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第二十九話 眼球
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「……出口だ……やったぞ。ついに舞い戻ったぞ!」
俺はダンジョン地下一階の出口から射し込む眩しいくらいの陽光を身体一杯に受け、思わず叫んだ。
『……ああ。久しぶりだ。太陽の光を浴びるなど……実に感慨深い』
俺の内に宿す二ムバスも、思いを噛み締めるようにつぶやいた。
「そうか。千年ぶりだもんな。俺より嬉しいだろうな」
俺は心なしか足早となり、出口へと先を急ぎながら二ムバスに語りかけた。
『まあな。この日を一日千秋の思いで待ちかねたからな』
すると俺のすぐ後ろを追走するエニグマも、感慨深げに言った。
「ようやく二ムバス様が日の目を見られて、このエニグマも嬉しく思います」
『お前には苦労を掛けた。千年もの長きに渡り、よく俺に仕えてくれた』
「もったいないお言葉。このエニグマ、今後も終生お仕えさせていただきます」
『うむ。頼むぞ』
千年に渡る主従の契りか。
美しいな。
「凄いよね、エニグマも。地下千階に通じるあの直通の穴も、エニグマが掘ったんでしょ?」
「はい。貴方のような方を呼び込むために掘らせていただきました」
「色々と苦労したんだね。エニグマが喜ぶ顔が見られて、俺も嬉しいよ」
「そうですか」
エニグマはいつものように無感動に言い放つも、心なしかその相好は崩れていた。
そうして俺たちは三者三様に思うところを抱きつつ、ついに最上級ダンジョンを脱出することに成功したのだった。
「ふう……ひと月ぶりの外の空気はやっぱり美味いな。二ムバスもそうだろ?」
『そうだな。だがようやく外に出られたことだし、俺自身の肉体で味わうとしよう』
俺は思わず首を傾げた。
「俺自身の肉体って……そんなこと出来るのか?」
俺の問いに、二ムバスがにやりと笑ったような気がした。
なんか、嫌な予感。
すると、二ムバスが張りのある声でエニグマを呼んだ。
『エニグマ!やってくれ』
二ムバスがそう言うと、エニグマが俺の後ろから前へと回り込んできた。
うん?なにをするつもりだ。
エニグマは右手を俺に向けてかざし、何やら呪文めいたことを口にした。
俺はいぶかしみながら、その様子をただ黙ってみていた。
それがいけなかった。
突如エニグマがその右手をにゅっと伸ばした。
俺は驚き、反射的に後ろへ仰け反ろうとした。
だが、出来なかった。
俺の身体は微塵も動けなかったのだ。
「な、何をした!」
『お前の身体の自由を奪ったのさ』
エニグマに代わり、二ムバスが答えた。
エニグマの指が俺の右目に迫る。
「な……や、やめろ……やめろ!」
エニグマは伸ばした右手をさらに伸ばし、ついに目の前すぐのところまで来た。
俺は恐怖から瞼を強く閉じた。
だが……。
「ぐっ!……ぐあぁぁぁぁーーーー!」
エニグマの指が俺の固く閉じた瞼を力強くこじ開けてくる。
途轍もない激痛が俺を襲った。
エニグマの指が、俺の右眼窩内をまさぐっている感覚がある。
「ぎっ!……いいぃぃぃぃ!……」
俺は断末魔のような叫び声を上げた。
するとふいにまさぐる指の感覚がなくなった。
俺は引かぬ痛みに耐えながら、左の目で必死にエニグマの姿を捉えようとした。
だが痛みのためか視点が定まらず、エニグマの姿がぼやけて見える。
「くっ……エニグマ……何をしやがった……」
俺は必死にエニグマを見る。
するとようやく焦点が合い始めてきた。
エニグマの手のひらの上には、何かがあった。
「……お前、俺の眼球をくりぬいたのか……」
エニグマは答えなかった。
ただじっと自らの掌の上に乗る、俺の眼球を見つめている。
「……何でそんなことするんだ……おい、エニグマ……」
俺は動かぬ身体で激痛に耐えながら、エニグマを詰問した。
だがやはりエニグマは答えなかった。
「……おい……答えろ……何で俺の眼をくりぬいたんだ……」
エニグマはそれでも答えない。
ただじっと掌の上の眼球を見つめている。
すると、かすかに眼球が蠢いた。
俺が激痛に気を失いそうになりながらも、なんとか意識を集中して見つめていると、眼球から何やら触覚のようなものが蠢きだした。
そしてそれは次第に太く大きくなっていき、どんどんと絡まりだした。
眼球はどんどんとミミズのような触覚を幾十本も産み出し続け、絡まり合って少しずつ大きくなっていった。
その速度は加速度的に上がり続け、エニグマはゆっくりとかつて俺の眼球であったものを、地面にそっと置いたのだった。
だがそれは地面に置かれた後もさらに大きくなっていった。
そして、次第に人型を形作るようになっていった。
「……そういうことかよ……」
俺が吐き捨てるようにつぶやく頃には、完全に人の格好をした物体が目の前に立っていたのだった。
すると顔を形作った箇所の下部が、突然パカッと横に大きく開いた。
そして辺りの空気を、大きく吸い込んだのだった。
「美味い。やはり、自らの身体で味わうべきものだな」
そう言った男の顔は、まさに俺そのものであった。
俺はダンジョン地下一階の出口から射し込む眩しいくらいの陽光を身体一杯に受け、思わず叫んだ。
『……ああ。久しぶりだ。太陽の光を浴びるなど……実に感慨深い』
俺の内に宿す二ムバスも、思いを噛み締めるようにつぶやいた。
「そうか。千年ぶりだもんな。俺より嬉しいだろうな」
俺は心なしか足早となり、出口へと先を急ぎながら二ムバスに語りかけた。
『まあな。この日を一日千秋の思いで待ちかねたからな』
すると俺のすぐ後ろを追走するエニグマも、感慨深げに言った。
「ようやく二ムバス様が日の目を見られて、このエニグマも嬉しく思います」
『お前には苦労を掛けた。千年もの長きに渡り、よく俺に仕えてくれた』
「もったいないお言葉。このエニグマ、今後も終生お仕えさせていただきます」
『うむ。頼むぞ』
千年に渡る主従の契りか。
美しいな。
「凄いよね、エニグマも。地下千階に通じるあの直通の穴も、エニグマが掘ったんでしょ?」
「はい。貴方のような方を呼び込むために掘らせていただきました」
「色々と苦労したんだね。エニグマが喜ぶ顔が見られて、俺も嬉しいよ」
「そうですか」
エニグマはいつものように無感動に言い放つも、心なしかその相好は崩れていた。
そうして俺たちは三者三様に思うところを抱きつつ、ついに最上級ダンジョンを脱出することに成功したのだった。
「ふう……ひと月ぶりの外の空気はやっぱり美味いな。二ムバスもそうだろ?」
『そうだな。だがようやく外に出られたことだし、俺自身の肉体で味わうとしよう』
俺は思わず首を傾げた。
「俺自身の肉体って……そんなこと出来るのか?」
俺の問いに、二ムバスがにやりと笑ったような気がした。
なんか、嫌な予感。
すると、二ムバスが張りのある声でエニグマを呼んだ。
『エニグマ!やってくれ』
二ムバスがそう言うと、エニグマが俺の後ろから前へと回り込んできた。
うん?なにをするつもりだ。
エニグマは右手を俺に向けてかざし、何やら呪文めいたことを口にした。
俺はいぶかしみながら、その様子をただ黙ってみていた。
それがいけなかった。
突如エニグマがその右手をにゅっと伸ばした。
俺は驚き、反射的に後ろへ仰け反ろうとした。
だが、出来なかった。
俺の身体は微塵も動けなかったのだ。
「な、何をした!」
『お前の身体の自由を奪ったのさ』
エニグマに代わり、二ムバスが答えた。
エニグマの指が俺の右目に迫る。
「な……や、やめろ……やめろ!」
エニグマは伸ばした右手をさらに伸ばし、ついに目の前すぐのところまで来た。
俺は恐怖から瞼を強く閉じた。
だが……。
「ぐっ!……ぐあぁぁぁぁーーーー!」
エニグマの指が俺の固く閉じた瞼を力強くこじ開けてくる。
途轍もない激痛が俺を襲った。
エニグマの指が、俺の右眼窩内をまさぐっている感覚がある。
「ぎっ!……いいぃぃぃぃ!……」
俺は断末魔のような叫び声を上げた。
するとふいにまさぐる指の感覚がなくなった。
俺は引かぬ痛みに耐えながら、左の目で必死にエニグマの姿を捉えようとした。
だが痛みのためか視点が定まらず、エニグマの姿がぼやけて見える。
「くっ……エニグマ……何をしやがった……」
俺は必死にエニグマを見る。
するとようやく焦点が合い始めてきた。
エニグマの手のひらの上には、何かがあった。
「……お前、俺の眼球をくりぬいたのか……」
エニグマは答えなかった。
ただじっと自らの掌の上に乗る、俺の眼球を見つめている。
「……何でそんなことするんだ……おい、エニグマ……」
俺は動かぬ身体で激痛に耐えながら、エニグマを詰問した。
だがやはりエニグマは答えなかった。
「……おい……答えろ……何で俺の眼をくりぬいたんだ……」
エニグマはそれでも答えない。
ただじっと掌の上の眼球を見つめている。
すると、かすかに眼球が蠢いた。
俺が激痛に気を失いそうになりながらも、なんとか意識を集中して見つめていると、眼球から何やら触覚のようなものが蠢きだした。
そしてそれは次第に太く大きくなっていき、どんどんと絡まりだした。
眼球はどんどんとミミズのような触覚を幾十本も産み出し続け、絡まり合って少しずつ大きくなっていった。
その速度は加速度的に上がり続け、エニグマはゆっくりとかつて俺の眼球であったものを、地面にそっと置いたのだった。
だがそれは地面に置かれた後もさらに大きくなっていった。
そして、次第に人型を形作るようになっていった。
「……そういうことかよ……」
俺が吐き捨てるようにつぶやく頃には、完全に人の格好をした物体が目の前に立っていたのだった。
すると顔を形作った箇所の下部が、突然パカッと横に大きく開いた。
そして辺りの空気を、大きく吸い込んだのだった。
「美味い。やはり、自らの身体で味わうべきものだな」
そう言った男の顔は、まさに俺そのものであった。
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