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第三十九話 対峙
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「ではこれより、ルビノ=ベノン殿のテスター侯爵叙任式を執り行います」
大聖堂内に、司祭による宣言が高らかに鳴り響いた。
大聖堂内の祭壇中央部に鼻高々といった様子で、瀟洒なマントを羽織ったルビノが立つ。
その正面には、一段と高い席が設けられていた。
「本日は、我が国有数の名高き名家の叙任式でもあり、特別に国王陛下のご臨席を賜っております」
司祭がさらに一段と大きな声で告げると、大聖堂内に集まった多くの貴族たちから歓声が上がった。
国王は座しながら軽く右手を上げて、その歓声に応えた。
だがその中に、一人浮かない顔の者がいた。
アリアス=テスターである。
アリアスはひどく沈んだ顔でうつむき、両手を胸の前に組んで目を閉じ、何かをひとしきり祈っているようだった。
その後ろにピッタリと付き従う侍女長のサマンサは、当然のように憎々しげな表情を浮かべて、祭壇の上で得意満面といった様子のルビノを、睨み付けていた。
司祭はひとしきり歓声が収まるのを待つと、右手に持った錫杖を頭上高く掲げた。
そして祭壇中央のルビノに向かって言ったのだった。
「まず、貴殿はエンゾ=ベノン子爵の子息、ルビノ=ベノン殿に相違ございませんか?」
司祭の問いに、ルビノが顎をツンと上げて答える。
「相違ありません」
「では次に、貴殿は本日、ベノン子爵家を離れ、テスター侯爵家をお継ぎになられることに同意なさいますか?」
するとルビノが嫌らしく口角を上げ、愉悦の笑みを漏らしながら答えた。
「無論、同意いたします!」
ルビノの真後ろ、最前列を陣取るベノン子爵もまた、愉悦の笑みを浮かべていた。
司祭はルビノの返事に大いにうなずき、一旦玉座を振り返った。
すると国王がゆっくりと威厳を持って静かにうなずいた。
司祭は国王に向かって軽く会釈をすると、再びルビノに向き直って錫杖を高々と掲げた。
「それではこれより貴殿はルビノ=ベノン殿改め、ルビノ=テスター殿となり、我らがアスピリオス王国の一翼を担う、栄えあるテスター侯爵家を継承することを承認……」
その時、司祭による高らかな宣言を突如遮る者が現れた。
「お待ちを!」
大聖堂内の貴族たちの視線が一斉にその者に向けられる。
その者は大聖堂入り口に、威風堂々と立っていた。
大聖堂内で最も高いところに位置するアスピリオス王は、目を細めてその者の名をつぶやいた。
「……エドゥワルド……」
エドゥワルド=アスピリオス第三王子の登場であった。
エドゥワルドは大聖堂内をゆっくりと、だがしっかりとした足取りでもって祭壇へ向かって歩き始めた。
大聖堂内を埋める貴族たちが慌てて道を作る。
エドゥワルドは悠然と、その今出来た道を突き進んだ。
すると突然儀式を中断され、怒り心頭に発したベノン子爵が抗議の声を上げた。
「王子殿下!これは一体何としたことでございますか!」
だがエドゥワルドは答えない。
ただ静かにゆっくりと、貴族たちが取り囲む道を真っ直ぐに突き進むだけであった。
ベノンの憤懣は治まりようがなかった。
「殿下!いくら殿下とはいえ、やっていいことと悪いことがございますぞ!」
だがやはりエドゥワルドは答えない。
決意の籠もった眼差しを祭壇上の国王に向け、微かな笑みを湛えて前に進むだけであった。
ベノンは埒が明かないとばかりに振り向き、国王に向かって言上した。
「陛下!いくら殿下とはいえ、この為さりようはあまりにもひどいとは思われませんか!」
アスピリオス王は軽く右手を挙げてベノン子爵を制すると、自らの元に向かってくる愛息に向かって困ったように声を掛けた。
「エドゥワルドよ。何故このようなことをする?」
エドゥワルドは祭壇の直ぐ下までたどり着くや、父王に向かって言ったのだった。
「陛下!よもやわたくしの不在時に、このような式が執り行われるとは思いませんでしたぞ!」
アスピリオス王は微かに眉をしかめた。
「エドゥワルドよ、テスター侯爵家の叙任式を執り行うのに、よもやそちの許可を得ねばならぬと言うつもりではあるまいな?」
エドゥワルドは怯まず、答えた。
「無論、わたくしも国王陛下の臣民の一人である以上、陛下のご裁可に異議を唱えるつもりはありません。ですが、わたくしとテスター侯爵家の正統後継者であるジーク=テスターとは、幼少期よりの友人であることはご存じでしょう」
「無論、知っておる。だがそれがどうした」
アスピリオス王はフッと息を吐き出しながら、つまらぬ話だとでも言わんばかりであった。
するとその様子を見たエドゥワルドが、微かに顔を紅潮させ、キッと上目遣いに父王を睨み付けた。
「ならば父として!息子であるわたくしが納得するまで、説得してくださってもよかったではありませんか!」
憤懣をぶつけるエドゥワルドであったが、父であるアスピリオス王は国王の威厳そのままに、冷静にそれを跳ね返した。
「それはすでに幾度もしたはず。だがお前は頑として受け入れなんだ。それ故、父であることよりも国王であることを優先したまで。これ以上テスター侯爵家を空位のままにしてはおけぬでな」
エドゥワルドは怒りに顔を紅潮させつつも、まだ冷静さを失ってはいなかった。
エドゥワルドは大きく息を吸い込むと、一気に息を吐き出して気持ちを整えた。
そして、軽く後ろを振り向き、控えていた者たちに声を掛けたのだった。
「君たちの出番だ」
大聖堂内に、司祭による宣言が高らかに鳴り響いた。
大聖堂内の祭壇中央部に鼻高々といった様子で、瀟洒なマントを羽織ったルビノが立つ。
その正面には、一段と高い席が設けられていた。
「本日は、我が国有数の名高き名家の叙任式でもあり、特別に国王陛下のご臨席を賜っております」
司祭がさらに一段と大きな声で告げると、大聖堂内に集まった多くの貴族たちから歓声が上がった。
国王は座しながら軽く右手を上げて、その歓声に応えた。
だがその中に、一人浮かない顔の者がいた。
アリアス=テスターである。
アリアスはひどく沈んだ顔でうつむき、両手を胸の前に組んで目を閉じ、何かをひとしきり祈っているようだった。
その後ろにピッタリと付き従う侍女長のサマンサは、当然のように憎々しげな表情を浮かべて、祭壇の上で得意満面といった様子のルビノを、睨み付けていた。
司祭はひとしきり歓声が収まるのを待つと、右手に持った錫杖を頭上高く掲げた。
そして祭壇中央のルビノに向かって言ったのだった。
「まず、貴殿はエンゾ=ベノン子爵の子息、ルビノ=ベノン殿に相違ございませんか?」
司祭の問いに、ルビノが顎をツンと上げて答える。
「相違ありません」
「では次に、貴殿は本日、ベノン子爵家を離れ、テスター侯爵家をお継ぎになられることに同意なさいますか?」
するとルビノが嫌らしく口角を上げ、愉悦の笑みを漏らしながら答えた。
「無論、同意いたします!」
ルビノの真後ろ、最前列を陣取るベノン子爵もまた、愉悦の笑みを浮かべていた。
司祭はルビノの返事に大いにうなずき、一旦玉座を振り返った。
すると国王がゆっくりと威厳を持って静かにうなずいた。
司祭は国王に向かって軽く会釈をすると、再びルビノに向き直って錫杖を高々と掲げた。
「それではこれより貴殿はルビノ=ベノン殿改め、ルビノ=テスター殿となり、我らがアスピリオス王国の一翼を担う、栄えあるテスター侯爵家を継承することを承認……」
その時、司祭による高らかな宣言を突如遮る者が現れた。
「お待ちを!」
大聖堂内の貴族たちの視線が一斉にその者に向けられる。
その者は大聖堂入り口に、威風堂々と立っていた。
大聖堂内で最も高いところに位置するアスピリオス王は、目を細めてその者の名をつぶやいた。
「……エドゥワルド……」
エドゥワルド=アスピリオス第三王子の登場であった。
エドゥワルドは大聖堂内をゆっくりと、だがしっかりとした足取りでもって祭壇へ向かって歩き始めた。
大聖堂内を埋める貴族たちが慌てて道を作る。
エドゥワルドは悠然と、その今出来た道を突き進んだ。
すると突然儀式を中断され、怒り心頭に発したベノン子爵が抗議の声を上げた。
「王子殿下!これは一体何としたことでございますか!」
だがエドゥワルドは答えない。
ただ静かにゆっくりと、貴族たちが取り囲む道を真っ直ぐに突き進むだけであった。
ベノンの憤懣は治まりようがなかった。
「殿下!いくら殿下とはいえ、やっていいことと悪いことがございますぞ!」
だがやはりエドゥワルドは答えない。
決意の籠もった眼差しを祭壇上の国王に向け、微かな笑みを湛えて前に進むだけであった。
ベノンは埒が明かないとばかりに振り向き、国王に向かって言上した。
「陛下!いくら殿下とはいえ、この為さりようはあまりにもひどいとは思われませんか!」
アスピリオス王は軽く右手を挙げてベノン子爵を制すると、自らの元に向かってくる愛息に向かって困ったように声を掛けた。
「エドゥワルドよ。何故このようなことをする?」
エドゥワルドは祭壇の直ぐ下までたどり着くや、父王に向かって言ったのだった。
「陛下!よもやわたくしの不在時に、このような式が執り行われるとは思いませんでしたぞ!」
アスピリオス王は微かに眉をしかめた。
「エドゥワルドよ、テスター侯爵家の叙任式を執り行うのに、よもやそちの許可を得ねばならぬと言うつもりではあるまいな?」
エドゥワルドは怯まず、答えた。
「無論、わたくしも国王陛下の臣民の一人である以上、陛下のご裁可に異議を唱えるつもりはありません。ですが、わたくしとテスター侯爵家の正統後継者であるジーク=テスターとは、幼少期よりの友人であることはご存じでしょう」
「無論、知っておる。だがそれがどうした」
アスピリオス王はフッと息を吐き出しながら、つまらぬ話だとでも言わんばかりであった。
するとその様子を見たエドゥワルドが、微かに顔を紅潮させ、キッと上目遣いに父王を睨み付けた。
「ならば父として!息子であるわたくしが納得するまで、説得してくださってもよかったではありませんか!」
憤懣をぶつけるエドゥワルドであったが、父であるアスピリオス王は国王の威厳そのままに、冷静にそれを跳ね返した。
「それはすでに幾度もしたはず。だがお前は頑として受け入れなんだ。それ故、父であることよりも国王であることを優先したまで。これ以上テスター侯爵家を空位のままにしてはおけぬでな」
エドゥワルドは怒りに顔を紅潮させつつも、まだ冷静さを失ってはいなかった。
エドゥワルドは大きく息を吸い込むと、一気に息を吐き出して気持ちを整えた。
そして、軽く後ろを振り向き、控えていた者たちに声を掛けたのだった。
「君たちの出番だ」
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