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第三十八話 我が世の春
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「ベノン子爵、この度はまことにおめでとうございます」
儀式が行われる大聖堂脇の待機所において、わかりやすく手もみをしながら卑しそうな笑みを浮かべた男が祝辞を述べる。
「ああ。ありがとう」
ベノン子爵は贅を凝らした一人掛のソファーに深く腰掛けながら、それをさも当然のようにふんぞり返って受け入れていた。
「子爵、ようやくこの日が訪れて、さぞや晴れやかなお気持ちでございましょう」
別のちょび髭の男が、これまた下卑た笑みを浮かべながら世辞を言う。
「うむ。そもそも遅すぎたくらいだ。本当であったらひと月前に決まっていてもおかしくはなかった」
すると手もみの男が、指の指紋がなくなるのではないかと思わせるくらいに激しく手を擦り合わせながら言った。
「ええ、ええ。そうですとも。あのみすぼらしい子供がクラス無しの判定を受けたその日に、ルビノ坊ちゃまへの侯爵位の禅譲が行われて然るべきでございました」
「貴殿もそう思うか?」
ベノンが満足げにうなずきながら問い掛けた。
手もみ男はさらに激しく手もみをしながら答えた。
「当然にございます。どうやらあの子供、その後無謀にも最上級ダンジョンに潜り込み、死んだらしいですが、当然ですな。何せクラス無しの能無しですから」
すると手もみ男に負けじとちょび髭男が身を乗り出して言った。
「ええ、ええ。噂によるとダンジョン内でドラゴンに遭遇し、そのあまりの恐ろしさに発狂して逃げ惑った挙げ句、穴に落ちて死んだとか。クラス無しとは本当に役立たずでございますな」
「うむ。本当に貴殿の言うとおりだな。だがそれをあの王子……いや、何でもない」
ベノンは、子息ルビノが侯爵位を継ぐことに多少なりとも浮かれていたとはいうものの、さすがに自国の王子の非を公に唱えることの無益さを忘れるほどに冷静さを失っていたわけではなかった。
そしてそれはベノンに取り入ろうと必死になっている取り巻き連中も同じであった。
彼らは軽く咳払いをし、何事もなかったかのように振る舞った。
「いやあ、それにしても良い天気に恵まれましたな。これもベノン子爵の御人徳というもの」
ちょび髭の男が、話しを変えようと歯の浮くようなことを言った。
だがベノンはそれを厚顔無恥にも、そのままストレートに受け入れたのだった。
「はっはっは。そうかな」
「そうでございますとも。天もベノン子爵に微笑んでおられるのでしょう」
「はっはっはっはっ」
ベノンは手もみ男の媚びへつらいにも、高笑いを上げて満足げにうなずくのであった。
その時、大聖堂の鐘の音が高らかに鳴り響いた。
「おお!どうやら時間のようだな」
ベノンはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「いよいよこの時が来た。それでは皆の衆、我が息の晴れ舞台を見に行こうではないか」
「はいっ、是非ともそういたしましょう」「はいっ、楽しみにございますな」
ベノンは満足げにうなずくと悠然とした足取りでもって歩みだし、後ろに金魚のフンを引き連れながら勇躍と大聖堂へと向かうのであった。
儀式が行われる大聖堂脇の待機所において、わかりやすく手もみをしながら卑しそうな笑みを浮かべた男が祝辞を述べる。
「ああ。ありがとう」
ベノン子爵は贅を凝らした一人掛のソファーに深く腰掛けながら、それをさも当然のようにふんぞり返って受け入れていた。
「子爵、ようやくこの日が訪れて、さぞや晴れやかなお気持ちでございましょう」
別のちょび髭の男が、これまた下卑た笑みを浮かべながら世辞を言う。
「うむ。そもそも遅すぎたくらいだ。本当であったらひと月前に決まっていてもおかしくはなかった」
すると手もみの男が、指の指紋がなくなるのではないかと思わせるくらいに激しく手を擦り合わせながら言った。
「ええ、ええ。そうですとも。あのみすぼらしい子供がクラス無しの判定を受けたその日に、ルビノ坊ちゃまへの侯爵位の禅譲が行われて然るべきでございました」
「貴殿もそう思うか?」
ベノンが満足げにうなずきながら問い掛けた。
手もみ男はさらに激しく手もみをしながら答えた。
「当然にございます。どうやらあの子供、その後無謀にも最上級ダンジョンに潜り込み、死んだらしいですが、当然ですな。何せクラス無しの能無しですから」
すると手もみ男に負けじとちょび髭男が身を乗り出して言った。
「ええ、ええ。噂によるとダンジョン内でドラゴンに遭遇し、そのあまりの恐ろしさに発狂して逃げ惑った挙げ句、穴に落ちて死んだとか。クラス無しとは本当に役立たずでございますな」
「うむ。本当に貴殿の言うとおりだな。だがそれをあの王子……いや、何でもない」
ベノンは、子息ルビノが侯爵位を継ぐことに多少なりとも浮かれていたとはいうものの、さすがに自国の王子の非を公に唱えることの無益さを忘れるほどに冷静さを失っていたわけではなかった。
そしてそれはベノンに取り入ろうと必死になっている取り巻き連中も同じであった。
彼らは軽く咳払いをし、何事もなかったかのように振る舞った。
「いやあ、それにしても良い天気に恵まれましたな。これもベノン子爵の御人徳というもの」
ちょび髭の男が、話しを変えようと歯の浮くようなことを言った。
だがベノンはそれを厚顔無恥にも、そのままストレートに受け入れたのだった。
「はっはっは。そうかな」
「そうでございますとも。天もベノン子爵に微笑んでおられるのでしょう」
「はっはっはっはっ」
ベノンは手もみ男の媚びへつらいにも、高笑いを上げて満足げにうなずくのであった。
その時、大聖堂の鐘の音が高らかに鳴り響いた。
「おお!どうやら時間のようだな」
ベノンはそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
「いよいよこの時が来た。それでは皆の衆、我が息の晴れ舞台を見に行こうではないか」
「はいっ、是非ともそういたしましょう」「はいっ、楽しみにございますな」
ベノンは満足げにうなずくと悠然とした足取りでもって歩みだし、後ろに金魚のフンを引き連れながら勇躍と大聖堂へと向かうのであった。
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