかも小ぶりなドラゴンなんだよ」
「……ああ、なるほど」
「おや、がっかりしたかい?」
「いや、そういうわけじゃないけど……ノーマルのドラゴンスレイヤーの称号でも権威はあるのかな?俺が必要なのはその権威の方なんだけど……」
するとダスティはまたも満面の笑みを浮かべた。
「大丈夫。ノーマルだってドラゴンスレイヤーはドラゴンスレイヤーさ。充分権威はあるよ」
俺は少しだけ胸をなで下ろした。
「そうなんだ。ならよかった。それで、その小さなドラゴンでもドラゴンスレイヤーの称号は取れるの?」
「子どものドラゴンはダメだけど、大人になった成竜なら、小さかろうがなんだろうがドラゴンスレイヤーの称号は取れるよ」
俺はひとまず安堵した。
「よかった。それなら問題ないね。もっともノーマルとはいえ、俺にとどめが刺せるかはわからないけど……」
一旦安堵した俺だったが、再び不安が胸をよぎった。
するとダスティが人懐っこい笑みを見せ、俺の肩をポンと叩いて言ったのだった。
「だから大丈夫だって。そのために僕たちがついているんだからね」
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