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第八話 裏切り
「な、なんなんだ……」
俺は言葉を上手く紡げなかった。
よく見ると、笑っているのはダスティだけではない。
その両脇のガーズ、ラーグルも同様だった。
いや、左右に散っていたはずのラロンとメリーザもいつの間にか近寄っており、俺を見下ろしながら嘲笑っていた。
「な、なにをするつもりだ……」
俺は思わずそう言った。
おそらく俺の顔は恐怖に引き歪んでいたと思う。
ダスティたちはその俺の顔を見て、この世で最も醜いんじゃないかという顔で嘲笑してきた。
「聞いたか?なにをするつもりだ、だってさ!」
ダスティが哄笑しながら言う。
「ふん!みっともない小僧だ」
主攻のラーグルが吐き捨てるように言う。
「仕方ないわよ、お坊ちゃんなんだから。それも世間知らずの馬鹿なお坊ちゃんなのよ。みっともないのは当然よ」
ウィザードのメリーザが嘲るように言った。
「いい気味」
ヒーラーのラロンが言葉少なに俺を見下す。
「ざまあない!貴様のような金持ちのボンボンは虫酸が走るわ!」
ガーズがそう言って俺に唾を吐きかけた。
俺は唖然として、言葉が出なかった。
するとダスティが口の端を歪めたまま、腰をかがめて首を前にヌッと出して言った。
「ドラゴンと戦え」
「な、なにを言って……」
「でなければ俺たちと戦うか?」
「さっきから何を言っているんだ……」
すると俺の足をダスティが思いっきり蹴った。
俺は尻を地面に付けていたため、足を蹴られたことで尻を支柱にして身体が横向きに半回転した。
すると今度は開いた右脇腹にまたも激しい蹴りが入った。
「ぐっ!」
俺は思わずうめきながら地面に突っ伏した。
だがそんな俺に次々に蹴りが飛んできた。
ダスティだけではなく、ラーグルやガーズが寄ってたかって俺を蹴りつける。
俺はたまらず、這々の体で逃げた。
だがその目の前には……。
赤褐色の肌をした恐るべき巨体が、俺の行く手を阻んでいた。
俺は思わずドラゴンと目が合い、こみ上げる恐怖から生唾をごくりと飲み込んだ。
するとその俺の背にダスティが冷や水を浴びせかける。
「がんばって戦うことだ。もしかしたらワンチャン勝てるかもよ」
ダスティがからかうように言った。
俺は恐怖からかドラゴンから目を離すことが出来ず、そのままの姿勢で後ろにいるであろうダスティに向かって叫んだ。
「なんでこんなことをするんだ!」
すると、途端に連中の笑い声が俺の背中に突き刺さる。
「まだわからないのか?君はここで死ぬんだよ」
ダスティはハッキリと俺に死刑宣告をした。
やっぱりか。
俺は騙されたんだな。
「……叔父のベノン子爵に頼まれたのか」
「そうだよ。ようやく理解したみたいだね。彼は君が邪魔らしくてね。殺してくれって頼まれたんだ」
やはりベノンの奴だったか。
だけどどうして今になって俺を殺そうと?
俺はクラスなしの身だ。
このまま行けばベノンの息子のルビノがテスター家を継ぐ可能性が高い。
それなのに何故……。
そうか。
親友のエドゥワルドが俺のために動き、覆すかもしれないと踏んだか。
それで危ない橋を渡ってでもと、俺の暗殺をこいつらに依頼したんだな。
だがそこで、或る疑問が俺の頭をもたげた。
俺は思わず湧いたその疑問をダスティにぶつけた。
「なんでこんなところまで俺をわざわざ連れてきたんだ?殺したいなら、何処でもいいじゃないか」
俺が邪魔だというなら何処でも不意討ちするなり、崖から突き落とすなり、彼らの実力ならばどうとでも出来るだろう。
何故このダンジョンでわざわざ殺そうとするんだ?
するとダスティがフッと鼻息を漏らしつつ言った。
「君はギルドでドラゴンスレイヤーになりたいって宣言しただろ?だから君が称号を得るためドラゴンに挑み、敗れて殺されたってことなら、証言者もいることだし、君の周りの人間も納得するだろうと思ってね」
そういうことか。
筋書きがしっかりしていれば、誰も俺の死に疑念を持たない。
それならば叔父のベノンがこいつらに殺害を依頼したなんて、誰も思わない。
「でもドラゴンに殺されたなんてどうやって証明するんだ?」
「簡単さ。ドラゴンの爪に引き裂かれた君の遺体を、僕らがギルドに運ぶのさ。ドラゴンの爪痕っていうのは特殊でね。すぐにドラゴンの仕業だってわかるのさ」
そうだったのか。
俺はそんなことも何も知らない……。
「つまり、俺がドラゴンに殺された後、お前等でドラゴンを退治するってわけか」
「その通り。依頼ついでにドラゴン退治して稼ごうって寸法さ」
俺は悔しかった。
だから悔し紛れに悪態をついた。
「お前たちはこのドラゴンを退治できるのか?お前たちにできるのは小ぶりなドラゴンだけだろ。こいつはかなりデカいんじゃないのか」
するとまたもや連中が嘲りの笑いを俺の背中にたっぷりと浴びせてきた。
「やはり世間知らずのお坊ちゃんだな。そのドラゴンはじゅうぶん小ぶりさ。君みたいな弱虫のお坊ちゃんには巨大に見えるかも知れないけどね」
そう言うと、またも連中が高らかに笑った。
俺は悔しすぎて、目には涙がにじんでいた。
奴らの余裕は自信の表れだろう。
ダスティの言うとおり、連中にはこのドラゴンを倒す自信がある。
つまり、この目の前の恐るべき巨竜よりも、背後のくそったれな連中の方が強いってことだ。
くそっ!くそっ!くそっ!
俺は悔しいながらも、何とか目から涙が零れないようにわずかに上を向いた。
すると視線が外れたからか、ドラゴンがゆっくりと動き出した。
まずい。
俺は慌ててドラゴンと視線を合わせるも、もうその歩みは止まらない。
ドスンドスンと地響きを立てて迫り来る巨竜。
俺はここで死ぬのか。
こんなところで嘲り笑われながら死ぬっていうのか。
嫌だ。
死にたくない。
こんな無様な死に方はごめんだ。
誰か……。
誰か助けてくれ!
『いいだろう』
え?
今の声はなんだ?
突然頭の中に響いたような……。
『前へ進め』
また聞こえた。
誰なんだ?
いや、それより……前へ進めだって?
無理に決まっているじゃないか!
目の前には……。
『いいから進め」
いいから進めって……何なんだよ……。
『早くしろ。でなければ、死ぬぞ』
そうだ。後ろには奴らが控えている。
後ずさりしても、意味はない。
ならば……。
俺はあらん限りの勇気を振り絞った。
この声の主に賭けるしかない。
俺は腹から声を振り絞って咆哮を上げながら、言われたとおりに前に向かって駆けだした。
「うおぉぉぉぉぉーーーーーー!!!」
俺の目の前では巨竜が舌舐めずりをしている。
だが俺は構わず駆けた。
『そうだ。いいぞ。そのまま全速で駆けろ』
わかった。俺はあんたに賭ける!
俺はドラゴンの足下へと全速力で駆ける。
すると、背中に連中の嘲笑が聞こえて来た。
「気が狂ったか」「馬鹿が」「愚かな……」
なんとでも言え。好きにしろ。
『右に曲がれ』
俺は声の主に素直に従った。
右に重心を傾け、急カーブを描いて曲がった。
ドラゴンは俺の動きに虚を突かれたのか、どうやら様子を見ているようだ。
『右に行きすぎだ。左に曲がれ』
俺は素早く方向転換した。
『違う。もう少し右だ』
俺がわずかに右に身体を傾けたところで、高熱源体が背中のすぐ先を通過した。
あっぶねえ。
危うくドラゴンの炎によって焼かれるところだった。
『よし、その先の穴に飛び込め』
穴?
確かにある。視界の先にポッカリと狭い直径二メートルほどの穴が。
だけど、本当にいいのか?
その時、再び高熱源体が俺の背中を通ってダンジョンの床をしこたま焼いた。
行くしかない。
こうなったらあの穴に飛び込むしかない。
俺はもう一度勇気を振り絞り、その穴に向かって飛んだ。
「死んでたまるかーーーー!!!」
俺の目算は正しく、着地点は間違いなく穴の中心だった。
俺は歯を食いしばり、固く瞼を閉じて穴の中に飛び込んだのだった。
俺は言葉を上手く紡げなかった。
よく見ると、笑っているのはダスティだけではない。
その両脇のガーズ、ラーグルも同様だった。
いや、左右に散っていたはずのラロンとメリーザもいつの間にか近寄っており、俺を見下ろしながら嘲笑っていた。
「な、なにをするつもりだ……」
俺は思わずそう言った。
おそらく俺の顔は恐怖に引き歪んでいたと思う。
ダスティたちはその俺の顔を見て、この世で最も醜いんじゃないかという顔で嘲笑してきた。
「聞いたか?なにをするつもりだ、だってさ!」
ダスティが哄笑しながら言う。
「ふん!みっともない小僧だ」
主攻のラーグルが吐き捨てるように言う。
「仕方ないわよ、お坊ちゃんなんだから。それも世間知らずの馬鹿なお坊ちゃんなのよ。みっともないのは当然よ」
ウィザードのメリーザが嘲るように言った。
「いい気味」
ヒーラーのラロンが言葉少なに俺を見下す。
「ざまあない!貴様のような金持ちのボンボンは虫酸が走るわ!」
ガーズがそう言って俺に唾を吐きかけた。
俺は唖然として、言葉が出なかった。
するとダスティが口の端を歪めたまま、腰をかがめて首を前にヌッと出して言った。
「ドラゴンと戦え」
「な、なにを言って……」
「でなければ俺たちと戦うか?」
「さっきから何を言っているんだ……」
すると俺の足をダスティが思いっきり蹴った。
俺は尻を地面に付けていたため、足を蹴られたことで尻を支柱にして身体が横向きに半回転した。
すると今度は開いた右脇腹にまたも激しい蹴りが入った。
「ぐっ!」
俺は思わずうめきながら地面に突っ伏した。
だがそんな俺に次々に蹴りが飛んできた。
ダスティだけではなく、ラーグルやガーズが寄ってたかって俺を蹴りつける。
俺はたまらず、這々の体で逃げた。
だがその目の前には……。
赤褐色の肌をした恐るべき巨体が、俺の行く手を阻んでいた。
俺は思わずドラゴンと目が合い、こみ上げる恐怖から生唾をごくりと飲み込んだ。
するとその俺の背にダスティが冷や水を浴びせかける。
「がんばって戦うことだ。もしかしたらワンチャン勝てるかもよ」
ダスティがからかうように言った。
俺は恐怖からかドラゴンから目を離すことが出来ず、そのままの姿勢で後ろにいるであろうダスティに向かって叫んだ。
「なんでこんなことをするんだ!」
すると、途端に連中の笑い声が俺の背中に突き刺さる。
「まだわからないのか?君はここで死ぬんだよ」
ダスティはハッキリと俺に死刑宣告をした。
やっぱりか。
俺は騙されたんだな。
「……叔父のベノン子爵に頼まれたのか」
「そうだよ。ようやく理解したみたいだね。彼は君が邪魔らしくてね。殺してくれって頼まれたんだ」
やはりベノンの奴だったか。
だけどどうして今になって俺を殺そうと?
俺はクラスなしの身だ。
このまま行けばベノンの息子のルビノがテスター家を継ぐ可能性が高い。
それなのに何故……。
そうか。
親友のエドゥワルドが俺のために動き、覆すかもしれないと踏んだか。
それで危ない橋を渡ってでもと、俺の暗殺をこいつらに依頼したんだな。
だがそこで、或る疑問が俺の頭をもたげた。
俺は思わず湧いたその疑問をダスティにぶつけた。
「なんでこんなところまで俺をわざわざ連れてきたんだ?殺したいなら、何処でもいいじゃないか」
俺が邪魔だというなら何処でも不意討ちするなり、崖から突き落とすなり、彼らの実力ならばどうとでも出来るだろう。
何故このダンジョンでわざわざ殺そうとするんだ?
するとダスティがフッと鼻息を漏らしつつ言った。
「君はギルドでドラゴンスレイヤーになりたいって宣言しただろ?だから君が称号を得るためドラゴンに挑み、敗れて殺されたってことなら、証言者もいることだし、君の周りの人間も納得するだろうと思ってね」
そういうことか。
筋書きがしっかりしていれば、誰も俺の死に疑念を持たない。
それならば叔父のベノンがこいつらに殺害を依頼したなんて、誰も思わない。
「でもドラゴンに殺されたなんてどうやって証明するんだ?」
「簡単さ。ドラゴンの爪に引き裂かれた君の遺体を、僕らがギルドに運ぶのさ。ドラゴンの爪痕っていうのは特殊でね。すぐにドラゴンの仕業だってわかるのさ」
そうだったのか。
俺はそんなことも何も知らない……。
「つまり、俺がドラゴンに殺された後、お前等でドラゴンを退治するってわけか」
「その通り。依頼ついでにドラゴン退治して稼ごうって寸法さ」
俺は悔しかった。
だから悔し紛れに悪態をついた。
「お前たちはこのドラゴンを退治できるのか?お前たちにできるのは小ぶりなドラゴンだけだろ。こいつはかなりデカいんじゃないのか」
するとまたもや連中が嘲りの笑いを俺の背中にたっぷりと浴びせてきた。
「やはり世間知らずのお坊ちゃんだな。そのドラゴンはじゅうぶん小ぶりさ。君みたいな弱虫のお坊ちゃんには巨大に見えるかも知れないけどね」
そう言うと、またも連中が高らかに笑った。
俺は悔しすぎて、目には涙がにじんでいた。
奴らの余裕は自信の表れだろう。
ダスティの言うとおり、連中にはこのドラゴンを倒す自信がある。
つまり、この目の前の恐るべき巨竜よりも、背後のくそったれな連中の方が強いってことだ。
くそっ!くそっ!くそっ!
俺は悔しいながらも、何とか目から涙が零れないようにわずかに上を向いた。
すると視線が外れたからか、ドラゴンがゆっくりと動き出した。
まずい。
俺は慌ててドラゴンと視線を合わせるも、もうその歩みは止まらない。
ドスンドスンと地響きを立てて迫り来る巨竜。
俺はここで死ぬのか。
こんなところで嘲り笑われながら死ぬっていうのか。
嫌だ。
死にたくない。
こんな無様な死に方はごめんだ。
誰か……。
誰か助けてくれ!
『いいだろう』
え?
今の声はなんだ?
突然頭の中に響いたような……。
『前へ進め』
また聞こえた。
誰なんだ?
いや、それより……前へ進めだって?
無理に決まっているじゃないか!
目の前には……。
『いいから進め」
いいから進めって……何なんだよ……。
『早くしろ。でなければ、死ぬぞ』
そうだ。後ろには奴らが控えている。
後ずさりしても、意味はない。
ならば……。
俺はあらん限りの勇気を振り絞った。
この声の主に賭けるしかない。
俺は腹から声を振り絞って咆哮を上げながら、言われたとおりに前に向かって駆けだした。
「うおぉぉぉぉぉーーーーーー!!!」
俺の目の前では巨竜が舌舐めずりをしている。
だが俺は構わず駆けた。
『そうだ。いいぞ。そのまま全速で駆けろ』
わかった。俺はあんたに賭ける!
俺はドラゴンの足下へと全速力で駆ける。
すると、背中に連中の嘲笑が聞こえて来た。
「気が狂ったか」「馬鹿が」「愚かな……」
なんとでも言え。好きにしろ。
『右に曲がれ』
俺は声の主に素直に従った。
右に重心を傾け、急カーブを描いて曲がった。
ドラゴンは俺の動きに虚を突かれたのか、どうやら様子を見ているようだ。
『右に行きすぎだ。左に曲がれ』
俺は素早く方向転換した。
『違う。もう少し右だ』
俺がわずかに右に身体を傾けたところで、高熱源体が背中のすぐ先を通過した。
あっぶねえ。
危うくドラゴンの炎によって焼かれるところだった。
『よし、その先の穴に飛び込め』
穴?
確かにある。視界の先にポッカリと狭い直径二メートルほどの穴が。
だけど、本当にいいのか?
その時、再び高熱源体が俺の背中を通ってダンジョンの床をしこたま焼いた。
行くしかない。
こうなったらあの穴に飛び込むしかない。
俺はもう一度勇気を振り絞り、その穴に向かって飛んだ。
「死んでたまるかーーーー!!!」
俺の目算は正しく、着地点は間違いなく穴の中心だった。
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