第一章完結『悪魔のなれの果て』 英雄の子孫がクラス無しとなり、失意の果てにダンジョンで出会った悪魔に能力を分け与えられたので無双します。

マツヤマユタカ

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第二十四話 切実

「二ムバス様、お連れしました」

 エニグマは神殿内の漆黒の間に入るや、深々と腰を折ってそう言った。

『ご苦労』

 俺と瓜二つの男が偉そうに顎を上げ、反り返りながら応えた。

 気に入らない。

 なんか気に入らない。

 そもそもこいつは何だ?

 俺の特訓も、全部エニグマに任せてこいつは何もしやしない。

 なのに偉そうにこんなところでふんぞり返ってやがる。

 あー腹が立つ。

「二ムバス様、後はお任せしてよろしいでしょうか」

 うん?この後は二ムバスの役割なのか?

 ……まあ、一応何もしないわけじゃないんだな。

 二ムバスはエニグマの問いに軽くうなずくと、俺の顔をジッと見つめた。

『……良い感じじゃないか。その調子だ』

 やっぱり何か偉そうで腹が立つな。

「それで、この後は何をするって?」

『最後の仕上げさ』

「最後?……え?レベル一万まで上げるんじゃないのか?俺まだ千だぞ」

『千まで上がれば、後は一気にいけるんだよ』

 そうなのか?

 いや……いやいやいや。絶対何かヤバいことをしそうな気がする。

「そんな都合の良いことがあるのか?おかしくないか?レベル千まで一ヶ月くらいかかってるんだぞ。なのに千から一万を一気に上げるって?そんな甘い話があるとは思えないぞ」

 すると二ムバスがクイッと口角を上げて、ニタニタと嫌らしい笑みを浮かべた。

『時間短縮はお前も希望しているんじゃなかったのか』

 ……確かに。

 俺がこのダンジョンに来てから一ヶ月余り。

 ということは俺がクラス無しの判定を受け、テスター侯爵家を継ぐことが叶わなくなったかもしれないあの暗澹たる日から、もうかれこれ一ヶ月以上が経っているということだ。

 おそらく俺は今、行方不明扱いとなっていると思う。

 さすがに俺の死体がない以上、叔父にあたる仇敵ベノン子爵も死んだとは言っていないだろう。

 それに俺の親友、エドゥワルドが国王陛下に掛け合い、時間稼ぎをしてくれていると信じている。

 だからまだテスター侯爵家の後継者問題は棚上げ状態になっていると思う。

 ……たぶん。

 だけど、これ以上時間が経てば経つほど、俺の立場は苦しくなっていく。

 きっとベノンは虎視眈々とテスター侯爵家乗っ取りを企んでいるに違いない。

 そうなれば可愛い妹のアリアスはどうなる?

 あの酷薄なベノンがアリアスを手厚く保護するなんて、天地がひっくり返ってもないだろう。

 きっと身ぐるみはがれて叩き出されるに決まっている。

 そうなればエドゥワルドが無論、保護してくれるだろう。

 だが、テスター侯爵家の令嬢という立場は失われる。

 エドゥワルドはそれでも、精一杯のことをしてくれると俺は信じている。

 でもさすがのエドゥワルドも万能ではない。

 いくら王子殿下だと言っても、出来ることと出来ないことはある。

 だからきっとアリアスは、肩身の狭い思いをするだろう。

 そんな思いを俺はアリアスには絶対にさせたくはない。

 なんとしてでもここから生きて帰り、テスター侯爵家を継がなければならない。

 それも出来れば、一刻も早くに……だ。

『どうなんだ?急いでいるのはお前の方だとエニグマから聞いているが?』

 ああ。俺は確かにエニグマに、俺の境遇について話したことがある。

 こいつはそれを、エニグマから聞いたのか。

「まあな。出来れば一刻も早くここから抜け出て、帰らなければならない理由が俺にはある」

『そうだろう?だったら急いだ方がいい』

 二ムバスがまたもニヤリと口角を上げた。

 この野郎。どうせよからぬ事を企んでいるに違いない。

「そうだな。だが帰るにしても死体じゃダメだ。生きて帰る必要がある」

 二ムバスが口角をさらにクイッと上げて、悪魔的な笑みを浮かべた。

『ふうん……どうやら察しているらしいな』

「やっぱりか!命に関わるようなことをするつもりなんだな?でなければいきなりレベルが十倍になるわけがない!」

 すると二ムバスが両手を大きく広げた。

『おいおい、そう興奮するな。お前の声は響くと言ったろう?』

「これが興奮せずにいられるか!俺は死んで戻るつもりはないぞ」

『わかったわかった。俺だって千年ぶりに外に出られるチャンスを不意にする気は無いさ』

「本当か?」

 俺は二ムバスの顔をのぞき込むように見た。

『本当だ。千年ぶりだぞ。お前よりよっぽど切実だ』

「ふん。だがまあ、確かにな」

『そうだろう。だからお前に死なれちゃ一番に困るのは、俺なんだ。そこは信用しろ』

「わかった。それで、なにをするつもりだ?」

 俺はいまだ警戒し続け、二ムバスをキッと睨み付けながら問い掛けた。

 すると、やはり二ムバスは悪魔的な笑みを浮かべ、言ったのだった。

『死にはしないが、死にかける寸前まではいく。そういう手段を使うのさ』
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